恋の天使は調教中 -6-



 《ちんこが爆発するぅっ!》なんて、それはこちらの台詞だとゾロは熱く語りたい。

『あー…こりゃもう確実だな』

 バラティエで男だと知っても恋心は変わらなかったように、身体も変わらずサンジを欲っしている。目眩がするくらい色っぽい格好で拘束された想い人は、歴然とした男の性器とケツ孔を晒しているというのに、ゾロの素直なチンコは《突っ込みてェ》と訴えている。

「ほれ、覚悟決めてとっとと言えよ」
「さ…先に言え」
「あ?」
「てめェが先に言ったら…言う」
「何の勝負だよ。つか、俺ァベタ惚れだっつったろーが」
「好きって言ってねェもん」

 ぷィっと唇を尖らせてそんな事を言うものだから、諦めたようにばりばりと緑頭を掻いて、耳元に唇を寄せてやる。

「好きだ…」
「ふおっ!」

 熱く響く言葉と共にカシリと耳たぶを甘噛みし、耳孔にぬるりと舌を突き入れてやれば、蠢き責め立てられる快感に身を捩って悶絶する。驚くほどに感じやすい躰だ。

「孔という孔が開発されてんじゃねーだろうな?大した処女だ…」

 嗤うような声で囁けば、サンジは蚊の鳴くような声を出して涙を浮かべた。

「………け、軽蔑したか?やっぱ…もう好きじゃねェ?」
「アホ」

 ガリっと血が出そうなくらい強く首筋を噛んで、その痛みに気を取られている隙に尻肉を掴んで広げ、ぐぷりと猛り狂う雄蕊を突き入れてやった。こうなったら遠慮している場合ではない。一刻も早くこのアホに思い知らせてやらねばならない。
 こいつはもう、ゾロのものなのだと。

「な…なに…っ!?」

 暴れようとするが、紅い紐は関節の各所で個別にコブ結びされているらしく、花茎以外はまだがっしりとサンジを捕らえて離さない。ゾロはこれ幸いと、抵抗出来ない身体に燃える楔を打ち込んでいった。

「ままごとみてーな言葉遊びは後回しだ。てめェみてーなアホは、まず身体に教え込まなくちゃならねェようだ。まずは俺のモノになったって理解しろ」
「へ…っ!」
「気の利いたホテルじゃなくて悪ィが、俺がいるから満足しろ」
「ひ…っ!」

 己を鼓舞する意味合いも込めて、俺様トークをぶちかましながら《ぐぷん…っ!》と巨大な亀頭を呑み込ませてやると、そのままめり込むようにずぶずぶと埋め込んでいく。裂けるぎりぎりのところだったが、慎重に進んだせいか何とか最奥まで到達出来た。みちみちと広げられた蕾は今にもはち切れそうだが、内腔は淫らにうねってゾロを歓迎しているようだ。

「ぅお…なんつー締め付けだ。中が生き物みたいにうねうねして、エロいにも程があるぜ…クソ…っ!気持ちイイ…っ!!ジェルのせいか?ナカがぬるぬるして…チンコが余計ビンビンになりやがるぜ」
「…ぁっ…あ……っ!」

 挿入したまま静止していたのだが、サンジの息が少し整ってくるとゆるゆると動いて壁を探っていく。さっきはあんな玩具で感じていたのだから、どこかに感じやすい場所があるに違いない。
 しばらく探る内に、サンジの身体が明らかに反応を始めた。ビクンっと震えて反応した場所をしっかりと覚えておいて、そこを集中的に抉ってやれば、サンジは身を捩って噎び泣いた。

「おか…っ…おかしくなる、から…っ!ひ…っ…そこ、だめ…っ!」
「おーお、イイ貌して啼きやがって。ますます苛めたくなんじゃねーか。そんなの見てりゃ、あの鉄の女だって墜ちるわな」

 男として惚れたと言うよりは、愛玩対象としての愛であったにせよ、それでもカリファはサンジに対して特別な愛情を持っていたのだろう。サンジもまた尊敬や、性的な興奮を追い求めるという理由であったにしても、カリファを嫌いではなかったはずだ。

 こいつは何らかの愛情を持った相手にだけ流されてしまうのだ。そうでなければ、いやらしいことを強要してくる職員から幼かったサンジが逃げられたはずがない。きっとその時には、死にものぐるいで抵抗したのだろう。

『それでいくと、ゼフがこいつをどうこうしようと思わなかったのはマジでありがてェ話だぜ』

 彼がサンジにそういった欲望を、一片も抱いていなかったかどうかは分からない。ゼフ自身にも判断がつかなかないことだろう。だが、少なくともゼフはそういった感情を抱く事を自分に禁じていたはずだ。深い悔恨の念を持つサンジのことだから、ゼフが求めればどんな苦痛にも耐え、羞恥を押し殺して奉仕をした事だろう。

 それが本当に恋人同士の愛情であるかどうかよりも、詫びたいという気持ちが強すぎるのだ。
 歪んだ形でサンジと結びつく事を、ゼフは望まなかった。それどころか、ゼフはサンジに何処に出しても恥ずかしくないだけの社交マナーを身につけさせ、バラティエ以外にも自由に旅立てるようにと願っていた。

 己を踏み台として旅立たせたいほどに、ゼフの愛情は深く暖かい。

『多分、俺がそんだけの犠牲的な精神でこいつを愛してやる事はできねェ。その代わり俺は、こいつが戸惑ったり遠慮しても、もう立ちどまらねェ。奪い尽くすようにして包んでやる』

 愛し愛される事に馴れていないサンジの逃げ場を奪って、《愛している》と言うしかないところまで追い詰めてやろう。
 猫のように見えて、意外と犬タイプのサンジは、ルールに則った躾がある方が落ち着いて暮らしていけるのだろうから。

「好きだぜ、サンジ。オラ…てめェも言え」
「好き…好きぃい……ぞろぉ…だいすきィ…っ!」

 やっと念願の言葉を貰ったゾロは満足げな笑みを浮かべると、サンジの最奥に溢れ出すほどの精液を放った。どくどくと溢れ出す白濁は先に注ぎ込まれていたジェルと混ざって、少し雄蕊を揺らめかせただけで《ぐちゃり》と継ぎ目から滴ってくる。二人の間はもう、色んな液体でどろどろだ。そのぬめりが、一層《繋がっている》ことを意識させて嬉しくなる。

「ふ…は……。はは、どうだ…サンジ、これで処女は俺が頂いたぜ」
「う…ぁ……熱ィ…てめェのが、俺ん中に…注がれてく……」

 サンジの声はどこか甘く、嬉しそうに聞こえるものだから、ゾロはニヤニヤ笑いが止まらない。

「おう。それが…《一つになる》ってやつだ。好きだろ?そーいう甘ったるいフレーズ」
「………うん」

 こくんと小さく頷いたサンジの腰を抱えて、再びゾロは突き込みを始めていく。

「え…ちょ?ゾロ…?な…なにして…」
「何って、ナニに決まってんだろーが。セカンドバージンもとっとと奪っとかねーとな」
「何に対する挑戦なんだよ!?」
「てめェの記念的なものは、とっとと奪っとくに限る。しいて言えば、てめェの人生に対する挑戦だな」
「挑まなくてイイ〜っ!!!

 サンジの絶叫を唇で塞いで、遠慮容赦なく解れた肉筒を攻略してやった。 



*  *  * 



 ジュラキュール・コーポレーション襲撃から2日後、有給を取っていたゾロとサンジが揃って会社に復帰したのだが、サンジに救われた受付嬢二人は同時に立ち上がって絶叫をあげた。

「えェええええーーっ!?」
「さ、サンジさんっ!?」

 ゾロのマンションに連れ込まれたと聞いたので、ナミは《あいつ、妊娠するほどヤリまくってんでしょうね》とニヤニヤしていたのだが、その想像は外れていなかったものの…顎にチョロ髭を生やして、ぴしりと洒落たラインのスーツを着たサンジに目を剥いてしまう。

 サンジが男だったのも驚きだが(そういう目で見ると、もはや男以外には見えない)、男だと知っても怯まなかったゾロにも驚愕する。ちらりと見え隠れする襟元の痣は、キスマーク以外のなにものでもないだろう。

「失礼しました。ちょっとした手違いで、女性秘書としてのカリキュラムを受けてしまったみたいですが、計画が訂正されましたので、これからは男としてお付き合いのほどよろしくお願い致します」
「ちょっとで済む問題ですか!?」
「あ…。と、トイレとかは覗いておりませんから!ちゃんと秘書課の個室で用はたしてました!」
 
 真っ赤になって言い訳するサンジは男なのだが、やっぱり可愛い。
 ビビがくすくすと笑い始めると、ナミもつられて笑ってしまった。

「どうしました?」
「ふふ…サンジ君、男の格好の方が格好良いわ」
「あら、私は女の子のサンジさんも大好きですよ?時々ランジェリーパーティーでもしません?」
「えーっ!?」

 ますます真っ赤になって恥ずかしがるサンジに、ビビが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「おい、てめェはどんだけ女どもに弄られりゃ気が済むんだ。いい加減懲りろ」
「うっせェ、偉そうに言うなクソマリモ。レディは何時だって崇めるべき存在なんだよ!」
「たまにゃ亭主も崇めろよ」
「誰が亭主だゴルァ!」
「2日もひんひん言わせてたんだから、立派にてめェの旦那だろうが。事実婚ってやつだな」
「だーっっっ!!!」

 サンジの蹴りが炸裂するが、身体捌きの良いゾロはモロに喰らったりしない。上手くいなして襟元を掴むと、耳朶に甘い低音で囁いてやった。

「今夜はもっと啼かせてやるよ」
「ばか…っ!」 
 
 そんな遣り取りをしていると、カッカッカッと律動的なヒールの音が響いてくる。カリファの登場だ。

「なにをしているのです、サンジ。馬鹿などと言う方が馬鹿なのですよ?」
「カリファさん…」

 小学生を窘める女教師レベルの発言だ。カリファは全く変わった風はなくサンジに接しているかに見える。サンジの方がどう反応したものか分からずに戸惑っているようだ。

「早くいらっしゃいな。以前のお仕置きは封印しますけど、指導上必要な指摘は遠慮なく口にしますからね」
「…はいっ!ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

 ぴしりと指導通りの礼をすると、つい脚が女性的な形に収まってしまう。

「ふう…。少々修正には時間が掛かりそうですね」
「すみません…」
「何でも謝れば良いというものではありません。これは私と社長のミスです。今回の件については社長直々に朝会で説明がありますから、あなたは大きく構えていなさい」
「はい。分かりましたカリファさん」

 素直な返事に《ふふ》と少しだけやわらかい表情で微笑むと、カリファはいつも通りの足取りで秘書課に向かった。その後を追いかけるサンジは、まるで親鳥の後を追うひよこちゃんのようだ。

「可愛いわァ〜サンジさん!」
「…たく。ゾロには勿体ないくらいよね」
「うっせェ。ああいうアホにゃ、俺くらいで丁度良いんだ」
「はいはい。アテられちゃうわね〜」

 ぱたくたと手で扇いでいたナミは、遠目にルフィを見つけて腕を上げる。
 ルフィはナミが公衆の面前で恥ずかしい目に遭いそうになったのに、その場に自分がいなかった事を激しく悔やんでいた。居合わせていたら、きっと火になって怒って、侵入者の手に武器があることなど頭から吹き飛ばして戦ってくれただろう。

 アホな男だが可愛くて仕方ないし、やはりああいう時には頭に思い浮かべた。
 きっと、サンジにとってもゾロはそういう存在なのだろう。

『そういう奴に出会えちゃったら、今までの価値観とか吹っ飛んじゃうわよね〜』

 人を好きになるって、きっとそういうことだ。
 ナミは眩しいものでも見るみたいに、大好きな友人達の姿に目を細めた。



*  *  * 



 サンジが男だったという衝撃は、会社中を震撼させた。

 オジサン連中は《貴重な大和撫子が…》と肩を落とし、《恋の天使》と慕っていた女性陣は、踏み込んだ恋愛話をしてしまったことに羞恥を覚えたりしたのだが、そんな戸惑いはその日のうちに熔けていった。サンジは相変わらず丁寧な口調と態度で接したし、差し入れもお弁当も美味しいものだから、もぐもぐしている間に、《あれ?別に何が変わるって訳でもないか》という気がしてきたのである。

 サンジの関わった《ご飯のお供》は結局、忙しいOLやサラリーマンに照準を絞ったお茶漬けになった。秘書として業務の進行管理のみに関わるはずだったサンジは、気が付けば思いっ切り内容物にも関係して、個別包装で栄養価が高く、色味も綺麗な半生タイプのお茶漬けを開発した。
 更にはおまけとして、お弁当のおかずレシピのミニ冊子を封入したところ、これも人気を集めた。生活スタイルや体型・嗜好・性別に合わせた細かなレシピは種類も豊富で、分かりやすくコツが書かれているから初心者でも作りやすいと評判なのだ。

 具沢山で腹持ちが良く、美容にもよいと評判になったお茶漬けの名は、《あひる料理長の絶品茶漬け》。

 瞬く間にいっときの《食べ○ラー油》を凌ぐ人気シリーズとなり、生産が軌道に乗るまでの数ヶ月は、入荷すると《多くのお客様の手に渡るよう、お一人様1パックの購入に限らせて頂きます》という張り紙が出て、甥っ子や姪っ子まで動員して買うという客が多く見られたほどだ。しかもレシピは季節ごとにがらりと変わるから、新シリーズが発売されるたびに同じ現象が起こる。

 パッケージデザインに使われた金髪ぐる眉のアヒルコックさんが、誰をイメージしたものかというのは、バラティエに戻ったサンジが料理長として全国に名を馳せるようになってから広く知られるようになったことである。

 特にジュラキュール・コーポレーションのOLがブログで広めた《恋の天使》の噂はその内、全国に知られるようになって、あひるコックさんのグッズも恋のお守りとして女子中高生達の鞄や携帯を飾ったのである。バラティエは彼女たちの観光名所というか、縁結びの神社のように扱われ、《ぐる眉の金髪料理長に触ると恋が実る》というおまじないまでが生まれたものだから、暫くの間、サンジは彼女たちのセクハラ攻撃に遭うことになった。

 そして脂下がるたびに、意外と悋気持ちの自称亭主から甘いお仕置きを喰らうのであった。



*  *  * 



 帰宅時間が異なり、《これ喰うと初めて会ったときの事思い出す》という男のために、ぐる眉シェフの愛の城にも、常に《あひる料理長の絶品茶漬け》が常備されている。
 手作りしたものをタッパーに入れておいたって良いのだが、どうやらパッケージに描かれたグル眉あひるがお気に入りらしく、社内のツテを悪用して販促商品のストラップやら大きな縫いぐるみまで手に入れやがった。

「茶漬け喰ってイイ子にして待ってるからよ、帰ったらたらふくてめェを喰わせろよ」
「ばか…」

 このバカップルなやり取りは、バラティエの定休日前になるとお約束のように電話口で交わされる。隣で大きな音がするのは、漏れ聞いたコック達が気を紛らわすために鍋を叩いている音だろう。いい加減馴れればいいのに。

「ちびなす!デザートはまだか!客を待たせんなっ!!」
「はい。お待たせして申し訳ありません、オーナー。只今ご用意致します」

 ゼフの銅鑼声に敢えて淑やかな声音で返すと、ぶるりと背を震わせて全員が嫌がる。電話でのラブホモトークよりも、ひょっとしたらこちらの方が破壊力があるのかも知れない。普段の蓮っ葉な態度が浸透しすぎたバラティエでは、こんな調子なので厨房ではなるべく以前通りの喋り方をしている。

 しかし、客や取材リポーターの前に出る時には思いっきり猫を被るから、世間の人々はサンジを《品の良いイケメンシェフ》と認識しているらしい。《恋の天使》の噂も手伝って、今やサンジは中高生女子のアイドルだ。とはいえ、サンジ自身はこうして料理に関われる事が一番の喜びなので、テレビへのレギュラー出演などは断っている。

「うし、できた!」 

 今日がお誕生日だという小さな淑女の為にとびきり綺麗な飾り付けをしたあと、少し考えてからポケットに仕舞っていた未開封のあひる料理長ストラップを取り出す。
 初めての恋に胸をときめかせているのだという話を、ちらりと聞いたのだ。

 ウェイターが恭しくデザートプレートを出し、《料理長からのプレゼントです》と薄桃色の紙に包まれたストラップを差し出すと、少女は歓声をあげてはしゃいでいた。家族も一緒になって喜んでいる。特に母親はあひる料理長がお気に入りらしく、よく見たら携帯のパネルがグル眉あひる仕様になっていた。

「やった!嬉しい〜っ!」
「ふふ、これでみぃちゃんの恋も叶うかしらね?」

 《きっと叶うよ》と、料理長は厨房から微笑みを送る。
 
 叶わないはずがない。
 だって、《恋の天使》が応援しているんだもの。



おしまい

 

 
あとがき

ロマンチックラブエロコメディ(部分的に下品かつ脱力系の笑い含む)、如何でしたでしょうか?
 相変わらずネーミングセンスが最悪なので、半ば本気で「ぱんちら★ブラボー」にしようかと思ったのですが、書いていったら「サンジが会社にいたら、きっとOLさん達にお弁当の助言とかして、恋を実らせたりするよね〜」と思いましたので、「恋の天使は調教中」に相成りました。

 もう一個考えていたのは「美味しい秘書の作り方」だったのですが、確実に商業誌BL本と被りそうだったので止めました。「美味しい秘書の秘所ペロペロ」だと被らない代わりに、腹筋バスターコールが掛かりそうですね。このタイトルだと、どんなオチにして良いか分からない…。「旨ェ!」とかゾロが言いながら、ぺろぺろしている所で終わるべきなのでしょうか。ちなみに、「やおいはファンタジーだ」という御金言に従って、作中では大腸菌の経口感染は起こりません。ゾロもサンジもお腹丈夫そうだし。

 それはともかくとして、念願のカリファ×サンジが書けて物凄く楽しかったです。筆のノリが異様に快調だったし…!
 みう様や他の方のお話でも、女性陣に悪戯されるサンジのお話が見たいと切に願う狸山でした。