亡き王女のための輪舞曲 -2-




最初に奴から誘いを受けた時は、性質の悪い冗談かと思った。
もしくは、腹の底に溜まっている邪な気持ちを見透かされたか。
手馴れた調子で挑発してくるから、満更でもないのかと誘いに乗ったら、案外とその身体は硬かった。
どれだけ取り繕うとも、初めてだったことは容易に知れる。

何の酔狂で俺と寝るつもりになったのかは知らないが、この関係は俺にとっては渡りに船だった。
仲間になった当初は、まったく気の合わない理解しがたい人種だとお互いに思っていただろうに。
気がつけばなんとなく気になる存在になっていたのは否めない。
正直、奴との係わり合いは悪くなかった。
顔を見れば憎まれ口ばかり叩くし、寄ると触ると喧嘩になるが、それはそれで面白くないわけではなかった。

それが、身体の関係にまで発展させたのはコックの方だ。
俺に異存がある訳でもなく、むしろ内心喜んで奴の誘いに乗ったけれども最近どうも、気に障ることが増えて来た。

身体だけの関係と言い張るくせに、なぜか縋るように見詰めてくる瞳。
抱かれているときだけ素直になる身体。
切羽詰ったように啼く声。
それでいて、奴の目はいつだってどこか遠くを見ている。

あんなにも思いつめた表情で切ない目で俺の姿を追うくせに、コックはいつまでも満たされない。
あいつは俺の中に、一体誰を見ているのか―――



俺は薄暗い倉庫の中で、壁に凭れてゆっくりと目を開けた。
先ほどまでコックが寝そべっていた床は、ほんの少し湿り気を帯びてぬくもりの名残があるようだ。
その闇を見詰めているうち、俺の胸にはまた苦い想いが込み上げてきた。
どれだけ手荒に抱こうとも全身で悦びを表して求めてくるくせに、感極まって昇りつめたとき、コックはいつも違う男の名を叫ぶ。


「てめえが愛しているのは、誰なんだ」

コックが去った空虚な闇に問い掛けても、応えが返ることはない。



END



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