ねことオイル <街田トモエさま>



「よぉ、ひさしぶり」
 全身黒づくめという格好のサンジは、その場に立ちすくんでいるゾロを見てにやっと笑いながら手を振る。
「二週間振りか?」
「まぁそんくらいだな。最近のてめェはお高く止まってるからな、ぎりぎりまで我慢してんだよ」
「おれの値段を決めるのはおれじゃねぇ」
「知ってるよ」
 サンジの指先がゾロの眉間にちょんと触れた。触れられて初めて、眉間に皺が寄るほど不機嫌だったと自覚する。
「わかってるから、そんな不満たらたらな顔すんな」
「でも」
 ゾロの手がサンジの耳に伸びた。黒いふたつの猫耳。内側の部分にそっと触れ、くまなく撫で回す。
「おれの値段がこれ以上高くなったら、てめェはおれのところに来なくなる可能性も高くなるだろ」
「てめェのセリフ、そっくりそのまま返してやるよ」
 サンジの身体がゾロに寄り添い、ぎゅっとしがみついてきた。
「おれだって、てめェのところを選んで来るという選択権がおれには無ぇ。本当は毎日会って満たされたいのに、いつもギリギリまで我慢して我慢させられて、てめェの値段確認してやっとてめェの顔見られるんだ。だからせめて、他の奴らより高い男には、なるな」
 キッと顔を上げたサンジに見つめられながら、ゾロは自分の唇にやわらかいものが押し当てられたのを感じた。
「善処…する」
 二週間ぶりのくちづけ。腕をサンジの背中に回して、キスを返す。べろりと唇を舐めてやると、サンジの頬がさっと染まった。
 あまり時間はかけられないし服もろくに脱がせられない状況。でも、少しでもサンジを満足させたい。サンジの手がゾロの先端をそっと掴んできた。舌を絡めながらゾロはサンジの服の裾から手を入れ、肌を味わう。
 他の奴に注入するときは、こんなことはしない。至極事務的にそいつの身体を開かせ、挿入し、必要な量を中にブチ込んでやるだけだ。それが自分の仕事だから。
 でも、この車――サンジだけは違った。
 ぴかぴか輝く黒い身体。すらりとしたボディラインと、まるっこくも愛らしい猫耳。ちょっと生意気そうな佇まいだが、新人ながら自分の仕事にプライドを持っている顔つき。ゾロは生まれて初めて『ヒトメボレ』をした。
 サンジは初めて来た店の、初めて挿入されるモノに緊張した面持ちでガチガチに固まっていた。『大丈夫だ。痛くしねぇ』と声をかけてやるとびっくりした様子でまじまじと見つめられ、『…よろしくお願いします』と蚊の鳴くような声で返事をした。
 その時には既にサンジの胸にもゾロに対する恋心が芽吹き、急成長を遂げていた。
 その日、ゾロはサンジの中に満タンまでレギュラーガソリンを注ぎ込んだ。

「あ、ん…」
 よつんばいの体勢にさせたサンジの入口を丁寧に指で解してやりながら、なだらかでセクシーな曲線を描いている背中を見つめる。
 いつ見ても美しい身体だ。
 お互い主人に仕えている隷属物の身だし、自分は業務上、いろいろな奴を相手にしなければならない存在だけれど、サンジが(正確にはサンジのオーナーが)毎回自分の店を選んで来てくれるのが嬉しい。この身体を知っているのが自分だけだと思うと、ゾロは満足感でいっぱいになる。
「も、いいぜ…今日も半分しかヤラせてやれねぇけどな」
 目元を微かに赤く染めて振り向いたサンジは唇を舐めて見せ、小さく顎をしゃくってゾロを促した。
「…ったく。どこでそんな誘い方覚えてきやがった」
「おれのつやつやボディはてめェしか知らねぇんだ。てめェが教え込んだにきまってんだろボケ」
 憎まれ口をたたき合いながらもゾロは自らの仕事道具をサンジの入口にあてがい、ゆっくりとサンジの中に挿入していく。
「きもちいい」
 ゾロをぎゅうぎゅうと締め付けながら、ひどく嬉しそうにサンジはつぶやいた。
「よかった」
 自身を根元までサンジに埋め込み、背中に覆い被さる。少しでも肌を合わせ、サンジを隅々まで満足させてやりたい。サンジのために操を立てたくても立てられない存在の自分が時折憎たらしくなるけれど、この仕事をしていなければサンジと会えなかったから。
 だからせめて、サンジを抱く時だけは全身全霊でサンジを感じ、気持ちよくさせてやりたい。
「動くぞ」
 ちいさく頷いたサンジをがしがしと激しく揺さぶって喘がせ、抱きしめながらゾロはサンジの中にたっぷりと指定量のガソリンを注ぎ込んだ。



「次はいつ来られっかなー」
 乱れた服を整えながら、さみしそうにサンジは呟いた。
「すぐに逢える」
「てめェその場しのぎの慰めとか、さらっと言うなよ」
 アヒルのように口をとがらせて抗議するサンジの唇をつまみ、ゾロはにやっと笑って見せた。
「今回はその場しのぎじゃねぇ」
「なんでだ」
「てめェ来週誕生日だろ」
 思いがけないゾロの言葉にサンジはぽかんと驚いたように見つめていたが、すぐに胡散臭そうな表情になってゾロを睨みつける。
「………なんでてめェが、おれの誕生日なんて知ってるんだ」
「ガソスタにとっては常識だ。それに、店に車検の予約が入ってる。うちは日帰り車検なんてやってねぇからな。てめェは来週、ここに泊まりだ」
 ゾロの話を聞いているうちに、強張っていたサンジの表情がふにゃりと緩んできた。泣きそうになっているのは笑顔になってしまうのをごまかすためだろう。
 わかりやすい奴。
 ゾロの掌がサンジの頭に乗り、わしわしと撫で回した。
「いつもよりは長く、一緒にいられるのか」
「一泊二日だから、いつもに比べたら相当長いな。てめェの身体、隅々までじっくり点検してやれる」
「エロオヤジ!」
 憎々しげに言いながらもサンジの口元は嬉しそうにほころび、それを見たゾロは顔と言ってることが全然違うよ、と心の中でツッコミを入れながら抱きしめ、そっとキスを落とした。


おしまい。


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