嫉妬の日


高校に入学して、ゾロとはクラスが分かれた。
当然といえば当然で、サンジのクラスには同じ中学の友人は2人しかいない。
けれど、基本サンジは誰とでも仲がいいからその2人とつるみつつ、持ち前の社交性を活かして着々と友人関係を築いていった。
とりあえず女子だけは、同じクラスのみならず両隣の教室も全部声を掛けて顔と名前を覚えてしまった。
男はどうでもよかったが、親しみやすいサンジの雰囲気に惹かれるのかいつの間にか顔見知りが増え、入学4日目にしてまるで中学のときのように居心地のいい環境に整えられている。

そんな自分のことはさておき、サンジが気に掛けているのはゾロだ。
ゾロは無口で無愛想だが、基本悪い人間ではない。
だが残念なことに人相が悪い。
目つきも悪い。
そして多分、態度もあまりよろしくない。
愛想笑いとまでは行かなくとももう少し表情を柔らかくして、時にくだらない冗談でも馬鹿笑いするくらいのサービス精神があればいいのに、どこまでも堅物でマイペースだ。
サンジが傍にいてなんとか中和できるくらいの無表情さなのだから、今だにクラスでも浮いた存在のままなんじゃないだろうか。
あいにくゾロとのクラスは離れていて、休み時間にでもちょっと通りかかりましたという風に様子を覗きに行くのも躊躇われる。
かといって、「どうしてる?」と気軽に遊びにも行けない。
いつまでも中学時代の友人同士でつるんでいるのは、かっこ悪いと思うからだ。
けれど、やっぱり気にかかる。



教室移動のため、新しくできた友人とふざけながら廊下を歩いていた。
肩に手を掛けて首を押さえ込むから、サンジも負けじと相手を肘で突付きつつ、もつれ合って進む。
と、ゾロのクラスに通りかかった。
廊下からさりげなく中の様子を窺う。
ゾロは一番後ろの席に着いて、腕組みしたまま目を閉じていた。
ああやっぱり。
一人で、居眠りなんかしてる―――

「ゾロ」
不意に、後ろから回り込んだ生徒がゾロの肩に手を掛けた。
ゾロははっと中途半端に目を開き、顔を上げた。
二言三言言葉を交わし、開いた唇が笑みの形に変わる。
「―――・・・」
思わず足を止めて見入っていたら、サンジの視線に気づいたのかゾロがこちらを見た。
「サーンジ、早く行こうぜ」
「あ、ああ」
友人が肩を抱いて急かすので、生返事をする。
するとゾロの眉間に皺が寄り唇がへの字に曲がった。

ああだから、その顔はダメだって。
めっちゃ怖い人相になってるぞ。
つか、睨まなくったっていいだろうに。

文句の一つも言ってやりたかったけれど、サンジは黙って視線を逸らした。
友人に急かされるまま、廊下を通り過ぎていく。

でもまあ、ゾロも新しいクラスに馴染んでるようでよかった。
気軽に話しかけてくれて、ゾロもあんな表情を返す友人ができたんだな。
俺が心配するようなことじゃねえじゃん。
ゾロだって、普通じゃん。
よかったじゃん。

心の中で何度もそう繰り返しながら、なぜか面白くない気分のサンジだった。



End