閑中忙あり
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「ナミさ〜ん、次の島に着くまで、あと何日かなあ」
「・・・サンジ君?」
ナミはばさりと新聞を置いて、腕組みと同時に足も組み直した。
すらりと伸びた足は程よく日焼けして、小鹿のようだ。
「その質問、今日でもう3回目なんだけど、他に何かあたしに言いたいことでもあるの?」
「え?そうだった?いや、なんでもないよ。聞いてみただけ」
明らかに苛々しているナミに慌てて手を振り取り繕う。
「ごめん、さっきも聞いたっけか。なんかぼんやりしてて・・・」
「食料に問題があるわけじゃないんでしょ?私が見ても冷蔵庫の中は充実してるし、水槽の中も
 いっぱいお魚泳いでるし・・・穀物か、調味料か何か?」
「いや、そういうんじゃないんだよ。なんつーか陸恋しくて・・・はは、ごめん」
雨は降らずとも適度な風は吹いている。
この調子で行けば、一週間ほどで島に着くだろうと聞いていたのだ。
一週間。
たった一週間、されど一週間。
それまで俺は正常に過ごせるのだろうか。

「あーいいお湯でした」
その時、ブルックが頭から湯気を立てながらラウンジに入ってきた。
「波に揺られて大浴場・・・いいモンですねえ。長生きはするものです。と言っても、
 私もう死んでるんですけどー」

バスローブを羽織り、タオルで頭を巻いてはいるが、どう見ても中身は骸骨だ。
「風呂上りなら、アイスティーでも飲むか?」
「ありがとうございます、ホットで結構ですよ。年寄りに冷や水と申しまから〜」
「一番風呂は身体に毒なのよね」
ナミが新聞を畳みながら茶々を入れた。
「はい、やはりお若い方々の後風呂が一番!特にお嬢様方のエキスが沁み込んだお風呂の水が、
 私のお肌を若返らせてくれるのです!もう見て艶々ーって、わたし、皮膚ないんですけどホホホ!」
「黙って飲んでろ」
ブルック愛用のカップに紅茶を入れて、テーブルに出してやった。
「サンジさんが淹れてくださる紅茶の味は、また格別です」
ぽっかり明いた眼窩をそのままに、ない鼻で芳香を楽しんでいるブルックをサンジは
しみじみと眺めた。
―――ほんとに、飲んだモンはこいつの骨の中でどうなってんだろう。
つか、消化されんのか?
ウンチ出るっつったよな。 
風呂もどうしてんだ。
骨の間まで洗ってんのか。
そういうことを考えていると、案外と気が紛れる。

「じゃあ私は寝るわね、お休みなさい」
「お休みナミさん、いい夢を」
「おやすみなさいませ」

サンジは、ブルックの前にお代わり用のポットを置いて立ち上がった。
「んじゃ、俺風呂入ってくるわ」
「はい、ご馳走様です。多分サンジさんが最後でしょうから、ごゆっくりどうぞ」
まだまだブルックについて考えてみたかったが、そのネタで後一週間もたせなきゃ
いけないから今は保留にしておこう。


簡単に着替えとタオルだけ持って風呂場に入る。
もう深夜といっていい時間帯だから、風呂の中は真っ暗で脱衣所も静かだ。
「電気つけなくてもいいか、勿体無いし」
晴れた空からは仄かに月明かりが差して、真の闇ではなかった。
一人で風呂に入る分には、薄暗くても支障はない。
サンジは手早く衣服を脱ぐと、風呂場に足を踏み入れた。
波の音がかすかに響き、タイルが青白い光を弾いて濡れている。
まっすぐ洗い場に向かってシャワーを捻り、イスに湯を掛けてから腰掛けた。
まず髪を洗う。
シャンプーは男女共通だが、男はワンプッシュまでとナミにきつく言い渡されているため、
貴重なそれで丁寧に洗う。
きっとルフィやゾロはシャンプーなんて使わないだろうし、けどその分チョッパーが全身
使ってるかもしれないし・・・そもそもフランキーとロビンちゃんが同じ髪の香りを漂わせて
いるなんて、嫌だなあ・・・などとめまぐるしく思考を巡らせながら、顔も洗った。
リンスの使用はウソップとサンジにのみ許されている。
ナミさんと同じ香りだあと自然に顔をにやけさせながら、丁寧に髪に擦り込んで行く。
さっと軽く洗い流し、タオルで頭を巻いた。
スポンジを泡立てて、手早く首筋から腕背中へと洗っていく。

―――あー・・・やべえなあ・・・
最近はいつもピョコンと心持ち頭を擡げている息子が、今は何もしていないのに半勃ちに
なってしまっている。
さっきのあれだ。
ゾロの髪からは石鹸の匂いがするとか思い出したりしたせいだ。
何かにつけて、ゾロに結びつくモノを思い出すと脳と下半身が直結してるみたいに反応してしまう。
これはあれだ。
ぶっちゃけ溜まっているからだ。

ゾロとエッチしなくなってそろそろ5日とは言え、エッチどころか一人エッチもしていない。
別に、自分で済ますのは男の日常習慣みたいなものなんだからすればいいと思うのだけれど、
どうにもサンジには抵抗があった。
可愛い女の子を思い浮かべてするならいい。
妖艶なレディとか、ぼんきゅぼーんとか、そう言うのを想像しながらできればいいのに。
恐れ多くて申し訳ないけれど、ナミさんやロビンちゃんのパーツ(全体像はさすがに憚られる)を
思い出しながらでも、慰められればそれでよかった。
なのに、どういう訳か、盛り上がってくると脳裏に浮かぶのは暑苦しくも鬱陶しい筋肉だるまだ。
あのぶっとい腕とか汗に濡れた肌とか、情欲でギラついた白目だとかが思い出されて、うっかり
それでイきそうになる。
そんなんダメだ、つか、人としてどうよ。

危うく盛り上がりかける脳内を必死で押し留めて、サンジは自分を慰める手の動きを止める。
だって、ゾロでイクなんて惨め過ぎる。
好きなだけ弄ばれて、自分から別れを切り出したのに言ったらそれっきりなんて薄情な男のことを
思い出しながら一人でイクなんて、あんまり情けないじゃないか。
だからサンジは自慰すらも止めていた。
どうしたって思い出すのはゾロの手のことばかりだからだ。
あの優しい愛撫だ。
激しい息遣いだ。
力強い律動だ。
そのすべてに今もとらわれ続けていることを、思い知らされるのは辛い。
もう二度とあの眼差しが自分に向けられないなんて、認めるのが怖い。

「情けねえ・・・」
サンジは一人ごちて、曇った鏡に掌を当て俯いた。
勃ち上がりかけていた息子が、サンジと一緒にシュンとうな垂れてしまっている。
こんなことで落ち込んでいること自体が問題だが、きっと島に着いて、綺麗なお姉さまや
可愛いレディと出会えたなら、その時こそ俺は不死鳥のごとく蘇るだろう。
それを夢想して、今はしばし我慢の一途と律している。腹の底のモヤモヤは溜まる一方なのだけれども。
サンジはキュッキュと鏡を拭いた。
しょぼくれた自分の顔を睨みつけて、叱咤するためだ。
掌で拭われた鏡の向こうに、暗い湯船が浮かび上がる。
その中に、黒背景に白い双眸が浮いているのに気付いて、サンジは思わず大声を出しかけた。

「・・・は?げ?!」
「誰がハゲだ」
間髪いれず突っ込まれて、サンジは弾かれたみたいに振り返った。
湯船の中にゾロがいる。
真っ暗な風呂の中で、ゾロは首まで浸かって闇に浮かぶ三白眼でこちらを睨んでいた。
「て、てててててめえなんでここにいるんだよ!」
「風呂に入ってんだよ、見てわからねえか」
「だって、真っ暗だったじゃねえか!なんで電気つけねえんだ」
「その台詞もそっくり返す。てめえも電気つけてねえだろ」
言い返されてぐうの音も出ない。
サンジは驚きと羞恥で顔まで真っ赤に染めて怒り狂った。
全然気付かないうちに、自分の動きをすべて見られていたかと思うとものすごく恥ずかしい。
別に顔を髪を洗っただけだったけれど、鏡に向かって吐いたため息は聞かれただろう。
しかも、腹部を洗う途中で前をごしごし扱いてしまった。
その動きも全部見られていたわけだ。

「このクソ野郎、とっとと上がれよ!」
「俺も今入ったとこだ、風呂くらいゆっくり浸からせろ」
ちゃぽんと水音を立てて、ゾロはタオルを頭の上に乗せた。
くそう、こいつ絶対わざとだ。俺が入ってきた時、気配を殺してやがったな。
悔しかったが、ここで自分が先に上がるのも癪だった。
こうなったら、ゾロの存在など気にしないで風呂に入ってやる。

そう決心してシャワーで洗い流そうとしたが、別の事実に愕然とした。
ゾロに見られていたと気付いた羞恥からか、ゾロの気配そのもののせいかわからないが、
さっきまでしょんぼりしていた息子さんがいつの間にか復活してしまっている。
これでは、普通に立てない。
つかもう、すでにズキズキと疼くほどだ。
己の不甲斐なさに、髪を掻き毟りたい衝動に駆られた。
なんだってこんな場面で、これほどまでに素直に反応してくれるのか俺の下半身。
つか、治まれ。
何事もなくおとなしくうな垂れてくれ息子。
サンジの願いも虚しく、ピンと雄々しく反り立ったそれは、嘆きの息を受けて先端から露を
滲ませるほどにさらに屹立してくれた。
一体どうしたらいいというのだろう。

「・・・畜生」
漏れるため息を押し殺し、ゴシゴシと乱暴に身体を洗う。
首筋から肩、腕、胸元をスポンジで擦れば、半端でなく熱い視線が肌に感じられた。
―――見てやがる
なんの遠慮もなく、ゾロの双眸が全身を舐めていく。
視線に呷られて、肌がふつふつと粟立った。
腹の底からマグマのように情欲が湧き出て、つるりと向けたピンク色の先端からはじわりと露が滲み出た。
・・・くそう・・・
怒りと羞恥のあまりぷつんと何かが切れたのか、サンジは気だるげに首を傾けると、ゆっくりと
泡を撫で付けるようにして身体を洗い出した。
ささやかながら勃ち上がり、熟れた果実のように色付いた乳首が、泡の間から覗いている。
そこがチリッと火でも炙られたかのようにピンポイントで熱く感じられた。
・・・ビームでも出てんのかよ

見事なガン見だ。
ゾロの視線の一転集中。虫眼鏡で太陽光線を集められでもしたかのように、熱い。
じんじんと疼く己の中心を、太股でゾロの視線から庇うようにして足を上げる。
身体を傾け洗いイスから少し腰を浮かして、スポンジを差し込んだ。
ことさら丁寧に洗ってやる。
今度は太股の内側に熱視線だ。
どこ見てるか一目瞭然、つか体感ばっちりってのは凄いもんだな。
ゾロの眼力の凄さに軽い感動さえ覚えて、サンジは片手で胸元を撫でながらもう片方の手で尻を洗った。
それはもう、忙しなくも隈なくゾロの視線が動き回る。
全身が熱い吐息で嬲られているようで、サンジの中心はますます硬く張り詰めてしまった。
・・・ああもう、どうにでもなれ
いっそこのまま自分で解すかとか、目的を見失って欲望に流されそうになっていたら、
おもむろにゾロが立ち上がった。
ざばりと派手な音を立てて湯を撒き散らし、湯船から上がってくる。
―――来た!
来た。
とうとう我慢できずに出てきやがった。
んで、俺はどうするといいんだ。

押し倒してくるか、突っ込んでくるか?どっちにしたって、まずは急所めがけて蹴り入れてやる。
固い決意をそのままに身構えて気を張り詰めたのに、ゾロはそのままスタスタとサンジの背後を通り過ぎた。
―――なんだと?
思わぬ展開に驚愕して、それから急激な怒りに襲われた。こいつ、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!
「おいてめえ!」
つい声を張り上げて、ゾロを呼び止める。
湯気の立ちこめた暗い風呂場に声が響いて、濡れたタイルの上でゾロの足が止まった。
「ああ?」
こちらも不機嫌を露わにしたドス声で応え、ゾロが振り向いた。途端、何かに頬を張られて、サンジは目を見開いた。
ビタンって・・・今、ビタンって・・・
目を向ければ、顔の数センチ横でゾロの凶器が完勃状態。
これが・・・今、ゾロが振り向いた拍子でビタンって。俺の俺の俺の・・・俺のほっぺたを・・・
ビンタ!?
「ぶっ」
サンジが状況を把握する前に、ゾロが吹き出した。見事に割れた腹筋が目の前で苦しそうに痙攣している。
「す、すまんっ・・・くっ・・・」
耐え切れず勃起したまま笑い出したゾロと、目の前でぶるぶる震えている立派な息子さん。
サンジはその場でうがああああと叫び、怒りに任せてそれに噛み付いた。


「ふっ、はあ・・・はっ・・・」
真っ暗な風呂場で、淫らな喘ぎ声が響いている。
冷たいタイルの上に押し倒され、跨られる形でペニスを喉の奥まで突っ込まれた。
ゾロはといえば逆の姿勢になって、サンジの股座に顔を突っ込んでいる。
「ふぐっ、ぐ」
勢いよく噛み付いてやったはずなのに、ゾロの息子さんはサンジの歯などものともせず、むしろ強い
刺激に大喜びしてそのままイラマチオの体勢に入ってしまったのだ。
後は軽く体位を逆さまにされてのシックスナイン。
だが勃起方向と口の向きとが違うから、どうしたって口から外れてしまう。
そうでなくとも全部を飲み込むには無理な太さと長さがあるし、下半身に施される痛いくらいの
乱暴な愛撫に意識が集中して、ゾロのそれを舐めることすら満足にできない。
「も、や―――」
先に泣きを入れるのは癪だったが、そんな意地も張っていられなくなった。
ゾロの指が余りにももどかしく動いて、射精寸前にまで呷られながらイくことができない。
「クソ野郎、早く・・・突っ込めっつってんだろ!」
馬のように躍動感溢れる太股を引っ掻いて、尻っぺたを叩いた。

声を出そうにも、口の中のモノが出張って舌が上手く動かない。
「は・・・言いやがる」
ようやく身体を起こして、ゾロが指を抜き去った。
「金輪際、てめえに触れるなっつったのは、どこのどいつだ。
ちょっと弄られただけでヒイヒイ啼きやがって」
「誰がっ」
ようやくペニスを抜かれて、サンジは涎にまみれた口元を手で拭いながら睨みつけた。
「てめえがだよ」
足の間から伸ばされた指で、乳首をきつく抓まれた。
同時にペニスも握られて情けない声が漏れる。
「触らなくても完勃ちだったな。見られてっだけで感じんのか」
胸元に吸い付かれて、チュウチュウ音を立てられる。
覆い被さるように抱き締められると、条件反射的に身体の力が抜けてつい寄りかかってしまった。
「うあ・・・だっ・・・て、てめえの視線、が・・・」
「やっぱ、感じんだな」
顎の下を舐められた。風呂の中なのに、やっぱりゾロの匂いがする。
ゾロの体温と力強さが身に染み入るようで、どれだけモノ欲しがってたのか思い知られた。
「てめえが、悪いんだ」
「ああ」
ゾロは耳朶に優しく歯を立てて、襟足を撫でた。
「そうだな。俺が悪い」

「・・・え?」
あまりに素直に認められて、サンジの方が動転した。
なにがどう悪いのか、こいつはわかってるのか?
つか、俺自身わかってるのか?
正面で見詰め合うようにして、身体を重ねられた。
広げた足の間から、ゆっくりとゾロが入ってくる。
内部を侵す熱にぞくぞくと身体を震わせて、あられもない声を出すサンジを、ゾロはすべて見ながら挿入してきた。
「あ、やだっ・・・なんでっ・・・」
「入ってんだろ」
ゾロの声は快感で掠れている。
それがまたサンジの熱を煽り、まだ途中なのにきゅうと軽く締め付けてしまった。
「気が早えよ」
ぺちんと尻を叩かれて、余計に力が入ってしまった。
このタイミングで叩かれちゃ、尚更感じてしまうじゃないか。
「しょうがねえ奴だ」
尊大な物言いにさえときめいて、きゅんきゅんと尻と一緒に胸まで疼く。
ああもう末期だ。
ゾロが何を言おうがどうしようが、すべて感じてしまうほどに末期だ。
「もう俺のこれがねえと、我慢できねえんだよな。物足りねえんだよな」
ずぶずぶと揺らしながら突き入れてきた。
最初の優しげな動きとは違う、荒々しさを伴った律動。
これがまた、堪らない。
「あっ、や・・・違うっ・・・違・・・」
 何がどう違うのかも、よくわからなくなってきた。

太股でゾロの身体を挟み込むようにして、もっと奥へと腰を浮かした。
「違わねえだろ。欲しかったろ、これ。もっと突いて欲しいか」
「あ、ん―――もっと、あ・・・や・・・」
「なら足開けよ」
足首を持たれてさらに大きく開かされた。
腹につくまでに反り返った己のペニスがぶるぶる揺れる。
全部見られて曝け出されて羞恥でますます感じてしまった。
「見んなっ・・・ああ、深え、深えよっ・・・奥―――」
ずんずんと円を描くように大きく抉られ、抜き差しされた。
脳髄にまでビンビンと響いて、何が何だかわからなくなってしまう。
「ああ、腹の、腹のそこにっ、あ・・・あた・・・」
ううんと短く呻いて、サンジの膝頭がきゅっと曲がった。
小さな痙攣を繰り返しながら、腹の上に射精する。
ゾロも大きく胴震いして、中に放っているのがわかった。
「・・・うあ、な・・・かに・・・」
「ああ、出た。たっぷりな・・・」
さすがに大きく息を切らして、ゾロは名残を惜しむように下半身を擦り付けた。
「中って・・・ばかや、ろ」
悪態をつきながらも、サンジは真っ赤に染まった頬を隠すようにして両腕を顔の上で交差させた。
荒い息を吐く唇は濡れて光っている。
誘われるようにぺろりとそこを舐めて、ゾロは己を沈めたまま両腕を外させた。
「俺から手は、出してないよなあ」
この期に及んでそんなことをダメ押ししてくるから、サンジは本気で蹴り上げてやりたくなった。
けれどいかんせん下半身は繋がったままだし、身の内に燻る炎はまだ燃え尽きてもいない。
「ざけんな、悪いと思うなら責任取れ」
「おう、そのつもりだ」
頬を撫でながら親指で唇を抉じ開け、歯の間に滑り込ませた。
「いつだって身体で応えてやるよ」
途端、サンジの潤んだ瞳が乾いた光を放って伏せられる。
その表情の変化に気付き、ゾロは口の中に突っ込んだ指で舌を抓んだ。
「どうした?身体だけじゃ、不服か?」
そう問われて、サンジは初めて気付く。
ゾロに慣らされるのは癪だった。
身体から仕込まれて、ずるずるとSEXの快楽に溺れるなんて、男の沽券に関わるとも思っていた。
けれどそれだけじゃなくて。本当に悲しかったのは、身体だけの繋がりでしかなかったからだ。
自分の身体に夢中になるゾロを嘲笑いながら、身体でしか繋ぎ止められないことが悲しかったからだ。
思い当たって、でも応えられないサンジの強情な口に顔を寄せた。指で引き出した舌を舐める。
「言っておくが、俺はてめえと寝なくなったからって元の仲間に戻れるたあ、思わねえぞ。てめえとの
 付き合いは、いつもSEX込みだ。てめえと俺がこの世に存在する限り、その関係は変わらねえ」
尊大で身勝手な宣告だ。一体お前はどれだけ俺様なんだと言う代わりに、ゾロの舌を食む。
「俺とてめえが、この世に存在する限り?随分と大げさな話だな」
長いキスの合間のため息代わりに、サンジは一人呟いた。
口に出して初めて、その意味に気付く。
「・・・って、え?」
改めてゾロを見れば、先ほどまでの薄ら笑いは消えてやけに生真面目な顔をしていた。
冗談だろと笑いかけて、唇が震える。
「不服か?」
額をくっつけて、ゾロが更に聞いて来る。
さっきとは別の種類の強い視線に捕らわれて、顔を反らすこともできない。
「・・・しょうがねえな・・・」
身体の関係がなくなったから、元の仲間に戻りましょう。
そんな中途半端な関係じゃあ、許してくれないのだ。
少なくとも、互いがここに在る限り、身体も心も両方互いのモノとなるらしい。
ゾロのでかブツを咥え込む度に感度がよくなっていく身体は本当に癪なのだけれど、ゾロだって
きっと自分無くしてはダメなのだろう。
そういう意味ではイーブンイーブンかもしれない。
「だから、俺を捨てるなよ」
柄でもない台詞を吐いて、ゾロはにやりと笑っている。

「しょうがねえなあ」
サンジは隠し切れない嬉しさを滲ませて、そっぽを向いたままゾロの身体を抱き締めた。
身の内でムクムクと、正直な息子さんが膨張している。
それを愛を持って締め付けて、サンジはリベンジを込めて自ら腰を動かし始めた。
――――その時


ド―――――ン

大きく船が傾いで、湯船の湯が繋がった二人の全身に掛かる。
「なんだ?」
「海軍だ――――っ」
見張りのウソップの声が、船内に響き渡った。
しばし顔を見合わせてから、慌てて立ち上がる。
「ったく、いいところで・・・」
「これでなきゃな、海賊だからよ」
手早く服を着て、意気揚々と甲板に飛び出した。


またその内、平穏な航海が続く日も来るかもしれない。
けれどもう、退屈と思える時はないだろう。






END