花の下に吊るされた男を拾った。

表情がころころ変わる、面白い男だ。
あんまり面白いから、ただその後をついて行く。
死体から剥いだ服を身に纏い、案外としっかりした足取りで裸足のままひたすら歩く。
あれほど喋った口を閉ざして、俺の存在を無視するように振り返りもしない。

街へ出た。
異様な風体のまま、目に付いた店に入る。
適当な誤魔化しを言って、靴と衣服を買ったようだ。
見た目のせいか、店主はそれほど訝しげに見ない。
裸足で、似合わない服を着ているというのに。

紙袋を抱えて、裸足のまま次へ進む。
角のタバコ屋で煙草を買った。
その場で封を開けて一服すると、ようやく落ち着いたようだ。
初めて俺に気付いたようにじろりと視線を送ったが、何も見なかったように直ぐに逸らした。
煙草をくわえたまま歩き出す。

宿屋に入り、空いてる部屋はあるかと尋ねる。
「二人部屋でいいですか。」
何か言おうとするそいつの口を手で塞いで、構わないと俺が言った。
ふがふが何か言っている。
それは無視して鍵を受け取ると、そいつの首根っこを捕まえたままずんずん歩く。

部屋に入るとどういうつもりだと喚き出した。
「持ち合わせがなくってな、今夜は野宿のつもりだった。ちょうどいいから一緒に泊めろ。」
そう言うと、厚かましいとかなんとかぶーぶー文句は垂れていたが、結局諦めたようだ。
「成り行きとは言え、てめえには恩があるからな・・・これでチャラにしろよ。」
乱暴に服を脱ぎ捨ててゴミ箱に投げ入れ、風呂場へと消える。

おかしな男だ。
見ていて飽きない。
おかしいのは、俺の方か?
男を見て楽しいなどと。

小一時間ほどして風呂から上がってきた。
随分念入りに洗っていたものだ。
濡れた髪は外で見たより色が濃くなっている。
肌に散った朱が花びらのようだ。

「じろじろ見んなてめえ。」
額に青筋立てて、枕を投げてくる。
「見られるのが嫌か。」
「気色悪いだろうが!男に見られるなんざよ。」
言うことだけは真っ当な男のようだ。
「減るもんじゃねーだろ。」
「うぜえ」
苛々と、掻き毟るようにタオルで頭を拭く。
八つ当たりのように袋を破いて、新品の服を取り出した。

素肌にシャツを羽織って腰に巻いたタオルを外す。
ボタンを留める手を止めて、仕返しのように俺を見た。

「てめえは・・・視姦専門か?」
問うてくる瞳の色は、さっきより色濃く見える。
室内では目の色も変わるんだなとぼんやり思った。

「気色悪いんだよ、見てるだけか、てめえ。」

花を見て、美しい思うタイプではない。
ただ、面白いと思った。
ずっと見ていたいと思った。
色んなこいつを見たいと思う。

「観賞用じゃねえぞ。」
ならば、喰えるのか。

そう口に出して言ったら、ふんと鼻で笑われてた。
「俺はうめえぞ。」
美味いのか。
上手いのか。

試してみろと、その目が言っている。
だからはじめて、俺は手を伸ばした。



END


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