オープンスクール



目下、サンジが目標にしているG校・グランドライン高校はそこそこのレベルだ。
ぶっちゃけ、サンジの今の成績ではかなり厳しい。
高望みだとわかってはいるが、別に見学に行くくらいいいんじゃね?タダだし。
というわけで、オープンスクールに申し込みしていた。

それでも、同じクラスの生徒には見つかりたくなくて、こそこそと周囲を窺いながら門をくぐる。
見つかったら、なんだお前G校狙いかよと絶対にからかわれる。
見知った顔はないなと並木伝いに歩いていたら、ポンと肩を叩かれ飛び上がった。
「おはよう、サンジ君も見学か」
そこに立っていたのは、コーザの父親だった。
あまりのことに、サンジは目と口を見開いたまま木に抱き付いてしまった。
「あ、おは、おはようございます!?」
「コーザならあっちで受付してるぞ」
いや、コーザなんてどうでもいいんです。
そう言い掛けるのをぐっと堪え、ブンブンと頷く。

「サンジ、来てたのか」
そんな二人をコーザが目ざとく見つけて近付いて来た。
「あっちで受付やってるぜ、まだだろ?」
こちらにもブンブンと頷いて、父親を振り返った。
「先に受付を済ませておいで。待ってるから」
待ってて、待っててくれる!
サンジはぱあっと顔を輝かせると、コーザを引っ張って受付に走った。

「…たく、親父は別について来なくていいって、言ったのによ」
「でも、申し込み欄に保護者の丸もしたんだろ?」
ざっと眺め回しても、保護者同伴が多い。
「親父はこういうイベント事が好きなんだ。なにかってえと参加したがる」
そうなのか!
サンジの胸は更に弾んだ。
「いいじゃねえか、来てくれるなんて」
サンジは正直に羨ましがった。
ゼフの店の都合上、学校行事はほとんど参加できないし、サンジもいちいち知らせていない。
ゼフが学校に顔を出したのは、こないだの三者面談くらいだ。
今日の学校見学もあることすら知らないし、サンジは勉強もせずに遊びに行ったと思っているだろう。
「俺は、羨ましいぞ」
あっけらかんとそう言えば、コーザはちょっとバツの悪そうな顔をして「まあな」と答えた。


「じゃあ、俺は保護者説明会に行くから」
せっかく待っていてくれたのに、すぐに道は別れてしまった。
がっくりと肩を落とすサンジの隣で、コーザは熱心にパンフレットを見ている。
「サンジ、部活見学申し込んだ?」
「いや、特には」
「飛び入り見学できるみてえだし、剣道部覗いてみねえ?」
「それならお前、一人で行けよ」
「ん、しょうがねえな。まあそん時は親父もついてくるし」
「やっぱ俺も行く」
なんなんだよと、コーザが呆れる。

模擬授業の教室に向かいながら、サンジは今更なことを聞いた。
「コーザ、理数科行かねえのか?」
「おう、入って苦労するより楽な普通科でトップにいてえ」
随分な台詞だが、コーザがいう楽な普通科にサンジが合格できる確率は限りなく低い。
改めて学力の差を痛感して、ちょっと凹んだ。

―――それでも、やってやれないことはねえ。
ほんの冷やかしのつもりでやってきたオープンスクールだったが、サンジの希望は決意に変わった。
コーザと同じグランドライン高校普通科に入って、学校行事ごとに親父さんと会うのだ。
努力次第で最高のスクールライフが送れるはず。

「俺、がんばるわ」
握り拳でやる気を見せるサンジに、コーザもまた胸打たれた。
きっと具体的な高校生活を目の当たりにして、サンジも真面目に進路を考えるようになったんだろう。
中学卒業したらレストラン手伝うとか、現実的なのか非現実的なのかわからないことを言っていた時より、ずっといい。
サンジのためにも、目標ができるのはいいことだ。
「頑張ろうな」
「おう!」
新たに誓い合う二人の意志は微妙にズレていたが、さほど問題ではなかった。


模擬授業、先輩と語る会を経て体育館に移動した。
保護者説明会はとうに終わっていたらしく、剣道部の一角にコーザより先に父親の姿を見つけた。
「ロロノア、あそこにロロノアさんが」
「ややこしいよ」
苦笑するコーザに、それもそうだなと思い直して「コーザ」と言い換える。
「コーザ。な、なんか囲まれてねえか?」
高校生ともなれば、もう体格はいっぱしの大人だ。
そんな高校生に囲まれても頭一つ高い父親は、まるでスターのように取り囲まれて見えた。
顧問らしき教師も、興奮気味に寄り添って話している。
「ああ、親父この世界では有名人だから」
「剣道の?」
「世界一だからな」
「ひえー」
“世界一”と付く人間を、初めて見た気がする。
常々、ゼフが作る料理は世界一だと思っていたが、あくまで自称(サンジ称)だ。

「25歳の時に無敵の大剣豪と呼ばれた当時の世界一を破って、負けないまま引退したから」
「ふええ、すげえ」
サンジは目をキラキラさせた。
見た目がカッコいいだけじゃなく、中身もほんとに強いなんてなんてすごい人なんだろう。
「じゃあ、コーザも色々苦労したんじゃないか?その、すげえ人を父親に持って」
コーザはふっと、微妙な顔付きで笑う。
「まあな、確かにちょっとやりにくいと思うこともあるけど、俺の親父が世界一だったってのは動かしがたい事実だし、俺の誇りでもある」
「そうか」
そんな風に堂々と、自分の父親を誇れるコーザもすごいと、サンジは思った。
「でも、剣道ってそんなに早く引退するもんなのか?年齢制限とかあんのか」
「いや・・・」
コーザは少し言葉を濁し、さっと手を挙げた。

「親父!」
その声に気付いて父親は振り返り、おうと手を挙げ返した。
「見学させてもらえ」
「はい、よろしくお願いします」
ロロノアだ。
ロロノアさんの息子だ。
さざなみのように静かに広がっていく囁きの中、コーザは堂々と先輩の中に入っていき、礼儀正しく挨拶をしている。
サンジは少し離れた場所からそれを見ながら、コーザもやっぱりすごい奴だと改めて感心した。
ただ、なにかを誤魔化されたような気もして、少し寂しかった。



12時を少し過ぎた辺りで、部活動の見学も終了した。
父親はすっと左腕を上げ、時計を見る。
袖を捲くったシャツから覗く太い腕と銀色の時計がなんだかセクシーで、ドキドキしてしまう。
「丁度昼時だな、どっかで飯食って帰るか」
「ラッキー」
喜ぶコーザの横で、サンジは「あ、え」と戸惑った。
「サンジ君も一緒にどうだ?この後、何か予定があるかな」
「いいえ、なんっっっにもありません!」
思わず大声で答え、一人で赤面する。
「じゃあ、近くのファミレスとかでもいいか。この辺りはあんまり知らないんだ」
「どこでもいいです、なんでもいいです!」
やっぱり意気込んで大声で答え、父親に「元気がいいな」と褒められた。

3人で連れ立って校門を出て、目に付いたファミレスに入る。
向かい合わせの席で、父親の後を付いていったサンジは自然とその隣に腰掛けた。
斜向かいになったコーザがちょっと変な顔をしたが、気にしない。
「なんでも好きなもの食べろよ」
「いえ、そんなの悪いです」
「遠慮しなくていいから」
目の前にメニューを広げられてモジモジするサンジに、コーザが助け舟を出した。
「俺、このドリンクバーとサラダバーがセットになったのにするわ、サンジはどうする?」
「・・・じゃあ、同じものを」
「それだけで足りるか?ハンバーグセット+マグロ丼とか、コーザの定番じゃねえか」
「え、コーザそんなに食うの?」
「親父もすげえぞ、セット+パスタ+丼とか平気でやる」
親子で言われて、サンジはぶるぶると首を振った。
「俺はバー付のセットで充分だ・・・あ、でもデザート欲しいかな」
「頼め頼め、なんでもがっつり食え」
メニューを捲ろうとしたサンジの手に、父親の指が触れた。
思わず拳を握って硬直するサンジに構わず、これこれこれと父親が指差す。
「どうせならこのでっかいパフェ3人前どうだ」
「あ、美味そう」
隣に父親、前にコーザで額にくっ付きそうなほど覗き込まれ、サンジは呼吸も忘れて固まっている。
「じゃあ、ボタン押すぞ」
コーザがベルを鳴らすピンポーンと言う音を聞きながら、サンジはこのまま幸せ死しそうになった。



注文を終えた後、じゃあバーに行くかと父親がテーブルに手を着いた。
通路側に座っていたサンジが、慌てて立ち上がる。
「あの、俺取って来ましょうか?」
「いや、みんなで好きなもの取ろう。ありがとな」
「いえ」
「そんな気い遣わなくていいって、あー喉が渇いた」
コーザは先にドリンクバーに行って、慣れた手つきでグラスに氷を入れた。
サンジは父親についてサラダバーに向かう。
いろいろな種類の具材があって、ドレッシングも選べるようだ。
「へえ、こうなってるんだ・・・」
「ファミレス、もしかして初めてか?」
あっと思って、すぐに「はい」と素直に答える。
中学生同士で飲食店に入れない校則だし、ゼフと外食するのにファミレスは利用したことがなかった。
「家がバラティエだもんな、そうだろうと思った」
「え?」
素でビックリした。
思わず手を止めたサンジの皿に、父親は勝手にあれこれ盛り付けていく。
「口に合うかはわかんねえが、これも庶民の味だ。勉強だぜ」
「あの、なんで知ってるんすか。うちの店」
「よく接待で利用させてもらってんだ」
「ええええっ」
なんってことだ!
サンジはこの瞬間、激しく後悔した。
しまった、こんなことなら店をもっと手伝っておくんだった!

「つっても、俺が行くのは遅い時間だから。大体8時過ぎにお邪魔させてもらって閉店までいる。オーナーとも顔見知りだ
ああ、だから三者面談のとき話をしていたのか。
結局父親はサンジの分の皿まで持って、席に戻った。
次はドリンクバーへと進めば、サンジはほてほてとついていく。
「夜は俺、手伝わせてもらえないんです」
「そうだろ、子どもだしな。でも休日は手伝ったりしてるのか?」
「・・・はい」
「そうか偉いな。うちのコーザは暇さえあれば寝てるぞ」
「それは親父に似たんだよ」
サラダを両手に山盛り持ったコーザが、突っ込んで去っていく。
サンジは父親と顔を見合わせ、ふっと笑った。
「何を飲む?」
「アイスティーにします」
「紅茶が好きなんだな」
「あ、はい・・・」
「こないだのアイスティー、美味かったな」
憶えていてくれたんだ。
じんと胸が熱くなって、サンジはグラスを両手で握り締めた。
「ぐずぐずしてる間にセット来たぞ」
先に食べ始めていたコーザが、頬袋を膨らませながら上目遣いに見ている。
サンジは、このコーザの頬袋が密かに気に入っていた。
まるでリスのようにもこっと頬が膨れるのだ。
いつもはシャープな顔立ちなのに、食べ始めた時だけ面相が変わるのが面白くて見飽きない。

「テーブルがいっぱいで乗り切らないぞ」
「順番に食ってくからすぐ開くよ」
ちょっとでも父親のスペースを空けようとして自分のセットをずらし、顔を向けた。
と、そのまま目を見開いて固まってしまう。
すぐ真横で食べ始めた父親の頬袋が、コーザの1.5倍くらい膨らんでいた。
それはもうこんもりと、もぐ両方とも。
「――――・・・ふぐっ」
「ん、どうした?」
頬袋パンパンなのに、発音がはっきりしている。
涼しい目元もそのままで、尚更余計顔の下半分の広がりが異様だった。
「ひ、え・・・あの・・・」
「おやひ、ふめほみふぎ」
「ああ、何言ってんだ行儀よく食え」
実に綺麗に発音しながら、父親はコーザの方を向いてモグモグごっくんとした。
新たにモシャッと口の中に入れると、頬がふくっと膨れる。
顔が向こうに向いているから表情も見えないのに、頬っぺただけがぷっくりと膨らんでいる。
「・・・ぷ、ふぅ、うううっ」
我慢しすぎて、おかしな息が漏れた。
慌てて口を押さえるサンジに、コーザが片頬だけ膨らませてニヤリとした。
「親父、詰め込みすぎだ、頬っぺ膨らんでるぞ」
「ん?美味いだろ」
モシャモシャ食べる父親がサンジの方を向いたから、耐え切れずひーと息を吸い込む。
「すげえ伸びるんだよ、なんつうの?肌が柔らけえんだな」
食べ終えて凹んだ頬を、コーザが手を伸ばし引っ張った。
父親の頬がびよーんと伸びる。
サンジはもう呼吸困難を起こし、背凭れに肘を乗せて腹を抱えひいひいと呻いた。
「ごめ・・・すんませ・・・」
「食べないと冷めちまうぞ、ほら」
笑っている間にハンバーグセットを食べ終えた父親は、ナポリタンに取り掛かっていた。

デザートのパフェがやってきた頃、ようやくサンジの笑いの発作は治まっていた。
初めてのファミレスハンバーグの味なんてほとんど覚えていない。
ただ、コーザと父親の頬袋親子のインパクトが強烈過ぎて、しばらく思い出し笑いしそうで困る。
「模擬授業はどうだった?」
「思いの他、面白かった」
「この高校に入りたくなったか?」
「おう、他のも見てみないとわかんねえけどな」
コーザ親子の会話を眺めながら、なんかいいなあと羨ましくなる。
サンジは、G校のオープンスクールに行って来たなんてとても祖父に言い出せない。
そんなとこ行ってどうするつもりだと、馬鹿にされるのがオチだろう。
「サンジ君は、ゆくゆくはお祖父さんの店を継ぐつもりか?」
父親に水を向けられ、サンジはアイスを掬う手を止めて「はい」と頷いた。
「ジ・・・祖父は厳しいので許してもらえるかどうかわかんないんだけど、俺はそのつもりです」
父親ご贔屓の店ならなおの事、是が非でも受け継ぎたい。
けれど―――

「G校の普通科は、進学前提なんだよな・・・」
誰にともなく、ポツリと呟いた。
理系科は100%進学だが、普通科でも9割は進学コースだ。
入れるかどうかもわからないのにその先の進路で悩むのも気が早すぎるが、それもサンジに二の足を踏ませる理由になっている。
食物科がある高校に行ってそのまま料理の専門学校に入る方が、近道なのは近道だ。
一日も早くバラティエを継いで父親とは店で接点を持つのなら、いっそここでG高校を諦めるか。

「将来を決めるのは、高校に行ってる間でも充分に間に合う」
サンジの考えを見透かしたように、父親が声を掛けた。
「高校の間じゃなきゃできない勉強ってのもあるしな。サンジ君は、勉強は苦手か?」
「はい」
これは、胸を張って答えられる。
「じゃあ、今日の模擬授業はどうだった?」
「あ、あれは面白かったです」
そうだな、と父親は頷いた。
「勿論、公開授業だから特別面白くしてあったのかもしれない。けれど、それも参考にしてどこの学校を選ぶのかじっくり考える材料にはなった。G校に進んでも、そのまま就職したり専門学校に入って職人になる子だってたくさんいる」
G校のパンフレット裏に記載された進学率を指して、優しく説明する。
「何処の学校に行っても、その場その場で新しい友人ができるだろう。人との出会いってのは星の数ほどあって、分岐点もいくつもあるから」
それは、サンジもわかっていた。
コーザが行くからG校に・・・と思ったのは事実だが、親しい友だちがこの学校に多く行くからそっちへ〜と流された訳ではない。
本来のサンジなら、単独ででも他所の学校で新生活を始められる自信はあった。
人に合わせるのは得意だし、ある程度愛想はあるしで誰とでもうまくやっていけるだろう。
ただ、ここでコーザと道が分かれてしまったら、その父親とはもっと遠くなってしまう。
友情が自然と途切れてしまうのは仕方ないとしても、コーザの父親との接点がなくなるのは嫌だ。
ものすごく不純で自分勝手な動機だけれど、今のサンジにとってはそこが一番の問題だった。

「だいたい“親友”と呼べる奴なんて、人生の中で5〜6人いればいい方だぞ」
「・・・そんなもん、ですか?」
サンジの邪まな想いも知らず、父親は優しい眼差しで見つめ返す。
「それじゃ、ロロノアさんも、親友と呼べる人が何人かいるんですか?」
「ああ、まあな」
自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう。
少し照れたように顔を傾け、首筋をポリポリと掻いている。
そんな仕種の一つ一つが、とても可愛らしいと思ってしまうのはサンジの目がおかしいのだろうか。
「まあ、俺の場合は3人かな」
「そんなに少ない?」
「俺が見て“親友”だと思える奴だ」
そう呟いた父親の表情は本当に穏やかで、サンジは素直に「いいなあ」と思った。
もう少し、いやもっと早く生まれていたら、父親と同じ世代を生きることができただろうか。
友人の親としてでなく同世代の友人として、側にいられただろうか。

「ロロノアさんの親友って、どんな人ですか?」
「ああ?そうだな、顔を合わすのは何年かに1度くらいだが」
「え?そんなに・・・疎遠?」
「ああ、でも何年ぶりかで顔を合わせても、久しぶりとは思わねえな。あっという間に時間が戻るっつうか、常に顔を合わせてなくてもお互い変わらないつうか」
「そうなんだ」
「なんせ、世界を股に掛けてあちこち飛び回ってる落ち着きのない奴だ。人の話は聞かねえし、根拠のないまま突っ走るし、勘だけを頼りに行動起こして周囲を巻き込むし・・・」
「傍迷惑ですね」
「そん通りだよ」
氷が溶けたアイスコーヒーをずずっと吸い込む。
「友情の面白いところは、相手の人格に余り左右されねえとこかな。性格最悪とか思っても妙に馬が合ったり腐れ縁が続いたりってこと、あるだろう」
サンジには、その辺りはよくわからない。
経験年数の差だろうか。
「愛情だと、相手に気持ちがある内はなんでも盲目になっちまうが、熱が冷めればちょっとした欠点でもそれが我慢できないくらい広がっちまうこともある。その点、友情はホントの相性というか、縁とか運とかあるよなあ」
しみじみと呟く父親の視線の先には、彼が言う腐れ縁的親友の姿が浮かんでいるのかもしれない。

「コーザは、その人知ってるのか?」
「ああ、ガキの頃よく遊んでもらった。ホントに、たまーにしか会わなかったけど、遊んでもらえた思い出がいっぱいある」
コーザも、目を細めて微笑む姿は父親そっくりだ。
「俺から見てもガキみたいな人で、同じように転げまわって遊んだ記憶ばっかだ。去年も会ったけど、全然変わってなかった」
「・・・変な人だな」
「ものすごっく変人だ」
思い出したのか、コーザも父親も同じような仕種で肩を揺らして笑った。

「恋人とか奥さんとかは自分で探して選ぶからアレだけど、友人って確かに出会いの運次第だと思う」
「コーザは、ビビちゃん自力でGETしたもんな」
「や、あれは俺がGETしたとかそういう・・・」
「なにそれムカつく。確かに告白はビビちゃんからだけど、なにその余裕」
サンジは悪態を吐きながらも、チラチラと隣の父親を意識していた。
父親がGETしたという、コーザの母は一体どんな人なんだろう。
いま、コーザは父親と二人暮らしと聞いているが、奥さんはどうしたんだろう。
サンジの視線を誤解したか、コーザはふふんと鼻で笑った。
「親父にはちゃんと紹介済みだ」
「ネフェルタリのお嬢さんか。あの子は芯が強くて優しくて、いい子だな」
さすがコーザ、何事も堂々として家族に隠し事はないらしい。
「友だちは“恵まれる”って言うからな。子どもと一緒で授かりものだ」
「恋人みたいに自力でGETできない?」
「友だちに好かれようといい奴を演じれば、それは友情じゃなくただの“都合のいい知り合い”になる。そこらへんの難しさは恋愛とも似ているけど、性格が悪くてもルーズでもだらしなくても、親友と呼べる間柄になれるのが友情の面白いところだ」

よく友人に恵まれてと言うけれど、逆に問えば自分は相手の“親友”たる存在に成り得ているだろうか。
例えばコーザは、リーダーシップがあり人に親切で優しい。
よく気が付くし、時々あまりに気を回しすぎて見当外れなことを言うけれど、それは相手を思い遣ればこそで返って好感が持てる。
サンジ自身、コーザとはずっと“親友”でいたいなと思う。
父親のことを抜きにしても。
けれど、コーザにとって自分はどうだろう。
一緒の高校を目指すのだって、半分は父親への下心だ。
そんなこと、もしコーザに知られたらきっと軽蔑されてしまう。
コーザにとって、自分は“親友”ではなくなってしまうだろう。
そう考えれば、俄かに怖くなった。

サンジが神妙な顔付きでじっとコーザを見つめている。
その視線に気付きながら、コーザは敢えて目を逸らした。
―――まさかこいつ、俺の顔を正面から見たいからそっちに座ったんじゃねえだろうなあ。
心配性のコーザは背中に嫌な汗を掻きながら、氷だけになったグラスをいつまでもストローでずずっと吸っていた。


End