右前方に見えるのは、常に鐘が鳴り響いている神聖かつ厳かな、誓いの島。
結婚式のメッカとして老若男女、異性同性を問わず熱いカップルがやってくる。

「ゆっくり通り抜けてね。凄く混んでるから。」
今まさに日が沈もうとする雄大な景色の中に、大小様々な船が犇めき合って揺れていた。
「なんでこんなに船が多いんだー。何か待ってんのか。」
船長がメリーの頭の上から珍しそうに眺めている。
「ココが誓いの島になったのは、そこに変わった形の岩が突き出てるでしょ。」
ナミに指差されてクルーは注目した。
島より数百メートル離れた場所に、ぽつんと尖った岩が突き出ている。
石にしては大きいが、島というほどの大きさではない。

「どうやらあの岩の中は空洞になってるらしくて、何らかの条件が重なるとあの岩の先端部分からまるで教会の鐘の音のような音が鳴り響くのよ。それがいつかはわからないのだけど、こんな夕焼けの綺麗な日に鳴る確率が高いから、みんな待ってるんだと思うわ。」
「誓いの言葉とともにその鐘の音を聞くと、永遠の愛を約束されるんですって。」
考古学者も興味深げに周りを見ている。
「その鐘の音をバックに永遠の愛を誓い合うってか。」
ウソップはふーんと唸ってから、ちょっと夢見る顔つきになった。
今彼の脳裏には、プラチナブロンドの美少女が微笑んでいるに違いない。

「かー・・・いいねえ。ロマンチックだなあ。夕陽をバックに永遠の愛を誓うってか。」
例に漏れず、ラブコックは身をくねらせて悦に入っている。
GM号が通り過ぎた小船には、頭にベールだけを乗せたレディが屈強な男と手を取り合って夕陽を眺めていた。
「・・・死が二人を分かつまで――――か・・・」
ぽつりと呟いた隣に、いつの間に起きてきたのか剣士が立って腕を組んでいる。
「違うだろ。」
ふんと鼻で笑われて、サンジはあん?と振り向いた。
「この神聖かつ厳粛な空気の中で、いちゃもんつける気か?」

「死が二人を分かつとも・・・だ」
えらく真面目な顔でそんなセリフを吐くから、サンジはびっくりしてしまった。
「永遠の愛を誓う、だろ。」
そういって、にかりと笑う。
夕陽を受けて、ゾロの顔はいつもより2割増で精悍に見える。
けれどその目が穏かで、こいつこんな顔も出来んだなあと思ったら、サンジは不覚にも「おう」と頷いてしまった。

途端。

リンゴーン・・・・リンゴーン・・・リンゴーン・・・
「まあ、鳴ったわ!」
「これかよ、島の鐘の音じゃねーの?」
「違うわね。確かにあの石から鳴ってるわ。」
「すげーな・・・きれーな音だあ・・・」

自然の脅威に感動しているクルーを尻目に、サンジは呆然と鐘の音を聞いた。



おいおいおいおいおいおい・・・
誓っちゃったよ、おい。

ゾロは何事もなかったようにその場を離れて、また甲板の隅に座り込んだ。
行き交う船の上では、何組ものカップルがそれぞれ熱いキスを交わしている。

リンゴーン・・・リンゴーン・・・



夕焼けのせいだけではない、半端じゃなく赤い顔をしたサンジのバックで、祝福の鐘は高らかに鳴り響いた。

いつまでも。

END

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