天使の憂鬱


男が触れる度に、過剰に反応する背中の羽根がサンジは嫌いだった。

口付けられると恥ずかしそうに薄桃色に染まり。
抱きしめられると、嬉しそうに小さく震える。
喧嘩をすると、緊張した様にピンと空を向いて立ち上がり。
そして怒られるとシュンとするのだ。

仲間達が愛して止まないサンジの背中の小さな羽根は、ゾロの言動に対しては尚更忙しく反応するのだ。
簡単に心の裡を見せてしまうようで、それがサンジには悔しい。

ホラ、今だって。

「コック…そんなに怖がるな。俺がてめぇに怖い事なんてした事はねぇだろう?」
優しく背中の羽根を慰撫するように撫でながら、ゾロが宥める様にサンジを抱きしめている。
怖い事なら今までだって沢山されているし、何よりも今この瞬間の柄にもなく優しげなてめぇが一番怖いんじゃーー
…と、サンジは叫びたかったが、それを言うのも癪なので無言を貫いた。

怖がってるのではない。
ただ単に緊張してるのだ。
恥ずかしいのだ。
剣を持つ無骨な手の平が意外な繊細を見せつけて触れるのが居たたまれない程に照れちゃうのだ。

大体何なのコイツ?
こんなコイビトをべったべったに甘やかすような、そんなキャラだったの?
剣と酒とルフィ以外には無関心な、ストイックな魔獣な剣士様じゃなかったの?

恥ずかしい。
恥ずかしい。
コイツの存在全てが既にどうしようもなく恥ずかしい。
うっかり顔面に蹴りを入れてしまいそうな程に恥ずかしい。

なのに。

「……やっぱりてめぇ、俺の事怖いって思ってんだろ…」

確信に近い口調で男が言うと、背中の羽根の付け根の部分をツイ、と撫でた。
違うとも言えずにビクリ、と怯えるサンジは、ゾロと目を合わせようとはしない。

「そんなに怖ぇのか?」
「…………。」
無言で俯いたサンジの頭をくしゃりと乱すと、ゾロは僅かに溜息を漏らした。

「何でだ…と聞いても、てめぇのその強情な口は教えてくんねぇんだろうなぁ…」

溜息交じりに諦めた様に言葉を発した男を、上目遣いに伺っているサンジ。
背中の羽根が震えながらショボ、と背中に張り付いている。
その拗ねた様な表情は、背中の羽根も相まって酷く幼く見えた。

「…ん?」
チョイチョイとつれない恋人に手招きされたゾロは、彼の方へと顔を近づける。

「………え…?」
ボソボソと何かを囁くとサンジは、呆然としているゾロの胸の中へと頭を突っ込んで現実からの逃避を図る。

整った精悍な顔に呆然とした表情を浮かべていた男だったが、やがて太く逞しい両腕でサンジの身体を包み込んだ。
珍しくも無表情に近い顔に、微笑が浮かんでいる。

「俺もそうだと言ったら?」
「…嘘付けよ」
「嘘なもんか。俺に羽根がついてなくて良かったと、心から思うぞ」

ゾロは口の悪い恋人が悪態をつく前に、ちゅ、と触れるだけの口付けをして黙らせた。


Fin

   *****


可愛い可愛い感情ダダ漏れ兵器の翼サンジに、続きいただいちゃいましたー!
やーん甘いよ可愛いよ、ゾロが天然たらしだよ(笑)
んでも、こんだけ丸わかりになる羽根はほんと、困りものだよね。
なんでもお見通しにされちゃう。
きっとゾロに羽根があったら、サンジに触れてるとき嬉しそうにパタパタ羽ばたいてるんだよ。




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