ゾロの誕生日


恋人になって初めての、ゾロの誕生日。
エースにあれこれと唆されたが、結局ちゃんとしたプレゼントを買って家に帰った。
一応ゾロもサンジも実家暮らしで、ゾロの誕生日はちゃんと家族でお祝いされるだろうから、料理でご馳走なんて出番はない。
今夜は一人で、適当にあり合わせのもんでも食べるか・・・と考えていたら、ゾロからメールが入った。
「今からそっち行ってもいいか?」
時刻は19時半。
普通にご飯時だろうに、一体なにごとなのか。
折角の、誕生日なのに。

サンジが「OK」と返事を寄越す前に玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開ければ、ゾロはなにやら大きな箱を持参して表に突っ立っている。

「どうした、今日は家でお祝いするんじゃねえのか」
「それは昼にやった。外で寿司食って来た」
「へえ、豪勢だな」
ゾロは乱暴に靴を脱ぐと、サンジの脇を通り抜けて真っ直ぐに台所へと向かった。
勝手に大きな冷蔵庫を開けて、中に箱を入れる。
サンジんちの冷蔵庫は常に中身が整頓されていて、スペースはいつでも空いているのだ。
「なんだよそれ」
「ケーキだ、おふくろが持ってけって」
「袋ごと入れるな、中にドライアイスとか入れっぱなしじゃねえのか?ちゃんと見てから入れろよ」
一旦締めた扉をもう一度開けて、サンジが中を確かめている間にゾロは上着を脱いでソファに放り、テーブルに着席している。
「腹減った」
「それが、人んちに来た態度かクソ」
言いながらも、サンジはケーキをちゃんと入れ直すと同時に、なにかちゃんとしたものがないか庫内を改めて探し始めた。
こんなことなら、昼間に買い物に言っておくべきだった。
「お前さあ、来るなら来るって前もって言えってば」
「なんでもいい、てめえが作るもんなら」
「材料がねえんだから、ほんとになにもねえぞ」
若干切れ気味に、けれどつい綻んでしまう口元を意識して引き締めながら、サンジは鍋でも作ることに決めた。

みやげ物のきりたんぽにもやしや残り野菜をすべて投入し、鮭を焼いた。
ゾロの誕生日を祝うにはあまりに粗末な食卓だけれど、仕方がない。
「鍋の後で、うどん入れるから」
「ご馳走じゃねえか」
ゾロはパンと手を合わせ、『いただきます』と唱えたあと早速旺盛な食欲で食べ始める。
それを呆れた目で見ながら、サンジも遅れて箸を取った。
「ほんとにいいのか?誕生日くらい、家にいなくても」
「どこの親父だよそれ。もうガキじゃねえんだから家で誕生祝だのありえねーだろ」
そう言われるとむかっとくる。
サンジの家ではお互いの誕生日には、必ず一緒にテーブルに着いてお祝いしているのだ。
「けどよ、立派なケーキまでこっち持ってきちまって大丈夫か」
「それ、姉貴とお袋がそれぞれ買って来たから、家にもあんだ。だからお前と食えって持たされた」
「なるほどー」
ならまあ、遠慮しなくてもいいだろう。

きりたんぽ鍋モドキを腹いっぱい食べ、デザートにケーキを出した。
見た目はシンプルなチョコレートケーキだが、中身は何層にもなっていてなかなか味わいがある。
「へえ、ここのケーキも美味いんだな」
「なんか、この辺が香ばしい」
「ピーナッツだろ」
ケーキを切り分けることなく、二人で一つの小振りなホールケーキをつつくのは、鍋を囲むのに似ていてなんだか親近感が湧く。

「うし、飯も食ったしケーキも食った。後はプレゼントだな」
「なんだ、色気のねえ」
「ここで色気を求めんじゃねえよ、ありがたく受け取れ!」
くわっと吼えるように言い返し、顔を背けたままつっけんどんな態度で箱を突き出す。
「お、ありがとう」
ゾロは両手で受け取って一旦頭より上に掲げてから、ぴょこんと礼をした。
そういう仕種は、何気に可愛い。
そのまま綺麗にラッピングされた包装紙も無造作に破り捨て、蓋を開ける。
「お、靴下か」
「おう、お前すぐ指先破れるだろ」
エースが提案したプレゼントは、即却下だ。

「ありがたく貰っておく」
「俺の愛を踏みしめて、ありがたく履け」
「意味がわからん」
言いながら、ゾロは満更でもなさそうに表情を緩めてプレゼントを鞄に入れた。
その手で、中に入っていた菓子箱を取り出す。
「なんだ、まだ食うのか」
「これは特別だろ、今日はポッキーの日だ」
「ああ」
そう言えば、CMでも盛んに流れていたっけか。
「1111だもんな、それで?」
「ポッキーゲームしようぜ」
まさか、ゾロの口からそんな台詞を聞くとは思わず、サンジはビックリしすぎて後ろにひっくり返りそうになった。
「・・・は、あ?」
「ポッキーゲーム」
「待て待て待て、なに言ってくれちゃってんの?つか、そういうのって仲間内で、行ったことないけど合コンとか、宴会とか。そういうとこでノリでやるもんじゃねえの?」
「今日はポッキーの日じゃないか」
話が噛み合わない。
と言うか、ゾロはどうしてもポッキーゲームがやりたいらしい。
「だってよう、そもそもゲームっつったって、これはどうやったら勝負が着くんだよ」
「・・・より多く食った方が勝ちとか?」
「口離したら負けなんだろ?つかこれ、そもそも罰ゲームなんじゃね?」
お互い、名前は聞くがやったこともないし、これで勝負になっている場面を見たこともない。
「とにかく、いいからやるぞ」
ゾロはそう言って一本取り出し、サンジの口元に差し出した。
チョコレートが付いた側だったから、文句も言わずぱくりと口に入れる。

「いいか、たくさん食った方が勝ちだぞ」
プリッツ部分を歯で挟んで、ゾロが堂々と宣言した。
―――いや、こんなんじゃなくこう、普通にキスした方が・・・
そう抗いたいが口に出すことも出来ず、サンジは渋々唇を閉じた。
「せーのっ」

もごもごポリポリもぐもぐンガググ・・・


・・・ぶ・・・ちゅー



End


だって今日は、いただきますの日で麺の日でポッキー&プリッツの日できりたんぽの日でもやしの日で鮭の日でピーナッツの日で靴下の日なので。