コーザの誕生日


新学期が始まってすぐに、テスト三昧だ。
冬休みの間も毎日補習授業があったから脳内は勉強モードのままで助かるが、日々に潤いがない。

塾に向かうコーザと別れて、一旦帰宅してから街に出かけた。
気晴らしに店でも手伝おうと歩いていると、制服姿のビビとばったり出会った。
「あ、サンジ先輩、お久しぶりです」
「ビビちゃん、なんだか久しぶり。あ、明けましておめでとうございます」
おめでとうございますと、お互いに頭を下げあった。
学校でもまだ顔を合わせていない。

「なに、ビビちゃんこれから塾?」
「いえ、ピアノのレッスンなんです。今年から自分でバスで通おうと思って」
ビビはいつも黒塗りの車で送り迎え付きだと、いつぞやコーザがボヤいてたっけか。
「そっか、偉いね」
「いえ、これが普通なんですよ」
ビビはチラリと腕時計を見て、窺うようにサンジを振り返った。
「あの、少しだけお時間いいですか?」
「もちろん喜んで。俺は別に予定もなくて、街をぶらつこうと思っただけだから」
どこかでお茶でも?と聞くと、ビビはそこまではと笑い、雑貨屋の軒下に入った。

「サンジ先輩にお聞きしたいことがあるんです」
「なんだろ、勉強以外ならなんでも聞いて」
サンジの軽口に笑いながら、ビビはそっと声を潜めた。
「コーザ先輩のことで」
「ちえっやっぱりコーザのことか」
おどけて下唇を突き出しつつ、それで?と促す。
「あの、コーザ先輩の誕生日っていつかご存知ですか?」
「・・・は?」
なぜそれを、ビビから聞かれるのか。

改めて問われると、はていつだったかと首を傾げる。
コーザの父親の誕生日ならバッチリ知っているのに。
「えーと、ビビちゃんの方が知ってるんじゃ」
逆質問に、ビビは子どもっぽい仕種でぶんぶんと首を振った。
「いえ、それがはっきり教えてくれなくて・・・」
「知らないの?」
驚いて聞き返せば、責められたと思ったかビビは首を竦めた。
「ああ、いや。そりゃコーザの方がおかしいんだよ。なんでビビちゃんにはっきり言わねえのかなあ。照れてんのかあいつ」
とは言え、サンジだってコーザの誕生日なんて知らない。
「そう言えば、ビビちゃん来月誕生日だよね。2月2日」
「なんで知ってるんですか?」
「え?だって可愛い女の子の誕生日は全部チェック済みだよ俺」
明らかに退いたビビの表情に気付くことなく、サンジはよしわかったと一人頷いた。
「今度、コーザにそれとなく聞いておくよ」
「ほんとですか?」
「ああ、確かに友達同士で誕生日がどうのって聞いたことなかったけれど、別に知りたがってもおかしくないだろうから俺から聞くよ。またわかったら教えたげる」
「ありがとうございます」
ぴょこんと頭を下げる仕種がまた、とてつもなく可愛い。
「あ、もうこんな時間。私行かないと・・・」
「うん、がんばって」
「はい!」
何度も振り返り、会釈しながらビビは歩き去っていった。
やっぱり女の子はいいなあと、デレデレと鼻の下を伸ばしつつ見送って、サンジもさてと踵を返す。

それにしても、どうしてコーザはビビに自分の誕生日を教えてやらないのだろう。
きっとコーザのことだから、来月のビビの誕生日にはそれなりにプレゼントとかするつもりなんだろう。
だったらビビだって、コーザのことを祝いたいはずだ。
なのに肝心の誕生日がわからなければ、困るだろう。

「コーザも、変な奴」
サンジは声に出して呟いてから、バラティエに向かって早足で歩き出した。


End