生ける骨と美魔女のおはなし -6-


アルビダはゾロと、その腹巻の中にちょこんと入って畏まっているサンジを見て眉根を寄せた。
「なんだい、こいつら」
「見覚えがないのかしら」
ロビンはそっと手を伸ばし、サンジを掌に乗せて持ち上げた。
「貴女が昔、呪いを掛けて小さくしてしまった夫婦の間に生まれた、男の子よ」
「・・・ああ」
赤いマニキュアで彩られた指先を顎に当て、アルビダは黒曜石の瞳を見開く。
「あの生意気な夫婦だね。嫁の美しさを自慢して、こともあろうに私を引き合いに出した」
「・・・すみません」
両親に成り代わり、殊勝に詫びるサンジにゾロがけっと横を向く。
「たかが引き合いに出されたぐらいで魔法かけるなんざ、大人気ない」
「なんですって?」
アルビダの額に癇性な青筋が浮くのに、ブルックがまあまあと割って入る。
「この件に関しましては、私もゾロさんと同意見です。アルビダ、貴女そんなに目も眩むほど美しくなっているのになぜ些細なことで腹を立てるのですか。・・・私眩む目もないんですが、それでもメロメロですよ」
言われて、アルビダは悔しげに下唇を噛んだ。
「どうせあんたは、昔の私を知っているしね」
「今も昔も、私にとって貴女は対して変わりない。癇癪持ちで乱暴で、我侭で子どもっぽい」
「なんですって?」
「まあまあまあ」
サンジが、ロビンの掌の上で両手を振った。
「それで、私の回復魔法で両親は元の大きさに戻せたんだけど、この子は小さいままなの」
ロビンに話を戻され、アルビダは舌打ちしながらサンジに向き直った。
「どうにかして、この子に掛かった呪いも解けないかしら」
「呪い?この子に呪いなんか掛かっちゃいないさ」
アルビダはこともなげに言い放った。
「あたしが呪いを掛けたのは、この子の両親にだけ。小さい親から生まれたから、この子は小さいんだ。恨むんなら、罰を受けて身体が小さいのに子どもを作るような真似をした両親を恨むがいい」
「アルビダ」
ブルックが、短く叱咤するようにその名を呼ぶ。
サンジはしょぼんと項垂れ、ロビンが痛ましげに眉を寄せた。
「親が睦み合って子を成すのは自然の摂理だ、お前が呪いを掛けていようがいまいが、責める筋合いはない」
きっぱりと言い切ったゾロに、アルビダがぎろりと睨みを利かす。
「さっきから生意気な男だね。あんたはなんなの」
「アルビダは憶えてないの?この人も貴女に呪いを掛けられた一人よ」
「はあ?そんなの一々憶えてなんかないわよ」
「一体どれだけの人間に、呪いをかけてきたんですか貴女」
ブルックの呆れた声に、ツンとして横を向く。
「ゾロの記憶も定かじゃねえみたいなんだけど、どうも貴女と出会ってから方向音痴になったみたいなんですよ」
サンジは一生懸命背伸びして、アルビダに訴えた。
「ロビンちゃんの回復魔法でも解けなくて、どうしたらいいかと」
「回復魔法でも、解けない?」
アルビダは振り返り、じっとゾロの顔を見た。
それから「ああ」と声を出す。
「そう言えば、10年ほど前生意気な口を利く迷子がいたねえ・・・ああ、こんな緑頭だった。人のことおばさん呼ばわりして」
「ん?そういや、あんたは領主の嫁じゃなかったか?」
「あんなの、たまの暇つぶしで居座ってただけさ」
アルビダはせせら笑い、ゾロを指差した。
「どっちにしろ、あたしは呪いを掛けた覚えがないよ。ロビンの回復魔法が効かないってこと自体、そういうことだろ」
「・・・やはり」
ロビンが頷き、サンジはええ?と驚いてゾロを見上げた。
「ゾロ、お前迷子の呪いに掛かってるんじゃないのか?」
「なんだその呪いは」
「だって、呪いとしか言えないだろう」
戸惑うサンジの頭を、アルビダの人差し指がツンとつついた。
「私が出会った時、こいつはすでに迷子だったんだよ。でかいイノシシだかなんだか担いで同じとこグルグル回ってて。ああそうだった思い出した」
言って、感慨深げにゾロを眺める。
「あんなちっこかったガキが、こうもいい男になるものかねえ。確かに瞳は、全然変わってないねえ」
ぺろりと舌なめずりさえして見せて、ゾロは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
「どちらにしろ、ゾロの迷子体質も直せないということね」
「新たに魔法を掛けるしかないだろうね」
ロビンとアルビダが額を突き合わせてささやき合うのに、サンジが遠慮がちに片手を挙げた。
「あの、ゾロの迷子を治してっていったら、魔法を掛けてくれるのかな」
口にしてから、慌てて両手を振る。
「あの、勿論俺ができる範囲でのお礼しかできないけど。こいつ、このままだと志半ばで野垂れ死にしそうで・・・」
「んな訳あるか」
「あるんだよっ」
噛み付くように怒鳴るサンジに、ロビンは腰を屈めて視線を合わせた。
「もちろん、方向音痴が治る魔法を掛けることは可能よ、優しいコックさん」
「ほんと?」
「でも、方向音痴が治ったお陰で、この先ゾロは目的地に迷いなく辿り着くことになるわ」
「それは、よいことではないのですか?」
ブルックが口を挟む。
ロビンは意味ありげにゾロとサンジを見た。
「例えば、貴方方二人が出会ったのもゾロが道に迷って彷徨っていたからじゃないかしら」
「・・・あ」
「二人が出会って一緒に旅をして、そうして今度は貴方と出会った。そうでしょう?」
ロビンが言うと、ブルックが大きく頷く。
「そうです、その通り。お二人が通り掛ってくださらなければ、私は今も鳥葬の場で死体の振りをして寝て過ごしています」
「そしてこの村に来て、私達とも出会った」
ロビンはフランキーと顔を見合わせ、優しく微笑む。
「ゾロの迷子気質はそれは厄介かもしれないけれど、そうして得た彼の出会いは決して無駄なものではないと思うの。彼が生まれ付いて得たそういう特性をなくしてしまうのは、彼にとって本当にいいことなのかどうか」
ロビンの言葉に、サンジははっとして顔を上げた。
ゾロと目が合う。
「ゾロが迷子になってねえと、俺と出会うことはなかったんだな」
鳥の巣に落とされて、その日の夕方には餌になっていたかもしれない。
高い樹の上から降りられなくて、巣の中で日干しになっていたかもしれない。
どちらにしろ、今こうして生きてはいなかっただろう。
ゾロと出会えたから、今の自分がここにいる。
「どう?」
「そうだね、ロビンちゃん」
サンジは大きく頷いた。
「無理をしてなにか代償を払ってまで、叶えなきゃならない願いじゃないんだ」
「大体、俺は別に不自由していないぞ」
ゾロの言葉に、ブルックがヨホホ〜と笑う。
「貴方は自覚がなくても、コックさんが心配なんですよ」
「そんな心配ねえだろ、こいつがいつも傍にいてくれたら」
ゾロが言い返し、サンジはぶほっと顔を赤らめた。
あらあらまあまあと、ロビンもフランキーも目を細める。
ブルックもぽっかり空いた眼窩を細めるようにして、歯を鳴らして笑った。
「ヨホホ〜それが一番ですね、なんら問題ナッスイング」
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
アルビダはは一人不機嫌そうに、赤い唇を突き出した。


「とんだ濡れ衣だっただけじゃないか、あたしはもう行くよ」
アルビダが立ち上がろうとするのを、咄嗟に手を伸ばしたブルックが止めた。
真っ白な骨が美女の手首を掴む、シュールな光景にサンジはなんとなくドキドキする。
「せっかく会えたんですもの、ゆっくりしましょうよ」
ロビンも執り成すのに、アルビダは素っ気無かった。
「いやよ、こんな死に損ないの顔なんて見たくもない」
言って手を振り払おうとして、できなかった。
ブルックがしっかりと手を掴んでいる。
肉も表情もないしゃれこうべから感情は読み取れないが、じっとアルビダを見つめているのは雰囲気でわかった。
「会えて嬉しかったよ、アルビダ」
「・・・」
アルビダは形のよい唇を噛み、忌々しげに床を睨み付けている。
けれどほのかに、目元が赤い。

「結局、ブルックは救われないのかな?」
サンジがそっとロビンに問えば、ロビンは曖昧に微笑み返した。
「彼に、救いが必要かしら?」
「え―――」
空気が揺らぎ、熱を伴わない朱色の炎が部屋の中で翼のようにはためいた。
翼の中に包まれるようにゆっくりと、アルビダが中空に浮き上がる。
「アルビダ・・・」
「好きに彷徨うがいいわ、私が生きている限り」
「ヨホホ〜そうですね、私がこうしている限り・・・」
アルビダの真っ白な手が、最後までブルックの骨の中に残されていた。
名残惜しげに離れ、目も眩むような光と共にアルビダの姿は消え去った。
後には、南国の花のような芳しい香りだけが残される。



「行ってしまったわね」
「なんだったんだ」
「派手な姉ちゃんだったな」
迷惑そうなゾロとフランキーの隣で、ブルックはアルビダの手の感触を思い出すかのように黙って自分の手を握り締めている。
サンジは哀しくなって、ロビンを振り仰いだ。
「折角呼んでもらったのに、ごめんね」
「いいえ、会えてよかったわ。アルビダにも、ブルックにも」
「え?」
よかったの?と振り向けば、ブルックはうんうんと頷いている。
「お陰で、私がこうして死なずにいる意味がわかりましたヨホホ〜」
「え、自分でまじないを掛けたからじゃないのか?」
サンジがぱちくりと瞬きをすれば、ロビンがふふふと意味ありげに笑う。
「血契りの契約は、ただ単に愛を誓うだけでは成り立たないの」
「そうなの?」
「お互いに相手のことを思いやり、お互いが誓いを立てなければ、成立しないのよ」
ロビンの言葉を聴いて、サンジははてと考え込んだ。
ゾロもフランキーも、当のブルックでさえ動きを止め首を傾げている。
「ロビン、もっかい説明してくれるか?」
フランキーが代表して教えを乞えば、ロビンは悪戯っぽく口元を綻ばせた。
「アルビダとブルックが離れ離れになって、ブルックが誓いを立てたようにアルビダもまた、誓いを立てたのでしょう。ブルックのことを想って」
「え?」
「あ?」
「なんと!」
「そりゃスーパーな両想いじゃねえか!」
いい年して骨にまでなっている大人を前に、両想いなんて単語が飛び出すとは思わなかった。
だがまさに、これは紛れもない純愛。

「そのころ、アルビダはまだ魔力を手に入れておらず魔女でもなかったと思うわ。けれど恋い慕う気持ちは強かった。自らの身体を傷付けてでも血を流し、誓いを立てたのよ。どこかで必ず逢えるようにと」
「アルビダが・・・」
呆然と呟くブルックの目は、わからなくとも確かに虚空に消えたアルビダの姿を追っている。
「アルビダ自身も、まさかその誓いがずっと効力を保っているとは思っていなかったのでしょうね。自分は魔女となってほぼ永遠に近い生を生きる。若く美しいまま。けれど、ブルックは骨となり塵となっても死に切れない。アルビダが生きている限り」
残酷な結末だ。
けれど、この誓いが成就したことに変わりはない。
そしてその事実が、二人の中で喜びを持って受け入れられた。
「え、喜んでたの?」
さすがのサンジにも、乙女心はわからなかった。
「とっても嬉しそうだったわよ。去っていく時の翼は薔薇色だったじゃないの、あんなに盛大に照れてるアルビダは初めて見たわ」
「あれ、照れてたのかよ!」
フランキーの叫びももっともだ。
なんだ、ただのツンデレだったのか。

「折角再会できたのに、もっとゆっくりすればいいのに・・・」
「また、会おうと思えばいつでも会えるわ。だって二人は生きている限り生き続けるのよ」
ロマンティックな話ではあるが、いつまでも若く美しいアルビダはともかく、骨だけになって滅ぶこともできないブルックは切ない。
そう思って胸を痛めるサンジの隣で、ブルックはすっかりフランキーと意気投合していた。
「私も、貴方のようにいっそ頑丈なボディを作っていただきましょうか」
「おうそりゃあいいなあ。だがその素材を隠すのは勿体ないぜ」
「一人で暮らしていれば奇異な目で見られるでしょうけど、私達と一緒にいれば、そうでもないのではないかしら」
ロビンがそう言い、グラスを傾けた。
ブルックはワインを注ぎ、よろしいのでしょうかと窺うように顔を上げる。
「紫の魔女様と、ご一緒させていただいても?」
「魔女のお供は箒と黒猫と相場が決まっているけれど、ロボと骨でも同じようなものではなくって?」
「違いねえ」
フランキーが笑い、ブルックはボロボロの服の袖で目元を擦ってヨヨヨと泣いた。
「ああありがたい、私にも仲間ができたのですね」

サンジは若干複雑なものを感じたが、確かに自分達と行動を共にするよりは魔女であるロビンの側にいた方が違和感がないだろう。
もっと目立つフランキーが一緒なら、尚更だ。
「ロビンちゃんと一緒に行くのか、ブルック」
「はいそうします。ここまで導いてくださってありがとうございました」
恭しく礼を言うブルックのグラスに、サンジは自分の小さなグラスをカチンとかち合わせ祝福した。


       *  *  *


明け方まで飲んで騒いで歌っていた。
ゾロの腹巻の中で宴を楽しみ、途中でことりと眠ってしまったサンジはアルビダが帰って後のことを余り覚えていない。
ただ、規則正しい生活故かいつもの起床時間には目覚めてしまった。

柔らかい腹巻の中で何度か寝返りを打ち、むっくと起き上がる。
部屋の中は分厚いカーテンが引かれ、まだ薄暗かった。
けれど気配で朝が訪れたとわかり、サンジはまだ眠い目を擦りながら辺りを見渡す。
サンジが眠っていた腹巻の主、ゾロは当然長いすに寝そべってぐうぐうと寝入っていた。
その向かいにフランキー、それに凭れるようにしてブルックが行き倒れている。
「・・・ロビンちゃん?」
ロビンの麗しい寝姿がなくて、サンジはごそごそと腹巻から這い出るとゾロの太股から膝を伝って床に飛び降りた。
トトトと絨毯の上を駆け、扉の隙間から外に出る。
中庭へと続く廊下を歩いていると、見事な薔薇園が現れた。
樹々の間から零れ落ちる朝日を浴び、スラリとした後ろ姿が花の間から覗いた。

「ロビンちゃん」
「あら、コックさんおはよう。早起きね」
トトトと足元に駆け寄るのに、ロビンは腰を屈め手を伸ばして、サンジを掬い上げた。
「ロビンちゃんこそ、随分早起きだね」
「薔薇の朝露を集めていたの、美容液に使うのよ」
いかが?と指先に付いた雫を差し出された。
サンジが両手で受け取り、顔を洗う。
ほのかに薔薇の香りが広がって、ぱっちりと目が覚めた。
「ますます艶ピカのお肌になったわね」
「ロビンちゃんこそ」
きゅきゅっと乱暴に顔を拭い、ロビンの肩によじ登った。
「レディの肩に失礼。でも朝露集めの邪魔をしちゃいけないから」
「もう終わるわ」
ロビンは華奢な硝子瓶に蓋をして、掌を翳すと霧のように溶けて消えた。
サンジには、なにがどうなっているのかさっぱりわからない、鮮やかな魔法だ。

「この庭、薔薇の匂いに満たされてるけど、昨夜嗅いだ南国の花のような匂いも漂ってるね」
なんの気なしにサンジが呟くと、ロビンは細い肩を揺らして笑う。
「さすがねコックさん。ついさっきまでアルビダがいたのよ」
「え?」
驚いて、ロビンの顔を間近で振り返る。
「暁と共に再び現れたの。彼女、とっても感謝していたわ」
アルビダは、素の表情をロビンにしか見せないのだろうか。
どちらにせよ、そんなに気楽に行き来できるのならこの先も心配ないということか。
「それで、お礼にこれを・・・と預かったのよ」
ロビンの掌に、ぽんと小さな巾着が浮かんだ。
サンジが持って丁度いい大きさくらいだ。
受け取って中を覗くと、丸薬が一粒入っている。
「それを飲むと一日だけ、身体が普通の大きさになるんですって」
「ええっ?」
サンジは驚いて、ロビンと巾着とを交互に見た。
「時間はきっかり24時間。薬は一粒しかないから、よく考えて飲むといいわ」
「いいのかな、こんなの貰って」
「魔女からのプレゼントに等価交換は必要ないわ。彼女なりの精一杯のお礼の気持ちなのよ、受け取ってあげて」
サンジは慎重な手付きで巾着を絞ると、大切に懐に仕舞った。

「魔女になると、色んなことができるようになるんだね」
「もともとの才能もあるでしょうし、自分の体質に合った魔力の見極めも大事よ。アルビダの場合は黒い力が源だから、彼女が闇雲に人に呪いをかけたり後先考えずに人間の欲望を叶えたりすればするほど、彼女の力は強くなるの」
「・・・傍迷惑じゃない?」
「人間にはね」
ロビンは邪気のない笑みを浮かべる。
「私の魔力の源は白い力。貴方もそうよ」
「俺もかい?でもこれはロビンちゃんから授けてもらった、食べものを大きくするだけの力だろう?」
「きっかけは私だけれど、貴方は着実にその力を強くしているわ。今まで旅を続けている間にも、白い力は溜まっているみたい。貴方の生来の性格が幸運を呼び寄せているのでしょう」
「・・・ゾロと、出会ったのも?」
「もちろんそうよ」
ふふ、と笑うロビンにサンジはほんの少し頬を赤らめ、懐に入れた巾着をぎゅっと握った。

「黒い魔力でアルビダ姉様はどんどん強く美しくなる・・・彼女が美しくなった代償とかは、必要なかったのかな」
「それは必要ないわ。だって、自分の力で自分を変えることは、魔女でも人間にでも可能で自然なことよ」
「・・・そうか」
ストンと納得して、サンジはロビンと一緒に朝の散歩を楽しんだ。
このまま白い力を蓄えて行って、いつか魔法使いになれるのかもしれないと考えてみたが、いまいちピンと来ない。
それより、懐に入れた巾着の中の薬で頭がいっぱいだった。
これをいつ、どうやって使おうか。


   * * *


「もう、行ってしまわれるのですか?」
「充分のんびりさせたもらったよ。ありがとう」
村人達に見送られ、ゾロとサンジは再び旅をするため屋敷を出た。
「ロビンちゃん達はゆっくりしててね」
「また、どこかで会いましょう」
「元気でな」
「本当にありがとうございました、このご恩は死んでも忘れません・・・もう死んでますが」
ブルックは、サンジの小さな手を取ってヨヨヨと泣いた。
魔女祭りは1ヶ月間行われるため、ロビン達はその間この村に滞在し、村人達や訪れる人に祝福を授ける。

「また、アルビダ姉様に会えるといいな」
「ええ、その時はぜひパンツを見せてもらいます!」
ブルックの決意を聞き、サンジは笑って手を振った。
「じゃあな」
「また」
ゾロも、見送りの人に軽く手を上げ踵を返した。
サンジは腹巻の中を移動して、ゾロの背中から小さな手を精一杯振る。
「気をつけてなー」
「迷子になるなよー」
「お達者でー」

村が見えなくなるまで手を振って、またよじよじと腹巻の中を移動しゾロの前に戻る。
見上げればいつもと変わらぬ、真っ直ぐ前だけを見つめるゾロの顔があった。
「また、二人旅に戻っちゃったな」
「そうだな」
ほんの少し寂しいけれど、ブルックのためにはこれがよかったのだろう。
「しょうがねえよな、お前には俺がついてねえと」
「・・・頼りにしてるぜ」
ゾロに言われ、サンジは腹巻の縁に肘を乗せてふふんと得意気に笑った。



End