おまけ




「物凄い特異体質だ」
チョッパーはそう言って感嘆するよりなかった。
実際、どんな高度な医療施設で研究されても、この生命体の構造は到底解明されないだろう。

「つまり、常軌を逸した長生きってこと?」
「結論付ければそうなる。長生きというより、生きている時間が短い」
チョッパーの言葉に、全員の頭上にハテナが点滅する。
「どういうわけか、寝ている間は成長してないらしいんだ。眠り=仮死・・・というより、停止。細胞の活動もなければ壊死もない。眠りが時間の停止になってるみたいだ」
「そんなことあり得る?不可能よ」
「まあね、普通はね」

皆の視線が集中する先には、シャワーを浴びてさっぱりとした男が、頬袋を一杯に膨らませて食事の真っ最中だ。
その食べっぷりに幸せそうに目を細め、サンジはいそいそと給仕をしている。


「実際テロメアの短縮は見られない。推定年齢は20代前半」
「うそ!」
「300歳は超えてるはずだぜ、それじゃあ、その内200年近くは寝て過ごしてたってことかよ?!」
「この世には、科学で証明できない不思議も充分あり得るってことさ」
チョッパーは医師らしからぬ口調でそう言い捨てた。
つまり、匙を投げたのだ。

「ただ一つ、今後の問題があるよ」
チョッパーは男・・・ロロノア・ゾロの前に進み出て、じっとその目を見た。
「今まで、好きな寝て起きての生活をしてたから、こんな自堕落な寿命になってたんだよ。これから船に乗って旅に出たら、そんな訳にはいかない」
ゾロはモグモグと咀嚼しながら、そっちこそ珍しい生命体だといいたい言葉を飲み込んで、チョッパーを見返した。
「仲間を持つからには役目も果たさないと行けないし、雑用もあるし闘いもある。日がな一日、どころか何年も寝て暮らすって訳には行かないよ。当然その間はちゃんと成長するし年もとる。多分、只の人間として生きることになる」

眠りながら時を越えてきた男は、果たして耐えられるだろうか。
だがゾロは眉を上げて、ゆっくりと酒を飲んだ。
「そりゃあ願ってもねえ。これからこいつの飯を食っていけるんなら、寝てた今までが勿体ねえくらいだ」
にかりと笑って見上げれば、隣に立つサンジも煙草を咥えたままほんのり頬を染めて見詰め返す。

「あ〜〜やだやだ・・・ほんとに変なモン拾っちゃったわね」
「責任取れよサンジ」
「睡眠時間も、格段に減りそうね」

冷やかし半分、本気半分で嫌がって見せるクルーの前で、うっとりと見詰め合う新しい恋人達の間だけに穏やかな時間が流れていたそうな。


どっとはらい。



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