祈りではなく-4-


「なっ・・・」
一瞬青褪め、次には真っ赤に頬を火照らせて、サンジはウソップを睨み付けた。
「てめえこの嘘野郎!嵌めやがったな?」
「生憎だが、今の俺にとっちゃお前もゾロも等しく大事な仲間なんだ。お前だけ特別扱いしてらんねえよ」
「この野郎っ」
サンジが腰を上げる前に、ゾロはウソップの横をすり抜け突進する勢いで掴みかかった。

「馬鹿はてめえだ、何勝手なことをほざいてやがるっ」
怒号に竦みあがりながらも、ウソップは慌ててゾロの肩に手をかけた。
「まて、まあ乱暴は・・・」
「うるせえ、畜生!てめえはなんだって勝手に・・・」
襟首を掴み持ち上げたかと思うと、今度は力いっぱい抱き締めた。
ウソップの手が宙を泳ぎ、くるり〜と爪先立ちで身体を反転させる。
「乱闘するのかラブシーンなのか、はっきりしてくれ」
嘆きの声を背中で聞いて、ゾロは腕の中でじたばたもがく身体を押さえつけたまま、首だけ振り返った。
「ありがとよ、恩に着る」
「お前らのとばっちり食らうのは、これで最後にしてくれよ」
ウソップは乾いた笑い声を立てながら、振り向かずに部屋を出て扉を閉めた。








「畜生、離せ!」
「離すか馬鹿野郎。これ以上てめえの勝手になんざさせねえ」
ゾロは久しぶりに抱き締めたサンジの身体を、確かめるようにまさぐった。
片手で腰を抱いたまま、もう片方の手で頬を包む。
サンジは顔を背け相変わらず視線を合わせないが、動揺は隠し切れていない。

「俺のために死にたいだと、どこまで勝手をほざきやがるんだ」
激しながらも、ゾロの口調はどこか優しく、甘い。
「勝手だろ。どう生きようと俺の勝手だ。てめえの気持ちなんざ知るもんか!」
「ああそうか、ようくわかった。もう俺も遠慮なんかしねえ」
後ろ頭を掴んで首元に顔を埋める。
加減なしにきつく抱き締めて頬擦りをした。
「お前がどういう算段でいようが、俺は俺で勝手にやらせてもらう。俺のために死んでみせろ。そん代わり、俺はどんな手段を使ってでもてめえを守る」
「・・・・・・」
「俺がどんだけしつけえか、もう思い知ってんだろ。俺はそれこそ死ぬ気でてめえを守るからな。ずっと俺の傍にいて、俺のために死んでみろ。その日まで俺はお前を守り続ける」
サンジは畏れたように肩を竦ませ、ふるふると首を振った。
「・・・そんなこと、俺は望んじゃいねえ・・・」
「だから知ったこっちゃねえと言っただろうが。俺は俺のしたいようにしてんだ。てめえが自分勝手に生きるなら俺もそうさせてもらう。てめえを一生、手放さねえ」
パン、と乾いた音を立ててサンジはゾロの頬を打った。
「くだらねえことで手を使うな。料理人だろうが」
「うっせえ、てめえこそくだらねえことで足踏みしてんじゃねえ」
返す手でもう一度打とうとして、ゾロに手首を掴まれる。
「あの針だってそうだ。なんだっててめえは自分の手を出しやがる」
「てめえは剣士だろうが!世界一の剣豪になるんだろうが、俺みてえな男に構ってる場合じゃねえだろうが!」
「それをてめえが図るな!いいか、俺はお前を一生愛し抜くなんて誓えねえんだ!」
突然の言葉に、サンジの動きが止まった。

「人の心は変わる。それは俺が一番よくわかってんだ。俺は、くいなと一生添い遂げると誓ったはずなのに、お前に心変わりした」
「―――え・・・」
「お前を抱いて、お前に惚れて・・・俺の心からくいなが霞んだ。だから、誰よりもよくわかってんだ」
サンジはゾロに抱きとめられた状態で、初めてゾロと目を合わせた。
「待って、それって・・・くいなさんが亡くなった・・・からじゃねえの?」
「違う。元々お前を探し出したのはくいなを取り戻すためだったが、結果的にお前に惚れちまった。だがくいなを故郷に連れ帰ることが先決だった。それだけは筋を通さなきゃならねえ。だから、俺はくいなを連れて馬を走らせたんだ。一刻も早く、送り届けるために」


くいなを腕に抱きながらも、後ろ髪を引かれる想いで一心に馬を走らせた。
クロコダイルの元に置き去りにされたサンジは、ゾロの裏切りを知って嘆き悲しむだろう。
クロコダイルは無理やりにでもサンジを犯し、征服してしまうだろう。
それがわかっていても、ゾロには優先すべきものがあった。
くいなを故郷に無事送り届け、きちんと別れを告げなければならない。
例えサンジが自分を恨もうとも、クロコダイルに身体を奪われていようとも、必ず引き返して奪い返す。
腕の中で大人しく抱きついているくいなを見れば胸が痛んだが、ゾロの気持ちはすでに定まっていた。
一刻も早く、故郷に戻るのだ。
それだけを目指して、サンジの声が聞こえた気がしたが、振り向きはしなかった。



「そんな・・・」
サンジは放心したように首を振った。
「城に乗り込んで、お前に再び逢えたとき、俺はこう言うべきだったんだな」
ゾロは切なげに目を細め、サンジを正面から見つめた。

「迎えに来るのが遅くなった、すまない」
「―――・・・」
サンジの目からぶわりと涙が溢れ、頬を濡らした。
震える手で目元を隠すのに、後から後から雫が流れ頤を滴り落ちる。

「永遠の愛は誓えないが、今日この時からお前の命は俺が貰う」
ゾロはぎこちなく首を傾けて、小刻みに震える唇に口付けた。
何度かついばむようにキスを交わし、サンジは顔を覆っていた手をゾロの首の後ろに回した。
何か言いかける唇を深く塞いで、二人縺れるようにベッドに倒れこんだ。








触れ合うのも吐息を分け合うのも、今が初めてのような気持ちになった。
あれほど焦がれた温もりを、手にしていることがまだ信じられない。
抱き締めれば背に回った手はぎこちなくゾロの肌を擦り、そっと抱き締め返してくれる。

興奮に色付く皮膚の上を掌で撫で、添えられた手に指を絡めて節の一つ一つを丹念になぞった。
サンジは切なげに眉を顰めて、喉を仰け反らせ小さく喘いだ。
お互いの呼吸音が、静かな室内に滑稽なくらい良く響く。
感じてしまうのだ。

サンジだけでなくゾロも、ようやく手にした悦びゆえか物理的に肌を合わせることが久しぶりなせいなのか、昂ぶりが押さえきれない。
昨夜のサンジの達し方の早さも、今なら理解できた。
ゾロに触れられることに興奮していたのだ。
性の処理としてでなく、最初から想いが込められていたからこそ、過剰に反応して呆気なく放ってしまった。
それは、今のゾロにも言えるだろう。

「身体ってのは、正直なもんだ」
呟いた言葉に、サンジはぴくんと首を竦めて顔を背けた。
「俺のこと、だよ」
そういう声も掠れてしまって、我ながら情けないと思う。
サンジの手を取り下へ導けば、まるでそこから発火しているかと思われるほど熱くいきり立ったモノに、ひやりと冷たい感触が心地良い。
「・・・こんな、に―――」
顔を赤らめ、恐れ途惑うサンジの顔を見下ろして、ゾロはようやく満たされた気分になる。



サンジを手放してからずっと、ゾロは誰とも肌を合わせなかった。
操を立てた訳ではないが、その気にならなかったのだ。
精神的なものが身体にまで影響することを初めて知って、人との繋がりを軽んじた過去の行いの業の深さを知った。

「サンジ・・・」
名を呼び抱き締めることを許された今が、幸福すぎて信じがたい。
腕の中の想い人は困ったように眉を下げてから、おずおずと俯いた。

湿り気を帯びた舌の感触が敏感な部分をなぞり、驚いて腰を引く。
「・・・・・・!」
逃げるそれを追い掛けて、サンジはゾロの股間に顔を埋め、唾液を含ませた舌でしっとりと舐めた。
只声も無く、ゾロは腹の下で怪しく蠢く金髪の流れを目で追っていた。
ただでさえ暴発寸前にまで追い上げられていたものは、温かな口内でさらに怒張してドクドクと脈打っている。
恐らく、ゾロが過去に経験した娼婦の口淫よりも巧みな舌技を施されている。
眩暈がするほどに強烈な悦楽が背筋を駆け上り、ゾロは背を丸めてサンジの頭を掻き抱いた。

「無茶・・・しやがんなっ、こっちは1年ぶりなんだっ」
サンジはにやりと人の悪い笑みを浮かべて口を開き、ゾロの濡れたペニスを見せ付けるように舌で舐め上げた。
「こちとら丸1年、きっちり仕込まれてんだ。思い知れ・・・」
ぶちっと血管が切れそうになった。
このまま澄ました顔にぶちまけてやりたくなったが、そこは理性で抑え込む。

「―――上等だ」
この1年、伊達にプラトニックで過ごして来たわけではない。
解放された本能の赴くままに、ゾロは低い唸り声を上げてサンジの身体を引っくり返した。
足首を掴み太股の裏に手をかけて、噛み付く勢いで顔を埋める。
悲鳴に近い抗議の声が上がったが、すべて無視だ。

想いが通じた悦びも触れ合える悦楽もとりあえず後回しにして、今は只一刻も早く繋がりたい。
気持ちと身体の相乗効果か、サンジはすでに柔らかく解けていた。
指を入れてまだ少しきつい部分も、唾液を注ぎ息を吹き掛ければ徐々に力が抜けていく。

「ゾロ、もう―――」
濡れた唇から自分の名が呼ばれたことで、理性の箍が外れた。
掴んだ足を大きく抱え上げて自らを静める。

「う・・・あっ・・・」
ずぶずぶと減り込む感覚に上向いたサンジの顔は苦悶に歪んだが、手加減できるほどの余裕はすでにない。
強張り窪んだ腰骨を両手で掴み、ゾロは獣のように身体を揺らした。
無意識に喉の音から呻きが漏れ、野太い咆哮が衣擦れの音と共に部屋に響く。

「ああっ、ゾロっ」
自ら腰を上げ、ゾロの股間に臀部を擦り付けるようにして、サンジもまた唸りを上げた。
「ゾロ、奥・・・奥にっ」
シーツを掴んだ指が白く浮いて血の気を失くす。
逸らされた喉元はどちらのものともわからぬ汗に濡れ、淫乱れた金糸がうねるように貼り付いている。
「ああっ、欲しい・・・ほしっ・・・」
盛り上がった肩甲骨に爪を立て、サンジはうわ言のように叫んだ。

濡れて滑りの良くなった後孔からは、怒張したモノが大きく抜き差しされて淫らな水音を立てている。
「いやだ、イくっ、イ―――」
「くそ、熱イ・・・」
きゅうと根元から絞られて、ゾロは深々と埋め込んだまま胴震いをし、一呼吸置いて細かく律動した。
ぴくんと爪先を痙攣させ、サンジもまた背を撓らせて白い腹に己のものを吐き出している。
「あ―――」
すすり泣くような溜息が喉から漏れて、その音を拾うようにサンジは宙に手を伸ばした。
その手に指を絡めゾロが荒く上下する胸に抱きとめた。




浅黒い肌の上に、斜めに走った醜い刀疵。
その、ボコボコとした荒い感触を手の甲で感じて、サンジは虚ろな視線をゾロへと流す。
「ゾロ・・・」
初めて認めたかのように呆然と呟き、それから花が綻ぶように笑った。

「ああ、ゾロだ・・・」
安堵して目を閉じるサンジを抱き締め、ゾロは漸く全てを取り戻したと感じた。














「ガキの頃は俺より腕っ節が強かった。万年負け知らずで、こっちは身体中痣だらけだったってのに、涼しい顔してやがったな」
薄暗い男部屋で、薄いシーツに包まれて、ゾロはサンジに語り掛ける。
「それでも成長したらそれなりに女らしくなった。負けず嫌いで意地っ張りだったが、やけに素直で可愛いとこもあった。目に力があって、顔立ちも凛々しくて男相手に怯まなくて・・・いや、野郎相手だとムキになって抗うとこもあったよな」
「危なっかしいな」
「ああ、目が離せねえと思った。黙ってりゃ美人なんだ。だが中身が手強すぎる」
あんまりな言い方にくすくすと笑いが漏れる。
「しっかりしてるのにどこか可愛い、綺麗な女だった」
「・・・そう」
指を絡めゾロの胸に凭れて、サンジはとうとう会うことのなかったゾロの婚約者に想いを馳せた。
結果的には、情人だったクロコダイルが死なせた人だ。
こんなことにさえ巻き込まれなかったら、今頃こうしてゾロの胸に抱かれているのは彼女だったと思えば、胸が痛い。

「お前はどうだった?辛いことはなかったか?」
穏やかなゾロの声に促されて、サンジは静かに首を振った。
「辛くは、なかった。痛いことも苦しいことも。あいつは、最初の方こそ強引だったけど、案外色んなことに慣れてないだけだった」
思い出してくすりと笑う。
「奥方もいたのに、寝室で2人きり過ごしたことがなかったってんだ。絶対誰か他にいるって、信じられねえっての。んで、俺が怒ったらきょとんとして・・・何がいけないんだか本気でわかってなかった。常識が抜けてたんだ」
「身辺警護に気をつけてると、そういう生活になるのかもな」
信じられる者は己一人。
自分の城であっても、いつ寝首をかかれるかわからない、極度の緊張状態が生涯続くのだ。

「あいつは、誰も信じなかった。俺のことだって最後まで信じたかどうか怪しいものだ。けど、それでも、俺のことを愛してくれた」
信じなくても愛することはできる。
サンジを思い遣り心を砕き、懐に抱えながら自ら甘えるように頬を寄せて来た。
「幸せ、だった。あいつの愛し方はあまりに盲目的で、人の命をなんとも思わないところがあって、そのことが俺には恐ろしかった。思いもよらないところであいつは動く。俺のためと信じ込んで平気で誰かを傷付ける。そんな愛情はあまりに重たかったけれど、心のどこかで嬉しいとも思った」

あれこそが、まるで子どものような無垢な愛情表現だったのだ。
「俺は今も、クロコダイルを愛したことを後悔していない。あの時、共に逝きたいと願った気持ちに偽りはない。今、こうしてお前の腕に抱かれて眠れるとしても―――」
時折、夢に見るだろう



ゾロは黙ってサンジの髪を梳き、強張った額にキスを落とした。
「それでいい。俺もお前も、すべてを捨てなきゃ生きられない訳じゃないんだ」
ゾロの言葉に、サンジは視線を上げた。
「同じように抱えて生きて行けばいい。くいなもクロコダイルも、お前ごと抱き締めていける」
「忘れなくて、いいのか」
「ああ、俺たちはもう何も失くさなくていいんだ」

こめかみに鼻に、頬に―――
徐々に口付けをずらすゾロの顎を捉えて、サンジから唇を押し付けた。
舌を絡め唾液を混ぜ合わせて、呼吸も鼓動もやがて一つになる。


「もう二度と、離さない」
どちらからともなくそう呟き、重なり合った影は再びベッドに沈んだ。







薄曇りの空の暗さに、つい寝過ごしたことに気付いて飛び起きたのはもう昼前のことだった。
それから慌てて市場に買い出しに出掛け、なんとか食糧だけは確保して船に戻ったのに、集合するはずのクルー達の姿はまだ港に見えない。

「集合日時間違えたっけか?まさか、ナミさんやロビンちゃんに何かあったんじゃないだろうな」
「あいつらのことは心配ないだろ。どっちかってえとウソップの気配りだな」
ゾロの言葉に、サンジは今更のようにうろたえ出した。
「き、気配りって・・・んじゃ何か?てめえとの、その、女性の耳にはとても入れられねえ、破廉恥な関係とかなんとか、まさか全部バラしてやしねえだろうな」
蒼くなったり赤くなったり忙しく百面相しながら、サンジはウロウロと甲板を歩き回っては時折立ち止まり髪を掻き毟っている。
「破廉恥ってなんだ・・・まあ、あいつはそんなことベラベラ喋るやつじゃあねえよ。上手いこと言い包めて誤魔化してんだろ」
「そうか、な・・・」
ゾロが力強く頷いてやると、サンジはその場にしゃがみ込んでほっとした顔をした。

実際のところバレてる以前の問題で、ルフィをはじめ全員がゾロとサンジの経緯を知っているのだが、そのことは当のサンジには知らされていない。
このまま黙っていてやるのが、お互いのためでもあるだろう。



「ってことは・・・そうだよな。これからの俺とてめえだよな」
甲板を見つめて、一人ウンウンと頷き出した。
ゾロは興味深そうにその様をじっと見つめている。
「あのなあ、俺とお前がいきなり親密になると、やっぱ変だよなあ」
この島に着くまで、特にサンジの方がつんけんした態度で接していたのだ。
いきなり目と目で語り合う関係になると、やはりまずいだろう。

「やっぱり、最初はお友達からか?」
「アホか」
ゾロは苦笑して、目の前のキンキラ頭を衝動的に抱き締めたくなった。
可愛い過ぎてどうにかしてしまいたくなる。

「誰もんなこと気にしてねえよ。みんなそれなりに自分のことで手一杯なんだ。てめえで思うほど、人は他人のことを気に掛けちゃいねえもんだ」
「そうか、そうだな」
自意識過剰だったかなと頬を赤らめて反省する様が、またなんとも愛らしい。

サンジの態度よりも、今後の自分の態度をどう押さえるか・・・
そちらの方が、目下のところゾロには大問題だ。








波止場から賑やかな声が響いて来た。
ようやく仲間がお出ましだと、サンジは目を細めて船縁から身を乗り出す。

「やっぱり、示し合わせて来たんだな」
「ああ〜ナミさんとロビンちゃん、遠目にもなんて麗しいv」
両手をパンと合わせくるりとその場で回転して、サンジはクナクナおかしな動きを見せている。
ゾロは反射的にむっとして、背後から船縁に掛けた手を覆うように掌を重ねると、白い襟足に口付けを落とした。

抵抗するかと思ったが、サンジはゾロに頭を凭れる様にゆっくりと首を傾ける。
長い前髪がさらりとゾロの睫毛に触れて、寄せられた唇から吐息と共に言葉が流れ出た。




「もう、誰も愛さない」
鼻が触れ合うほどに近くに寄りながら、ゾロは軽く目を瞠った。

「―――お前以外は」



言葉にすればそれは―――
祈りではなく誓い。





何故か胸が締め付けられるように痛んで、ゾロはサンジを抱き締める。
くすりと笑いの形に歪んだ唇を、掠めるように塞いだ。
船縁に凭れ、ずるずるとすり下がるにしたがって、口付けが深まっていく。
床に尻もちをついて、サンジは覆い被さったゾロの腹を軽く蹴り上げた。


「ばっか、これ以上はお預けだ」



次第に近付いて来る聞き慣れた笑い声と、冷やかしの口笛。

ゾロを見上げるサンジの笑顔は、雲の切れ間から差し込む光よりも輝いてみえた。



END



TOP