恋文の日



ゾロは―――

目つきが悪い。
態度もでかい。
無愛想だし、横柄だし。
マイペース過ぎて気遣いとか皆無で、どこまでも俺様で悪びれもしない。

人に好かれようと、嫌われようと。
他人の気持ちなんてきっと、どうだっていいんだ。
だから気にしない。
我関せずで、自分の思うとおりに生きてる。

そんなんなら寂しいって思うけど、ゾロは結構一人じゃない。
あんなに身勝手なのに、誰も腹を立てない。
嫌わない、怒らない。
むしろ好かれようとする、興味を引こうとする。
ゾロの目が、自分に向けられればいいと思う。

だってゾロは、人を嫌わない。
馬鹿にしないし蔑まない。
自分が自分であるように、他人は他人であることを知っているから。
ゾロの目には誰もが平等で、誰もがどうでもよく、誰もが自由に映っている。

その中で、俺だけは色が違って見えてたらいい。
鬱陶しいとか、口喧しいとか、ウザったいとか目障りだとかアホっぽいとか。
マイナスな色でいいから、俺にだけ目を留めて。
俺にだけ悪態を吐いて、俺にだけ腹を立てて。
マジで喧嘩して、いつもは平静なその感情を波立たせて、嵐みたいな激情をぶつけてきて。
心底嫌われたいくらい、お前が好きだよ。

お前にラブレターを書こうと思ったのに、こんなことしか書けないなんて。
けれどコレが、俺の素直な本当の気持ち。
お前が目を覚ましたら、この手紙を読んでもらいたいから。
だから俺は、一生懸命書いた。
ほんとの気持ちを、口に出して言えない想いを。
何回「好きだ」と書いたって薄っぺらく思えるくらい、重くてウザイ感情を。
すべてを込めて書いたから、だからどうか読んで欲しい。
その目を開いて、光を映して。
この手紙を読んで、笑い飛ばしてくれたらいいから。




自宅の電話が鳴った。
サンジはびくんと部屋で身体を震わせ、硬直したまま耳を澄ませる。
廊下から、親が会話する声が聞こえた。

―――そう、よかった。
もう大丈夫ね、ああもう本当によかった。
サンジには、伝えるから。
だからどうか、お大事に。

道場からの帰り道。
歩道に突っ込んできたトラックは、下級生を庇って立ちはだかったゾロを跳ね飛ばした。
事故後まもなく、偶然現場を通りかかった同級生は、アスファルトを染め抜いた血の量に度肝を抜かれたと青褪めた顔で教えてくれた。

あのロロノアが。
ロロノアだけど。
さすがにロロノアでも、あれじゃあ―――

ただの友人で、ただの幼馴染でしかないサンジは、病院に駆けつけることもできない。
病室に入って、傍に付きっ切りで見ていることなんて、できやしない。
だから部屋で一人で手紙を書いた。
届くはずのない想い。
届けるつもりはなかった願い。
それを全部文字に込めて、ただひたすらに言葉を綴る。
語彙に乏しく不器用なりに、思いの丈を手紙にしたためた。
目覚めたゾロに、伝えるために。


一週間ぶりに、サンジの携帯にゾロからのメールが届いた。
『心配かけた』
ただ一言と、病院の面会時間。

サンジはまるで宝物みたいに携帯を抱いて、額に押し付けて嗚咽を堪えた。
ただただ大切で愛しくて手放せないかけがえのない唯一のものを押し頂くみたいに、両手で携帯を握り締め目を閉じただけで幸せだった。



病院の面会時間を待ちかねて、授業をサボって学校を抜け出す。
差し入れもなにもないけど、誰にも内緒だけれど。
早く会いたくて、ただ道を急ぐ。
途中、コンビニに立ち寄って差し入れ用の雑誌とプリンだけ買って、ずっと書き溜めていたラブレターは細かくちぎってゴミ箱に捨てた。



End