月光石


 淡い黄色と、萌葱色。
 そんな色合いが綯い交ぜになった空間にサンジはいた。

『あれ?俺ァ…なにしてたんだっけ?』

 ぼんやりしながら瞼をピクピクさせたことで、今まで眠っていたのだと気付く。淡い光と色彩がグラデーションを描いていたのは、瞼を透かして入り込んだ映像だったのか。
寝返りを打ってみると、頬にまふっとした感触があり、草いきれの匂いがする。サニー号の甲板で寝オチしてしまったのだろうか?
 春島の気候帯に入ってからというもの、毎日ぽかぽか陽気が続いていたから、きっと食事の下拵えをしながらうとうとしている内、本格的に寝入ってしまったのだろう。

『ジジィに知られたら、こっぴどくケツを蹴られちまう』

 一体どのくらい眠っていたのだろうか?日はまだ高いから、夕食の支度は間に合うだろうが、おやつが出来合のものになってしまうかもしれない。よくルフィが起こしに来なかったものだ。

 身体を起こそうとして、ふと左腕が重いことに気付く。何か温かい生き物が乗っかっているのだ。チョッパーかと思って撫でつけると、感触が違う。瞬きを繰り返すうち、朧だった視界がようやく晴れる。
 サンジの腕枕でうすうす眠っているのは、芝生より生き生きとした緑色の毛玉だった。
 ん?いや、違う。
 毛玉ではない。丸っこい頭に、しゃくしゃくした緑毛の生えた少年だ。

「っ!」

 ぎょっとして目を剥く。どう見てもそいつはロロノア・ゾロの縮小版だった。耳にピアスこそしておらず、頬は幾分少年らしい丸みを帯びているが、意固地そうな眉間の寄り具合とか、小振りながらもスッと通った鼻筋とか、薄くて形の良い唇がゾロであることを示している。服装は19才の頃の物に似ているが、シャツのサイズが大きすぎるのか、どこかブカブカしている。15才とか、その位だろうか。

「お、おい!ゾロ、ゾロっ!どうしたんだお前?まさか、アインとかいうレディにモドモドの力を使われたのか?…つっても、目的がねェか?」

 《Z》と名乗る元海軍将校率いるネオ海軍の幹部とは一週間前に別れ、今さらゾロを子供にする謂われはない、もしかすると、《モドモドの実》の亜種である可能性もある。ただ、こんなに続けて似たような能力に接するというのも違和感があった。

「ん〜…うるせェなサンジ。もーちょっとこうしてろよ」
「なっ!」
「へへ。お前の胸、気持ち良いな。また、眠く…」

 むぎゅっと抱きついて、胸元に擦りついている小さなゾロに、胸がきゅうんと弾んでしまう。声が幾分子供っぽいけれど、ちゃんとゾロらしい口ぶりで、しかもしかも、初めて《サンジ》と名を呼ばれたのだ。

『なんだコレ。なに?俺の妄想なわけ?』

 どうしよう。ゾロを好きすぎて、とうとうおかしくなってしまったのだろうか?

 そう、サンジはもうずっとゾロに片思いを続けている。自覚したのはアラバスタでの闘いを終えた辺りだったろうが、きっと初めて会った時点で完全に心を奪われていた。
 あまりにも強く心を揺さぶられすぎて、《こんなに気になるのは大嫌いだからだ》と子供みたいな認識の仕方をしていたから、喧嘩の絶えない生活を送っていたが、本当はこうして強く抱き締め、《サンジ》と呼んでくれれば良いのにと思っていたのか。

 しかし、何だって小さな姿で思い浮かべたのだろうか?確かに可愛いっちゃ可愛いが、別にサンジは今まで、小さくて可愛いゾロを愛でたいと思った覚えはない。こうして抱きしめてみると、キューッと父性愛が立ち上ってくるけれど、どちらかというと…。

「おい、サンジ。ちっせェのばっか構うんじゃねェよ。ちっとはこっちも見ろ」
「はへ?」

 巷の女子はイケメンに《壁ドン》されることに憧れていると言う。その中でも最高は、軽い嫉妬から《あいつと何話してたんだよ》的に問いつめられるなシチュだそうな。
 いつかサンジも大好きな女の子にしてあげたいと思っていたそれを、今まさにサンジが、大好きなゾロにされている。
 
 正確には、《床ドン》だが。

 見上げた空は高く、明るい蒼を呈している。その中で逆光を纏うゾロは、空島で身につけていた青いタンクトップ姿で、腕の筋肉がいつもより更によく見えて、心ときめかせる。
 唸るような低音が仔ゾロへの嫉妬からもたらされたのだと認識すると、《ヒャッハーっ!》と叫びたいような心地になった。

 ただ、単純に喜んだのは数秒で、はたと疑問に駆られる。
 おかしいだろう。何だって小さなゾロと大きなゾロがいて、二人ともサンジ溺愛みたいなモードになっているのだ。妄想にしたっていきすぎだ。どれだけ愛されたいの、俺。
 しかもこいつ、よく見ると服装だけではなく、体格も19才の頃のゾロだ。ちゃんと左目も健在だもの。

「ゾロ、お前…一体どうしちまったんだよ?」
「月光石の光を浴びて分裂した」
「へ?」

 《月光石》という名には覚えがあった。それが持ち込まれた経緯も。ただ、この状況に至るまでの流れはやはりどこか不明瞭だった。
 覚えているのは、そう、サンジへのプレゼントとしてルフィが持ち込んだ輝石が、眩しい光に包まれたところまでだ。

 《いつもお世話になっているサンジ君に、各自とびっきりのプレゼントを送ること!》

 ナミが仲間達に宣告したのが、確か数日前の夜のことだった。《Z》の苛烈な最期を見届けて数日が経っており、みんなどこか虚脱状態に似た様相を呈していたから、発破を掛ける意味でもサンジの誕生日を派手に祝ってくれるつもりだったのだろう。ちょうど交易で栄えている島に着いたところだったし、サンジもみんなが自分を想って、何をくれるつもりなのか気になるところだった。

『ゾロは何くれるつもりだろう?』

 切ない恋心を抱く身としては、ゾロから貰えるものなら何でも永久保存したい。なので、できればナマモノは避けて欲しい。絶対無いだろうけど、花ならプリザーブド加工とかできる。しかし、豚とか牛は困る。頭蓋骨だの椎骨だのを磨いて保存していたらドン引きされること請けあいだ。でも、くれるならやっぱり、毛の一部だけでも大事にしたいな、なんて乙女チックなんだか粘着質なんだかよく分からないことを考えている間に誕生日がやってきた。

 女性陣やフランキー辺りはホテルでの食事も勧めてくれたが、やはりみんなに感謝の気持ちを贈りたくて、料理はサンジが作った。
 そして宴もたけなわとなったところでウソップが口火を切り、プレゼントの受け渡しが始まった。誇らしげに胸を反らしたウソップがくれたのは、洒落た彫刻を施した調味料台と、この島で得た珍しいスパイス。フランキーはサンジの要望を受けて増設した収納棚。ロビンはウエストブルーとサウスブルーの郷土食を紹介した書籍。ナミはクリマタクトで海流を巻き上げて、天空の虹の上を魚たちが行きかう風景を見せてくれた。チョッパーは良い匂いがして効果が高いハンドクリーム(配合する薬草を手に入れるために崖を登って、ちょっと怪我をしていた)。ブルックはフレーバードティーのセット。

 そんな中、ガキ臭い顔をしてゴトンとルフィが甲板に置いたのが例の輝石だった。岩の塊から放射線状に伸びる結晶体は薄青く、ルフィの胴体くらいはあろうかというほど大きなものだった。洞窟で探検をしていたら見つけて、面白いから持ってきたのだという。ロビンが材質を確かめて、《月光石》というのだと教えてくれた。これほど大きな天然の結晶は珍しいのだとも。

 フランキーも面白がって、オブジェとして岩の部分を加工して、船に固定すると言ってくれた。アクアリウムにでも飾れば海の蒼と混ざってさぞかし美しいかろう。なんなら、水槽の中に入れても良い。
 甲板に置いている間も月光石は月を浴びて美しく輝いていた。その様子を眺めながら、ロビンがぽつりと呟いたのも覚えている。

 《月光石には不思議な力があって、周囲の人間の欲望を反映すると言うわ。こんなに大きな石が燦々と月光を浴びたりしたら、何かが起こるかもね》

 彼女がそう言い終えるのと、月光石が光を放つのはほぼ同時だった。

「欲望を、反映…」

 思い出した。そうだった。それでは、この石はサンジの願いを叶えたのだろうか?小さなゾロはよく分からないが、少なくとも、大人のゾロについてはサンジの欲望どおりに愛してくれる。この色合いがふわふわとした世界も、サンジが作りだした物なのだろうか。そういえば19才ゾロの身につけている服は空島での衣装だ。あの島での宴会で、いっときとはいえ距離感が近かったことに起因しているのかも知れない。だってあの時ゾロは、冗談めかして頼んだ焼石運びを、本当に大切な刀でやってくれたのだから。
 それだけ、サンジの欲望が反映されているに違いない。
 
 だとすれば、サンジが満足すれば開放される公算が高い。愛するゾロと思いっきりイチャイチャしてから元の世界に戻れるのだとすれば、かなり美味しい話では無かろうか。一生に一度体験できるか出来ないかという貴重な体験だ。心して味わおう。ありがとうルフィ。これって最高のプレゼントだ。
 嬉しくなって、ドキドキしながら19才ゾロの鼻面にキスをしてやると、ゾロは一瞬驚いたように目を丸くしていたが、《はにゃっ》と何とも言えないガキ臭い顔をして笑った。

 はわーっ!

 どうしよう。物凄く可愛い。レディみたいな可愛さではなくて、ちゃんと男らしいのに、胸がぎゅうぎゅうしめつけられるたいな気持ちになる。

 すると転がっていた少年ゾロが、不満げに鼻を鳴らして匍匐前進してきたかと思うと、こちらは実に子供っぽい仕草で唇に唇を重ねてきた。これは猫に鼻面を舐められたような、くすぐったい驚きだ。

「ちょ…っ!お前、このおませさん!」
「キスしたかったからした。そんだけだ。年とか関係あるか」

 不遜な表情は一瞬、19才のゾロと同じに見えた。まだ線は細くとも、ちゃんとゾロなのだ。

「おい、そこのチビ共。俺のモンにベタベタすんじゃねェよ」

 渋みを含んだ低音は聞き慣れないような、それでいて、物凄く聞き覚えのあるようなもので、きょとんと視線を送った先には、諧謔を帯びた様子で口角をあげた、年嵩のゾロがいた。年の頃は四十路近くか。背丈は19才ゾロより5pは高く、胸板の厚さと肩幅の厚さ、何より、纏う気の強さは肌をピリリっと震わせるほどだ。

「俺の、って」
「俺のモンだろう?ん?」

 喉を猫の子のように指先で撫でる。自明の理だと言わんばかりの態度に、いつものゾロや仔ゾロは獣のような唸り声をあげて、サンジの体を庇うようにおっ被さってきた。渋ゾロにサンジを取られまいとしているのだ。
 《そうか〜こういうシチュに憧れてたのか俺〜》と、自分の妄想の浅ましさに眩暈を覚えつつも、やっぱり嬉しくなってしまう。

「お前ら、三人に分かれちまったのか?」
「三人?いいや、四人だ」

 ではもう一人はどこにいるのか。辺りを見回してみれば、これはいつも通り深緑の着流しを着た21才のゾロが、胡散臭そうな渋面をぶら下げて甲板の端にもたれ掛かっている。

『あ』

 21才のゾロだけは、サンジに無関心なようだった。傍に来て恥ずかしくなるくらいの好意を示すことも、名を呼ぶこともない。ただじっと距離を置いて、こちらの動向を淡々と伺っている。

「おい、お前は元のゾロなのか?」
「うっせェ。話しかけんなクソコック」
「!」

 憎々しげに放たれる言葉の礫が、眉間に《カンっ!》と音を立てて当たる。親しげなゾロに慣れてきただけに、いつものゾロの態度が倍加して胸に突き刺さった。

 いや、普段にも増して嫌悪されてはいないか?出会って最初の内こそ本気で険悪な喧嘩をしたものだけど、今では互いの間合いも少しは分かってきて、口論にもどこか相手を思いやるようなゆとりもあったのに。

 すると、少年ゾロはサンジより一回り小さな手で、金色の頭を撫でてくれた。

「あいつ嫌な奴だな。気にすんな。俺はお前のこと大好きだぞ?」
「お前…」

 琥珀色の瞳が細められて、ちゃんとゾロの顔をして笑う子供に、不覚にも目尻が熱くなってしまう。

「こいつの言うとおりだ。気にするな。その分、俺たちが可愛がってやるからな」

 後から抱き寄せてきたのは渋ゾロで、こちらは何の照れもなく頬にキスをすると、ゆとりある動きで尻だの腰だのを撫で回してくる。大きな節くれ立った手は不思議なほど気持ち良い。でも、油断していたらキスされそうになって、慌てて口元を手で覆う。
 これが気にくわなかったのは、19才ゾロだった。

「てめェ!離せよっ!サンジにやらしいことしてんじゃねェ!そいつはウブなんだ。キスだってちゃんとしたのはしてねェんだぞ?ファーストキスは俺が貰うんだ」

 《なんで知ってんだてめェ》とこめかみに怒りスジが浮かぶが、効果的な反論を考えている間に少年ゾロが唇を尖らせて訂正する。

「そいつァ、さっき俺が貰ったぞ?」
「バーカ、あんな幼いキスなんぞ、ノーカウントに決まってる。親兄弟とすんのと変わりねェ」
「何だと!?」

 19才と少年ゾロの言い争いを、四十路ゾロは呆れたように見守る。

「初めてだの何だのに構うたァ、随分と青臭ェこった。てめェら、つくづくガキだな」
「なんだと!?サンジのファーストキスだぞ?貴重品じゃねェか!初々しい反応とか楽しみてーだろうが」
「俺ァ、気持ち良けりゃそれで良い。別に初物には拘らねェよ。キスも、セックスも…な。今までの男より気持ちよくさせてやる自信があるし」

 おいコラ俺。四十路ゾロをどういう設定にしてるんだ。背筋に変な汗が流れてくる。せめてレディ相手の経験を重ねたのだと信じたい。

「俺は拘る!俺しか知らない身体に色々教え込んでやるとか、憧れる。コック、お前バージンだろ?な?」
「俺色に染めてやりてェとは思うけどなァ。よし、お前らが若さに任せて散々に嬲ったアナルを責めて、《こんなの初めて》って言わせてやるよ」
「発想がオッサンくせェ」
「何だと、ガキ共!」

 やいのやいのと言い争うゾロ達を、21才のゾロが一喝した。
 
「てめェら。恥ずかしくねェのか?コックをちやほやして、お姫様扱いかよ。何がバージンだ!臑毛もありゃあ、髭まで生えてる野郎だぞ?股間に同じモンまで生やした男相手に、キスもクソもあるか。あまつさえ、突っ込みてェとかどんな変態だ!」

 ゾロの言葉はもはや礫なんてものではなくて、先の曲がった槍のように胸を貫いた上、ぐりぐりと抉られるような痛みを持つ。
 どうしてサンジの妄想なのに、こんなゾロが生まれたのだろう?こいつがいなければ、夢のような空間で優しいゾロに包まれるようにして愛されたのに。

 《いなくなれば良い》

 そう願えば良いのか?
 けれど、できなかった。厳しいゾロの物言いや態度の方が、より《ロロノア・ゾロらしい》と感じてしまうからだ。彼は彼で普段より更に容赦なくサンジを嫌悪している風ではあるが、少なくとも、こんな手放しにサンジを溺愛してくる連中よりは、《真っ当なゾロ》だった。
 そしてそんなゾロにこそ、サンジは惹かれてしまう。

『こんなに俺を好きでいてくれるゾロがいるのに、俺は、俺を好きではない厳しいゾロが好きなんだ』

 どんなドM野郎だ、俺は。
 情けない自覚に打ちのめされて、両手で顔を覆って蹲る。
 早くゾロを元に戻してやらなくてはならない。こんな、ゾロにとって唾棄すべき状況をいつまでも続けていて良いはずがない。姿が消えてしまっている仲間のことも心配だ。
 ああ、でも一体どうしたら良いのだろう?サンジの欲望が満たされるまでこの世界が終わらないのだとすれば、永遠に目覚めぬ夢の中に、二人とも閉じこめられてしまう。
 こんな下らない夢の中で、大剣豪になる男を果てさせて良いはずがない。

 サンジの夢とは、ロロノア・ゾロから愛されること。
 なんて浅ましい夢だろう。

 どんなに封じ込めて、言い訳をしても、結局その夢から逃れることが出来ないサンジなのだから、本物から憎まれているというこの状態で、偽物達の愛を受け入れて満足し、夢を昇華させることなんて出来ない。
 分かっているのなら、選択肢はそう多くはないだろう。

「な、お前ら。俺ァ、こいつと話があるんだ。少しの間だけ、船に入っててくれよ」

 少しの間考えて、出た結論に従う。サンジは嫌がる渋ゾロと19才、少年ゾロを屋内に移動させると、21才のゾロと向き合った。相変わらず切れ味の鋭そうな眼光を叩き込んでくる男に、サンジはにっこりと微笑んだ。

 もう良い。
 これで、終わりにしよう。

「俺を斬ってくれ、ゾロ」
「ァあ?」

 ゾロの形相はますます凶悪なものになり、射殺しそうな勢いでサンジを睨み付けてくるのだけど、もう怖くはなかった。自分の気持ちを受け入れると決めたのだから。

「この世界が俺の妄想から生まれたものなんだとすれば、いつ終わるか分からねェ。だったら、俺を斬って無効化すれば良い。なァに。今のお前なら、殺す直前の状態で止められるだろ?あ、腕と脚は上手に避けてな?」
「てめェ…何のつもりだ」
「別に死ぬ気じゃねェ。もう、自分を投げ出して諦める気はねェからな。だけどお前に対する気持ちを、このままにしてちゃいけないのは確かだ」

 そう。いけなかったのだ。いつまでも執拗にゾロを想い続けていたくせに、そのくせ、思いきって告白して、《無理だバカ》と詰られることに怯え続けているなんて、みっともない自分でいたことの報いなのだ、これは。
 ゾロが巻き添えになる必要はどこにもない。
 だから、今こそ勇気を出そう。

「ゾロ、俺な。お前のこと愛してんだ」
「…っ!」
「ずっと好きだった。ゴメンな。きっとこの気持ちが、こんな歪んだ世界を作ったんだ」

 鋭い眼差しを叩きつけていたゾロの瞳が、瞬間、大きく見開かれた。琥珀色の虹彩が金の彩りを帯びるのが、なんて綺麗なのだろうかと見惚れてしまう。

「好きだよ。大好きだ。俺のこと嫌ってても構わないんだ。真っ直ぐで、野望のことだけ見詰めて、時には自分の限界を感じて絶望しそうになっても、折れずに、言い訳ひとつせずに立ち向かっていくロロノア・ゾロが、俺は大好きなんだ」

 受け入れられるはずのない恋心が今、本人に向かって言葉に変わったことで、歪みのない姿を取って羽ばたいている。そんな気がした。
 この言葉ごと斬ってくれたら、やっとサンジもゾロも、この混沌とした世界から解放されるだろう。

「ああ…嬉しいな。言えた!やっと…ちゃんと、言えた。こんなに簡単なことだったんだな」

 ゾロの瞳が軽蔑で眇められるのが怖かったが、彼はただ驚くばかりで、あれほど怒りに満ちていた瞳も、今は動揺を示している。ゆっくりと事実が浸透していけば、この色は変わるのだろうか。

「さあ、斬ってくれ。ゾロ」

 瞼を閉じて両腕を広げたサンジに、ゾロの気配が近づいてくる。

 一歩、二歩、三歩。
 ん?おい、近づき過ぎだ。
 斬るのにその間合いはおかしかろう。

 もしかして、剣が穢れるから使いたくないとかだったら嫌だな。
 殴るのかな?
 そういえばこいつ、剣士のくせに結構肉弾戦で戦うこともあるよなと不安を覚えていたら、がっしりとした手で肩を掴まれた。

 そして、唇に弾力性を持った何かが押しつけられる。
 
 ゴム?いや、それにしてはやけに生々しい。
 生?え?生肉?いや、でも何だか温かい。

 思いきって瞼を開いてみれば、そこには…サンジにキスをしているゾロがいた。
 苦悩に眉根を寄せるゾロだ。
 そんなに苦しそうに、なんでサンジにキスなんかしているのだろう。

 もしかして、斬られることを決意したと思ったのに、未練がましくゾロからのキスが欲しいなんて願ったのか?《すまねェ》と詫びようと思うのに、気がつくと余所にやった筈のゾロ達までが現れて、《ずりィ》と不満げに呟くと、額、頬、耳朶と、ありとあらゆる場所にキスをして、舌を差し入れようとしてくる。そう、苦しげな顔をした21才ゾロまでが、薄くて長い舌を器用に動かしてサンジを翻弄するのだった。

「んん…んっ…」
「コック…すまねェ。俺が、弱かった」
「…ん、ん?」

 舌を絡めながらでさえ、三刀流の使い手は流暢に喋れるから大したモンだ。いや、関心を寄せるべきポイントはそこではない。あのプライドの高いゾロが、それも、サンジを嫌悪している筈の本物のゾロが、詫びを入れているという事実の方が大問題だ。

「認めたくなかった。認めたら、そこでお前との関係が変質しちまうような気がした。嫌悪していたんだ。てめェの名を親しげに呼び、愛を語ろうとする俺自身を憎んでいた…っ!」

 何を言っているのだろう?憎しみというキーワードに胸を拉がれるが、その対象は微妙にずれている。サンジを嫌悪しているというのではなく、何を憎んでいるとゾロは言っているのか。
 愛?愛ってなんだ。そんなの語っちゃおうとしてたのか、お前。

 いや、無理だろ。どう考えても。
 そんなものをサンジに捧げるゾロもまた本物だというのか?それとも、これも都合の良い妄想なのか。他の、サンジを好きすぎるゾロ達があまりに現実離れしているから、リアリティを求めだしたのか。
 頭の中がグルグルして、訳が分からない。

 混乱しているのはサンジだけではなく、21才ゾロも一緒のようだった。苛立たしげにサンジの髪を掴むと、付け根から千切れそうなくらい乱暴に引っ張るのに、一方の手では愛おしげに頬を撫でる。まるでゾロの中で、二つの心が鬩ぎ合っているみたいだ。

「何なんだよ…!なんで、俺の《願望》が楽しそうなツラして、てめェに言い寄ってるってのに、俺自身は反感だの、プライドだのが凝り固まった状態でてめェを傷つけなくちゃならねェ!これが妄想の世界だってんなら、せめてその中でくらい、てめェを素直に愛してェのに!俺はどこまで行ってもてめェを傷つけるだけなのか…っ!」

 乱暴に抱きつかれて、強すぎる膂力で締め付けられると肋骨が軋むが、苦悩に満ちたゾロの声が切なくて、サンジは僅かに自由を残した手で背中を撫でつけた。
 すると、どこか哀れむような色を浮かべた三人のゾロが、次々に自分たちの立ち位置を明かしていく。

「無邪気なガキなら、遠慮無くサンジに甘えられると思ったんだよな?」
「出会った19才の頃に、サラッと名前を呼んでりゃあ、《今更なんだよ?》なんて突っ込まれる心配もなく、親しげに振る舞うことができると思ったんだよな?」
「大剣豪として確乎たる地位を築いて、上から目線で向き合ってりゃあ、余裕持って、包み込むみたいにして愛せると思ったんだよな?」

 それはどこまでがサンジの妄想で、どこからがゾロの欲望なのだろうか?
 分からない。分からないけれど、サンジはただ、今与えられた情報と真摯に向き合うしかない。これが誰の欲望なのだとしても、認めることでしか前には進めない気がした。

「お前がガキっぽいときも、他の仲間にするみたいな口をきいてくれるときも、いつか大剣豪になるんだろうって風格を漂わせるときも…酷い言葉で傷つけてくるときだって、俺はお前に惹かれてしまうんだよ。…理屈じゃねェ。無条件に、お前が愛おしくて堪らないんだ」

 サンジの髪を掴む手が、緩んだ。
 今や葛藤していた両の手は共に優しくサンジの頬に寄り添い、真摯な眼差しが注がれる。

「愛しても、良いのか?」
「お前が、それを赦すのなら。俺は何時だって…愛しているから」
「コック…っ!」

 力強く抱きしめられてまた肋骨がミシミシと悲鳴を上げたけれど、心はこんなにも高揚している。きっと、これで斬られずとも世界は充足を得て、開放されるに違いない。

 ……と、思ったのだが。世界は相変わらずぼんやりした卵色を呈していて、いっかな元の世界に戻る気配がないし、四つに分かれたゾロは相変わらず合体する様子がない。

「あれ?俺って…こんな貪欲だったのかな?折角お前と両思いになったってのに、なんで戻らねんだ?やべェ…やべェよ。何か他に条件があんのかな?」

 慌てるサンジをよそに、21才のゾロは憮然とした表情を浮かべ、後のゾロはみんなニヤニヤと半笑いを浮かべている。
 そのうち、口をきいたのは唯一憮然としている21才のゾロだった。

「多分これ、お前の願いじゃねェ」
「へ?」
「俺の、願望だ。だから…俺が満足しねェと終わらない…と、思う」
「願望って…でも、お前も俺のこと想っててくれたなら、やっぱり充足するんじゃねェの?」

 きょとんとした顔をして訊ねると、ゾロは何故か逆ギレしたように怒鳴り始める。

「告白だのキスだので、満足できるてめェの方が男としてどうかしてんだ!」

 どうもこのゾロ、やっぱり余裕が無さ過ぎていつものゾロとは違う気がする。
 違う…というか、対抗心の部分だけが特に際だっているのだ。

「何だとこの野郎!それ以上なにがあるって言うんだよ!」
「色々あんだろ?」

 激昂するサンジを背後から抱きしめて、ねろりと首筋を舐めるのは四十路のゾロだ。苦み走った佳い声で、ふうっと耳元に囁きかけてくる。こちらは余裕がありすぎて、やっぱり大人の気配を漂わせる部分だけを濃く抽出したように感じる。その舌遣いにも技量と落ち着きがあり、感じやすい首筋を甘噛みされると変な感覚が背筋を奔った。

「セックス…とかよ」
「せ…。で、でも!俺たち男同士…。あ、マスかきっことかすれば良いのかな?」
「そういうので満足できる連中もいるとは聞くがな。俺ァ無理だ。そんなんじゃあ、ガキの俺だって満足はできねェよ?なァ…?」
「だな」

 甲板に膝をついて、無遠慮にボトムのフロントをくつろげるなり、迷い無くペニスを咥内に含んできたのは少年ゾロだ。まだ線の細いゾロの頬が膨らんで、ペニスの形に変形するのが、とてつもなく悪いことをしているような気がする。

「ぺっ、しなさい!ぺっ!汚いからっ!!」
「汚い?セックスってなァ、そういうモンだろ?」

 この野郎。子供のくせして、悪い貌をして嗤う顔が思いっきりゾロっぽい。ただ、そこに至るまでの行動は流石に子供らしい無鉄砲さに満ちていて、ゾロのそういうガキ臭い部分を固めたような印象があった。指先で器用にタマを転がしながら、大胆にも喉奥までペニスを銜え込んで、噎せることもなく律動させて扱いていく。

「俺ァ乳首いくぜ。アラバスタで眺めてから、ずっと弄りてェと思ってたんだ」
「や…やっ!そこ、駄目だっ!くすぐったいんだ俺ァっ!!」

 19才のゾロにスーツとシャツを手早くはだけられて、露出させられた胸に悪戯めいた舌先がチロチロと掠めていく。どこか面白がっているような表情を浮かべていた。

「覚悟決めろ。ここから出てェんだろ?正面から斬られるくらい、腹は据わってたろうが
「ゾロ…」

 正面からキスを仕掛けてくるのは21才のゾロだ。葛藤を乗り越えた彼は、自分の欲望を受けとめることにしたらしい。

「斬られろ。俺の願望に」
「んーーっっ!」

 ずるりとボトムと下着が引きずり降ろされたかと思うと、子供を排泄させるみたいにして四十路ゾロに膝裏を抱えられ、ペニスどころか双丘の谷間に隠れていたアナルまでが白日に晒される。幻想の中とはいえ、明るい陽射しの中に恥部を露出するという羞恥に、サンジは首筋まで真っ赤にして暴れた。他の三人のゾロが顔を近づけて、まじまじと色合いを観察したり、つぷんと指を入れて具合を確かめようとするに至っては、恥ずかしさで死ねると思ったくらいだ。

「やだやだやだ!こんな恰好させんなっ!クソ…っ!止めろってば!」
「大人しくしてりゃあ、悪いようにはしねェ」
「悪代官がここにいるーーーっっっ!!」

 ジタバタ暴れる足がガツンと少年ゾロの顎を蹴ってしまって、口角から血を滴らせる。思わず反射的に謝ってしまった。

「わっ!ご、ゴメンっ!大丈夫か?」

 ゾロが喧嘩で血を流すなんて日常茶飯事なのに、狙ってやったことではなかったのと、よりによって一番年若い少年ゾロに怪我をさせたことで一気に罪悪感が沸いてくる。少年ゾロは口角を手の甲で擦ると、痛そうに顔を顰めた。

「…てェ。クソ。口んナカ痛ェ」
「悪かったってば!」
「詫びる気あんなら、四つん這いになって俺のもしゃぶれよ」

 腕を組んで悪い貌で嗤う少年ゾロに目を剥いてしまう。

「どこのチンピラだてめェは!そんな子に育てた覚えはねェぞ!?」
「育てられた覚えもねェし。つか、大概腹ァ括れよ。ここまで来たら分かってんだろ?俺のエロエロしい欲望を充足させるまで、こっからは出られねェんだ。ケツの穴かっぴろげて協力すんのがスジってもんだろうが」
「う〜…でも…でも、そういうの…幾ら全部ゾロっつっても、複数と、…ってのは抵抗が…」

 しどろもどろながら抗弁をしていると、この物言いには少年ゾロも感じるところがあったらしい。

「チッ。しょうがねェな。おら、グズグズすんな片目男。さっさとやれ。俺ァ横から弄る」
「偉そうなガキだな」
「お前自身だ、バーカ」

 ゾロ同士が言い争いしている様子を眺めるというのが何ともシュールだ。しかし何時までも第三者視点で傍観を決め込むことなどできない。後から抱えていた四十路ゾロに着ていた衣服を全部剥がされて、ころんと芝生甲板に転がされてしまう。見上げた空は相変わらず清々しい蒼天で、漂う白雲と、遠くに見える海鳥がのんびりとした雰囲気を醸しだしているのに、覗き込んできた四人のゾロは、日中とは思えないくらい淫猥な表情を浮かべている。
 その誰もが愛おしいのだけど、屈み込んできた彼らのうち、サンジが腕を伸ばして受け入れたのは21才ゾロだった。

「抱くぞ?」
「…うん」

 琥珀色の鋭い瞳が、淡く潤んだ。

「俺は他の奴より攻撃性が高ェ。多分、お前を愛してはいても、プライドとか、拘りとかで愛していること自体に腹を立てている俺が凝縮してるんだ。ふとした拍子に、ひでェ言葉を吐いたり、傷つけるかもしれねェぞ?」
「俺だって認めたくなくて藻掻いた。お前のことも…傷つけたろ?そういうの持った上で、それでも俺を好きでいてくれることに、価値がある気がする」

 ゾロの一つきり残った瞳はじっとサンジを見詰め、唇を真一文字に引き絞る。

「分かった。だが、他の俺も昇華するまで受け入れろ。こいつらもやっぱり、俺の中にある要素ではある」
「う…うん」

 物理的に受けとめられるかどうか不安があったが、ゾロと唇を重ねていると少しずつ緊張が解れていく。横合いから乳首を弄られ、しゃぶられたり、剥き出しになったペニスを銜えられても逃げたりはしなかった。
 流石にアナルの入り口に四十路ゾロの指が侵入しようとしてきた時には逃げ腰になったが、21才ゾロが牽制して《俺がやる》と舌を差し入れてくると、抵抗できなくなった。

『ぞ、ゾロの舌が…あんなトコにっ!』

 頭の中で何かがスパークして、真っ白になりそうだ。たっぷりと唾液を絡めてから剣ダコのある太い指が挿入されて、《ちゅく…ぬくっ》と淫音を立てながら内腔を弄る動きにも身悶えしてしまう。気持ちが良いとか悪いとかいうより、不思議すぎて怖い。こんな場所に他人を受けとめて良いのかどうかが分からないから、段々とそこが緩んでくることが信じられなかった。

「すげ…てめェのココ、赤ん坊みたいなピンク色してるぞ?」
「ばか…っ!そ、そんな筈ねェ!俺だって21だぞ?幾らノース生まれっていっても、ケツの穴がピンクの筈…」
「事実だ。ほら、見てみろ」
「あ、やっ!」

身体が柔らかいって、こんな時困る。サンジの柔軟性をよく知っている上、少々乱暴な21才ゾロは無理矢理サンジの体を二つ折りにして、緩み始めたアナルが二本の指を受けとめ、左右にぱかっと開かれる様を見せ付ける。敏感な粘膜が外気に触れて冷たいのが、あり得ない部分を晒されているという自覚に繋がって、羞恥に全身が火照る。

「な?ピンクだ」
「お〜。カワイイ色してんな」

 21才ゾロの確認に、少年ゾロまで感心したように頷いている。四十路ゾロは面白そうな貌をして広げられたアナルの中に指を挿入していって、ずぷずぷと出し入れを始めた。

「お〜吸い付くなァ。やらしい粘膜だ。ほら、ココ…感じるだろ?」
「ひ…っ!」

 《コリっ》と一瞬掠めた肉壁の一部に、物凄く感じる場所があった。サンジが感じたことも、21才ゾロは察知したのだろう。四十路ゾロと張り合うように指を一本入れていくと、奪うようにして感じやすい肉粒を責め始める。

「ひァ…ゃ、やだァ…そこ、やっ!」
「お〜面白ェな。すげェ乱れ始めた!」
「チンコもピンピンに勃ってんな」
「このまま射精したら、てめェのザーメンで顔射しちまうんじゃねェか?」
「おォ。それは良いな」

 良くねェよ。
 19才ゾロと少年ゾロも負けず嫌いなのは変わらないから、まだ狭いアナルに無理矢理指を突っ込んでくると、計四本の指を受けとめた肉襞がぎちぎちと悲鳴を上げる。

「裂けるから…む、無理だからァーっ!」
「ひんひん泣くな。大丈夫だ、任せろ」

 21才ゾロが《どん!》と背後に効果音を出しながら請け合うと、サンジもほっとしたように肩の力を抜く。
 そうだよな。愛しているくらいなんだから、そんな無茶苦茶はしないよな?

「抜いて…くれんの?」
「いや、男のケツってなァちゃんと広がるように出来てる筈だ。世の中のホモはケツで二輪刺しとかできる奴もいるっていうくらいだからな。俺のサイズでいやァ、あと三本は受けとめられる筈だ」
「無理ぃーーーーーっっ!!」

 しかし、本当に怖ろしいのはそれが本当に成し遂げられてしまったことだった。怖ろしく器用なゾロ達の指先は、サンジが涎を垂らしてよがるほど巧みに肉粒を責め立ててくる。その頃には指は5本に増えて、その内の一本が《コリリ…っ》と強く壁を擦った瞬間、サンジは禁忌を解いてしまった。

「ぅあ…わ…出る、ヤバイ…っ!出るゥっ!」
「おう。出せよ、思いっきり」
「あーーーーーっっ!!」

 自分の勃起しきったペニスから、白い液が放物線を描いて飛ぶ様子がまざまざと見て取れる。その様子を四人の男達にガン見されていることも。びしゃびしゃと自分の顔や胸に向かって大量の精液を吐き出すまでに、激しい放出を迎えてしまった。

「お〜…イったら緩んだぜ?」
「そろそろいけそうだな」

 すると、達したことで緊張が解けたのか、衆人環視に晒されたアナルには計6本もの指がぎっちりと詰め込まれる。指達はまるでイソギンチャクのように蠢いては、サンジを狂わせていった。イったばかりで感じやすいなっているサンジにとって、その愛撫は拷問に近い。

「やめ…や、やめェ……っ!」
「こんだけ広がってりゃあ、問題ねェだろ」

 確かめるように、全員の指がアナルを広げるように動き、《くぱァ…》と広げられた腸壁を覗き込まれる。ひくりと蠢くその中に、とぷとぷとオイルのようなものが注がれた。どうやら、四十路ゾロがキッチンからオイルを持ち出してきたらしい。
 とろ…とろ。ぬるり。
 溢れる寸前の液体が、腸内で踊るのが分かった。
 引火しそうなくらいの視線が、そこに集中していることも。

「お〜…すげ。濡れて蠢く様子がエロい」
「うう…ふ…ぅう〜…」

 全員の指が抜けると、まるで名残惜しいとでも言いたげに、ぱくぱくとアナルが収斂し、注がれたばかりのオイルが淫らがましく双丘を伝った。

「もっと太いのが欲しいってよ」
「ばかァ…っ!んなエロ台詞でいたぶってんじゃねーよっ!居たたまれねーわっ!いいから…分かったから!ほ、欲しいからっ!もう…突っ込めったらっ!!」
「…っ!」

 脚をゾロに絡ませて強く引き寄せると、嬲るようだった21才ゾロの表情が、にぱっとガキ臭いものに変わる。《カワイイ》と思ったのも束の間、可愛くない肉の楔が容赦なくンジを串刺しにする。

「あーーーーーーーっっっ!!」
「キツ…。クソ、滅茶苦茶気持ち良い…っ!」

 一気に最奥まで貫かれて反り返る背筋を、四十路ゾロが優しく撫でつけながらキスであやし、そのお礼を寄越せと言わんばかりに、手を誘導してペニスを握らされる。《狡ィっ!》と鼻を鳴らす少年のゾロも、もう一方の手を取って自分のペニスをしごかせ、19才のゾロはサンジのペニスを犬のように舐めしゃぶる。

「んんん…んゥ〜っ!」

 四十路ゾロがキスの合間に目を細めると、笑い皺が目尻に浮かぶ。張りのある肌は普段若ぶりに見えるが、そういう表情を見せるときだけ年相応に見えた。
 そしてサンジはどうやら、少々年降りたゾロの容貌が殊のほか好みらしく、キュンと胸がときめいてしまう。

「気持ち良さそうだな」
「痛…いし…きつ、い…っ!」

 甘えるように鼻声を出せば、グンッと強く突き上げられた。

「でも、良いんだろ!?」
「あ…ィい…っ!ゃあ…イぃ、イイから…っ!そこ…だめ……っ!」
「まだだ。もっと乱れてみせろよ」
「あーーーーーーっっ!!」

 口角を歪めた21才ゾロは容赦なく腰を使って、サンジを高ぶらせる。抜き差しされる度に《ぢゅぷっ、ぐちっ》と耳を覆いたくなるような淫音が響き、腸内の粘膜が捲り上がりそうになった。その継ぎ目へと少年ゾロの薄い舌が這わされ、19才ゾロがペニスを吸い上げると、また絶頂が近くなってきた。
 ピクピクと細かく痙攣して快感を示すサンジを眺めながら、四十路ゾロはしみじみと呟いた。

「くそ、マジで気持ちよさそうだな。おい、ちょっとそこ代われ」

 頼まれた方の21才ゾロは如何にも嫌そうに顔を歪めると、獣じみた唸り声を上げる。

「断る!こいつァ俺んだ」
「狡ィ。さっきは俺たちも満足させろとか言ってたくせに!」
「たとえ自分が生み出した奴でも、コックとヤッてるとこ見たら殺したくなる」
「ひでェ」

 真顔で言い切る21才ゾロの発言に、四十路ゾロだけではなく、少年ゾロや19才ゾロも口々に不満げな声を上げたが、21才ゾロが引き下がることはない。

「狡くもねーし、酷くもねェ!舐めたりしゃぶったりすんの赦してるだけ有り難ェと思えっ!」

 怒鳴り付ける21才ゾロを他のゾロ達がムッとした顔で睨み付ける。

「じゃあサンジに聞こう」

 四十路ゾロが言い出した途端、他の二人もサンジの顔を掴んで詰め寄ってきた。そして猫なで声で頬を撫でながら囁きかけてくる。

「なァ、俺たちもお前のナカに入っていいよな?きゅうきゅう締まって気持ちよさそうだ」
「おい、サンジ。俺ァサイズじゃ他の連中に負けるが、熱意で負ける気はねェ」
「第一お前、誕生日だってのに祝いも送らず、名前も呼ばねェ男が本当に好きか?」

 19才ゾロの苦々しい呟きは、どんな言葉より21才ゾロに刺さったようだった。傲岸そうな顔が一瞬、酷く痛そうに強張るのを、サンジは不思議な感動に包まれながら見守った。
 あのゾロが、不安そうな顔をしている。
 サンジに愛される自信がなくて、揺らいでいるのだ。
 だからその分、サンジは力強く告げた。

「好きだ」

 凛。と、その言葉が空気を震わした瞬間、他の三人の輪郭がゆっくりと揺らいだ。そして煙のようなものに変わり、耳や鼻や口から21才ゾロへと呑み込まれていった。
 
 ドクン

 途端に、三人の欲望を一身に請け負ったかのように、ゾロの砲身が荒々しさを増してサンジに襲いかかった。腸壁に、ゾロの怒張した血管がめり込みそうな程だ。
 
「あ…ァっ!はげ…し…っ!!」
「………………………………………サンジっ!!」

 葛藤を越えてようよう吐き出されたようなその声は、一度放たれると、後は堰を切ったように繰り返される。

「好きだ…チクショウ…やっぱりお前が好きで好きで堪らねェ!サンジ、サンジ、サンジ…っ!!」

 《ゾロ…っ!》と歓喜の悲鳴をあげるサンジの内腔いっぱいに、ゾロの欲情の証が注ぎ込まれ、粘膜を熱く染めていくのだった。

 そこで、白から黒へと世界が色を変えた。

 混沌の中から目覚めたサンジは、ぱちりと目を開いた。目覚めた方が暗いというのは妙なものだ。
 風景はあのぼんやりと明るい卵色から、真っ暗な深夜の海上に変わっていた。マストに幾つも灯された灯籠の光に、誕生日の飾り付けをしたサニー号が見て取れる。
 まだぼんやりしたまま身じろげば、誰かに抱きとめられているのに気付いた。

 ゾロだ。ロロノア・ゾロだ。
 ゾロが現実世界でサンジを抱きしめているという事実に、カーッと熱い血が全身を駆けめぐるのが分かった。

 ゾロは二人の間に僅かな隙間も作らせないとでもいうようにぴったりとくっついて、首筋に顔を埋めている。どうやら意識はないようなのだが、万力のような腕に捕らえられた身体は微かに揺らすことしかできなかった。
 見れば、芝生の上には他の仲間達が転がっていた。慌てて様子を見にいこうとするが、やはりゾロは動かない。ただ、健やかな寝息が聞こえているのでそこまで切羽詰まった感じはしないから、ゾロに対する促しも、いつもよりずっと柔らかい。

「おい、ゾロ。ゾロってば。起きろよ」
「…あ?」

 漸く目覚めたゾロは一瞬の後、サンジを抱きしめていることに気付くと、これ以上ないくらい目を見開いてからサンジの顔を見詰めた。
 そこにあったのはいつもの喧嘩腰の面構えではなくて、どこか確認を求めるような必死さがあった。

 良いのかな?
 合ってるのかな?

 サンジも自信がない。ゾロの表情からいって、多分彼も同じ記憶を共有しているのだと思うが、激しく抱かれた筈の身体はいつもと変わりなく、行為自体はただの幻想であったことを示しているからだ。
 なので、伺うようにそっと囁いてみる。

「ゾロ…。あ、あのな?俺のことどう思ってる?」

 《嫌いに決まってんだろ、バカコック》

 そんな返答がぶつけられるのではないかと不安に思いつつ、待つこと3秒。見事に首筋まで真っ赤になったゾロが、《好きだ、サンジ》と小さく呟いた。
 ひたひたと潮のように満ちてくる幸せを噛みしめていたら、ゾロは更に、腹巻きから小さな金属を取りだした。

「やる」
「まさか、誕生日プレゼントか!?」

 このタイミングだとそうとしか思えないのだが、ゾロの顔は何故か複雑そうに歪む。

「誕生日とか関係なく、ただ、やりたかった。ずっと前に、お前みたいだと思って買ったんだ。2年前…シャボンディの商店街をぶらついてた時だ」
「え?」

 渡された金属はシルバーの指輪だった。もしかすると2年前はピカピカだったのかも知れないが、年月と塩水に何度か浸されたせいだろう、黒っぽく変色している。けれど、埋め込まれた蒼い石だけは奥深い色合いを湛えて美しく見えた。その蒼との配色のせいか、くすんだ銀もかえって趣があるように感じる。

「…したら、俺ァくま野郎にまたボコボコにされて、てめェに庇われるような始末だった。不甲斐なくて情けなくてよ。お前を好きになったりすっから、こんな惰弱な男になったのかと思って、修行中に何度も捨てようと思った。指輪も、てめェへの気持ちも」

 サンジの髪を撫でる手が、幻想の中でそうしていたように一瞬強く掴もうとしたが、小さく震えてから、ゆっくりと髪を梳いていった。

「結局、捨てられなかった」

 指輪も、想いも。
 サンジが何度もそうしたように、ゾロもまた捨てては拾うを繰り返していたのか。

「俺を好きなまま、強くなれよ」
「ああ」

 こくんと頷く顔は、少年のような純粋さと、肝の据わった四十路男の風格とを同時に滲ませる。
ああ、あいつらはみんな、お前の中にいるんだな。

 そんな感慨を抱きながら、サンジはゾロにキスをするのだった。



おしまい


あとがき


 みう様のご厚意に甘えて、久し振りに危険物を投下します。
 もう何回かやっております複数ゾロによるハーレム(?)
 しかし、毎回セックスは中途半端な感じで展開しているような…(汗)
 まあ、セックス自体よりは、ソコに至るまでのモテモテぶりをお楽しみ下さい。
 



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