Insect panic 2


ぱちぱちと木の爆ぜる音がして、サンジは目を覚ました。
目に飛び込んだオレンジの光が巨大な毛虫に見えて、叫びながら飛び起きる。

「うっせえな。」
焚き火の向こうに仏頂面のゾロがいた。
「あ・・・俺―――」
額に浮かんだ冷や汗を拭いて、それから身体を震わせた。
ここはどこだ。
奥行きの浅い、洞窟の中にいる。
外は土砂降りの雨。
ゾロもサンジも、身体はしとどに濡れている。

「途中でバケツひっくり返したような雨が降ってきやがったんだよ。てめえはぶっ倒れてっし、ったく手間のかかる野郎だぜ。」
今度は何も言い返せない。
完璧にゾロに助けられた。
「そりゃ・・・すまねえな。」
身体を起して、びくりと背後を振り返る。
直ぐ側に土の壁。
虫は・・・いねえよな。

手元でかさりと音がした。
反射的に飛び退いて、ゾロにどんとぶつかる。
「なにやってんだ。」
薪の明かりでも、ゾロの額に青筋が浮いたのははっきりと見て取れた。
けどこればかりはどうしようもない。
なんせ背中に目はついていないのだ。
虫って奴は気配もなしに近づいてくる。
気が付けばこんなとこに、って感じの発見が一番嫌だ。

掻き寄せられた落ち葉の間から何かがぴょんと跳ねた。
うぎゃあと叫んで、サンジはゾロの膝に乗った。
「・・・バッタだろうが。」
そうか、バッタか。
バッタなら・・・まだ大丈夫だ。

胡座を組んだ膝に乗ったまま、サンジは肩の力を抜いた。
『いつまで人の上に乗ってやがる。とっとと降りろ。』と云いたいところだが、実はゾロはこの状況を結構楽しんでいた。
なんせ普段クソ生意気な暴力コックが、虫如きにぎゃあぎゃあ喚いて自分に助けを求めているのだ。
もはや恥も外聞もない、素以上に素ボケなサンジはゾロをかなり楽しませた。

―――ここらで弱みを握っとくのもいいしな。
実に最強の弱みだ。
この際、酒を強請る用にゴキブリを飼育しておくのもいいかもしれない。

サンジはゾロの膝に乗ったまま落ち着きなく右へ左へ視線を泳がしている。
どこからか虫が来ないか見張っているようだ。
服を着たままずぶ濡れなので重さは気にならないがサンジが動くたびに水が跳ねて鬱陶しい。
脱がせようと脇腹に手を添えたらうひゃあと悲鳴を上げた。
「な、なに・・・なんだよ、てめえの手かよ。びっくりさせんな!」
虫じゃなきゃいいのかよ。
喉元まで出かけた突っ込みを飲み込む。
背中から抱かかえるように手を廻して、ボタンを外し始めた。

サンジはまだきょろきょろしてゾロのすることに頓着していない。
寒くはないから、濡れたままでも風邪はひかねえだろうが・・・
隙間から手を差し込むと、驚くほどひやりとした感触だ。
やはりサンジの身体は冷えている。
「む・・・虫じゃねえな。てめえだな。」
どこかほっとした声で、サンジは確認した。
胸を探られていることは、どうでもいいのだろうか。
「あったけえな。虫は冷てえからな。」
ぶつぶつと呟いて、またぴくりと背後を振り向く。
「背中は大丈夫だ。俺がいるだろ。」
シャツを脱いで裸の胸を密着させると安心したように身を委ねてきた。
どうにも妙な構図だが、少なくともサンジは気が付いていない。

「赤くなってんぞ。」
「え、どこっ」
身を起そうとする身体を抑えてゾロが背中を撫でた。
つるりとした、綺麗な肌だ。
細かい創がたくさんついている。
思いついてゾロは背骨の辺りをぺろりと舐めた。
「うわあ!なんだなんだなんだっ」
「心配すんな。舐めただけだ。」
「・・・はあ、そうかよ。」
――――いいのかよ。
もう突っ込み所満載だ。

「こっちも赤くなってんな。」
首を抱え込んで胸元を覗き込む。
「ど、どこだ?」
「てめえには見えねえとこ。」
嘘ばかりついて、小さな乳首を指で押す。
「そ、そんなとこ噛まれてんのか。」
片手で顎を抑えられているからサンジは俯けない。
「こんなもん、舐めときゃ治るぞ。」
肩越しに舌を伸ばしてちろりと舐める。
「し・・・沁みる・・・気がする。」
アホか!
ゾロは笑い出しそうな自分を必死に抑えて、サンジの身体を仰向けに倒した。
「俺がちゃんと点検してやっから、お前は天井から何か落ちてこないか見張ってろ。」
先刻の毛虫事件を思い出したのか、サンジは大きく身体を震わせて上に向かって目を凝らした。
真剣に見張っているサンジの無防備な身体を隅から隅まで撫でる。
白磁のような肌は固く締まって、すべらかだ。
ゾロは調子に乗って鎖骨の辺りをちゅうと吸った。
見る見る内に赤くなる。
―――おもしれえ。
肩に胸に、噛み付く勢いで吸い付いた。
晒された乳首も甘噛みして、舌で転がす。
「・・・ゾロ?」
流石におかしいと思ったのか、サンジが身を起そうとする
「腫れてるからな。毒吸い出してやる。」
嘘だ。
腫らせてるのだ。
言われるままちゅうちゅう吸われるサンジの方も、なんだか妙な気分になってきた。
むず痒い気がするのは、虫のせいか?

散々舐めまわして、ゾロはバックルを外して濡れたズボンを引き摺り下ろした。
「えっ、ちょっ・・・」
「あ、やっぱり。ここも赤くなってっぞ。」
なぜか半勃ち状態のそれを軽く扱くと、むくむくと頭を擡げる。
「な・・・なんで触んだよ。」
「でかくしねえと、隅まで見えねえじゃねえか。」
適当なことを言ってくりくりと弄りまくる。
亀頭からじんわりと滲み出た汁を親指の腹で塗りつけると、サンジの口から声が漏れた。
「や・・・やっぱもう、いい・・・」
「だめだ。大事なとこだろが。」

いつの間にか、ゾロの息が荒くなってきた。
男の身体になどこれっぽっちも興味のない、筋金入りのノンケの筈なのに異常に興奮している。
サンジの身体は焚き火の明かりに照らされて、えらくエロい。
片手で乳首を弄りながら強めに扱くと投げ出された足がびくんびくんと揺れる。
膝を立てて袋の裏まで手を伸ばした。
先走りの汁を塗りつけて中を探る。
「ゾロっ、そんなとこは・・・」
「虫ってのは細けえからなあ・・・」
焚き火に向かって足を広げさせる。
ちらちらと影が揺れながらサンジの秘部が露になった。
―――ケツも結構、クるじゃねえか。
鼻がくっつくほど覗き込んで指を捻じ込む。
「い、痛え・・・」
「痛えか?そりゃやばいな。」
やばいのか、と慌てている。
「これならどうだ?」
「・・・大丈夫、かも・・・」
「んじゃこっちは?」
「あ・・・ソコはなんか・・・」
とろとろ溢れる汁を掬っては丹念に押し広げた。
「ダメだな、指だけじゃ奥まで届かねえや。」
ゾロは難しい顔をしてサンジの上に覆い被さった。
足を肩に掛けて腰を浮かせる。
「む・・・虫がいるのか?」
ビビるサンジに一つキスして、にやりと笑った。
「これで追い出してやるよ。」
有無を言わせず腰を突き入れた。







「雨だけで済んで良かったわねえ。」
臨時にできた濁流を避けて、GM号は穏やかな波間に浮いている。
午後になって雨雲はすっかり姿を消し、うだるような暑い空気が島を取り巻いている。
「ところで、あいつらほんとに遅いわね、どこまで行ってんの!」
冒険に飛び出したルフィですら、もう帰ってきているのだ。
まだなのは万年迷子とコックだけで。

「ありゃなんだ?」
森の影から黒い煙が立ち昇っている。
と思ったら、まるで意思を持った生き物のように身を翻してこっちに向かって来た。
「何あれ!」
繁みから人影が飛び出した。
ゾロがサンジを背負って、凄い勢いで走ってくる。
「船を出せ!逃げろ!!」
ゾロが逃げろと叫ぶとはただことではない。
転げるように飛び乗って、慌てて錨を上げる。
担いだサンジを船内に放り込んで甲板に仁王立ちになり、ゾロの刀は宙を切った。








「ハニーハンターの煙草?」
おやまあとロビンが顔を顰める。
「原因はそれよ。寄りによってコックさんが吸うなんてね。」
どたばたのまま出航し、今はキッチンで一息ついている。
チョッパーは温かいミルクを両蹄で抱えて目をぱちくりとした。
「クイーン・オブ・ヌヴォイの蜂蜜は、花の種類もさることながら、採取する蜂の種類にもこだわっているの。
 ハンターはその蜂を見つけるために煙草を吸って虫を寄せ集めるのよ。」
「蜂だけじゃないのか。」
「そうね。」
隣でナミがぶるりと身震いした。
「たくさん集まった虫の中からお目当ての蜂を見つけて、その後をついて行くって訳。だから余程毒虫にも耐性があって、全身びっしりたかられても平気な人じゃないと、ハンターにはなれないのよ。」
ルフィとウソップはほお〜と呑気に感心している。
ゾロはさっきからしゃっくりでも出ているのか、仏頂面のまま腹筋だけがぺこぺこしていた。



かちゃりと扉が開いて、蒼褪めたサンジが入ってくる。
温かなシャワーを浴びた筈なのに、顔は白く目も虚ろだ。
「サンジ、この煙草は捨てた方がいいぞ。」
チョッパーの言葉に、声もなく頷いてぐったりと椅子に座り込んだ。
肌蹴た胸元に無数の朱が散っている。
「随分食われたんだな。虫刺されの薬これだから。」
手渡された軟膏を複雑な顔で見つめて、サンジは渋々ポケットにしまった。
「コックさんには、悪い虫がついたみたいね。」
ロビンが意味ありげな目で笑う。







煙草の効果が消えてもサンジのトラウマはなかなか治らなかった。
眠りについても悪夢をみて魘される。
尋常でない叫び声を上げるので、とうとううるさいと格納庫に追いやられてしまった。
一人で眠っても、やはり虫の夢を見て夜中に目が覚める。
すると何故か隣にゾロがいて、安心させるように隅々まで点検してくれる。
そうして初めて、サンジは安らかに眠れるのだ。



そして今夜も、サンジは悪い虫に食われている。

END

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