悪戯な指


そこはえらく物価の高い島だった。
こっそり上陸して偵察したはいいが、素泊まり1泊3万べりー、モーニングセットサービス価格で1,500ベリーだ。

「高いなあおい。キャベツが1玉500べり―かよ。」
サンジの嘆きにナミも眉を顰める。
「ログが溜まるまで32時間。メリー号の中で大人しくしていた方がよさそうね。」
「せっかくの陸なのになあ。」
ぶうたれるクルー達の向こうで、一際機嫌の悪そうな男が一人。
ゾロだ。

せっかくの島だってのによ。
口には出さないが不機嫌のオーラが漂いまくっている。
「仕方ねえじゃん、相部屋でも高えし。」
上陸する度に宿にしけこんでよろしくやってる二人にすれば、結構辛いものがある。
目の前にご馳走がちらついてるのに指を咥えて眺めていなきゃならないルフィの心境だ。

「でもさっきとんでもなく安い宿見つけたぜ。」
ウソップが小声でチョッパーに教えている。
「なんでか一部屋5,000ベリーだ。怪しいと。思わねえか。」
「怪しいって?」
チョッパーが疑問を返す前にゾロが割り込んだ。
「それはどこの宿だ。」

そして、現在、サンジはゾロにその宿に連れ込まれている。






「ったく、急に下拵えだけしとけって、唐突で強引なんだよ。」
ぶつくさ言いながら、サンジはぐるりと部屋を見渡した。
「で、ここが激安の部屋?あーなるほどね。」
壁に掛けられた絵の額を持ち上げて裏を除く。
「ほらな。札が貼ってあるよ。出るぞここ。」
「問題ない。」
「なにが問題ないだ。大体この部屋入った途端、えれー寒くなかったか?今でも鳥肌立ってるぞ、俺は。」
サンジは両手を抱えるようにして腕を摩っている。
「なんだ案外臆病なんだな。」
ゾロの挑発の言葉に案の定、直ぐのってきた。
「あんだとオラ。」
「おばけくらいでビビんのか。なら尻尾巻いて帰りやがれ。」
「てめえ誰に向かって口をきいてやがる。上等だ、泊まってやろうじゃねえか。」
まったく単純な男だ。
ゾロはほくそえんだ。





「落ち着かねーなあ。誰かに見られてるみてーで。」
「見せ付けてやれ、新鮮だぞ。」
「オロすぞ、コラ。」
なんのかんの言いながら、久しぶりのベッドの上で抱き合った。
深い口付けを交わしながらお互いの服を脱がせる。
誰に憚ることもなく時間も気にせずに戯れられるから、火がつくのは早かった。

音を立てて吸い付きながら、ゾロの舌が首筋を辿る。
「そんな・・・がっつくなって」
一糸纏わぬ姿で足を絡めてサンジは身を捩った。
ふつりと立ち上がった乳首を舌で転がして、もう片方を指で嬲れば、いやいやをするように頭を振った。
「やだって、そんなとこばっか・・・」
半開きの唇に噛み付いて指の腹をきつく擦り合わせた。


「・・・あっ」
びくんと、サンジの身体が大きく跳ねた。
金糸の間から覗く瞳が驚愕に見開かれる。
「うわ・・・やだ、ゾロ冷たい・・・」
シーツに投げ出された手が不自然に震えている。

「ゾロ、誰かが・・・触ってるっ」
何を言っているのか。
ゾロは愛撫の手を止めて身体を起した。
「あ、あ、・・・やだ、指が・・・」
「指?どこにだ。」
サンジの火照った身体にさっと朱が走った。
立てた膝頭が小刻みに震えている。

「誰かが、俺のケツ・・・弄くってるっ」
今にも泣き出しそうにサンジの顔が歪んだ。
どうやら身動きもできないらしい。
ゾロは視線を下に落とした。
立てた膝の下で長い脛に隠れた後孔は、ひくついて見える。
だがサンジの言う手や指は見当たらない。

「まだ触ってんのか。」
こくこくと、サンジが首を縦に振った。
「冷てえ指が・・・うわ、多分男だ。太い・・・あ、動かすな・・・」
ゾロはサンジの膝の裏に手を掛けて腰を浮かせた。
明かりを消してしまったから暗くてよく見えないが、不自然に尻肉が波打っている。
刺激されて起立したモノは先走りの露を滴らせて濡れていた。


ゾロは思わずごくりと唾を飲み込んだ。
有り得ない現象ではあるが、確かに今目の前で、サンジは自分のではない誰かの手で愛撫されている。
「・・・く、なんとか、しろっ」
サンジの白い喉が仰け反った。
汗が玉のように浮いて出ている。
「どうなってんだ?」
「知るか、畜生っ・・・入れんな。」
「入ってんのか、何が?」
「指・・・が、2本・・・?、あ、よせ・・・」
くうと喉を鳴らした。
ゾロはすかさず見えない手に弄られている後孔に手をやった。
何かを捕らえた感触はない。
ただそこだけ不自然にひやりとした冷たさがあった。
明らかに入り口は解れている。

サンジはホッとしたみたいにあからさまに表情を緩めた。
「あー・・・あったけえ・・・ゾロ」
ゾロの人より体温の高い指が熱を帯びて粘膜を押し広げる。
慣れた手に安堵してサンジは身体の力を抜いた。
ゾロはサンジに軽く口付けて片手で竿を擦りながら押し広げて行く。
先端から溢れる液を塗り込めるように丹念に解した。

サンジの口から甘い吐息が漏れ、爪先がぴんと筋張った。

「あ・・・」
また震えて身体を硬直させる。
「今度はどうした。」
「嫌だ、や・・・」
膝を合せようとするのを無理矢理広げさせて、ゾロはサンジを覗き込むように伸びあがった。
「誰か、が・・・胸をっ」
「胸?」
見れば、完全に立ち上がった二つのと尖りはいつもより濃く色づいて心持ち大きくなっている。
「なに、されてんだ。」
「誰か、抓んでる・・・や、乳首っ」
感じているのだろう。
差し込んだままのゾロの指がきゅうきゅうと柔らかな粘膜で締め付けられる。

「ま、そっちは任せるか。」
「んだとオ!」
涙目で抗議の声を上げるが、どうした訳か身体は動かないようだ。
好都合だな。
ふるふると泣きながら震える先端をぱくんと咥えた。
「ひぃ・・・や、あ・・・」
指を3本に増やして深く弄れば、あっけなくサンジは暴発した。



小さく痙攣しながら指でも痛いほど収縮を繰り返す。
やはりサンジもいつもより感じているらしい。
口中に吸い込んだ液を掌に吐き出し、猛った自身に塗り付ける。
先端を押し当てると、柔らかな秘部が吸い付くように応えてくる。
「ああ、ゾロ・・・」
感極まったような声に誘われて一気に腰を進める。
熱くて狭くて蕩けるような感触にゾロは夢中で腰を振った。
「ああっ、ああ・・・」
大きく口を開け、サンジが喘ぐ。
投げ出されたままの手は甲で何度もシーツを擦るばかりだ。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて抜き差しを繰り返す秘部の上で再び頭を擡げたサンジ自身が、自らの腹に白い液を滴らせた。
「ああ、やだ・・・舐めてるっ、や・・・」
両手で腰を掴んで抽挿を繰り返しながら反らされた白い胸を見た。
完全に立ち上がった乳首が、片方は不自然に盛り上がり、もう片方は濡れたように光っている。

「やだ、噛むな・・・ん、あ・・・イく・・・」
きゅう一段ときつい締め付けが来て、ゾロは歯を食いしばって耐えた。
サンジの首の後ろに腕を差し入れて無理やり身体を抱き起こす。
「こいつをイかせんのは俺だ!手え出すんじゃねえ!!」

抱えた身体をそのまま落としてより深く埋め込む。
ようやく両手の自由を得たサンジがゾロの頭を掻き抱いた。
「ああっ、深え!ゾロ・・・っ」
柔らかな臀部を掴んで何度も揺する。
「んああ、いい・・・ゾロがっ、ゾロだけっ…」
「クソコック…」

一分の隙もないほど裸胸を密着させて抱き合った。
お互いの体温を感じながら熱を放出する。


暗い部屋の中に獣じみた息遣いだけが響いていた。










時を忘れて貪りあって、倒れ込むように眠った。
目を覚ませばもう時刻は昼を過ぎている。
薄いカーテン越しにきつい陽射しが入り込んで、自然と目が覚めた。
頭を掻きながら起き上がると、隣でサンジも寝返りを打った。

「うう・・・だりい」
シーツを抱え込むように背を丸め、うっすらと目を開けた。
「・・・なんか、夢見最悪。」
「―――夢?」
「ありゃあ、夢だろ。なんか昨夜・・・変だったし。」
「ああ、あれか。」
どうやらサンジは夢で片付けたいらしい。

確かに陽の光で満たされた今の部屋には昨夜の禍々しさは微塵も感じられない。
大体見えぬ手の悪戯など、ある筈がないだろう。
「そうだな、夢だな。」
剥き出しの白い肩にキスを落とすと、サンジはくわっと牙を剥いた。
夜は散々乱れるくせに、太陽が顔を出すと照れの方が勝つらしい。

「ああクソ、風呂入ってくる。」
よいしょとジジ臭い掛け声と共にサンジは身体を起した。
滑り落ちたシーツの下から白い背中が現れる。

「どうした?」
息を呑む気配を感じて、サンジは振り返った。
だがゾロは、開いた目を何度か瞬かせただけで、首を振った。
「なんでもねえ。風呂から上がったら、もっかいすっぞ。」
「アホか!」
肘でゾロの額を小突いて立ち上がった。






しなやかな背中に、ゾロのものではない指の跡が、くっきりと痣となって残されていた。


ゾロは顔を顰めてサンジに聞こえないように舌打ちする。






カーテンの隙間から、忍び笑いが聞こえた気がした。

END

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