■猫の日



「いつまで寝くたれてるにゃん」
聞き慣れた声で奇矯な言葉を掛けられたから、ゾロはパチッと目を覚ました。
ざわついた教室の気配で、講義が終わったと悟る。
「とっくに終わってるにゃん、飯食いに行くにゃん」
声の主は、相変わらず金色の髪をキラキラさせながら澄ました顔で言ってのけた。
おつむの中までツルピカなのかもしれない。
「なんの真似だ?」
「きょうはニャンの日?」
言葉遣いがおかしいサンジに、周囲の人間たちがざわっと身を引く。
慌てて教室から出て行くものもいる。
ゾロは眉間に皺を寄せ、怒るべきか気遣うべきか同情するべきかしばし逡巡した。
「きょうはニャンニャン鬼の日だー!」
叫びざま、サンジはゾロの肩にタッチした。
事態を把握できず固まっているゾロの周りから、さっと人が引く。
「鬼にタッチされたら語尾にニャンつけなきゃなんねーんだぞ」
「ニャン鬼だ、ニャン鬼が出た」
お前ら、どこの小学生だ。
俄かハブ状態になりつつ、ゾロはゆっくりと立ち上がり机の上に出しっ放しのノートを纏めて脇に抱えた。
「いい度胸だ」
「ニャンつけなきゃダメだって」
へらへら笑いながら跳ねるように後ずさるサンジに、狙いを定める。
「てめえが言ってろっ」
床を蹴り付けダッシュすれば、目にも止まらぬ速さでサンジが飛び退る。

「てめえ待ちやがれニャーン」
不気味な雄叫びを残し教室から飛び出した二人を、爆笑の渦が見送った。



「待つニャーンっ」
意地でもサンジにニャンニャン言わせたいゾロは、その日一日キャンパス内をニャンニャン吼えながら追い掛け回した。
結局、無事に捕らえて心行くまでニャンニャン言わせたのは、その夜のベッドの中でのお約束。



END


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