人間の想い、天使の願い


「ふ…んく…」

舌先を絡めとり、そのまま吸い上げる。
零れた吐息は熱くて、興奮した。
唇を離し、そのまま強く抱きしめた。
完全なる一目惚れ。
しかも、一方的な。



天使だと名乗る奴にあったのは、およそ二時間前になる。

「面倒くせーが、てめぇの願いを叶えに来たぜ」
「なんだ、それ」

見たことがない綺麗な金髪にまずは惹かれた。
しかし天使というわりに羽も何もなくて、最初ゾロは新手の商法か何かだと思った。
細い体躯、起きると突然部屋にいた彼はサンジという名前らしい。
会社に入って5年。
特に不満もなく生きてきたゾロに、願いを叶えるなんて特に必要のないことだ。
それを言うとサンジはポケットからタバコを取り出し、丁寧に火を点けてから言った。

「だろうな。でもな、俺は願いを叶えなきゃ帰れねぇんだ」

少し乱暴に、ゾロの寝ている布団の足元へと腰を下ろす。
そういえば今日は休日。
いつもの癖で早めに起きてしまったが、まだ時計は朝の時刻を示している。

「サンジ…だっけか? 酒でも飲むか?」
「あんま飲めないけど、それでも良ければ」

布団を畳み、ワンルームマンションに合うほどの小さなテーブルを出し、焼酎を出した。
大体休日は朝から酒を飲むことになっている、とゾロが言うと、人間のことはわからないというようにサンジは軽く笑う。
その表情に、ゾロは少し驚いた。
さっきから不機嫌そうにタバコを吸っていたが、こういった表情も出来るのだと。
それを見るとサンジはまた不機嫌そうに、

「なんて顔してやがる」
「いや、別になんでも」

しばらく酒を交わしながら、ポツリポツリと話をしていると、どうやらサンジは本当に天使らしかった。
おおよそ暮らす生活の中で彼しか知りえない情報を持っていたし、死んだゾロの家族のことも知っていた。
あまりこういったことを信じないゾロだったが、とうとう根負けして認めることにした。

「つまりお前は俺の願いを叶えなきゃなんねぇんだな」
「だから、さっきからそう言ってる」

焼酎を飲み、少しずつ頬が紅潮していくサンジに、ゾロは気持ち良くなって笑う。
休日に一人ではないのは久しぶりのことなのだ。
それに、話を聞くほど、サンジの生活や表情の機微が気になった。
そのうち、

「何か欲しいところだな」

などと言って、台所で有り合わせのつまみを作りだす。
願いを叶える、と言ったくせに、一緒に酒は飲むし料理はするし、随分とオマケ付きである。
作ったのは簡単な物だったが、思わず久しぶりに「美味い」と声を出して褒めた。

「美味いだろ。何も食べてないから胃が喜ぶんだ」

タバコを携帯灰皿に沈めながら、照れたように笑う。
それを見て、ふいにゾロに衝動が生まれた。

「決まった」
「ホントか? じゃあ……んう…」

横に行き、サンジの唇を、ゾロは突然奪う。
そのまま押し倒すと、テーブルの上の焼酎が音を立てた。

「お前が欲しい」

ゾロにとって、男にこんな感情になるのは初めてだった。
女でも押し倒したいという気持ちになったことはない。
でも会ったときのサンジに、一目惚れしたのだ。
サンジはもちろん驚いて、普通女がいいだろとか俺は天使なんだとか言っていたが、もう一度口づけをすると、観念するように目を閉じた。
それを合図に、ゾロはサンジの服の中に手を入れ、その意外と冷たい身体に温かな手で触っていく。

「天使が駄目なら、堕天使になりゃいい」
「ゾロ」
「初めて言ってくれたな、名前」
「ゾロ…俺…」
「なんだ」

布団を敷き直すのも面倒なぐらい、ゾロは激しくサンジを欲していた。
すでに固くなった場所は、サンジを求めて熱くなっている。
サンジはそっぽを向きながら小さく呟いた。

「俺だって、初めて人間界を見たときから好きだった」

やがてサンジとゾロが一緒に住むようになるのは時間の問題だ。
一方的だと思っていたゾロの想いは、サンジの告白によって打ち消された。
二人は天使と人間ながら、今も平和に暮らしているという。



End


   *****



こんな天使ちゃんが舞い降りたら、ゾロじゃなくてももうGetせずにいられませんよー!
ああもう、ゾロったらなんてラッキーなの。
大事に大事にしなきゃだめよ(笑)
きっと二人とも一目ぼれだったのよね。
二人で慎ましくも幸せに暮らす様が目に見えるようです。
幸せなサンジェルちゃん、ありがとうございます!



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