■ナスの日



「今日もいい感じに青々してんなあ」
朝の挨拶もそこそこに、サンジは乱暴な手つきで机に突っ伏したままのゾロの頭をわしゃわしゃ掻き混ぜた。
もはや毎日の恒例行事だ。
ゾロも、その手に促されるようにユルユルと顔を上げ、サンジが頭を触りやすいようにその顔を胸元に押し付けた。
サンジのシャツに鼻先を埋めてくんかくんかするのも、寝呆けているからだろう。

いつもは脱力した状態でされるがままのゾロなのに、その日はちょっと違った。
おもむろに顔を上げ、サンジの腰に手を回して引き寄せた。
不意を突かれ、ストンとゾロの膝の上に腰を下ろす。
「あんだよ」
「たまにはやり返させろ」
言って、サンジの頭に手を掛ける。
てっきりぐしゃぐしゃにされると目を瞑ったら、思いの外柔らかな感触に驚いた。

ゾロの指の腹が地肌を擦るように撫で、髪の一房を摘んだ。
つうと、滑らかに引っ張られ毛先まで辿られる。
続いて開いた手のひらが、再び頭皮に差し込まれた。
丸いフォルムを確かめるように、何度も手櫛で梳かれる。

あまりに優しく丁寧な手つきに、一寸うっとりし掛けて我に返った。
バッと身体を引き、腰を捻って顔を背ける。
「タンマ!ダメだっつか禁止!」
「なにがだ」
「てめえが触んのは絶対禁止!俺だけ」
「はあ?」
そんな不条理なと口を尖らせるゾロの頭を、両手でガシガシ掻き混ぜた。
「こうやってできんの、俺だけだからな」
「不公平だ」
「なんつってもダメ、いま決めた俺が決めた」

顔を真っ赤にしてじゃれ合う二人を、クラスメイト達は遠巻きに眺めている。
「せめて膝の上から降りてくんねえかな」
「なんか、目のやり場に困る」
「見てはならないものを…」
「とうとう、女子が携帯取り出したー!」

はた迷惑なじゃれ合いは、担任が入ってきて二人の脳天に出席簿の角が振り下ろされるまで続いていた。



END



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