謝ったら負けだから


夕食の準備をしながら、思わずため息が漏れた。

ゾロと喧嘩をしたのはもう一週間も前の話。

 

あいつと喧嘩するのなんて珍しくもないから何が原因だったのかも覚えてない。

いつだって特に何をするでもなく、

それでも何となく普通の状態に戻って、

で、また喧嘩しての繰り返しだった。

 

でも今回はなんか違う。

何だか知らねえがゾロがおれを避けてる。

「仲直り」ってヤツをしなきゃなんねえんだろうか?

おれとゾロに「仲直り」と言う言葉がもう、

めちゃめちゃミスマッチで、クソ恥ずかしい響きだ。

今まで喧嘩しても、「仲直り」などしたことが無いんだから、

どうやってそれをするのか皆目見当がつかない。

そもそもおれがこんなことを考えてること自体、納得いかない。

原因を覚えてないとはいえ、絶対おれは悪くない自信がある。

だからと言ってあいつが悪かったのかと言うと、多分そうでもないんだと思う。

だって、おれは何にも怒ってないんだから。

おれは今だっていたって普通なのだ。

 

だから、悪いのは他愛のない喧嘩を一週間も引きずってるあいつの…

んー…、女々しさ?男らしくなさ?

元海賊狩りの三刀流の未来の大剣豪のロロノア・ゾロが女々しいってどうなんだ!?

なんだかしらねえがあいつに避けられてるってのは、凄く気に食わねえ状態だ。

あいつはどうだか知らねえが、おれはあいつに一目置いてる。

すげえ奴だと思ってる。

そんなヤツにそんな態度をとり続けてほしくない。

しかし何なんだろう…なんか怒ってんのか?

怒ってるんだとしたら、おれが一言謝ってくるのを待ってんのかもしれねえが、

おれは悪くねえんだから絶対謝らねえ。

「仲直り」のために思ってもいねえ謝罪の言葉を言うなんて有り得ねえ。

謝んのは嫌だが、この状態も嫌だ。

この状態を打破するには、もう、ゾロに訳を聞くしかねえだろう。

 

だが、いま、おれ、避けられてるからな、

話をしようと近づくとスッと逃げやがるだろう。

逃がさねえには…

「縛るか…」

色々考えるのに飽きてきたんで、思いついたまま行動に移すことにする。

 

 

 

出来た夕食を配膳してクルーを呼ぶ。

案の定ゾロは来ない。

まあ、いつものことだ。

今日もそこらへんで寝てやがるんだろう。

そうだ、ちょっとやそっとじゃ起きねえんだから、簡単に縛れるな。

「マリモを起こしてきますので、先に始めててください、ナミさんv」

と、言い残してキッチンを出る。

格納庫によって手頃な縄を手にゾロを探した。

 

 

 

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「てめえ、こりゃ、何の真似だ?!」

案外すぐに目を覚ましたゾロが問う。

「あー、なに、ちょっと話をしようと思ってな。」

「話?話すんのにこんなことする必要ねえだろ!」

そう言いながら一纏めにされた両腕を上げる。

「あー、まー、その…ついでだ。足縛ったついでにな。

 殴られたくねえし。斬られんのはもっとごめんだし。」

「あ?足は何のためだ!?」

「決まってんじゃねえか、逃げれねえようにだ。

 逃げてねえとは言わせねえぞ。なんで逃げるんだ?」

「…なんで、だと?…あたりまえだろうが…」

ゾロが伏し目がちに俯く。な、なんだ?この反応は?!

「…てめえ…告ってあんだけこっ酷く振られりゃ…そりゃ…顔合わせずれえだろうが…」

「?????」

「…………」

「……………まさかとは思うが……一週間前の喧嘩の時のアレのこと言ってんのか?」

「…………」

ゾロが赤面とか冗談はやめてくれ!ってか、アレか?!アレが原因だったのか?!

 

 

罵詈雑言の売り言葉に買い言葉の真っただ中、突然あいつが言った。

「おれはてめえに惚れてんだ!」と。

それまでエロコックだ、アホアヒルだ、素敵眉毛だ、ダーツだと言ってたヤツがいきなりだ。

この野郎、おれがうろたえると思って反応を見て笑う気だなと思ったおれは、

「おれはてめえなんか大っ嫌いだ!気色わりいこと言ってんじゃねえ!!」

と言ってあいつを海に蹴り飛ばした。

 

 

「てめえ、あんな時にあのタイミングであんなこと言われて真に受ける方がどうかしてるだろ!?」

「そんなこと知るか!おれは真剣に告ったんだ!!」

「ありゃあ喧嘩の延長だと思うだろ、普通!!おれは悪くねえ!謝らねえぞ!!」

「謝ってくれなんて言った覚えはねえ。嫌いな奴なら寄ってこねえほうがてめえもいいだろが。」

「避けられて気分いいわけねえだろ!!

 それに…おれのは喧嘩の延長で言った言葉だ。真に受けるな。」

「…それじゃあな、もう一度真剣に言うから真面目に聞け。

 『おれはてめえに惚れてるんだ。』」

「……あ、ああ。」

「それでも返事は同じなのか?」

「…いや、おまえを嫌いなわけじゃあねえ。

 ん〜…もしかすると…未来の大剣豪に惚れられてるなんてちょっと嬉しいかもしれねえ。」

「…ホントか?

 …真剣に告白なんかしたことねえから、タイミングとか分からなくてな…悪かった。」

そんなにあっさり謝られたら謝らねえと拘ってるおれの方が恥ずかしくなっちまう。

「あー…なんかおれもひでえこと言ってすまなかった。

 あれは、その、売り言葉に買い言葉ってやつだ。忘れてくれ。」

「謝るくれえならこれ解いてくれ。」

そう言って手首の縄を指し示す。

縛ったことなんかすっかり忘れてた。

 

「ああ、わりい。」と言いつつ

まず足の拘束を解き、手首の縄も解いて自由にしてやる。

しかし、寝てるとこんなにも簡単に自由を奪えちまうって未来の大剣豪としてどうよ…

なんてこと考えてたら早速自由になった腕でおれを抱きしめてきた。

そして驚いてるおれの唇を素早く奪う。

 

必死に緑の髪をつかんで引きはがし、「なにしやがるっっ!!」と言うと

「キスだ!!惚れられて嬉しいんならキスくらいしていいだろ!」なんてぬかしやがる。

「おまえの気持ちは嬉しいとは言ったが、それに応えるなんてまだ言ってねえぞ!」

「辛気臭いこと言ってんじゃねえ!嬉しいなら応えろ!!」

「そんな一足飛びに事を進めようとすんじゃねえ!」

 

「「おれは悪くねえ!!!」」

 

 

 END       



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