『白昼夢〜3289688〜』





「・・・・・・・・・!!!!!!
てめぇ何ここで堂々と着替えてんだ!!!この破廉恥野郎っ!」

まぁたナミが着替えてんのか、うるせぇな、と振り返ると、
コックがズボンを脱いでいた。



「黒だ」
「ひもパンだ」
ざわざわするフランキー一家をよそに、サンジは平然と着替えている。
「しゃーねーじゃん、一車両しかねぇんだろ、ここ」
さっきずぶぬれになっちまったし、さみー風邪ひいちまう、と言いながら無造作に身体を拭き、白いシャツをはおって髪を拭く。
「ごめんねー。たぶん濡れてると思って着替え持ってきたんだけど、下着ぬかってたわ」
「いやぁそんなお手間までナミさんに掛けさせるわけにはいきませんよ、つかすみませんこっち見ないでクダサイ、そこのお嬢さん方も」
「白いシャツに黒いひもパン・・・これは破廉恥だわいな〜」
「むしろ卑猥だわいな〜」
「な、ナイスハレンチ・・・」

一瞬自失していた俺は、ハッと自分を取り戻した。
「馬鹿野郎、くだらねぇことしてねぇでさっさと服着ろ!もうすぐ島につくんだぞ!」
「わあってるよ、くそマリモ。ロビンちゃんを助けに行くんだ。気合いいれねぇとな」
てきぱきと着替えたコックは、きゅっとネクタイを締め直し、こっちをみてニヤリと笑った。


黒。
黒のひもパン。
黒のひもパンに白いシャツ。

エニエスロビーでの死闘が終わり、W7に着いた途端、俺は身体に異変を感じるよう
になった。
おかしい。
やたらにコックが目につく。目につくとひもパンを思い出す。思い出すと・・・なんか、勃つ。勃つともう、抜いてしまわないと、どうやったって治まらない。

やばい、絶対おかしい。
なんなんだ、これ。
直接コックを見かけない時でも、鍛錬の後や寝る前なんかに、ふとあの時のコックを思い出してしまう。

あの時の。
冷え切って、蒼ざめたような肌の色や。
その肌の上を滑る水滴や。
水滴が頬を伝い顎を伝い首筋を伝う様や。
首筋から胸、胸から腹にかけてのラインや。
それを覆う、乾いた白いシャツの質感や。
そのシャツの下の、黒い・・・


「ゾロ?」
「ぬわっ!」
跳ねるようにして振り返ると、そんな俺にびびったチョッパーが、更に跳ねていた。
「ごごごごめん!驚かせちゃった?」
「・・・いや、ぼぅっとしてただけだ。なんだ?」
「ううん、なんか動かないから、具合でも悪いのかと思って」
「なんでもない。大丈夫だ」

部屋を見回せば、床に座って壁にもたれかかっている俺と、チョッパーと、机で本を
読んでいるロビンと、未だ眠り続けているルフィだけ。

「・・・他のやつらは?」
「サンジとナミなら食料分けてもらいにいったよ。ルフィが寝ながらすぐ全部食べちゃうから、ガレーラの人が荷車で取りに来いって」
俺はロビンから目を離さないんだ!と胸を張るチョッパーにくすりとほほ笑んで、ロビンが言う。
「もうどこにも行かないったら」
こいつは戻ってきてから、本当に優しく笑うようになった。
心のつかえがとれたんだろう。

思えばこいつが船に乗ったばかりの頃、絶えずニコニコしているように見えながらも、どこかピリピリとしていた。
今となっちゃあいい思い出かもしれねぇが、食事をとるのだって必ずみんなが食べているのを確認してから口をつけていた。
毒を入れられるのを警戒していたんだろう。
それに気がついたコックは、必ずロビンの目の前で大皿から自分の分とロビンの分を取り分けて、口に入れて見せていた。
ロビンが重荷に思わないよう、ごく自然な様子で。
「うん、今日のは特別おいしくできたっ!」
なんて言いながら食うから、ロビンもつられて食いだすことがよくあった。
そうしたらそれを見たコックは一層嬉しそうに次の匙を自分の口元へ・・・。

口元。
コックの唇。
冷え切った肌の色の中で、そこだけ艶めかしいピンクの唇は、潮に濡れて光って・・・。


「ゾロ?あなた、本当に大丈夫?」
はっと気がつくと、ロビンが目の前に手を生やし、視界を確認するように振っていた。

「いや、大丈夫だ。なんでもねぇ」
「でも、呼んでも答えなかったぞ」
疲れが溜まっているのか?とチョッパーが体温計を取り出す。
大丈夫だ。
むしろ溜まっているのは別のモノだ。
なんか腹の下の方が熱いし。


「最近のゾロは、確かにぼぅっとしているように見えるわね。悩み事でもあるの?」
「悩み事か・・・」
特に悩んでいるという訳ではないが、体調の変化は感じている。
そう告げると、小さいトナカイは急に医者の顔になり、カルテを取り出した。
「詳しく聞かせて。どんな変化?」
詳しく言ってもいいものだろうか。

「え〜っとな、なんかやたらとコックが目につくんだ」
「うん、それで?」
「それでな、あいつの黒パンを思い出すんだ」
「黒パンて、ライ麦パンのこと?」
「いや、黒い紐のパンツ」
「・・・うん、それで?」
「それでな、思い出すと勃つんだ。勃つと抜かなきゃどうしようもなくなる。で、抜くと一応治まるんだけど、やっぱりなんかしらで思い出すんだ。で、また勃つ」
「・・・」
「なんでこんなにひもパンが気になるんだろうな?」
医者の顔のトナカイは、ため息をついてカルテを閉じ、ロビンを振り返った。

「自覚がない辺り、重症だね」
「あら、でも治療方法はあるんじゃない?」
ロビンはいたずらっ子のようにほほ笑むと立ち上がり、俺のそばに腰を下ろした。
「ねぇ、ゾロ。ひもパンが気になるの?それともサンジが気になるの?」
「そりゃひもパンだろ。大体あいつがひもパン履いているのを見るまでは、何とも無かったんだ」
「あらそう?ずっと仲良さそうにしてたじゃない。それまで全然気にならなかったの?」
「いや・・・」
気にならないとかなるとかいうレベルではない。
ず〜っと目の前をあのキンキラ頭がうろちょろしていた感じがする。
「あいつは落ち着きがねぇからな。狭い船ん中なのに、あんななりでばたばたされちゃあ気にもなる」
「そう?バタバタする量はルフィの方が多いわよ?サンジはキッチンにいることが多いし」
「そう・・・だったか?」 

そんな気はしなかった。
ずっとあの、金色の頭だけが目に入っていた。

「それは、あなたが目で追いかけていたからじゃなくて?」

・・・は?

その言葉を理解する前に、ロビンがすらりと立った。
「ね、ゾロ。私もたまたま今、ひもパンをはいているの」
そういうと、着ていた服の肩ひもをすらりと落とした。
ランニングシャツにスカートをくっつけたみたいな作りだったらしく、すとんと全部落ちた。
確かに、ひもパンを履いている。
その他には胸当てと、太腿までのスケスケの靴下みたいなやつと、靴下を吊るしている腰バンドみたいなやつと、踵の高い靴だけ。
「どう?」
「は?」
どう、と言われても。
「この暑いのに、まだそんなに着てんのか。暑くねぇか?」
ロビンはくすくす笑う。
「暑くても嗜みなのよ」
「そんなもんか」
「感想はそれだけ?」
「他に・・・?特にねぇな」
「あらあら、じゃあもうちょっと教えてあげる」
ロビンは引き寄せた椅子に片足を乗せて、両手で足首から腿までをゆっくりと摩った。
「これね、ストッキングっていうの。で、こっちはガーターベルト。主に保温の為や、足を美しく見せるために着用されるわ」

・・・脚を美しく。

「色んな色があるのよ。真っ白くて長くて美しい脚は、何もしなくても素材のままで素敵でしょうね。でも例えば黒のストッキングにガーターベルトは、白い肌をより美しく演出してくれると思うわ。それに・・・」

白い。
白い脚。
しなやかに踊るように闘う、長い脚。
あの脚は冷えると、蒼ざめて痛々しく見える。
元々体温が低いようだから、ストッキングでもガーターでもつければいいのだ。
普段は白いながらも血色の良い、ピンクがかった透き通るような肌の色をしているのだから。
なんだったら俺が履かせてやってもいい。
ゆっくりと、つま先から丁寧に履かせてやる。
どんな感触がするのだろう。
指で触って、手のひらで辿って、頬で擦って。
あいつの料理は旨いから、ひょっとするとあいつの脚も旨いのかもしれない。
ぺろりと舐めてやったら、どんな顔をするのだろう?
驚くか。
赤くなるか。
いや、お代りをねだったときのように、優しくほほ笑むかもしれない。

『旨いか?ゾロ。もっと喰えよ』


「・・・ゾロ?」
気付くとロビンは再び服を着て、俺のそばに座っていた。
「サンジのことを考えていたの?」
「ああ」
酒に酔ったような気分だ。頭の芯がくらくらする。
「ねぇ、ゾロ。それはやっぱり、ひもパンに反応してるんじゃくて、サンジに反応してるんだと思うわ」
「そう・・・か?」
机にカルテを広げてなにやら書きこんでいたチョッパーも、こっちを振り返って言う。
「俺もそう思う。サンジに発情しているんだよ。気持ちがついていけてないだけさ」
「分かりやすく言うと、ゾロは、サンジが好きなんだと思うわ」

・・・俺は、あいつが、好き?

凶暴で乱暴で口が悪くて。
お人好しで料理が上手くて世話焼きで。
背中を預けて共に闘うことのできる、しなやかに強い、あいつ。
金ぴかで、青い目の、麦わらの船のコック。

すとん、と何かが胸にはまった気がした。
「そうだ、俺、あいつが好きなんだ」


どたどたどた。
がちゃ。

「あ〜も〜疲れた〜!!!サンジ君、お茶〜っ!」
「はいはいただいま〜!ロビンちゃんもお待たせっ!食料たくさん分けてもらったからね、すぐにおやつにするからねぇ〜」
「お帰りなさいナミ、サンジ。外は暑かったでしょう?」

大量の紙袋に埋もれてテキパキと働くコック。
め〜ろり〜ん♪と回転する姿さえアホ可愛いのは、もう打つ手が一つしかない証拠だろう。

腹をくくり、食料の仕分けをしているコックの前に立つ。


「コック」
「・・・は?な、何?」
「俺はお前が好きだ」
「・・・?・・・!?・・・!?!?」
「お前を俺に、くれ」
「な・・・」
「いいか?」
百面相をしながら真っ赤になったコックの手をとって少し強く尋ねれば、勢いに呑まれたようにコックは頷いた。
「あ、は、はい」


「よっしゃ同意〜っっっっっ!!!」
俺はそのままコックを横抱きにすると、部屋を飛び出した。
「ぅうあああぁぁぁぁぁ〜」


一陣の風が舞い、部屋に残されたのは、安らかに眠る船長に、ため息をつく船医に、ほほ笑む考古学者に、あっけにとられる航海士。
そして大量の未仕分けの食料。

「・・・あれ、なに?」
「ゾロがようやく自分の気持ちに気がついたのよ。そしたら即行動に出ちゃったの」
「カルテに本日番い誕生って書いとくよ」
「・・・まぁ、いっか。ずーっとうっとうしかったし、二人とも」

ゾロの変調はともかくとして、サンジは船に乗ったころからずっとゾロを見ていた。
トレーニング中や昼寝しているところや、ふとした時に切ないような顔で、ゾロを見ていた。
それが何を意味するか、知らない者は、ゾロだけで。

「あら?でもサンジ君は速攻でいいのかしら?」
「なぁに?」
「ほら、変にロマンチックじゃない。まずはデート、とか、こだわりそう」
「そうねぇ」
「待って、何か聞こえるよ」



・・・ぁぁぁあああ、そっちは海だ、宿屋は後ろだ、この迷子マリモおおおぉぉぉ・・・


窓の外を、ドップラー効果と共に、ゾロが疾走して行った。




「・・・デート、今してるのではなくて?」
「ホント、宿屋さんに辿り着くまでに後2時間は掛かりそう」
「食料の仕分け、やっちゃおう。朝まで帰ってこないよきっと」

残された者たちは、ほほ笑み合って、作業にかかる。
爆走するゾロにお姫様だっこされながら怒鳴るサンジが、この上なく幸せそうだったから。



CONGRATULATION!!!




END






自ら踏んでくださった語呂番3289688「サンジは黒、ハァハァ」で、柚希さんが妄想をカタチにしてくださいましたー!GJ!GJ!柚希ちゃん!
何処半身寺で修行したせいかですね。
これはもう、蛍光ピンクの靄がかかるってもんですよ。
サンジは黒・・・ハアハアします。妄想だけで白米3杯いけます。
それにロビンちゃんたらとんでもなく大サービスしてるのに、ゾロっゾロ、あんたって子は!!(号泣)
冷静なチョッパーと共に安心して成り行きを楽しめました(超笑顔)
サンジに黒下着は映えますよねえ。
でもビビッドカラーも捨てがたいし、鮮やかな真紅もきっと似合うはず。
ああ、悩ましいわこの破廉恥さんめv
今度は私が何処半身寺に修行に行ってまいります(シュタッ)