ネクタイの日



中学から高校に進学し、制服も学ランからブレザーになった。
ブレザーがよく似合うと、中学から一緒の友人にも近所のおばちゃん達にも褒められて、サンジは上機嫌だ。
常々身だしなみに気を付けているから、ネクタイも歪みなくバッチリ決まっている。

が、腐れ縁的幼なじみのゾロは、初日から制服を着崩していた。
それもこだわりのある着こなしではなく、明らかに不測の事態で元に戻らなくなっちゃいました状態。

「なんだお前、そのネクタイ」
同じクラスになれて内心ウキウキしながら、サンジは不機嫌を装って傍による。
「あんまりきついから引っ張ったら、ほどけた」
「なら結べよ」
「どうしていいか、わからねえ」
呆れたことに、今朝は姉に結んで貰って来たのだという。
ほどけたままではさすがにだらしないと思ったのか、首にかけて両端をネジネジと捻り、シャツの中に端を突っ込んであった。
こんなことで誤魔化されるとでも思ったか。

「あーあ、皺になっちまってるじゃねえか、この馬鹿」
サンジは向かい合って結び直そうとしたが、対面でするとよくわからない。
イラッときてゾロの肩を持ち、乱暴に反転させた。
「しゃがめ、このでくの坊」
されるがままに棒立ちだったゾロを押さえ付けて、肩越しに両手を伸ばした。
方向が同じなら、結び方はわかる。

「こうやってこう、ちょいちょいとこうじゃねえか」
苦しくない程度にキュッと締めて、向かい合わせになり一歩下がって確かめる。
「うん、完璧」
満足そうに一人頷くサンジの前で、ゾロはどこか居心地の悪そうな顔をして立っていた。


それからというもの、ゾロは毎日ノーネクタイで登校し、教師と風紀委員とサンジの注意を受けてネクタイを結んで貰うようになった。

「だから、ここをこう持ってこうすりゃ、こうだろが」
サンジは毎日熱心に指導するが、ゾロは明らかにやる気を見せず首を任せてぼうっとしている。
「お前、テストの成績はいいくせになんでこんなんが覚えらんねえの?」
「さあなあ」

他人事のように嘯くゾロのネクタイを、サンジは今日も甲斐甲斐しく結んでやっている。
背後から腕を回し、肩越しに覗き込むサンジの、顎の下の皮膚を舐めてえなあなんてゾロが考えているなんて、夢にも思わずに。



End



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