人魚の涙と呪われた怪物のおはなし 6



ゾロの鼻息がすごいから、このまま押し倒されて即ひん剥かれるかと思ったが、意外なことに座ったままギュウと抱きしめてきた。
骨が軋むほどの馬鹿力で息が苦しくなったけど、その力強さが心地よく、気分は悪くない。
落ち着くために大きく息を吸って吐いてから、サンジもおずおずと両手を上げてゾロの背中を抱きしめ返した。
大きくて広い。
逞しくて温かい。
そんなゾロの身体を、自分の手で抱きしめることができるのが、ただただ嬉しい。
身長は同じくらいだけど、若干座高が低いサンジはゾロの腕の中にスポンと収まってしまった。
ゾロの肩に顎を乗せて首を傾けると、最初からこうして合わさる形にできていたんじゃないかと思えるくらい、しっくりと来る。
ゾロの匂いに深く包まれ、ずっとこうしていたいと思える安心感があった。
ゾロも、サンジの髪に鼻先を突っ込んで思う存分匂いを嗅ぎ、そのまま鼻先を耳元にずらして行く。
動物めいた動きとくすぐったさに首を竦めたら、ぺろりと頬を舐められた。
舌先でチロチロと頬を突かれ、誘われるように首を巡らすと思いのほか近い場所にゾロの顔がある。
まっすぐに見つめられてドキドキしたけど、なぜか視線を逸らしたら負けだと思って正面から睨み返した。
視線が合う事実に感動していたら、不意に焦点がぼやける。
―――あ、と思う間もなく唇を塞がれた。
はに、むに、とそこだけ柔らかいゾロの唇に吸い付かれる。
どうしていいかわからず、目を開いたまま眉間に皺を寄せた。
睨み付けようにも、もはや焦点が合わずぼやけたままだ。

唐突に、これはキスなのだと気付いて目を瞬かせる。
耳年増なサンジだから、当然キスには憧れた。
おしゃまなレディや麗しいお姉さまと軽いキスを交わしたことがあるけれど、どちらもルージュに濡れた大きな唇にちょんと口を付ける程度だった。
こんな風に、唇と唇を重ね合せて吸ったことなどない。

サンジは少し躊躇ってから、目を閉じてみた。
すると意識が、ゾロに触れている唇に集中する。
少し唇を開いては角度を変え、少しずつ口付けを深める過程に動悸がさらに激しくなった。
もう、口から心臓が飛び出そうだ。
「ふぁ…」
自分のモノとは思えない声が隙間から漏れて、驚いたのと気恥ずかしいのとで肩を竦めた。
ゾロが、そんなサンジを安心させるように抱き直して背中を擦る。
そうしながら、開いた歯の間から舌を滑り込ませてきた。
ツンと誘うようにサンジの舌を突き、口蓋を舐め始める。
「…ふ、ふ―――」
下手に抵抗をみせると侮られると、中途半端な気概だけでなんとか踏ん張った。
やられたことはやり返せばいいと思うのに、侵入してくるゾロの舌の勢いに押されなかなかサンジからは押し入れない。
そのうち頭がクラクラしてきて、ゾロに絡め取られた舌の感覚だけに意識を持って行かれた。
恥ずかしくなるような吐息が鼻から漏れるのは相変わらずだが、それを我慢しようとか誤魔化そうとか、そんな気にはなれない。
ゾロとこうして、同じ大きさで抱き合ってキスを交わせてる。
この事実だけが、涙が出るほど嬉しい。

フヌーッ!!
いきなり獣じみた音が漏れ、ゾロの鼻息でサンジの前髪が煽られた。
サンジがうっとりとキスを甘受している間に、どうやら限界値に達してしまったらしい。
打って変わった乱暴さでサンジを横抱きにして転がすと、着ていた衣類を引き裂く勢いで脱がしてしまった。
自分のシャツも、こちらは引きちぎって床に投げ捨てると、裸の胸をぴったりと重ねるようにして圧し掛かってくる。
この押しはレディだったら怖いだけだろうなとどこか客観的に考えながら、サンジは身構えて受け止めた。

ゾロは、サンジの唇から顎、首元から鎖骨へとでろでろと舌を這わせ吸い付きまくった。
気色悪いのとくすぐったいのとチクッと痛いのと、それからちょっと気持ちいいのとが嵐のように交互に襲いかかって来て、どう反応していいかわからない。
とにかく、ゾロの気が済むまで付き合ってやるつもりで力を抜いて横たわっていた。
いわゆるマグロ状態だが、今のサンジにはこれが精いっぱい。

「――――あ・・・」
下着ごとズボンも抜き取られ、一糸纏わぬ姿で改めて抱き合った。
相変わらず、発熱してるんじゃないかと思えるほど熱いゾロの肌が、なお一層燃え立つように体温を上げている。
上がっているのは体温だけじゃなく、身体の中心に聳え立つ塊もだった。
サンジだっていつの間にか萌していたから、やっぱり好きな人に触れてるだけで勃つもんだなあとどこか呑気に考えていた。
が、自分の下腹にゴリゴリ押し付けられているナニの凶悪さが気になった。
熱いし硬いしヌルヌルしているし、すごく重い。
これって―――――
サンジは仰向いたまま一旦天井を見てから、そうっと視線を下げた。
目の前には、胸に吸い付いてるゾロの頭頂部。
渦を巻く芝生のような毛並だ。
それから逞しい肩。
日に焼けた肌には汗が浮いていて、鍛錬の途中のようで。
それから太い腕と分厚い胸板と、その下にある自分の肌が驚くほどに白くていまさらながら気恥ずかしくなる。
けれど、自分の身体を客観的に見下ろすことはできなかった。
丁度腹の上あたりに、視界を邪魔する凶悪なナニかがいた。
赤黒くてゴツゴツと血管が浮いていて、先端からはテラテラと滑る液が絶え間なく漏れ出ている。
それが、元気に勃ち上がった可愛いサンジをぐいぐいと押し潰す勢いで押し付けられていた。
「―――んなに〜〜〜〜っ?」
思わず上半身を起こし、膝を曲げて尻で後ずさった。
逃がすかと、反射的にゾロが前のめりになり、股間を押し付けるようにしてぐいぐい迫ってくる。
「待てっ、ちょっ、待てっ」
「うっせえ、待ってる」
いや待ってない。
そうしている間にもゾロは自分とサンジを両方掴んで、痛いほどの力で上下に擦り始めた。
いきなり来た直接的な刺激に、サンジは悲鳴を上げながら身体を丸めて目の前のゾロの頭を掻き抱く。
「んあっ・・・ば、ばかっ、いたっ」
「痛ぇか?」
慌ててゾロが力を緩める。
そうすると、非常にいい感じの力加減になった。
ぶっちゃけ、気持ちいい。
「まだ痛ぇか」
「ん・・・や、いい」
なに言ってんのかと、恥ずかしくなったけど今更拒否もできず、誤魔化すためにぎゅうぎゅうとゾロの頭を抱きしめた。
押し付けた胸元の、扁平な肌にゾロは頬ずりして、先ほどから何度か舐められた小さな尖りに舌を這わす。
「や・・・くすぐって・・・」
「そうか?」
ずちゅぐちゅと、はしたない水音を立てながらゾロの手の中で二つのモノが擦り合わされる。
興奮のせいか、サンジのはいつもより色濃いのに、それでもまるで紅白に分かれたみたいな色合いだ。
と言うか、黒白?
「・・・あ、ああっ、やべっ」
あっという間に登り詰めて、サンジは慌ててゾロの腕を掴んだ。
「やべ、イく、イっちまっ」
「イけよ」
ゾロは、舌先で転がしていたサンジの乳首を唇で挟み、ぎゅむっと軽く押し潰した。
そうしながら、己の腰も動かしてサンジの腹に二つの物を擦り付けるように打ち付ける。
「あっ、あ、あ――――ッ」
サンジは背を撓らせ、仰け反りながらゾロの手の中に放出した。


「――――ぁ・・・」
イったばかりで過敏になったそれは、まだ掴んだままのゾロの掌の中でピクピクと震えている。
余韻に浸りながらも、ゾロの腕を宥めるように触れて大きく息を吐いた。
「ま、まだ駄目だ、動かすな・・・」
「おう」
「あー・・・やべえ・・・」
気持ちよかった。
めちゃくちゃ気持ちよかった。
自分でするのとは段違いに、ものすごく気持ちよかった。
下手するともぎ取られる勢いだが、サンジがちゃんと伝えればゾロは力を加減してくれる。
そうすると格段に気持ちいい。
自分でするのと違って、何をされるのかわからないけど同性同士でポイントを抑えた、まさに理想の手。

「どうだ?」
「うー・・・」
ゾロが、様子を窺うように優しく撫でてきた。
くたりと力を失くしていたそれが、徐々に硬さを取り戻す。
「き、気持ちい・・・」
「そうか」
にかりと、実に嬉しそうにゾロが笑う。
聖獣王なのに。
人間とは違うのに。
生きとし生けるものを統べる絶対的存在でありながら、いまはただひたむきいサンジと繋がることだけを願って、痛くないように傷つけないように、細心の注意を払ってくれている。
その仕種は不器用だけれど、泣きたくなるほどに優しい。

サンジは、じわりと潤んだ目元を乱暴に指で拭い、視線を落とした。
足の間には、相変わらずゾロの手がある。
イってしまったサンジはまだくたんとしているけれど、それに寄り添うゾロは凶悪さが二割増していた。
それをしみじみと見下ろして、今さらながら背筋が冷たくなった。

もし、サンジが元のサイズのままだったら、もしかしたら俺より大きいかも――と考えたことはあった。
がしかし、考えが甘かった。
大きいなんてもんじゃない。
むしろ乗れる。
乗れるけど、乗りこなせる自信はない。
っていうか、ロデオとかできたんじゃね?これ。
あ、でも手綱付けられないしこんだけ濡れてっと滑ってすぐ落ちるか。
いやでも血管に足を乗せれば、あるいはこの筋に掴まったら乗りこなせないことも――――

「おい?」
うっかり現実逃避していたら、ゾロが不審そうに顔を覗きこんできた。
慌てて顔を上げ、視線を合わせる。
真正面から見返すゾロの瞳は真摯で、けれど隠しきれない情欲の色も浮かんでいる。
ゾロの瞳に映る自分も、やっぱり同じような色をしているのだろう。

「へへ・・・」
サンジはへらりと笑ってから、肩に両手を掛けて自分からちゅっと口付けた。
「今度は俺が、てめえを気持ちよくしてやるよ」
そう言って膝を曲げ、自ら足を開いて腰を浮かせる。
「って言っても気持ちいいかどうかわかんねえけど、俺ぁ、てめえが欲しい」
「――――――っ!」
ゾロは一旦、ぎりっと奥歯を噛み締めた後、噛み付くように口付けて荒々しく貪りながら押し倒した。
足の間にあるゾロのモノが、濡れそぼりながらゴリゴリと押し入ってくる。

どんと来いバナナボート。
サンジは男らしく腹を括って、全身の力を抜いて目を閉じた。





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