金色紅、闇の華 


朱の空が藍に染まり、やがて闇色になる。

深夜。
入り組んだ建物の路地裏、闇にまぎれて扉を叩く男がひとり。



「・・・おお、そもじか。」


闇と同じ色の髪をした人物が、獣の目をした男を出迎えた。





─────約束の期限までにはまだ早いが
・・・なに、事情が変わったとな。

そうか。

ああ、そう急かすものでない。
アレはおひいさまがことのほかお気に入りでのう。
今も厭きずに愛でていらっしゃる。

・・・ほほほ、約束は違えておらぬ。
アレには男の手を使うたことなどないぞ?

我の飼うておる牡犬どもは皆、よだれを垂らして見ているばかり。

おひいさまに乱される姿を見せられて吠えまくるのみよ。
たまにしつけの効かぬ犬に悪戯されることがあってもそれも予定調和のひとつ、問題などあるまい。


・・・これ、その得物はしまえ。
まったくおぬしは短気じゃの。

・・・視姦は致し方ない、こちらの流儀。
舐められるくらいは我慢いたせ。
それも承知の上であろ?

すべて約束通り。
アレは特別扱いで調教中じゃ。
めずらしいことにおひいさま自らがお相手していらっしゃるよ。


・・・あれ、どうした?
そのような物騒な怒気をまき散らして。

おぬし、あの男を預けるとき我に言うたではないか。
「任せる」、とな。

・・・其れにしても無粋なことよ。
蛇の生殺しとはまさにあのような姿。

おぬしも見るがいい。

望み通り、すでにヒトの意識は壊れておる。
あとは誰を主人といたすか刷り込むのみじゃ。


・・・のう、ロロノア・ゾロ。
この世の魔獣よ。


おぬしの望みどうりであろ・・・?

あの哭き声、あの嬌声、あの嬌態、おぬしが心の奥で望んだものばかり。

なんじゃ、らしくもない、何を遠慮することがある?

黒足のサンジ、あとはおぬしが望むまま、いかようにすることも可能じゃ。

受け取れ。
その人形をな。
やり方はおひいさまが手引きしてくださる。

特例中の特例じゃ。

気が進まぬ、とは言わせぬぞ・・・?
もっとも、我らとしてはそれでもよい。

アレは極上の人形、おぬしが放棄するなら我らが拾う。
あとはおひいさまが存分に仕込まれよう。

アレはどんなオトコでも溺れさせる極上の一品。


・・・くくく、よいのか?


あと一息。
それでもうアレは堕ちる。

おぬしが飼うか、おひいさまのモノとして飼われるか、あとは好きなように選べば良い。


・・・それにしても甘美な悲鳴じゃ。

牡犬どもが騒ぐ姿も一興、あれではいくら頑丈な檻でも、もうしばらくも持つまい。

のう・・・?

そうなればアレは、牡犬どもがそれこそ骨まで喰らい尽くそうなあ・・・?

ここではただ一匹の牝犬じゃ、牡犬どもは死ぬまで喜んで腰を振り続けるだろうよ。

我はそれでも良いがの。


・・・ああ、ほんに短気じゃな。

冗談も通じぬのか。


それ、もう行くがよい。
ぐずぐずしておると我が言うたとおりの事態が起こるぞ。

我でもあれほどの牡犬の相手はごめんじゃ。
鞭ひとつでは足りぬ。

後ほどまた、迎えに来よう。

魔獣よ。
あとはおぬし次第。
なあに、刷り込みがすめば、見た目は普段と変わらぬ。

調教はの、少しずつ少しずつ手をかけるから面白いのじゃ。

我らが施したのは刷り込みまで。

あとはおぬしの仕事じゃ。



ああ、おひいさまがお待ちかねの様子。
それ、早う行け。

我等が手を貸すのはここまで。

おぬしが用心棒代わりにうろついていたおかげで我の仕事も思いのほか捗った。

そのことについては礼を言わねばなるまいの。
大儀であった。


ここでは啼き声も甘露の媚薬じゃ。
存分に楽しむがよい。


極上の逸品が待ちかねておる。
ほほほ、狂うのはおぬしのほうかもしれぬな



─────

回廊の奥、蚊帳にまぎれてうごめく影が二つ。
白い肌に浅黒い肌が交わる。

甘露の媚薬は絶えることなく─────。



END


back