氷面鏡



恵方巻がすっかり定着した感がある節分を迎え、サンジは今年もカフェメニューに恵方巻もどきを加えた。
去年はロールケーキだったから、今年はエクレアにしてみよう。
食べやすいよう小さく細めで、クリームも固めに作る。
チョコやアイシングでカラフルに飾り付けてショーウィンドウに並べたら、訪れる女性客に好評だった。
「今年は南南東ね」と、揃って同じ方向を向いて無言でもぐもぐエクレアを食べる姿は、なかなかにシュールだ。
ゾロと自分の夜用に、サンジは少しだけ大き目のエクレアも作っておいた。
去年みたいにおかしなことを言い出したら、これを出して誤魔化してしまおう。
そんなサンジの苦肉の策は、ゾロから見れば子ども騙しにもならない。



「今日は節分だな」
夕食の後、やけに爽やかな笑顔でそう問われ、サンジは阿吽の呼吸で煎り豆を取り出した。
「今年も年の数ほどは食べられないけど、行事的にやろうな」
「・・・まあ、それも大事だな」
二人してパジャマ姿のまま、縁側のサッシを開け放して申し訳程度に豆を撒く。
風太は尻尾をピコピコ跳ねさせて飛び回り、颯太はなにごとかと耳を寝かせて小屋の中に引っ込んでしまった。
「福はーうち、鬼も〜うち」
「うおーさびさび、もう仕舞いだ」
「この根性なしめ」
仕事絡みだとどんなに暑かろうが寒かろうが平気な顔をしているくせに、遊びや行事ごとではゾロはすぐに音を上げる。
けじめを付けるのはいいが、メリハリの基準がよくわからない。
「さて、それじゃあそろそろ縁起を担いで、今年は南南東を向いて太巻き食うか」
サンジが太巻きなど用意していないことを見越して、そんなことを言う。
すかさず立ち上がり、冷蔵庫からエクレアを取ってきた。
「今年はこれな」
じゃーんと皿ごと眼前に突き出せば、ゾロは瞳を眇めてわざとらしく首を振った。
「これは明日のおやつだ。まずは太巻きを食う」
「ねえよ、太巻きなんて」
「今年は細巻きにするぞ」
意味がわからない。

ゾロはサンジから皿を受け取るとラップを被せ直し、いそいそと冷蔵庫に仕舞いに行ってしまった。
一体なにをさせられるのかと、サンジの方は気が気でない。
「また去年みたいに、俺に太巻き食わせる気かよ」
思い出すと恥ずかしくて、このまま布団を被って寝てしまいたくなった。
そんなサンジの頭をポンポンと叩き、ゾロは慰めるように優しく声を掛ける。
「いや、今年は俺が食う。とりあえず、太巻きは食いやすいように立ってろ」
―――はい?
きょとんとしたサンジに、ゾロは悪い笑みを投げ掛けた。


「これもう罰ゲームじゃね?」
サンジは寝床に棒立ちになってパジャマの裾を握り、状況の恥ずかしさに身悶えていた。
「今回黙って食うのは俺の方だからな、お前なに喋っててもいいぞ」
「俺一人喋ってたら、恥ずかしさ倍増だって」
「俺にもなんか言ってもらいたいか?」
「いいよ、なんも言うなボケ」
茹蛸みたいに真っ赤になりながらも、ゾロが言うままに立ち尽くしているのが可愛らしい。
パジャマの裾を持ち上げると、ズボンの前がこんもりと膨らんでいた。
なんのかんの言って、サンジ自身もすでに興奮しているのが丸わかりだ。
「お、なかなかの太巻き具合・・・」
「もう黙れ」
頭頂部をぱこんと拳骨で殴られるのに、ゾロは笑顔のまま頷いてズボンの前部分だけ引き摺り下ろした。
サンジのかわいい太巻き?がぺろんと顔を出す。
ゾロは繁々と間近で観察した後、息を吹きかけ、舌を長く突き出して丁寧に舐めてから口に含んだ。
そこまでの一連の動作だけでサンジの先端からは露が滲み出し、身体はふるふると震えている。
「いちいちやーらしーんだ、アホウ」
ほとんど半泣きになりながら、それでも健気に立つ姿はあっぱれな太巻きっぷりだった。

「・・・ふ、く・・・うぅっ」
ゾロの髪を掴んだり引っ張ったりして、サンジはなにかを必死で訴えようとしている。
無言で食べるのはゾロの役目だから、言いたいことがあるなら言えばいいのだ。
なのに沈黙のゾロに引き摺られたか、サンジはまともに言葉も発しないで先ほどから悶え続けた。
「だ、めだって、もう・・・」
自ら腰を押し付けてかくかくと振っている。
それなのに、ゾロは根元の辺りをきゅっと押さえて口淫を繰り返すからもどかしくてたまらないのだろう。
それでいてゾロのもう片方の手は脇腹から胸へと伸び、すでに硬くシコった小さな尖りをゆるゆると弄っていた。
サンジは壁に凭れることも畳にしゃがむこともできず、ただ両足を踏ん張って立ちながら身をくねらせている。
「もういく、いくって・・・」
いきたいいきたいとくねらせる足の間から、ゾロの唾液が垂れ落ちる。
それを指で掬って、サンジの背後に手を回した。
「ふぁ、ん」
一際高い嬌声を放ち、仰け反るサンジの後孔をじんわりと解してやった。
濡れた指は難なくサンジの中を入り込むと、待ちかねたように熱く締め付けて来る内部を徐々に奥へ奥へと侵していく。
「はぁ、だめ、そこっ、だめっ」
サンジの声が切れ切れになり、語尾が擦れてきた。
いよいよ絶頂が近いと、ゾロの指の動きもさらに強く大胆になる。
「・・・あぁ、い、そ、こ・・・い、いいい―――」
きゅっと強く吸いながら指でゴリゴリ擦り上げ、快楽の逃げ場へと誘導する。
サンジは膝から崩れ落ち、ゾロの髪を掴んで仰け反った。
「ああぁ―――」
ゾロの口の中に突き入れながら、胴震いを繰り返す。
荒い息遣いは獣のようで、見開いたままの瞳は虚空を見つめ焦点が合っていない。

ゾロはたっぷり吸い尽くした後、名残を惜しむように舌で舐めてから口を離した。
「ごちそうさんでした」
仰向いたまま羞恥に震えるサンジは、そのしてやったり感溢れる顔を、涙目のまま睨み付ける。
「節分ってこういうんじゃないだろー」
「でも気持ちよかっただろ」
古来からの行事は気持ちよく活用しなきゃなと都合のいいことを嘯いて、ゾロはサンジの身体をころんと裏返した。
「今度はお前に食わせてやっから、南南東向いてろ」
「なんか違う、ぜーったい間違ってる!」

サンジの叫びも虚しく、今年の節分も実に熱く仲睦まじい夜が更けていった。



End