箱庭



たおやかな白い手が、太腿の柔らかな部分をそっと押さえつけた。
羞恥に震え、閉じようとする膝に別の手がかかる。
本気を出せば蹴散らすことは容易いのに、とてもそんなことはできない。

躊躇っている合間にもすでに中心は熱く滾り、晒された秘部からはとろりとした香油の芳香が立ち上っていた。
息を詰め必死に閉じる小さな蕾を宥めるように、細い指がそのぐるりをなぞる。
香油の力を借りて何度か滑り擦られる内、つぷりと先端が差し込まれた。
それでも決して無理はせず、ほんの少し差し込んでは抜き撫で擦る、微妙な動きを繰り返される。
「・・・っ・・・」
漏れる声すら気恥ずかしくて目も開けていられなくて、サンジは必死で唇を噛み締めながらシーツの海に埋もれていた。

女たちが動く度に、花のような香りが立ち昇って頭の芯がぼうっとする。
衣擦れの音に恐る恐る目を開ければ、ベッドに押さえつけられたサンジを取り囲む女たちの視線が一点に集中していた。
それに気付いてまた、火を噴くほどに恥ずかしくなる。

さっと全身をピンクに染めるサンジをうっとりと眺めて、足の間に跪いていた女が身を屈めた。
くちゅくちゅと濡れた音を立てながら、何度も出し入れされる指は相当深くまで潜るようになってきている。
それを更に本数を増やしながら同時にもう片方の手でも周囲を押し広げるように揉み込まれて、異物感とかすかな痛みに堪らず声を漏らした。
背けた頬に、柔らかな唇が降りる。
汗の浮いた額をひやりと冷たい掌で撫でられて、耳朶を赤い唇が軽く噛んだ。

さっきから柔らかに触れられる乳首はすっかり硬くなり、綺麗に塗られた爪で少し強めに引っかかれる度、痺れるような快感が駆け抜ける。
ぴくりと身体を震わせ背筋を仰け反らせば、白い乳房が目に飛び込んだ。
どこをどう見ても恥ずかしくて、目を閉じれば後孔を穿たれる感触がよりリアルに感じられて、とにかくどうしていいかわからない。
そうしている間に、すっかり熟れて勃ち上がった性器は先端からとろとろと蜜を零し始め、傍らに寝そべった女がまるで見せ付けるように舌の先でそれをちろちろと舐め取った。

「・・・ああっ・・・」
耐え切れず叫んだ。
いくつもの手でやわやわと嬲られて、それでも決定的な刺激は与えられない。
ただぐずぐずと蕩けながら堕ちるだけの頼りない快感。
ひどくもどかしく、それでいて恥ずかしくて堪らなくて、せめて顔を手で覆いたいのにそれも叶わない。
押さえつけているのが非力な女性でも、いや女性だからこそ、サンジは抵抗できなかった。

ぬるりと、知らぬ感触に身を震わせ、サンジは目を見開いた。
信じがたい思いで恐る恐る身体を起こせば、股の間に跪いた女が薄い舌でサンジのそこを舐めている。
「だ、ダメですっ・・・汚いっ」
本気で腕を振るえば、傍らの女の身体が横倒しになった。
はっとして動きを止めれば、また別の女に押さえつけられる。
豊かな乳房をそのままに上から圧し掛かられて、足だけ大きく開かされて、いくつもの手が一斉に動いた。
女の舌が柔らかく熱く、サンジの内部を蠢いている。

「い、いやだっ・・・ああっ」
今にも爆発しそうな花芯は根元をぎゅっと掴まれて、それなのに先端は少し強めに吸い付かれて、サンジは我知らず声を上げていた。
「やめ・・・やあああ・・・」
舌を奥へ奥へと差し込みながら、それに添うように何本かの指が周囲を撫で広げる。
つ、とその熱が離れた。
衣擦れの音と共に女が身体を起こし振り向いた。

「整いましてございます」




ベッドから少し離れたソファの上で、クロコダイルはグラスを置くとゆっくりと立ち上がった。
女は今度はクロコダイルの前で跪き、前を寛がせそっと口元を寄せた。

サンジはベッドに殆ど貼り付けられた状態で、白い天井を眺めていた。
自分を見下ろす女たちの目線が怖い。
足元にいた女たちが場所を空け、上に圧し掛かっていた女も身体を起こした。
けれど両手を押さえる腕は外されることはなく、大きく開かされた両足の、膝や太腿にかけられた手もそのままだ。
その間に、クロコダイルが身体を滑り込ませる。

怒張したそれを、女の指と舌によって解された秘部にあてがう。
サンジは小さく震えながら息を詰めた。
ぐん、と容赦なくそれが突き入れられ、内臓が押し上げられるような衝撃に必死で耐える。
クロコダイルは挿入と同時にがつがつと腰を打ちつけた。
限界まで広げられた皮膚と内部への圧迫に堪らず小さな悲鳴を上げて、サンジは無意識に身体をずり上げようとする。
女の手がそれを押さえつけ、より深く受け入れるべく腰を掴んで動かし始めた。

「・・・うあっ、あああっ・・・」
グチュグチュと粘着質な音が立ち、クロコダイルはより激しく抜き差しを繰り返す。
根元を押さえたまま、また女の手が萎え掛けた花芯を扱き、その先端に舌を這わせる。
反らされた白い胸の尖りにも口付けられて、片方は少し強めに歯を立てられた。
耳に額に、シーツに投げ出された指にも赤い唇が、ピンク色の舌が這わされる。
激しい羞恥に身悶えしながら、サンジの身体は快楽に翻弄された。

奥まで咥え込んだクロコダイルの砲身が内壁を抉るように擦り上げてくる。
呼吸と共に無意識にそこを締め上げて、腰が勝手に揺らいでしまう。
揺れる視界の隅で欲情に濡れた女たちの瞳を垣間見て、サンジは熱に浮かされたようにだらしなく口を開いたまま、意味のない声を上げ続ける。

クロコダイルが一際深く己を埋め込み獣のように唸った。
根元を押さえた女の手が外され、赤く充血した先端に舌が捻じ込まれる。
一瞬目の前が白く煌き、サンジは短い悲鳴を上げて女の口の中で放った。
クロコダイルがゆっくりとなすり付けるように腰を揺らめかす。
その迸りが内部を濡らすのを感じながら、サンジも荒い息を吐いてもどかしく腰を動かした。



ひくひくと、立てられた膝が震えている。
嗚咽に似た声が漏れて、目尻からつうと涙が零れた。
それさえも、すかさず女の舌が舐め取る。
歪んだ表情を見られたくなくて顔を背けるのに、覆い隠す腕も動かせずベッドに貼り付けられたまま身体を震わせることしかできない。

くぷりと音を立てて抜かれて、そのまま膝を立てていることがたまらなく恥ずかしかった。
「もう、離して・・・」
周りの女に懇願するのに、女たちは表情の見えぬ微笑のままその腕の力を緩めようとはしない。
横に控えていた女がサンジの肩に手をかけた。
そのまま2人がかりで身体をうつ伏せにされる。

「や・・・」
動いた拍子に太腿にぬるりと液体が伝い落ちて、慌てて膝を閉じようとしてやはり阻まれる。
膝立ちになり腰だけ高く上げられて、顔や肩はシーツに押し付けられた。
あんまりな格好に、身体を起こそうとして横を向いたら、またクロコダイルの前に跪いて口淫をする女が目に飛び込んだ。

――――あれが、俺ん中に入ったのか・・・
赤黒いそれが女の口の中から見え隠れするのを見て、またカッと全身が火照った。
あんなものを自分の中に受け入れて・・・
しかもそれをまたあの人が口に・・・
あまりの淫らさに脳が沸騰しそうになった。

その間にも、うつ伏せたまま膝を開かされて、腹の下に入り込んだ女がくたりとなったサンジ自身を口に含もうとしている。
「い、やだっ、もうやめろっ・・・」
女は容赦なく萎えたサンジを咥えて、舌で口で舐め擦る。
熱く柔らかな刺激にそこはすぐに芯を持ち、晒された後孔は女の指で抉られる度、中に放たれた液がぐちゃぐちゃと音を立てた。

クロコダイルが再びサンジの上に圧し掛かってくる。
後ろから穿たれて、今度は難なく受け入れると滑るように内部を突いてきた。
「んあ、ああああ・・・」
腰を掴まれ、より深く奥へと打ちつけられる。
痺れるような快感が脊髄を駆け上り、サンジは堪らず背中を撓らせて喘いだ。
女の手が顎を撫で、半開きの唇を吸って指と共に愛撫してくる。
乳首を抓られ、背中をなぞられて、腹の下に潜り込んだ女はサンジを根元まで咥え込んで激しく吸い付けた。
「うああっ、イくっ、イくううう・・・」
きゅううと締め付けたクロコダイルを意識しながら、サンジは胴震いしてまた女の口の中で果てた。









「飯を食わん、だと?」
感情の篭もらない平坦な声でそう問い直され、侍従は落ち着きなく手を擦り合わせた。
「は、誠に些細な事ながら・・・そろそろ三日になりますので・・・」
クロコダイルの眉が上がった。
「三日だと?なぜそれを早く言わん。些細なことと己が判断することではないわ」
一喝されて震え上がる侍従を置いて、クロコダイルは荒々しく部屋の中に踏み込んだ。


白いレースで幾重にも隔てられた天蓋を掻き分け覗き込む。
シーツの中に身を丸めて、サンジは蹲っていた。
クロコダイルが入って来たのに、顔を出そうともしない。

「愛しい堕天花よ。食事をせぬとは本当か」
問いかけにもシーツの間から覗いた金糸はぴくりとも動かない。
クロコダイルは焦れて乱暴に引き剥がした。
クッションやソファカバーをぐるぐるに身体に巻きつけて、サンジはそっぽを向いたまま頑なにシーツに齧り付いている。
「・・・なにをしている」
クロコダイルは呆れた声を出してサンジを強引に抱き起こした。
それでも首を傾けて、サンジはクロコダイルから顔を逸らした。

「なんだそれは。怒っているのか?」
他人からこんな無礼な態度を受けたことがないクロコダイルでも、サンジが不機嫌なのはさすがにわかった。
「なんということだ。元々痩せているのに、さらに肩が尖ってしまったではないか。飯を食え」
「嫌だ」
きっぱりと声が返る。
「なぜ嫌なのだ、不味いのか?」
「そんなことねえっ」
即座に応えた。
不味いなんて、料理人に失礼だ。

「ならばなぜ食わぬ」
「・・・死にたいからだ」
サンジはシーツよりも白い顔色でクロコダイルを真っ直ぐに睨み付けた。
あまりに堂々とそんなことを口にするから、ますます訳がわからない。
「死にたいだと?それは赦さぬ」
「うっせえ、俺の生き死にはお前に選ばせねえ」
さっと頬に赤味が差して、クロコダイルは無意識にほっとした。
まだ冷たい指先をそっと握り、髪を撫でる。

「なぜ死にたがる。この暮らしは気に入らぬか?」
「気に入るって・・・」
ますますサンジの顔が紅潮した。
憤怒とは違うものを感じ、クロコダイルはしげしげとその顔に魅入る。
「この部屋で過ごすのは、お前にとって辛いか。それとも、やはりあの男が忘れられぬのか・・・」
ぴくりとサンジの肩が震えた。
だが顔色には出さず、強い目線で睨み返す。

「そんなのは関係ねえ、ただ俺は―――」
言いかけて口を噤む。
それを赦さず、クロコダイルはサンジの顎に指をかけて上向かせた。

「この狭い部屋で暮らすのが嫌か。それとも私がお前を求めるのが死ぬほど嫌か。餓えることを望むほど・・・」
サンジは小さく頭を振った。
「そんな、訳じゃねえ・・・ただ・・・」
こくりと唾を飲み込んで、小さく呟く。
「俺の命はジジイに救われた命だ。勝手に死ぬなんて許されねえ。けど、それでも・・・」
「何が死にたいほど辛いのだ?」
穏やかな声で根気よく問いかけるクロコダイルに、サンジは困ったように眉を下げる。

「やっぱあんなの、死・・・死ぬほど恥ずかしいじゃねえか・・・」
真っ赤な顔でそう呟かれて、クロコダイルは首を傾げた。
「お前の言うことはよくわからぬ」
サンジは唇を噛み締めると、クロコダイルの手を叩いてクッションに抱きつくようにうつ伏せた。

「とにかく!俺はもう金輪際嫌だからなっ、もうぜってーぜってー耐えられねー」
突っ伏した小さな頭の金髪から覗く耳まで真っ赤だ。
クロコダイルは意味を量りかねてその様子を眺めながら絶句していた。
誰かに文句を言われるのも、それを宥めようとするのも初めてで勝手がわからない。

「よくわからぬ。何が嫌なのだ」
自分でも辛抱強いと呆れながらクロコダイルは重ねて聞いた。
赤い耳朶をそのままに、サンジはシーツの間からくぐもった声を漏らす。
「・・・だから、あの・・・おねー様に・・・だな・・・」
「・・・?」
「あの、おねー様方を・・・なっ?」
「婢達のことか?」
漸く思いついて、クロコダイルは少々間抜けな声を出した。
「なにを・・・それが恥ずかしいと言うのか?」
サンジは突っ伏したままこくこくと頷く。
「しかし・・・婢がおらねば辛いのはお前の方だろう。下男の方がよいか?」
「アホかっ!」
ガバっと身を起こしてサンジが吼えた。
つられてクロコダイルが少し仰け反る。

「ああいうものはなあ、その・・・普通二人っきりでするもんじゃねえのか?いや、俺はよくわかんねえけどよ・・・けど・・・」
茹蛸のような貌で捲くし立てる。
「あんな、綺麗なおねー様にあんなことさせるなんて・・・俺あもう、それだけで恥ずかしくて・・・」
恥ずかしくて、死にたくなったのだ。
クロコダイルは漸くそこまで理解して、ぽんと膝を打った。

「なるほどやはり婢が嫌なのだな」
「いや、そーじゃなくてっ!」
サンジは何故か激怒してクッションを床に落とした。
「ああいうのは二人っきりでするもんだろ?なんで他にゴチャゴチャいるんだよっ!」
その剣幕に、クロコダイルはむうと口を閉じる。
「挙句の果てに、俺の、俺に、俺を・・・あ・・・」
それ以上言えず、サンジは口を開けたまま喘いだ。
興奮のあまり呼吸困難を起こしそうだ。

「つまり、私と二人きりならば構わぬのか?」
サンジは身を乗り出したまま固まった。
もはや顔と言わず首と言わず、全身が真っ赤だ。
「褥に他の者がいるのが死ぬほど嫌と、言うわけか?」
まるで百面相のように眉を下げたり口を開けたり閉じたりして、それから黙ったまま頷いた。

ふむ、と今度はクロコダイルの方が考える。
名ばかりの妻も常に控える婢にも、直接触れることはなかったのだが・・・
それでは嫌だ、いっそ死ぬと、この男は言うのだ。
堕天花に死なれては無論困るのだが、それよりも―――

クロコダイルは無意識にサンジの髪を撫でた。
掌に納まるようなこの小さな頭で、あれこれと考えては怒ったり苦しんだりしているらしい。
そして今は猛烈に恥ずかしいと、息をするのも辛そうなほど顔を赤らめて・・・

「ふむ・・・」
なんとも言えない気分になった。
未だかつて他人にこんな感情を抱いたことなどないクロコダイルは、それをどう言い表すのかはわからない。
ただ無性に―――
考えるより身体が動いて、うつ伏せた痩躯を抱き締める。
今度はサンジは抗わず、腕の中にすっぽりと納まった。
薄い布越しに伝わる体温は常より少し高くて、感触が柔らかい。

「愛しい堕天花よ」
口をついて出た言葉に後から納得して、金糸を掻き上げて額に口付ける。
サンジの身体が強張り息を詰めるのがわかったが、クロコダイルは静かに口づけを繰り返した。
赤く染まった耳や頬、瞼に鼻先。
たよりなく添えられた白い腕を取って、手の甲にも唇を落とす。
さっと色を刷いたように薄いピンク色に染まるのを、クロコダイルは珍しそうに眺めた。

―――面白い
初めてその身体を開いた時から反応が素直だと思ってはいたが、実際にこうして手ずから触れて顕著に応えるのは興味深い。
開いた胸元から手を差し入れ偏平な胸を撫でる。
サンジは俯いたまま唇を閉ざし、片手でシーツを掴んで肘を突っぱね、倒れこまないように踏み堪えているようだ。
そうだ、こやつは踏み止まっている。

訳もわからぬまま城に幽閉されて、愛した男には捨てられて、もはや戻るべき場所などどこにもない。
それでも、窓から眺める景色に心躍らせ、側使いとも言葉を交わし時に笑みを浮かべたりしている。
どんな絶望的な状況にあっても、それを不幸とは捉えない。
これが、この者の天性の強さか。
妥協ではない、己の置かれた状況を甘んじて受け容れる度量の深さか。

そんな、強かなこの男が、恥ずかしくて死にたいと言った。
初めて漏らした弱音が、恥ずかしいから死にたいと。



「・・・何がおかしい・・・」
気がつけば、どうやら一人笑っていたようだ。
サンジは上半身だけを起こした中途半端な体勢で口元を尖らせている。
拗ねているのだ。
なんとなくそれがわかって、ますます口元が緩んだ。

「一人で笑うな、気色悪い」
文句を言う唇を塞いで突っぱねた肘を掴んでそのままシーツに押し倒す。
「今宵は、誰にもお前に触れさせぬ」
クロコダイルの言葉に安堵したのか、サンジは横を向いたまま身体の力を抜いた。





よもや自ら他人に愛撫を施す日が来ようとは、想像だにしていなかった。
閨房での営みは己の欲を満たすためだけのことで、他の誰かの快楽など無用のものであるはずなのに・・・
反らせた白い首や肌蹴た襟元に、何度も唇を落とし、時に強く吸い付く。
その度サンジは擽ったそうに首を竦め、頬を赤らめたままそっぽを向いて瞳を明けたり閉じたりしている。
シーツに投げ出された手もあてどなく表面を滑り落ち着かない動きを繰り返す。
「じっとしておれ」
そう囁けば、強い瞳でじろりと睨まれ、何か言いたそうに唇を尖らせたまま目を閉じてシーツを握り締めた。

シャツの前を大きく開きささやかな赤い尖りに舌を這わせた。
ぴくんと、筋張った肩が揺れる。
それはふにふにと頼りなくそれでいて唾液に濡れて色づいたりするものだから、クロコダイルはますます珍しげに見入った。

「アホ、か・・・」
場違いな、震える罵倒の声がする。
「野郎のんなとこ・・・触って楽しいもんじゃ、ねえだろ・・・」
答える代わりにきりっと軽く歯を立てた。
押し殺した声が小さな音になって鼻から漏れる。

「男でも、なかなかに可憐だ」
「あほっ!」
真っ赤になって抗うのが楽しくて、集中的にそこを責め立てた。
指で摘まんだり捻ったり、強めに齧ったり冷たい鍵爪で押し潰してみたり―――
「よせって・・・」
その度律儀に身を竦ませて、サンジはクロコダイルの下でもがいた。
それがまた、なんとも面白い。

クロコダイルは半裸に剥いたサンジの上で身体を起こし、改めて上着を脱いだ。
自分の体重で痩せた身体を押し潰してしまわないように、らしくなく気を遣いながら、上に跨り改めて覆い被さる。
サンジは両手を目元に置いたまま、表情を隠している。
けれど隠し切れない口元から白い歯が零れて見えて、クロコダイルは誘われるようにそこに口付けた。

首を傾けてより深く重ね浸した。
サンジは口をあの字に開けたまま、硬直したように動かない。
横に投げ出した指がシーツを掴んでいるのを見て、ああまたこやつは耐えているなと、そう思ったら下半身がずくりと疼いた。

もっと―――
もっとこやつを追い立ててみたい。
追い詰めて堪えさせて、しどけなく乱れ泣く様を、この手で導きたい。

俄かに沸き起こったかつてない欲望に、クロコダイルは密かに苦笑する。
まだ己の中にこんな青臭い支配欲が残っていたとは・・・

「エロおやじ」
サンジのきっぱりとした声が響いた。
「一人でにやついたりして、てめえほんとにエロオヤジだな」
普通ならば無礼討ちものの暴言も、腹が立つより何故か愛しい。
クロコダイルは宥めるように、赤く染まった額に口付けて、ぎゅうと抱き締めた。



ぴたりと合わさった胸の間から、とくとくと鼓動が伝わる。
他人の生の証しがこれほど心地よいものだと知らなかった。
肉壁の中の熱さや柔らかさは確かに快感を容易に引き出すが、それらとは違う。
胸の内が満たされるような充足感。
こんなに細い身体で透き通る肌で、その薄い皮膚の下を血が流れ細胞が生み出され、そうして息づく全てが愛おしいと感じる。

布越しに触れるのがもどかしくなり、クロコダイルは自らも衣服を脱ぎ去った。
素肌で他人に触れるのも初めてのことだ。
露になった逞しい体躯にサンジは一瞬目を細めて、それからおずおずと肩に手をかけた。
背中を撫でて、肘から抱えるようにぎゅっとしがみ付いてくる。
頬にかかる柔らかな髪の匂いを嗅ぎ、クロコダイルは我を忘れてその肌に吸い付いた。

全身隈なく、残された場所が無いほどに熱心に舌を這わせ唇を落とす。
容易く色づく肌理の細やかな肌が面白くて、痛いと嫌がるのを無視して貪った。
うっ血した跡が所有の証しのようで、子どものように単純に嬉しかった。

常に人任せで触れたことの無かった密やかな蕾に指を這わせると、サンジは抱きついたまま息を詰めて身を硬くした。
面倒だと感じない自分に驚く。
それよりも、この手で蕩けさせてやりたい。
苦痛に歪む顔を見ながら、それが快楽に解ける様を見届けたい。
そんな暗い欲情を抱きながら、枕元に常備してある香油を手に取った。

掌で擦り込めば、媚薬を混ぜた芳香が立ち昇る。
無意識に息を詰めるサンジの蒼褪めた頬を舐めながら、クロコダイルはゆっくりと指を動かした。
頑なな蕾は侵入を拒むように固く閉ざしている。
そこを宥め擦り、根気よく丁寧に何度も何度も撫でてを繰り返した。
すでに快楽を覚えたそこは、徐々に熱を帯び呼吸するように小さな収縮を始めた。
その変化が、また愉しい。
クロコダイルは新しい遊びを覚えた幼子のように、何度も香油を擦り込んでは揉み解した。

サンジは苦しげに眉を寄せ、荒い息を吐いて声が漏れるのを耐えている。
時折混じる甘い吐息がクロコダイルをより興奮させた。
その表情の変化を一瞬も見逃すまいと、食い入るように見つめながら、強弱をつけて指を動かす。
鉤爪で緩く立ち上がった性器に触れれば、つ、と先端から透明な露が浮かんだ。
その悦び。
愛撫を施し応えられる愛しさに、なぜか胸が詰まる。

こんな風に優しく柔らかく、人に触れたことなどあっただろうか。
壊してしまいたい衝動に駆られながら、壊すことを恐れる自分がいただろうか。

サンジの頑なな蕾をゆっくりと丁寧に解きほぐしながら、クロコダイルは初めて我が身一つで人と繋がることの歓びを知った。

一糸纏わぬ裸体を重ねて、肌と肌を隙間無く密着させて、その最奥にまで己を埋め込んで、踊るように身体を揺らす。
与えられる刺激に身を引いて、それでも決して拒まず精一杯受け容れようと、たどたどしい動きで
クロコダイルの腰に長い足を絡めた。
筋張った腕がシーツの波を滑る。
指の節は白く浮き、爪の先まで血の気が抜けていながら決して拒んではいない。
そのことがこれほど嬉しいとは――――

快楽を知った身体の奥を刺激してやれば、サンジは顔を歪めながらも悦びの声を漏らした。
その声をもっと聞きたい。
その顔をもっと見たい。
その肌の色も、唇の動きも、目に浮かぶ涙も漏れ出る吐息もその何もかもを、我だけのものに――――

「クソ、ワニ・・・」
縋るように伸ばされた手をきつく握り締めて、クロコダイルは暖かなサンジの中を思う存分に
己で満たした。







思い切ってハンストした成果か、それからクロコダイルはサンジの部屋に他人を入れることはなくなった。
とりあえずほっとして、サンジは運ばれる食事に目を向ける。

この間から、ノース料理が食卓に上るようになった。
そのことに感激して、心の底から申し訳なく思った。
権力者の囲われ者とは言え、こうして気遣ってくれる人がいるのだ。
感謝しなくてはバチが当たる。
せめて気持ちだけでもと、下げられる食器に心ばかりの手紙を添えた。

料理人ならば、どこまで手を付けられたかきっと確認するはずだ。
少しでも気持ちが伝わればいい。





最近クロコダイルは遠征に出かける以外は、殆どサンジの部屋で夜を明かすようになった。
頻繁な性交はサンジの身体に結構な負担だったが、最初の頃の享楽に比べれば精神的に随分楽だ。
たった一人、毎日を部屋の中で暮らすサンジにとって、いつしかクロコダイルの訪問だけが楽しみにもなっている。

今夜もこうしてベッドの中で、小さな巣に篭るように二人抱き合いながら眠る。
クロコダイルの逞しい肩を枕に、サンジは素直に身体を預けて指を絡めた。


「・・・こうしてお前のすべてを見るのは、私だけでよいな」
クロコダイルがそんなことを呟くから、サンジはまた思い出してその場で真っ赤に染まってしまった。
「あ、あああ当たり前だろうが」
「うむ」
なぜか真面目な顔でクロコダイルも頷いている。

「お前のそんな顔も、抱かれる時の蕩けそうな表情も、私だけに見せるがよい」
「んなこと口にすんなっつーのっ」
照れ隠しにクッションを投げつければ、片手で受け止めてそのままサンジを抱き込む。
「安心するがよい。お前の痴態を知る者はこの世に私一人だ。私の前で、心置きなく乱れるがいい」
「この馬鹿っ・・・」
さらにクッションを投げようとして動きが止まる。
今、なんと言った?

「この世でって・・・」
クロコダイルは穏やかな笑みを浮かべる。
「あの婢どもは、全員処分した。もはや誰も、お前を知る者はおらぬ」
「・・・え?」
クロコダイルが何を言っているのかわからず、サンジは強張った笑みのまま見つめ返す。

「お前が言っただろう、恥ずかしくて死にそうだと。ならばすべてなかったことにすればよい」
だから案ずるなと、そう言って笑いながらサンジを抱きしめる。
逞しいクロコダイルの腕の中で、サンジは全身の血が引いていくのがわかった。

あのお姉さま方が・・・
全員殺された。
俺が、あんなことを言ったから――――
恥ずかしくて死にそうだと――――

冗談だと思いたい。
けれど、こんな冗談を言う男ではないと、知っている。
本当に殺してしまったのだ。
俺が、あんなことを言ったばっかりに――――


目の前が暗くなって、サンジはクロコダイルにしがみ付いた。

「今宵はこうして朝まで眠るか。お前の傍は心地がよい」
上機嫌なクロコダイルの声が遠くに聞こえる。
サンジは暖かなベッドの中で柔らかく抱き込まれながら、己の心が芯まで冷えていくのを感じていた。









『宮廷に秘密の処刑人ってのがいるんだがな、先日そいつがぽっくり逝っちまった。若い女ばかり思う存分嬲り殺したから、張り切りすぎたんだろうって皆言ってる』

手紙を交わすうちに親しくなった料理人からの手紙にこんな一文があって、現実のことだと改めて思い知らされた。
自分の些細な言葉でも、クロコダイルは容赦なく動く。
結果のあまりの重大さに、サンジは打ちのめされていた。




部屋から出られないサンジのために近況も細かく綴られた手紙を握り締めて、飾り窓から空を眺めた。

この広い世界の、大きな国の一番高い塔の上の、白い部屋の中だけが自分のすべてだ。
それなのに、この言葉一つで容易く他人の命を奪う。
そのことが恐ろしく、たまらなく哀しい。



サンジはベッドに腰を下ろすと、俯いて首を振った。
もっと俺は、色んなことを考えなくてはならない。
クロコダイルが自分に向けてくる愛情は本物だろう。
けれどそれが真摯なものであればあるほど、自分は気を付けなくてはならない。

それに・・・
胸に湧き上がった疑問が、考える度に大きくなってくる。

クロコダイルは、俺のすべてを知っているものはもうこの世にいないと言った。
・・・ならば、ゾロは?


裏切られ、捨てられたとは言えサンジがゾロを忘れる日はない。
あの、小さく寒い小屋の中。
粗末なベッドで二人暖めあった夜は、今でも何物にも代え難い大切な思い出だった。
本当に愛した人と幸せになったなら、それでいいと思っていたのに――――

考えれば考えるほど、恐ろしい結論に至ってしまう。
あのクロコダイルがゾロを見逃すとは思えない。
まさか、或いは、最初から・・・




サンジはベッドに腰掛けたまま、もう一度空を仰いだ。



今さら足掻いても仕方のないことだ。
これからゆっくりと考えなくてはならない。

俺はこれからどうすべきか。
何ができるのか。




すべてに目を閉じ口を噤み、耳を塞いで柔らかな眠りにつきながら――――

考えなければならない。
この白い、小さな天空の箱庭で。






END


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