ハコイリムスコ 6


「おいマリモ、飯だ。」
「ああ」
声を掛けるまでもない。
ゾロはテーブルで並べられた皿を前に腕組みしているのに、サンジはついいつもの癖でゾロを起こしに出かけそうになっていた。
なんともバツの悪い雰囲気の中、二人で向かい合わせに座る。



テーブルには二人分の食事が置かれている。
ゾロには山盛りの量。
それに比べ、サンジの食事はどう見積もってもゾロの5分の1にも満たない。
―――そう言えば、こいつはあまり喰わねえ。
いつも大勢で取り分けるからあまり目立たないが、人の世話を焼くことが多いこのコックが豪快に食事しているところを見たことがない。
上陸して食事を出される側でもレシピのことばかり考えて、気がつけばルフィに横取りされている。

サンジの食い物に対する執着には、並々ならぬものがあるのは知っている。
だが、何が原因でそうなったのかゾロは知らない。
別に知りたいとも思わなかった。
今までは。
それがどうだ。
こいつのことを、何もかも知りたいと思っている自分がいる。
他人に興味を示すなど、自分にはありえないことなのに。
どうかしている。





まるで射殺すような目で、ゾロはサンジを睨みつけながら食事を口に運んでいる。
サンジは顔を伏せて食事に集中しているように見せて、ゾロの視線を痛いほど感じていた。

―――なんか、やべー。こいつ怒ってんのか。
朝方の、あれっきりだもんな。
即続き、とか言われっと困るな。

さっき風呂の鏡見てびっくりしたぜ。
ありゃなんだ、あの跡。
ギンがつけたのか。
でもギンも、跡がどうのって言ってたからこいつが犯人か。
なんにしてもありゃ隠しといた方がいい。
いや大体なんでこんなに怒ってんだ。
確かにとっ掴まった俺はアホだが、あんなことやこんなことがあったことはこいつ知らねえよな。
なんでこんな怖えー面で睨みつけてんだよ。
俺が何したってんだよ、クソ野郎。



「おい、寝腐れ腹巻。」
サンジは意を決して声を上げた。
「俺は、本気でナミさんにアタックするぞ。」
「はあ?」
流石にフォークを持つ手が止まる。

「よく考えてみたがやっぱり俺にはレディしかいねえ。っつーか、ナミさんしかいねえ。たとえ何度振られようともアタックして、童貞でも何でも筆おろしはナミさんに決めた。だからてめえはあきらめろってーか、忘れろ。な。」
ゾロに有無を言わせず捲くし立てる。
喉元過ぎればなんとやらだ。
つい先刻までゾロとやっときゃ良かったとか、ゾロがいいとか、捨て身の口撃でギンをかわしたとかそんなことはこの際全部置いとくことにした。
「てめえは純情可憐な俺様に目が眩んだだけだ。そんなもん錯覚か、てめえの隠された親父趣味だ。俺だってわざわざ好き好んで野郎にハジメテ捧げなくてもいいじゃねえか。」



ゾロの瞳がすうと細められた。
切れたか。
右手が上がる。
顔は背けずに、歯を食いしばった。

衝撃に構えたサンジの頬に、手が添えられる。

「殴られたのか。」
「へ?」
てっきり殴られると思ったゾロの手は、サンジの目の下から頬を親指でなぞっている。
「誰に殴られた?」
「・・・えーと・・・」
「海軍の船底にいた海賊どもか?それともギンか?」
サンジは息を呑んだ。
なんでこいつはそんなこと知ってる?
完璧に固まってしまったサンジの首の後ろに手を回し、ゆっくりと揉みながらゾロは腰を上げて顔を近づける。
「俺はあれこれ詮索するのは得意じゃねえし、口で問い質すのも不得手だ。だからてめえの身体に聞くぞ。」
いいな、と呟いて噛み付くように口付けた。






こいつ、俺の言ったことなんも聞いてねえ。
最後の「いいな」は承諾を得るんじゃなくて宣戦布告じゃねえか。
どーしてこう、俺はこいつのキスに弱いんだろう。

激しい口付けに翻弄されながら、サンジは力を抜いて、両手をゾロの背中に回した。



職域であるキッチンでは勘弁してくれとサンジが頼み込んだので、男部屋に引きずり込まれた。
殆ど横抱きに抱えられて扉を蹴り開けたゾロは、サンジを床に降ろす間も惜しんで抱きしめてくる。
深く長い口付けを受けて、サンジのなけなしの理性も何処かに飛んでしまった。



どこがどう違うのかわからねえけど、やっぱり違う。
ゾロの熱と一緒に自分の体温が上がるのが分かる。
口内の舌は攻め立てるように分け入って歯茎を擦る。
おずおずと己の舌を差し出せば、絡め取って軽く歯を立てた。
ゾロの分厚い手がセーターをたくし上げて裸の背を弄る。
こんな柔らかくもない身体、触ってもしょうがねえだろうに。
それでも、ゾロの辿る指先の一つ一つが痺れるように心地よい。
ゾロだからだ。



乱暴に服を引き上げられた。
朱の散った上半身が露になる。
丸窓から射し込む夕暮れの朱が、サンジの身体を照らして見せた。

ゾロに馬乗りにされた格好で、サンジが逆光のゾロの顔を見上げる。
面白いようにこめかみにぴきぴきと静脈が浮くのが見える。
犬歯を見せて、ぐるる・・・と低く唸った。
お前、ほんとにケダモノか。
怒っているのであろうゾロを目の前にして、サンジは笑ってしまった。
「何がおかしい。」
険悪な面のままゾロは徐に胸の突起を抓り上げた。
「・・・てっ、何しやがる!」
抑えようとした手を逆に掴み上げられて、押さえ付けられたまま乳首に噛み付かれた。
歯を立てたまま舌で転がすように刺激してくる。
「・・・レディじゃ、ねえんだから―――」
首の後ろがふつふつと粟立つ。
嫌悪ではないそれ。
レディじゃなくても、感じるんだな。



自分の胸元に埋まったゾロの緑の髪をそっと抱えた。
三刀流のロロノア・ゾロが、俺の乳吸うのかよ。
やはり何か、笑えてくる。
振動を感じて、ゾロが顔を上げた。
鼻筋の通った精悍な顔つき。
ぎろりと向けられた目が肉食獣のそれに似ている。
背筋がぞくぞくする。
やっぱ、セクシーだこいつ。
いつからかは知らないが、ずっとこの面が好きだったのだろう。
今、強くそう思った。






自分から顔を寄せる。
貪るようにキスしながら、ゾロの股間に手を伸ばした。
もはやギンギンに勃ち上がって窮屈なそれを何とか解放して、両手で揉みしだく。
ゾロの目が光り、口端が歪められた。
やっぱ、違うなあ。
今日は散々色んなモノを見せられた日だが、ゾロのは何処か違うと思う。
しげしげと眺めて、そっと口に含んだ。
咥えきれない根元を手で扱いて、口中の猛りを舌で舐めまわす。
裏筋を舐め上げて口全体で強く吸い上げた。
「―――!てめえっ・・・」
ゾロがサンジの前髪を掴んで顔を上げさせようとする。
また、こめかみに青筋が立ってる。
サンジはゾロを咥えたままにやりと笑って見せた。
ざまあみろ。
俺だって学習するんだよ。



「もう、勘弁ならねえ。」
低く吠えて、引き倒した。

膝を肩に乗せて自分の掌にぺっと唾を吐くと、サンジの秘部に指を食い込ませる。
「・・・ぅあっ・・・・」
やっぱ、これは苦しい。
思わず息を詰めると前を握り締められた。
「力抜け」
無理だ。
すんげー気持ち悪い。
ゾロの指が構わずぐいぐい入ってくる。
2本の指で広げられて、入り口が軋みそうだ。
「いて―――・・・やば・・・」
太い腕を掴んでもびくともしない。
前を扱く手に力がこもって、サンジが呻き声を上げる。
後孔を進む指が、微妙なところを擦る。
「・・・そこはダメだってっ―――」
言って、しまったと思う。
ゾロがにやりと笑って集中し始めた。
「うあァ―――だめだ・・・」
ゾロに握られたモノが張り詰めるのが分かった。

薄く目を開くと、勃ち上がった自分の雄がだらしなく溢れさせているのが目に飛び込んでくる。
恥ずかしくて目を閉じれば、否応なしにゾロの指の動きに集中してしまう。
指の股が当たるほどスパンされて、奥に届いてたまらない。
「―――ゾロ、もう・・・」
「おう、限界だ。」
少し掠れた声で、ゾロがサンジの腰を抱え上げた。
いきり立ったモノを擦りつけて、一気に突き立てる。







「い・・・って――――!!!」

誰もいないのをいいことに、思い切り叫ぶ。
息を吐ききったら、ゾロが更に腰を進めた。
「―――ひ・・・」
衝撃で引き攣った指が、ゾロの肩に食い込む。
構わずゾロはぐいぐいと押し付けてくる。
「くそ・・・キツイぞ――力ぬけ!」
だから無理だって―――
反り返って硬直した背中に手を回し、裸の胸を押し付ける。
苦痛に歪んだ唇を舐め上げて、目尻の涙を吸った。
ゾロの舌が熱くて、サンジは固く閉じた目をゆっくりと開く。
間近でゾロが見つめていた。
口元に笑みが浮かび、眉は苦しげに潜められている。
「おい、全部入ったぞ。」
―――嘘。
あんなもん全部入ったのか。
単純な驚きで口がぽかんと開いてしまった。
そんなサンジに軽く口付けて、ゾロは抽挿を試みた。
「・・・ひ・・・無理――だって・・・」
痛みに慄くサンジの腰を、宥めるように撫でる。
「力抜け、その方がてめえも楽だ。」
ゾロも相当辛いのだろう。
額に汗が滲んでいる。
それでもサンジを抱きしめて、その耳に口をつける。
「てめえん中、すげえ・・・熱いぜ。」
恥ずかしいこと、言うな。
「すげえ、イイ―――」
サンジは、自分が沸騰するかと思ってしまった。

なんてこと言うんだ、このエロマリモ。
真っ赤になりながら、なんとか息を吐き出した。
ゾロは少しずつ腰を動かしながら、サンジを深く抉り始める。
「―――き・・・・」
息を詰めそうになるのを、意識して呼吸する。
身体が硬直しないように。
力を極力抜くように。



ゾロの息遣いがダイレクトに耳に伝わる。
細められた瞳に恍惚の色が見えて、正直嬉しいと感じた。

ゾロが俺を感じてる。
気持ちイイと、感じてる。

自分の中で猛るゾロが、敏感な部分を突きだした。
思わず声が漏れそうで、自分の手の甲をあてがう。
痛みや悲鳴は散々あげたのに、今自分の口から漏れる声は聞かせたくないと思ってしまった。

「おい?」
サンジの身体を揺すりながら、ゾロがその様子に気付く。
「―――イイのか?」
聞くな、そんなこと。
「イイんなら、イイって言え。」
言えるか、ボケ。
「イイんだな。」
知るか畜生。



調子に乗って激しく律動しだした。
脳天を突き抜けるような痛みに、サンジの身体が跳ねる。
それでも何処か奥底に、言いようのない快感が湧きあがってくる。
「・・・あ、あ―――ぞ・・・」
突かれて、前を扱かれていつの間にかイってしまった。
それでもまだ足りないと、萎える間もなく勃ち上がる自分がいる。
もうぐちゃぐちゃだ。
恥も外聞もあるか、畜生。
滅茶苦茶、感じるじゃないか。



「ゾロ・・・てめえ、さっさとイけ!」
とうとうネを上げて、サンジは叫んだ。
「・・・ああ、さっきイった。」
こともなげに答えるゾロに、目を剥く。
「―――んだとおっ・・・」
「イったけど、またイくんだな、これが・・・」
いつの間にか中はぐちょぐちょになっている。
滑りが良くなっていて、余計奥まで感じちまう。
「抜かず三発・・・てのか、これ。」
「・・・バカゾロ・・・」
涙と鼻水と涎で情けない顔のまま、サンジはゾロの肩に噛み付いた。




















頬にぬくもりを感じて、目を覚ました。
気がついたと言うべきか、瞼が上手く開かない。
なんとか薄目を開けると、闇の中でなだらかな胸と連なるでかい傷跡が目に入った。
どうやらゾロの胸に頭を預けて寝たらしい。

ゆるゆると顔を上げるが、身体が軋んで動かない。
頭の少し上で、規則正しい寝息が聞こえて、ホッと息をつく。

昨日散々やって、二人で風呂場に縺れ込んだまでは覚えているが、その先の記憶がない。
結局、痛いんだかイイんだかわからないまま、必死だった。
SEXって、あんなに一生懸命なものかよ。
処女喪失、おめでとう俺。
童貞は・・・どうなんだろう。
自嘲気味に笑って、なんとか寝返りを打とうと試みた。
あちこち痛い。
戦闘で痛みには慣れてるはずなのに、内側から侵されるってのはかなりダメージがキツイ。
内臓の位置が変わってんじゃないだろうか。



どうせ腹巻は起きないと踏んで、勢いをつけて身を起こしたら、すかさず腕に絡めとられた。
「―――うわっ・・・」
起きてやがったのか、クソ。
ゾロが半眼を開けて、睨みつけるように見ている。
気恥ずかしくて、顔に血が上るのが分かった。
「ね、寝返りぐらい打たせろ、アホ。」
至近距離に顔があるから目が逸らせない。







「―――――あれ?」
つい、間の抜けた声が漏れてしまった。
なんだ、とでも問うようにゾロの目が覗き込む。
デ・ジャ・ヴ?
どこかでこんなこと、あったような。

視線を宙に浮かせて、ああ、とまた呟いた。
思い出した。

ゾロの眉が不機嫌そうにしかめられる。
些細なことに一々反応する様がおかしくて、サンジは笑ってしまった。
「何がおかしい。」
並みの男なら震え上がるほど凶暴な目つきに見えるが、サンジにはそう怒ってないことが分かる。
「思い出したんだ。バラティエでのこと。」
寝物語に、言ってもいいんだろうか。




コック志願のクソ野郎共が増えて、俺が副料理長になった頃。
なんであんなガキが副料理長なんだと、あちこちから不満の声が上がった。
一番の古株とは言え確かにガキだったから、わからねえでもないけどよ。
それで噂になったのが、俺とクソじじいがデキてるってやつだ。
クソじじいのお気に入りだから、副料理長になれたんだと。
けったクソ悪い噂だろ。
俺もあんまり腹立ったから、噂じゃねえようにしてやろうと思ったんだ。

「ちょっと待て。」
ゾロの声が上がる。
「なんでそこで噂じゃねえように、なんだ?」
「ほんとじゃねえこと言われて、悔しいじゃねえか。」
ゾロの眉間の皺が深くなる。
こいつの思いつくことは、読めねえ―――

それでだ、ともかく俺は一大決心してクソじじいの部屋に乗り込んだ。

「んだとお?」
やはり、ゾロは一々反応する。
「うっせえな、黙って聞いてろ。」

夜中、皆が寝静まった頃俺は奴の部屋のドアを叩いた。
じじいの部屋なんざ滅多に入ったことはねえ。
扉開けて、じじいは一瞬目え見開いてたが、何とか中に入れてくれた。
俺はそのままずかずか入り込んで、ベッドに座って「寝よう」と言った。

「マジかよ。」
「ああ、大マジだ。」

俺としちゃあ、2つに1つだと思ってた。
大バカ野郎と罵倒されて、蹴り飛ばされて追い出されるか、そのまんまいただかれるか。
『抱かれてえのか。』とじじいが聞いてきたんで、俺は『ああ』と答えた。
ふん、と鼻を鳴らしてじじいは俺の横に腰掛けて、義足を外した。
『奥詰めろ。』って、布団捲って言うからよ、俺は中に潜り込んでその横にじじいが入ってきた。

「それで?」
「寝た。」
「寝たって・・・」
「マジ寝たんだよ。」

俺がどうしたもんかと、それなりに緊張してよ。
身固くしてたら、じじいがでかい両腕で抱きしめてきた。
わー、来るなーと思って目閉じてたら、そのまんまでよ。
薄目開けると、じじいが俺の顔見てて。
はじめてかもしんねえ。
あんなに俺の顔、真正面から見てくれたの。

俺はじじいに助けられたから、恩返ししたくてよ。
でも何したってガキの俺には碌な事できないし。
返し切れる恩でもないしよ。
せめて早く大人になって、恩とか関係なく、じじいと肩並べて歩きたかった。
俺はじじいの相棒になりたかったんだな。
今思えば、かなり背伸びしてたと思うぜ。
じじいに見つめられて、身預けてよ。
なんか嬉しくて、俺目閉じて幸福感に酔ってたんだ。
そしたら―――
そのまま寝ちまってた。

ゾロの顔が綻ぶ。
畜生、あからさまに喜ぶなよ。

それから朝が来たら、『チビナス、いつまで寝てやがんだ!』だぜ。
流石に呆然としたね。
何しに来たんだよ俺、て感じ。
あんときゃ、かなり落ち込んだな。
それでも効果はあったんだ。
じじいの部屋から出てくる俺を見てた奴がいて、噂は本当だってことになった。
正真正銘じじいのお手つきだから、俺にちょっかい出そうって奴はいなくなった。
それで冒頭に戻る、と。

「思い出したんだよ。てめえにこうされてて、じじいとのこと。」
言ってから、また頬を赤らめた。
改めて気恥ずかしくなったらしい。
ゾロは、らしくもなく口を尖らせている。
「なんだ、その面。」
「妬いてんだよ。」
「なんもなかった、っつったろ。」
「ちげーよ、アホ。」
ぎゅうと抱きしめてくる。
「てめーはモノホンのじじコンだな。」
「うっせーな。」
抱きすくめられて苦しいけど、心地よい。
「お前、あのおっさんのこと、好きだったんだな。」
驚いて、ゾロの顔を見る。
「好きだったんだろ。マジで。」
「わかんねーよ。」
少し不貞腐れたように、サンジは顔を逸らした。
「好きじゃなきゃ、噂を本当にしようとはしねえよ。」
サンジの額に唇を落として、ゾロが囁く。
「おっさんもお前のこと大事にしたんだな。おっさんに感謝だ。」
なんでてめえが・・・と小さな声がする。
「俺のために置いといてくれたんじゃねえか。やっぱ挨拶に行った方がいいか?」
サンジが目を吊り上げてゾロを睨んだ。
ゾロの顔が愉快そうに笑っている。
「てめ・・・マジ、オロす!」
じたばたともがいて、勝手にうめいている茹蛸のようなサンジを、ゾロが笑いながら抱きしめた。


結局、皆が帰ってくるまでの5日間、俺たちはずっとやりまくっていた。
タガが外れるとはこういうことだろう。
昼も夜もなく、所構わずゾロが俺を弄くりまわす。
今日も、黄色い太陽が目に染みやがるぜ。

島に滞在する最終日、いつ帰ってきてもいいように船の中を掃除した。
洗面所の鏡の前で身だしなみを整える。
シャツの1番上のボタンまできっちり留めてネクタイを結ぶ。

首筋良し。
痕跡なし。
くるっとターンして最終チェック。
試しに歩いてみる。
極端にガニ股になってねえな。
内股でもねえ。
よし。

「なにやってんだ?」
「うわあ!」
気配を消して近づくんじゃねえ。
慌てる俺を見てにやにやしてやがる。
俺は落ち着く為に、煙草を咥えて火をつけた。
深く吸い込んでゆっくりと吐き出す。

「てめえ、分かってんだろうが・・・他の奴らの前で俺に触れやがったら承知しねえぞ。」
ゾロの口元が心持ち尖った。
「半径2m以内に近づくのもご法度だ。」
「つまんねの。」
さらっと言うな、そういう台詞を。
てめえはルフィか。
ガキか?
「ぜってー内緒だぞ。素振りも見せるな。わかったな。」
念を押す俺の剣幕に驚いてか、ゾロは目を泳がせている。
少ししばたかせてから声を潜めた。
「やりたくなったら、どうすんだよ。」
「だから内緒だっつったろ。ばれなきゃいいんだよ。」
「そうか。」
あからさまにホッとした顔しやがる。
こいつってこんなにガキ臭かったのか。
悪かないけどよ。

ゾロはそのまま甲板に出て、日陰でごろりと横になった。
俺も買い出しに備えて、戸棚を片付けにキッチンに入る。
思い出して、一番奥の棚に隠しておいた写真立てをそっと取り出した。
クソじじいとガキの俺が、できたばかりのバラティエの前で並んでる。

あの時、じじいのベッドのサイドボードにもこれが飾ってあったのを俺は見逃さなかった。
少し胸が、ちりちりとする。

久しぶりに、手紙でも書くか。
近況なんて書かねえけど、無事に生きてるってことと与えるばかりだった俺に、失くしたくねえ大事なもんができたことくらい、伝えたいと思った。

ガラスの向こう、平べったいクソじじいの顔が、少し笑ったように見えた。




END

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