■マリモ記念日



ゾロが髪を切った。
元々身なりに拘らない性質で、散髪に行くのを怠っては、伸び放題の髪を後ろに撫で付けただけの雑なオールバックだった。
生徒指導でも散々注意を受けていたが聞く耳を持たなかったのに、どういう心境の変化か離任式の日にさっぱりと短く切って登校してきた。

「すげえ、短くなったな」
「ロロノア君、似合うー」
クラスメイトにはおおむね好評だ。
勿論、サンジも「お」と思ったけれど、口に出して褒めたりなんか決してしない。
「なんだロロノア、色気づきやがって」
からかい半分興味半分で近付いて、繁々と眺める。
「・・・なんかに似てるな、これ」
一歩離れて遠目で見つめ、さらに近付いて周囲をぐるりと回る。
長髪のときはまとまらず広がって、落ち武者みたいな荒れた髪だったが、短く切ってしまえばツンツン立ってていい感じだ。
頭頂部ど真ん中に旋毛も見える。
形のよい丸い頭は、やはりなにかを連想させて・・・

「マリモだ」
唐突に断言したサンジに、友人達がわっと沸いた。
「そっかーそれか!」
「ああ〜」
「なんかに似てると思ったんだよなー」
口々に同意しては腹を抱えて笑うクラスメイトに、ゾロは憮然としたままだ。
特に言い返したりはしない。
腹は立つものの、上手いこと言うなと内心感心したりもしている。
ゾロ自身、鏡を見て何かに似ていると思ったのはここだけの話。

「そっかーマリモか」
「お前、阿寒湖に帰れ」
ゲラゲラ笑いながら、サンジはゾロの頭を撫でた。
おおおvと弾んだ声を上げ、両手でぐりぐりと撫で回す。
「やべー気持ちいい」
「なんだなんだ」
「俺にも触らせろ」
友人達が手を伸ばすのに、サンジはゾロの頭を両手で抱えて、庇うように身体を捻った。
「いやだ、これは俺のマリモだ」
「ずりーぞ」
「いつから独占権」
首を持たれたままギャーギャー騒がれて振り回される。
鬱陶しいなと思いつつ、ゾロは椅子に座ったきり、されるがままになっていた。

自分の顔がサンジの胸に押し当てられている。
ボタンを外したブレザーの隙間、ネクタイをしていないシャツのボタンがじかに頬に当たる。
サンジの匂いとほんの少しの煙草の匂いを、人知れず胸いっぱいに吸い込んだ。

「この襟足のチクチクした感がたまんねえなあ」
サンジの長い指がうなじを撫でたから、ゾロはこれからこまめに散髪に行こうと密かに心に決めた。


―この頭、マリモみてえだなとてめえが言ったから、29日はマリモ記念日―



END



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