禁煙のススメ



「サンジは煙草の吸いすぎだ。」
至極当たり前のことを、チョッパーはしみじみと呟いた。
「体質もあるから、一概には言えないけど・・・本数が少ないに越したことはないんだよな。」

「禁煙する薬みたいなもの、ないの?」
ナミ自身、煙草を吸う人は嫌いではないが、チョッパーの心配は医者として当然だと思う。
「ニコチンを肌から摂取させて補う貼り薬はあるけど、本人に禁煙の意思がない限り有効じゃないし。」
とてもあのサンジが禁煙するとは思えない。

「俺が言ったって聞かないから、ナミからちょっと言ってみてくれないか。」
「嫌よ。私、自分に得になることしかしない主義なの。」
 ばっさり斬られてチョッパーは肩を落とした。

「本数が減りゃあ、いいのか。」
ぽつりと、今まで眠っていると思われていたゾロが声を出した。
「あ、ああ。そりゃあ完全に禁煙は無理だろうけど・・・ちょっと減った方がいいな。」
目をぱちくりさせているチョッパーの前で、ゾロはふうんと唸って、また目を閉じた。


その日の夕刻、久しぶりに小さな島に着いた。

「ログが堪るのは1日だから、明日には出航できるわ。」
「小っちぇ〜島だなあ。」
「久しぶりの陸だから、宿取っていいわよ。物価が安いみたい。」
船番のサンジを置いて、思い思いに散っていく。

ゾロはナミの背に声をかけた。
「女部屋にあった姿見、借りていいか?」

ナミとロビンは一瞬振り返って、顔を見合わせる。
「良いわよ。ただし、汚さないでね。」
何を意図して言ったのか、恐らく言った本人のナミにもはっきりと分かっていないのだが、女の勘とは、こんなものだ。、ゾロは眉を上げただけで、返事をしなかった。



サンジが鼻歌交じりでキッチンを片付けている。
明日の買出しに備えて整理をしているのだろう。
本当にこの男は、ゾロから見れば無駄とも思える作業を生き生きとこなす。

「なんだ、降りねえのか。」
黙って入ってきたゾロの靴音に、振り向きもしないで声を掛けた。
「降りてもつまんねからな。」
「まったく枯れた男だぜ。そんなんなら俺と船番変われよな。」

ゾロはグラスを取る振りをして、サンジとの距離を縮めた。
すれ違いざま、鳩尾に拳を入れる。

何が起こったかも理解できないまま、無防備な身体は一瞬で崩れ落ちた。


軽く咳き込んで目が覚めた。
薄く目を開けて視線に移ったモノが、信じられない。

――――なんじゃ、こりゃあ!!!!

叫んだつもりが声にもならず、サンジはただ口をぱくぱくさせていた。
視線に飛び込んだのは剥き出しの自分のモノ。
それから腹、足・・・

―――全裸じゃねえか。

視覚で気がついてから、身体がすーすーする。
そして、後ろでごそごそするごつい気配。

「ゾロ・・・」
低く低く、怒りのあまり上手く声も出せずサンジは唸った。

「お、起きたか。」
気が抜けるほどあっけらかんとしたゾロの口調。

「――――一体何のまねだ、これは・・・」
 身体が小刻みに震えているのは怒りのせいばかりでなく―――

ゾロの手を振り解こうにも、がっちりと後ろ手に縛られている。
蹴り上げようとして、また眩暈がした。
太腿と脛を固定して縛られている。
しかも両足。
そして全開――――
「なんじゃこりゃあ!!!!!」

今度は声を上げて絶叫した。






「何の真似だ。何のつもりだ。脳味噌沸いたかてめえ!!!」
あらん限りの悪態を吐くのに、ゾロは涼しい顔ですましている。
無表情なのが却って不気味で、サンジは声を止められなかった。
「このクソエロマリモ!こんなことしてただで済むと思うなよ。って言うか、今なら見なかったことにしてやる!まだ引き返せる!解きやがれこの変態!!!」
縄がきっちり縛られていることを確認して、ゾロはサンジに向き直った。
腕を組んで、まじまじと頭から爪先まで眺める。
身体から火が出そうだ。
「解けっつってんだろ、変態オヤジ腹巻!!!」
精一杯怒鳴った声が震えている。
 
最早茹蛸との如く、全身を真っ赤にして怒り震えるサンジを前に、ゾロはようやく表情を緩めた。
それはそれは幸福そうに。

「ソソルなあ、お前。」
サンジは憤死しそうになった。
 





誰もいないキッチンで、嗚咽に似た声だけが響いている。
さっきまでの勢いはどこへやら、サンジはただ声を殺して耐えていた。

身体の自由が利かないまま、ゾロにいいように弄りまわされる。
仰向けになれば腕が痛いし、足が邪魔になって横向きにもなれない。
中途半端に身を起して支えられているから、ゾロに扱かれる自分自身が否応なしに目に飛び込んでくる。
触れられて幾許もないのにもうギンギンに張り詰めたそれは限界に近く、湿った音を立ててゾロに翻弄されている。
「ゾロ――――もう・・・」
口を開くと漏れる自分の声に艶が含まれているようで、言葉が出ない。


認めたくない。
認めたくない、が―――
いつもより、感じてるかも・・・俺。


「いつもより、感じてるな。」
思ってたとおりのことを口に出されて、サンジは心臓が止まるかと思った。
「な・・・何・・・何をォォォ――」
「もうぐちゃぐちゃだぜ。ほら、指もすんなり入るし―――」
 
言うな!
言うなアア!!

ゾロはすました顔のまま、サンジの乳首を弾いた。

―――なんでそう冷静なんだ。一人アヘアへ言ってる俺が、変態みたいじゃないか!!!
怒りのあまり脳溢血で倒れそうだ。


「よく見せてやろうか。」
―――へ?
 
ゾロの真意がわからず目を泳がせていると、くるりと身体の方向を変えられた。
向き直ったのは、壁。
そこに――――

「――――!!!」

あまりのことに、声も出ない。

ただぱくぱくと、酸欠の金魚のように口をあけている、蒼白の哀れな男がそこにいた。
そして、その男を後ろから抱きかかえて満足げな笑みを浮かべる緑髪の剣士。

い、や――ぁぁぁぁ―――――――!!!

やはり叫びは声にならなかった。




壁に立てかけられた鏡の中で、見知った男が喘いでいる。
股を開いて秘部を露にして、いいように嬲られている。

「ほら、奥まで入ってんだろ。」
きつく目を閉じれば、ゾロに刺激される個所の感覚が鋭くなって余計に感じてしまう。
目を開ければ自分の痴態。
死んでしまいそうだ。

「よく見ろよ。」
殺す!
こいつぜってー殺す!!!

サンジの胸の殺意とは裏腹に、身体はもう限界だった。
息が荒くなり、声を押さえることもできない。
「ゾロ・・・っくしょう―――」
「もうイくのか。早ええな。」
笑いを含んだゾロの声。
むかつくのに、煽られる。

「んっく・・・は―――――」
きつく扱かれ、ゾロの指が前立腺を刺激した。
目の前が白くなり、サンジは軽く痙攣して精を吐き出した。



「―――は、は・・・はぁ――――」
体に力が入らず、サンジはゾロに凭れかかった。
しかし倒れることは許されず、後ろから支えられたまま全身を鏡の前に曝している。

いつもナミさんやロビンちゃんの美しいお姿を映している鏡なのに。
こんなモノをお見せして、鏡にまで申し訳ないようでサンジはいたたまれない。

「もう、解け・・・ゾロ―――」
ゾロは横を向いて何かごそごそしている。
「頼むから・・・」
恥も外聞もあるもんか。
 
目尻に涙を溜めて懇願するサンジの目元に、ゾロは後ろからちゅっとキスした。
「そんな面すっと、抑えが利かなくなるじゃねえか。」
抑えてたのか、ってーかこいつ俺の言ってること全然聞いてないんじゃあ―――

新たな怒りに震えるサンジをよそに、ゾロはジャケットから煙草を取り出した。
1本咥えて火をつける。
唖然としているサンジの後ろで軽くふかして、ゾロはにやりと笑った。
「こんな美味くもねえもん、よく吸ってるよなお前。」

その煙草をサンジの口に咥えさせる。
殆ど条件反射のようにサンジは、とりあえず吸った。
ゾロが手を離し、またそろそろと股間を弄る。

「―――ん・・・」
「煙草、落とすなよ。」

両手でさっきサンジが放った精を後孔に塗りつける。
ぐちゃぐちゃと淫猥な音が響き、限界まで広げられた。

「―――ん・・・ん――――!!!」
何故か煙草を咥えたまま口を開けず、サンジは悶えた。
ゾロは指の腹が当たるほど限界まで突き込んでは引き抜くを繰り返す。
一旦は萎えたはずのモノが再び張り詰め、サンジを追い詰める。

首筋に歯を立てられ、乳首を摘み上げられた。
「ひ・・・ぅん――――」
噛み締めた口端から涎が垂れる。
身を捩るサンジの腰を両手で軽く持ち上げて、ゾロは自分の腰におろした。

「――――ひっ・・・」
ずぶずぶと、慣らされた秘部にゾロのモノがめりこんだ。
ひどい圧迫感と内臓を突き上げる感触に、鳥肌が立つ。
がくがくと首を振って抗うのに、ゾロは構わずサンジの腰を掴んで上下に揺さぶった。

「―――ん!・・・うぅ――――・・・」
ガンガン下から突き上げられてサンジの背中が撓った。
縋りつくことも、踏ん張ることもできずただ翻弄される。
 
「見ろよ。」
少し掠れた、ゾロの声が耳を打つ。
「お前のここ、がっちり咥え込んでやがる。」
揺れる視界の隅で、金色の頭ががくがくと揺れている。
視線を下ろせなくて固く目を閉じて俯いた。

「見ろ。」
顎を掴んで上向かされる。
「やらしー顔してんなお前。もう忘れられねえな。お前が―――」
ゾロの手が、きゅっとサンジ自身の根元を抑えた。
「お前が煙草吸う度に、思い出しそうだ。」

目に映ったのは、煙草を咥えたまま秘部を曝して突き上げられている自分。
羞恥と、直接的な快感で気が狂いそうになる。
限界まで張り詰めて、イきたいのに、イけない。
「もう・・・や――――」

ぽろりと口から煙草が落ちた。
火がついたまま腹の上を転がるのに、熱ささえ感じない。

「ゾロ――限界・・・」
ゾロを咥え込んだまま床に突っ伏した。
白い背中に舌を這わせて、ゾロが腰を上げる。
その動きに伴いサンジの腰だけが高く上がった。

「俺も、だ」
抑えていた手を離して、激しく律動した。
サンジは床に頭を擦りつけて、悲鳴に似た嬌声を上げる。
 
縛られた手が足が悲鳴をあげているのに、全身を貫く快感に目が眩み、意識が飛ぶ。
最奥に熱い迸りを感じながら、サンジは堕ちて行った。

最後に目にしたのは、空を漂う紫煙―――――












スコーンと青く晴れた空の下、今日もゾロは巨大な錘を振っている。

「ただいまー・・・と、ゾロ、何その顔。」
ナミに見咎められるまでもなく、派手な青痣が浮き出た頬。
上半身裸の身体のあちこちに打撲の後があり、背中には靴跡までついている。
「背中の傷は剣士の恥じゃあ・・・」
「うっせえな、なんでもねえ。」
 憮然とした顔で、錘を下ろした。

サンジ君にぼこられたのね。
なんとも分かりやすい。

「で、サンジ君は。」
「買出しに行ってる。俺が代わりの船番だ。」
「そ、ならサンジ君が帰ってきたら、出航ね。」

小さな波止場のあちこちから、賑やかな面々が帰って来た。
ゾロが船にいるのなら、集合に遅れる者もいない。

「姿見は部屋に返しといたぞ。」
「汚さなかった?」
「・・・拭いといたから、大丈夫だと思う。」
「――――あ、そう。」
ナミはそれ以上何も聞かなかった。





一体、どういう手を使ったかは知らないが、
それから暫く、人前で煙草を吸うサンジの姿を見ることはなかった。


END

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