ネクタイの結び方がわからない
-3-


鼓動が高まる胸をぴったりと合わせ、サンジは両足をゾロの胴に回して抗議するように太腿で締める。
「灯り、消せ」
「ああ?構わねえだろ」
「俺が構う!」
ベッドヘッドに長い足を伸ばして、爪先でスイッチを切ろうとした。
それを尻を抱えて退かせ、ころりと絡まったまま反転する。
「ちょっ・・・!」
「いいから」
寝そべったゾロの上に、サンジが跨る格好になった。
見下ろすサンジの顔を見ながらムニムニと尻を揉むと、頬を赤らめながら眉を寄せる。
「明るいのに、しかもこういう体勢って・・・」
「たまにゃ、いいだろ」
双丘の奥に指を這わせると、頑なに閉じたそこにさらに力が入ったのがわかった。
「おい、力抜け」
「・・・久しぶりなんだから、仕方ないだろ」
羞恥のせいか火を噴きそうなほど真っ赤に頬を染めたサンジに、ゾロもつられて熱くなる。

「それもそうか」
ゾロは頭だけ擡げて、すでにそそり立ったサンジのモノをぱくりと口に含んだ。
「ひゃっ」
慌てて引こうとする腰をがっちりと押さえ、更に引き寄せて舌で舐め転がす。
「ちょ・・・やめ、ろ、馬鹿――――!」
膝立ちで恥ずかしさに身悶えする様を、視線だけ上げて見やる。
「力抜け、っつったろ?」
「咥えながら、喋るな!」
両頬をバチンと手で挟まれたが、構わず尻を揉みしだきながらリズミカルに前後させた。
「ひ、ひゃぅ・・・」
膝から砕けそうになるサンジを両手で支え深く吸い付くと、弓なりに身体を逸らし身を捩る。
逃すまいと、更に口内の力を強めた。
「や、ゾロ、やだぁ」
「逃がすか」
「だから、咥えながら明確に喋るな!」
涙目で抗議するのを無視し、不自然な体勢で踏ん張るサンジを、時間を掛けて入念に解きほぐしていった。




「もう、いいか、ら――――」
広げた太腿をぷるぷると震わせながら、とうとうサンジが音を上げた。
「なにが、いいんだ?」
ジェルの助けを借りて何度も抜き差しを繰り返した指が、ダメ出しをするようにグイッと内部を抉る。
「ん、ひゃ」
「もう、頃合いか?」
ぬちゃりと、音を立てながら指を引き抜いた。
そうしてサンジの尻タブを両手で支え、猛り切った己の上に宛がう。
「え…、このまま?」
「ああ、腰を降ろせ」
「んな!やだもう、恥ずかしいっ」
憤慨しながらも、サンジはベッドに手を着いて、そろそろと腰を下ろした。
軽く圧迫感があった後、ゾロのモノは少しずつ、柔らかくて温かな場所へと減り込んでいく。
「あ、あ・・・」
着いた腕を震わせ、サンジは何度か動きを止める。
無意識に息を詰めぬよう、深呼吸を繰り返した。

「無理すんな、ゆっくりしろ」
「誰が無理させてんだよ!」
半ギレで力を緩め、「んああっ」と声を上げ、また腰を浮かす。
「き、っつい」
「よしよし」
ぬ、ぬ、と下からも突き上げてやると、観念したように腰を沈めた。
「ふわァあああ・・・」
膝頭にまだ力を込めたまま、ぺたりと尻を付ける。
飲み込んだ異物が中で馴染むまで、ゾロはじっと待ってやった。
すぐにでも突き上げたい衝動を抑えるのに、必死だ。

「ふ、う――――」
荒い息を吐きながら、サンジは上気した頬でゾロを見下ろした。
「は、入った」
「大丈夫か?」
「ん・・・」
納め切った状態で、サンジはモジモジとゾロの脇腹を太腿で撫でる。
催促だとわかっていて、ゾロはなおじっと耐える。
「動いてみろよ」
「えー」
一旦ゾロの腹に両手を置いて、少しだけ腰を浮かした。
それからまた尻を着けて、何度か感触を確かめる。
大丈夫そうかと具合を見ては、そろそろと腰を揺らし始めた。

「どうだ?」
「・・・聞く、な」
自分で動くから加減を調節できるのだが、それはそれで気恥ずかしさが先に立つ。
サンジはなんとも恨めし気な表情で、ゾロを見やった。
「・・・もどかしい」
「好きなように動けばいいだろ」
「だから俺に、させるなよ!」
ゾロは頭の後ろで手を組んで、余裕の笑みを浮かべる。
「俺の誕生日、だよな」
「―――!」
「気持ち良く、してくれんだろ?」
「ううううう~~~~~!」
平然として見せているが、正直ゾロの方が限界だった。
堪えに堪え、腹筋がぶるぶと震えてきている。
このままでは生殺しだ。
頼むから早く、動いてくれ。

「ああもう、畜生め!」
サンジは意を決して、腰を浮かした。
最初は恐る恐るながらも、何度か自らの腰を上下させて抜き差しを繰り返す。
そうしながら上向いて、「あ・あ」と漏れ出る声を抑えられないでいた。
「あ、も、ちく、しょ・・・」
慣れるほどに上下の動きが激しくなった。
少しずつ角度を付けて、より深く感じる場所を自ら探り当てる。
「んあ、あ、ここ、い――――」
自然と膝が閉じるのを、ゾロは両手で押さえてガッと開いた。
「ん、あぁあ、あー――っ」
大きく開脚したまま、自ら腰を振り吐精する。
それを真正面でガン見して、ゾロの興奮は頂点に達した。

「・・・はっ、はっ・・・」
イってしまって虚脱状態のサンジをころりと仰向けに転がし、繋がったままゾロが起き上がった。
その反動で、サンジは軽く悲鳴を上げる。
「ちょ、まて・・・」
「悪い、もう」
サンジの膝裏に手を当て、ゾロは激しく腰を振り始めた。
唐突な動きに思わず叫び声を上げかけて、サンジは両手で自らの口を塞いだ。
「・・・ん!~~~~~っ」
「堪えろ」
「…やっ、イった、と、こ、なのに―――――っ」
シーツを手繰り寄せ、口に咥えて噛み締めるサンジの泣き顔を見ながら、ゾロはより深い場所で精を解き放った。





翌朝はからりと晴れて、抜けるような秋空だった。
「いーい天気だなあ」
思い切り寝坊して最上階のレストランでブランチを楽しみながら、ゾロは能天気に景色を眺める。
対してサンジは、仏頂面だ。
「ご機嫌でなにより」
「そりゃあ、極上のプレゼントを貰っ…」
総て言い終わる前に、テーブルの下でガンと脛を蹴られた。
「…いって」
「うるさい」
ぷんすか怒っているサンジの、薄紅色に染まった頬がまた愛おしい。
思わずキスしたくなったが、公衆の面前で手を出したらさらに機嫌をこねること間違いなしなので、我慢した。
ゾロも一応、分別のある大人だ。

「この後どうする?」
今日は休みで、ゆっくり帰ればいい。
どこか寄り道でもするか、この街を少し散策するか。
「ちょっと、散歩していかないか?」
サンジの提案に、ゾロは鷹揚に頷いた。



駅近くのちょっとした繁華街を、二人でぶらぶらと歩く。
ゾロは特に目的がないので、サンジの後ろをついて回った。
商店が並ぶ通りを抜けて少し歩くと、閑静な住宅街に差し掛かる。
通りかかった小さな公園には、ぽつぽつと親子連れの姿があった。
サンジはふと足を止め、公園に目を向けた。
揺れるブランコ、ペンキが剥がれたシーソー、小さな砂場。
しゃがんで遊ぶ幼子の後ろで、立ち話に興じる若い母親たち。
じっと佇んだままだったので、ゾロはサンジを追い越して空いたベンチに腰かけた。
「ちと、休むか?」
「…うん」
どこか上の空な表情で、ゾロの隣に腰を下ろす。

麗らかな小春日和、穏やかな公園の風景をなんとはなしに眺めながら、ゾロはそっとサンジの様子を窺った。
じっと何かを見つめているようで、その眼差しは空に浮いている。
感情が削げた横顔は、整っている分だけ冷淡に見えた。
いつにないサンジの様子に気付きながら、特に声もかけずただ見守る。
日が陰ると、足元を吹き抜ける風に冷たさを感じた。
陽気がよくとも、もう秋なのだと思わせる空気だ。

しばらくじっと座っていたが、サンジはいきなりすっと立ち上がった。
ゾロも黙って立ち上がる。

目的があるのか、サンジの歩みに迷いはない。
半歩ほど下がって歩いていると、見覚えのある場所に来た。
バラティエの裏口だ。
店に顔を出す気かと思ったが、サンジは一瞥もせず通り過ぎた。
そのまま歩いていく内に、先ほど通り過ぎた商店街が見えてくる。
ふと、風上からいい匂いが漂ってきて、ゾロは顔を上げた。
それと同時に、サンジが足を止めて振り返る。
「腹具合、どう?」
「別に腹減ってる訳でもねえが、食えるぞ」
立ち止まった場所は、小さなお好み焼き屋の前だった。
空腹ではないが、食欲をそそる匂いだ。
「じゃあ、入ってもいい?」
「ああ、こういう店は美味いんじゃねえか?」
「当たり、かな?」
サンジは微笑んで、古びた暖簾をくぐった。




昼時は過ぎていたが、店内はそこそこ賑わっていた。
テーブルが鉄板になっていて、自分で焼いて食べるタイプだ。
サンジから誘ってきたが、お好み焼きを店で焼くのは初めてらしく手つきが心もとない。
「この店、バラティエの人達と来たりしてんじゃねえのか?」
「いや、初めてなんだよ」
片面が焼けたところで、「よ、」と勢いをつけてひっくり返す。
不慣れ感はあるものの、少し焼いている間に手際が良くなった。
「一度、入ってみてえなと思っててさ」
ソースが焦げる匂いが、香ばしい。
マヨネーズをかけて鰹節をわんさと持って、青海苔も振る。
「さ、もういいぞ」
「いただきます」
焼きたてにハフハフと息を吹きかけながら食べた。
外では寒さで少し鼻の頭が赤くなっていたサンジも、今は頬がばら色に染まっている。
「あー美味ぇ」
「ああ、美味いな」
冷えたビールをぐっと飲み、熱々のお好み焼きを口に運ぶ。
これは、いくらでも食べられる。
具の違うお好み焼きを更に焼きながら、サンジはぷはっとチューハイを呷った。
「美味ぇな、想像してた以上だ」
「いつから…」
ゾロの言葉に、ジョッキを置いて「ん?」と顔を上げた。
「いつから、この店に入りたいと思ってたんだ?」
「――――…」
サンジはすっと、視線を外に向けた。
擦りガラスの向こうに、枯れ枝が揺れる秋の景色が映る。
午後を過ぎると、昼間でもどこか物寂しい。

「この辺に、俺一年だけ住んでたんだ」
「バラティエの、じいさんと出会った時か」
「そう」
以前、聞いたことがある。
サンジはその時のことを具体的には話さなかった。
ただ、オーナー・ゼフと出会えたことだけが、宝物のように大切な思い出として語るだけだ。
「一年だけ、だったんだ。小学生…四年くらいかな。俺、そん時学校に行ってなかったし」
預かってくれた親戚は、サンジに興味のない女性だった。
昼間は寝ていて、邪魔だからと外に出された。
夜は仕事に行くからと、一人きりで留守番をしていた。
学校に行かなかったから、ただその辺をうろついて時を過ごしていた。
「さっき寄った公園とか、よく繁みのところに座ってた。あそこだと風が当たらないし、冬でも結構暖かいんだよ」
陽が差すと日向ぼっこできてさ。
そういうサンジを、ゾロはじっと見つめている。
「でも、ベンチに座ったことなかったんだよな。あんな風に、誰にも見とがめられないで、ベンチに座ってみたかったんだ」
少し覚めたお好み焼きを口に含み、ふふっと幸せそうに笑う。
「この店もさ、すっげえいい匂いさせてんの。俺、しょっちゅう腹空かせてたから、この匂いだけで満腹になった気がした。その、玄関の引き戸が開くと中から温かい空気が出てきてさ、いい匂いも漂ってきてさ。それ、俺すげえ好きだったんだ」
お好み焼きの上で、鰹節が踊る。
「それに、ここっていつも賑やかで楽しそうだったんだ。ほら、今だってそうじゃん。みんな笑ってるし、楽しそうに喋ってるし。この店に、この空気の中に入ってみたかったんだ」
サンジにとって、憧れの場所だったのだ。
なんの変哲もない、古くて小さなお好み焼き屋の温かい雰囲気の中に、いつか混じってみたかった。
ただそれだけの、ささやかな夢として。

「だからゾロと来れて、よかった――――」
満足げなサンジの表情と相反して、ゾロの眉間に深い皺が寄る。
サンジは怪訝そうに、ゾロを窺い見た。
「ゾロ、どうした?」
「お前―――」
ゾロはいったん言葉を止め、手にしたジョッキをテーブルに静かに置く。
「お前は、可哀想だった」

サンジはきょとんとして、ゾロの顔を見つめている。
「小さい頃に親を亡くして、ずっと寂しい思いをしてきた。辛い思いも、悔しい思いもしてきたんだろう。腹も減ったし悲しいし、寒いし痛かった。お前は、お前の過去をもっと憐れんでもいいんだ」
「―――――?」
意味がわからない様子で、サンジは瞬きもせずにゾロを見ている。
その視線の空虚さが、ゾロには辛い。
「俺がお前に同情するのは簡単だ。だが、お前も昔の自分をもっと思ってやってくれ。一人で寂しかったと、優しい大人がいなかったと、子どもらしく過ごさせてもらえなかったと。辛くて悲しい自分を思い出してやってくれ。過去のお前に、蓋をしないでくれ」
「―――…ゾロ」
「お前は、可哀想だった」

不意に、サンジの表情がくしゃりと歪んだ。
眇められた瞳が、ジワリと濡れる。
「俺――――」
肘を着いて、口元に手を当てる。
何かを考えているように指を広げ、次いで声を押し殺すために掌で覆った。
「俺、は――――」
悲しかった、辛かった、寂しかった。
叫べなかったサンジの代わりに、ゾロが蓋を開けてやる。

「辛かった、な」
ゾロが手を伸ばし、頬を撫でた。
その指を追いかけるように、つ…と涙の粒が零れ落ちる。
一度流れると次から次から溢れて、止まらない。
「――――っ…」
サンジは両手で顔を擦り、無言でしゃくり上げた。
そうしながら唇を歪めて、小さく声を絞り出す。
「おれ、つらか…」
「ああ」
「さ、びしか…た、お、おとうさん、も、おかあさ…も」
俯いた頭に、そっと掌を当てる。
「いなく、て、おじさんたち、こわくて…」
「ああ」
「おなか、すいて…いつも、さむくて、こわくて、さびしくて――――」
居場所なんて、どこにもなくて。

ゾロは席を立って、サンジの横に座り直した。
声を出さずに必死で嗚咽を堪えるサンジの、肩を擦ってやる。
そうして、テーブルに備え付けのティッシュを箱ごと渡した。
「…おれ、こうしてだれかと、おこのみや…たべ、て、みたか…」
「ああ」
「おいしい、だろうなって…ずっと、おも―――」
もう言葉にならず、ただボロボロと涙を零す。
「おいし…や、――――ぞ…」
「ああ」
「うぇっ…」
幼子に返ったように、ただ黙って泣きじゃくる。
そんなサンジの頭を撫で、肩を抱いてじっと傍にいた。
途中でティッシュが空になったが、隣の席の客がそっと新しい箱を差し出してくれた。



思い切り泣いた後、サンジはしばらく放心したようにぼうっと座っていた。
しばらくしてから、すっかり氷が溶けてしまったチューハイに手を伸ばし一息に飲み干す。
そうして、ティッシュで口元を拭った。
「…はー」
「大丈夫か」
サンジは「はっ」と深く息を吐いて、充血した目をゾロに向けた。
「泣いたら、腹減った」
「もう一枚、焼くか」
「うん、次は何にすっかな」
まだ目尻に涙を溜めながら、サンジはメニューを手に取った。





店を出る頃には、空が茜色に染まっていた。
そろそろ家路に着かないと、帰りが遅くなる。
「結局、たっぷりここにいちゃったな」
「時間的にあっという間だった気がするぞ、美味かったし」
「おう、めっちゃ美味かった」
いい店だったろ?と、得意げに笑う。
振り返ったサンジの髪は、夕陽を背に受けて濃い蜜色に染まっていた。
手を伸ばして、頬に張り付いた毛先を梳いてやる。

「じゃあ、帰るか」
「おう」
帰ろう、俺達の家に。

長く伸びた影を踏みながら、二人はゆっくりと駅に向かった。




End






貴方のみうのゾロサン本は「もう三日も雨が降り続けていた。」から始まり、
タイトルは『ネクタイの結び方が分からない』、
煽りは【凍えそうな明日を迎えに来て】です。

とういうお題だったのですが、そもそも「ネクタイ」がどこか行っちゃったww




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