I shall please -9-



濡れた服を脱いで、バスタブに放り込んだ。
身体を温めるつもりでシャワーを浴びれば、同じように服を脱いだゾロが身体を重ねるようにして横入りしてくる。
「くっつくな馬鹿」
「すげえ身体してんな」
明るい浴室で見ると、サンジの身体の跡は凄絶と言っていいくらい色濃く浮いて見えた。
もはや蹂躙された後のようだ。
「誰のせいだ」
「俺だよ」
もう意地を張る気力もなくしたようにだるそうに横を向くサンジの、冷えた身体を抱き締める。
寒さのせいか、すでに小さく固くなった乳首に手で触れた。
剥き出しされていたから、ここも“いたずら”されたに違いない。
そう思うとゾロの中に沸々と怒りが湧いてきて、自然指先に力が入る。

「痛え、よ」
サンジは身を捩り、シャワーから噴き出す湯を止めた。
身に沁みた習性で、流しっぱなしの水が勿体無くて我慢ならないのだろう。
「てめえもいたずらする気なら、ベッドに戻るぞ」
「いたずらじゃねえよ」
唾を含んだ舌でじゅっと吸われ、サンジははあと熱い吐息を漏らした。
「やべ、痛えよ」
「昨夜弄りすぎたか」
口先だけで謝っているつもりか、ゾロは腫れて敏感になった乳首に軽く歯を立てる。
痩せた肩が竦んで、身体が自然と後ろに引いた。
「い、やだ・・・」
「感じ過ぎんのか」
逃げる腰を抱いて、すでに猛った己を下腹部に押し付ける。
それに呼応するかのように、固く兆したサンジのものが熱さを伴って押し返した。
「さっきの野郎共にも、そんな面見せたのか」
「んな訳、ねえだろうがっ」
サンジは憤りを抑えず、ゾロを睨み付け怒鳴った。
「好き勝手弄くりやがって、あんな野郎共に何されたって俺が感じるか馬鹿野郎」
「ならこれはなんだ」
ぎゅっと、軽く上から握られた。
すでに芯を持ったそこは適度な弾力を持って、ゾロの掌の熱に包み込まれている。
「勃ってやがるじゃねえか、そんだけ乳首弄られんの好きか」
チロリと長く伸ばされた舌で舐め上げられる。
ゾロの目はどんな表情も見逃さないようにしっかりとサンジを見据えたままだ。
「ち、くびの・・・せいじゃね」
「じゃあなんだ」
じゅ、じゅと唾液を含んだ口内で嘗め回され吸われる。
はああと喘ぐように仰向いて、サンジはずるずると座り込んだ。
砕けた腰を抱えて、ゾロの膝の上に乗せられる。
「気持ち、いいか」
「・・・・・・」
「答えろよ」
ゾロの口調の中に、からかいの色はなかった。
寧ろサンジを見つめる眼差しは真剣で、必死さすら窺える。
その目を見返して、サンジは観念したように薄く笑んだ。

「てめえが、熱いからいけねえんだ」
「あ?」
「体温高えし、こんだけ冷えてっと仕方ねんじゃね?」
ああ、おかしいのは俺の方か。
媚薬を使った訳でもないのに、もうこんなにも力が抜け切ってしまっている。
ゾロが触れただけで、ゾロの視線を感じただけで、身体の芯から何が引っこ抜かれたみたいに腑抜けになってグダグダだ。

ゾロはサンジの乳首から顔を離し、正面に抱き直してじっと顔を見つめた。
サンジは俯いたまま、顔を上げられない。
穴が開きそうなほど強い視線で見つめられているのがわかる。
「・・・なんだよ」
業を煮やして顔を上げたら、掬うようにちゅっと口付けられた。
ゾロらしくない、おずおずとした仕種にサンジの方が調子が狂う。

サンジを抱えたまま、ゾロは浴室を出て身体も拭かないでベッドに直行した。
二人でもつれる様にダイブして、すぐさま身体を起こしたゾロが腹巻の中からチューブを取り出すのに気付きぱっと飛びつく。
「それはやだ、ぜってーやだっ」
必死の形相でゾロの腕に縋りついた。
「そのクスリきつ過ぎる。俺はまた、おかしくなるじゃねえか」
もう、自分が自分じゃないみたいになってしまうから。
それはイヤだ、二度とイヤだ。

そう言って泣き出さんばかりに顔を歪めると、ゾロは目を丸くしてからはははと笑い声を立てた。
「そうか、そうだな。悪かった」
嘘をついて、悪かった。
サンジの前で両手をついて、心持ち頭を下げる。
「これは前のクスリより無害なもんだ。媚薬なんて入ってねえ」
「・・・は?」
「ちゃんとした薬局で買った。成分表示も書いてあるが、チョッパーに見せりゃわかるんじゃねえか」
「んなもん、チョッパーに見せられっか!」
憤慨しつつも、サンジは豆鉄砲でもくらったみたいに目をぱちくりとさせた。
「・・・媚薬入ってねえのに、なんで俺・・・ゆうべ、あんな―――」
答えを求めてゾロを見たら、ゾロはなぜだか嬉しそうな顔をしている。

「その答えは、てめえから俺に教えてくれよ」
さっきとは打って変わって濃厚なキスを仕掛けられて、サンジは結局身体で答える羽目になった。







「昨夜はよく降ったわねえ」
先に船に戻っていたナミ達が、食料を運んできたサンジ達を意味ありげな視線で迎えた。
「結局私たち、ずっとホテルにこもってゲームしたりエステ三昧」
「なに、フランキー達も一緒だったのか?」
てっきり兄貴は大人の遊びをしてるだろうと思い込んでいたのに。
目を丸くするサンジの前で、フランキーは太い腕を組んだ。
「なあに、初日でにっちもさっちも行かなくなってよ」
「そもそも、あのお小遣いは大変不満ですヨホホ〜。遠足だって、バナナはおやつに入らないというのに!」
「意味わからないけど、訴えたい気持ちはわかるわ」
「無駄に出歩かない方がいいんだって、搾り取られてポイがオチよ」
そう言うと、ナミはふふんと倉庫に荷運びをするゾロを見た。
「あんた達は、きっちり搾取されたと思ってたのにね」
「搾取って?」
多少後ろめたくはあるが、そういう意味ではまったく問題なかったサンジは首を傾げた。
「この島はほとんど女性ばかりだったでしょう。第2の女ヶ島とも呼ばれて、滅多に男の子が生まれない土地柄らしいわ。稀に生まれても生殖能力がないそうよ」
ゾロとサンジはそれぞれにはっとした。
サンジは昨夜のごろつき達の言葉を、ゾロは薬局の青年のことを思い出す。
「だから島全体で大きな花街を形成して、せっせと子作りに精を出すってこと。週末には地下でバトルトーナメントを開いて、強い男を選別しては限界まで搾り取るって話よ」
「優秀な種馬を手っ取り早く集めるための手段ね。まあ、勝者にとっては夢の一夜でしょうが」
今度は二人ともバツの悪そうな顔をして押し黙った。
なるほど、いろんな意味で心臓に悪い島だったということか。

「ったく、くっちゃべってないで出港の準備しろよ。ゾロはもう全部運び入れたのか?」
ウソップがいつになく大人びた口調で嗜める。
ナミは肩を竦めて、はいはいと素直に持ち場に戻った。
「女って時々、男より露悪的だよな」
世も末だと言う風に一人首を振っているウソップの顔を、サンジはじっと見た。
「・・・なんだよ」
「で、ウソップ君は大人の階段を昇ったのかな?」
ウソップはどんぐり眼をそのままに、しばし固まったまま表情を変えないでいた。
それから緊張を解すように、ややオーバーアクションで肩を竦めてみせる。
「俺は、俺の階段を昇るだけさ」
「なるほど」
はははと二人して乾いた笑い声を立て、何事もなかったように出航の準備を再開させた。



「ハニービー島とは、よく言ったものだわ」
「女の強かさを思い知ったよ」
「・・・悔いが残る」
「私も無駄弾を撃ちたかった・・・玉ないんですけど!」
「残念だったわね」
「臭かった」
「腹減ったー」

遠ざかる島影を未練がましく眺める仲間達の背後で、ゾロは腹巻から取り出した5本のチューブを大人しくサンジに渡した。
「これの管理は俺がするからな。必要なときのみ使用許可する」
「そん代わり、もう突っ込むだけじゃ済ませねえぞ」
「望むところだクソ野郎」
今までずっと、我慢してた。
昨夜そう白状したゾロを、サンジは泣きたくなるような気持ちで胸に抱き締めた。
誰かをこんなに愛しいとか思ったことは、きっと生まれて初めてだ。



「あ、新しい船」
次の旅行者の到来で盛り上がる港に、鮮やかなドレスの色彩がずらりと並んでいるのが見えた。
彼女達にとって、男こそがこの世の花なのだ。
その花をひらりひらりと舞い渡って、濃厚な蜜を集め命を繋ぐ。
そこに愛はあるのだろうか。
きっとあると、サンジは思いたい。
命の繋がりを形作れない二人の間にさえ、胸が熱くなるような“気持ち”が存在しているのだから。

島から響く賑やかな歓迎の音に気を取られているクルーの目を盗み、サンジの方からゾロにキスした。
これからは、いつもキスから始めたい。
それはサンジから初めて、願ったこと―――



END



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