ハロウィンの日


「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ」
と、可愛く言わなければならない。
サンジがハロウィン・パーティで引き当てたくじには“可愛い狼人間”が台詞付で書いてあった。
狼人間なのに、とにかく可愛く。
そんなこと言われても、可愛いレディならどれだけでも並べたられるのに、可愛い狼人間(男)なんてこれっぽっちも思いつかない。
だからサンジは、とりあえず犬の耳と尻尾を身に付けて、頭にリボンを結んでもらった。
これで“可愛い狼人間”をクリアしたと思ってもらおう。

「Trick or Treat!」
お菓子を貰う側のはずなのに、なぜかサンジの元にはお菓子をねだる友人達が絶えなかった。
そのためにパンプキン・マフィンやクッキーを焼いて持ってきているサンジもサンジだ。
可愛い狼人間の腕にはバスケットが下げられ、中にたんとお菓子が入っている。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞおおお」
猛々しく襲い掛かる男連中には蹴りをお見舞いし、お菓子を渡すのを渋った。
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするわよ」
可愛くおねだりしてくる女子には鼻の下を伸ばし、「いたずらされた~い」とクネクネしてみせる。
それでいて、女の子の頼みは断れないからホイホイお菓子を渡してしまうのだ。
結果、男にはイタズラされまくり女の子には菓子だけ巻き上げられさっさと去られる、いわば自業自得の憂き目に遭っていた。
サンジは気付いてなかったけれど。

「お菓子はいらないからイタズラしちゃおう」
「うるせー食欲魔人、これでも食って去れ!」
迫り来る先輩の顔にクッキーを投げ付けるサンジの背後には、でかいカボチャを頭から被った腹巻男がずっと寄り添っていた。
サンジが防ぎきれない魔の手を、それとなく、けれど的確に叩き落とし平然と立っている。
“変態のジャック・オ・ランタン”と不名誉な役回りに当たったゾロだが、頭にカボチャ&腹巻姿一発でクリアだった。
台詞は「お菓子をくれないとしばくぞ」だ。
だが、お菓子とは関係なくサンジに手を出す男を軒並みしばき倒している。

「ゾローてめえも突っ立ってないで、どっかでお菓子ゲットして来いよ。俺の分まで」
本末転倒でお菓子配りに忙しいサンジに、ゾロは仏頂面のままむうと下唇を突き出した。
「Beer or Whisky」
「どんな選択肢だそりゃあ」
サンジは呆れて笑いながらバスケットの底に隠してあったチョコを取り出し、包みを解いてゾロの口に放り込んだ。
「ウィスキーボンボンで、我慢しとけ」
手を離す直前に、ゾロの舌が指先をぺろりと舐める。
驚いて手を引く前に、がっしりと手首を掴まれた。
「爪の付け根か?それとも手の甲か?」
「は?へ?」
なにを問われたのか咄嗟にわからず、目を白黒させながら「爪?」と答える。
ゾロがそっと手を引き寄せ、爪の付け根にキスを落とした。
――――うわわわわ
焦るサンジに、更に畳み掛けるように質問を繰り出す。
「瞼の上か、鼻先か?」
「ま、ぶた?」
後頭部を掴まれて、額にぷちゅっと口付けられた。
「うなじか、鎖骨か」
「う・・・」
鼻が触れそうなほど至近距離で見つめられ、サンジは真っ赤になってしどろもどろだ。
答えを聞く前に、ゾロの顔が更に近付く。
「×××か、○○○か?」
「~~~~~~~~~!!!」


「お前ら、もう帰れ」
傍らでウソップが冷たく言った。



End