Carnaval

夜空を彩るのは艶やかな花火。
通りを埋める人波は無機質な仮面の群れ。
色とりどりの衣装を身に付け、歌い踊り酒に酔う。
一夜限りの狂乱の宴は、夜が更けてさらに喧騒が増した。



無礼講とばかりに誰彼となくキスを交わし抱擁を受け、雪崩れるように人垣を分けて連れて行かれた。
途中、階段に躓いて転び掛けたところを、横から差し込まれた腕で抱き留められる。
「はれ?ゾロぉ」
暗がりで見ればぎょっとするような三白眼が、時折上がる花火の灯りに照らし出された。

「どこ行ってやがった」
酒場までは一緒だったのだ。
通りに出て祭りに興じる人々にもみくちゃにされ、気付けばはぐれていた。
天然迷子は捜すまでもないかと、いい感じに酔っ払っていたサンジは仮面の美女に連れられて通りを抜け、ワインのシャワーを浴びながら次々と接吻された。
途中から、抱き締めるたおやかな手がごつい腕に変わっていても頓着せず、陽気に歌い踊りながら連れられるままに歩いていた。
そうして、今に至る。

「てめえこそ、どこ行ってやがったんだ〜」
見つけたーとばかりにその首に両腕を回して抱き付いた。
完全な酔っ払い具合に、怒りよりも呆れた表情でゾロはその身体を抱き留める。
そんなゾロごと抱えるように伸ばされたいくつもの腕から素早く身を引き、視線だけで威嚇しながら足早に通りを抜けた。
自力で歩けそうにない酔っ払いを担いだまま目に付いた宿に飛び込む。


「3階の角部屋が開いてるよ」
混んでいるかと思いきや、意外なことに宿は空いていた。
今夜、部屋で泊まる客は少ないのだという。
誰しもが宴に酔い、一晩中表で踊り狂うのが常なのだとか。

すっかり力の抜けた酔っ払いを肩に担ぎ、ドアを閉めて風呂場へと直行する。
乾いたタイルの上に寝かせ上着を剥ぎ取れば、真っ白なシャツは血よりも薄い朱色に染まっていた。
「とんだザマだな」
頭からワインを浴びたのだろう、服も髪も何もかもが酒臭い。
いつもなら、服に少しでも酒が掛かればすぐさま洗って洗って乾かして・・・とうるさいはずのサンジは、正体不明で眠り掛けている。
「この、酔っ払いが」
「くふぅん」
乱暴に片手で抱き上げると、悩ましげな鼻息を吐いてゾロの首に腕を回してきた。
酒に濡れた頬を舐め、髪を軽く食む。
「んだ、くすぐって・・・」
笑いながら顔を背けるサンジの耳朶を甘噛みして、うなじから顎の下まで丹念に舌で辿った。
「・・・ん、舐め、んな」
「勿体ねえだろうが」
「くは、なにが?」
首元をきつく吸われ、サンジは軽く仰け反って喘いだ。
とろりと、潤んだ瞳は瞼の中で蕩けそうだ。
「酒の味がする」
「んー」
濡れて色を濃くした唇が、ゾロの口を塞ぐように噛み付いてくる。
それに口付けで答え、ゾロは再びサンジの身体をタイルの上に横たえた。



わざと音を立てながら、肌が見えている部分を丹念に舐めていく。
肘の内側や手、シャツが捲れ曝け出された臍に脇腹。
それだけで焦れたのか、サンジは自分からボタンを外し始めた。
その手をやんわりと押し留め、ワインで濡れて透けたシャツの、そこだけ色濃い尖りの部分に唇を当てる。
口先だけで食み、濡れたシャツごと咥えてじゅっときつめに吸えば、ワインの残滓と硬くしこった乳首が舌の上で転がった。
「・・・ふ、あ・・・」
うっとりとした表情で、サンジは目を閉じたまま息を吐いている。
コリコリと、歯で軽く噛み締めてやれば、サンジはいやいやをするように首を振った。
「や、痛・・・もっと、やさしく」
「ざけんな、このエロコック」
扁平な胸を乱暴に揉み上げ、盛り上がった筋肉ごとじゅっじゅと吸い上げる。
「ん、ゾロ・・・や、こっちも・・・」
触れてもらえないもう片方の乳首を、差し出すようにシャツを肌蹴た。
けれどゾロは、そちらには目もくれず布越しに片方だけを愛撫する。
「・・・ゾロ、ゾロぉ」
サンジは焦れて、自分の胸を引っかくように撫で自ら指で乳首を弄り始めた。
指で抓み引っ張って、少し爪を立てて引っかく。
「ん、ん・・・ん」
「堪え性のねえ奴だ」
サンジの指が己の乳首を慰めるのを横目で見ながら、ゾロは布越しに乳首を噛んだままベルトのバックルを外した。
下着ごとずり下ろして、すぽんと脱がせてしまう。
乳首から口を離して身体を起こし、改めてシャツも脱がせた。

「んー・・・」
ゾロに触れてもらえないままの乳首を弄りながら、サンジは切なげにゾロを見上げた。
「ゾロ・・・」
「タチの悪い酔っ払いめ、俺が見つけなきゃ誰と寝てた」
無防備な膝を割り、長い足を左右に開かせて太股の内側に手を当てる。
「答えろよ」
「・・・んなこと、ねえ」
自分できゅっと乳首を抓み、はあと甘い吐息をはく。
「誰とでも、弄くられりゃ気持ちいいんだろ?」
「ちがう」
違うと口で言いながら、淫らに自分の乳首を弄り続ける手を抑え付ける。
「ん・・・」
「違わねえよ、この尻軽」
口では酷いことを言いながらも優しく口付けると、サンジはすぐさまむしゃぶりついてきた。
犬のようにハアハアと息を切らし、すぐに口付けを解いたゾロを追いかけて身体を起こす。
「てめえみてえな淫乱野郎には、仕置きが必要だ」
「ふ、やだ」
もっとキスをとねだるように唇をつけてくるサンジを引き剥がし、その両手を開いた膝裏に押し当てる。
「自分で持ってろ」
「・・・なに」
「足広げて、じっとしてろ」

サンジは、過度に酒が入ると勃ちが悪くなる。
中途半端にくたりとしているペニスを柔らかく撫でてやってから、ゾロは軽くシャワーを掛けて石鹸を手に取った。
淡い繁みに擦り付けるようにして泡立てると、丹念に局部を擦った。
「洗って、くれんの」
クスクスと笑いながら、サンジは足の指先をきゅっと丸めた。
恥ずかしいから膝を閉じたいのに、ゾロに言われたから我慢しているのだ。
酔っ払ったサンジは無防備で、ゾロの言うことにも素直に応じる。
相手がゾロだけなら問題ないのだが、誰に対してもそうなるからゾロは気が気でない。

浴室に備え付けられたカミソリを手にして、ゾロは再びサンジの股間に視線を落とした。
サンジはとろんとした表情のまま口を開く。
「なに、すんの」
「綺麗にしてやる」
もう充分綺麗になったと、そう言い掛けて口を閉ざした。
今さらながら、ゾロが手にしたものに気付いて身体を引いている。
「よせ・・・」
「じっとしてろ」
ゾロの言葉に魅入られたように、サンジは口で抵抗しながらも身体を動かさなかった。

銀色の刃が泡に塗れた肌に当てられ、そっとずらされる。
じょり、と小気味よい音が立って、白く滑らかな肌が現れた。
「あ・・・」
「動くなよ」
ゾロの手が、丁重な手付きで刃を動かしていく。
くたりと垂れていたサンジのものが、ゾロの手の中で少しずつ硬さを増していった。
それを持ち上げ角度を変えながら、ゾロは慎重に作業を進めていく。
「やべ・・・やべ、よ、ゾロ」
「俯くな、手元が翳る」
ゾロは局部に顔を近付けて、剃り残しがないように丹念に刃を動かした。
サンジの金色の繁みが、泡に塗れてタイルの上にぺったりと張り付いていく。

「ああ、あああ・・・」
ゾロの手の中で、サンジのものがぷるぷると震えている。
先端から滲み出た露が、指を濡らした。
「腰、上げろ」
掠れた声でそう言えば、サンジは膝裏に当てた手をそのままに、タイルに寝そべって尻を上げた。
「じっとしてろよ」
「・・・そ、そんなとこ、ねえよ」
息づくようにヒクつく場所を指で撫で、石鹸を塗りつけるようにしながらカミソリの刃で撫でた。
「あ、そ、そんなとこ・・・」
「ああ、綺麗になった」
言って、シャワーの湯を掛けてやる。
ゾロの前でM字に足を開いたまま硬直したサンジの、真っ白な尻と色付いた股間が露わになった。
丁寧に泡を洗い流して、ゾロは満足そうに太股を撫でる。

「も・・・おわった?」
サンジは酔いと羞恥で肌を真っ赤に染めながら、ぜえぜえと息を切らした。
足を広げてじっとしているだけで、相当消耗したらしい。
そんなサンジを労うように軽く内股を叩くと、ゾロは微笑みながら囁いた。
「剃り残しがねえか、確かめてやる」
そう言って、幼子のように無垢な股間に顔を埋めた。

舌を伸ばして、つるりとした肌をしっとりと舐める。
足の付け根から恥丘、袋を丹念に舐め上げ、その奥を指で探った。
腹巻の中に常備しているジェルを搾り出し解してやると、すでに酔いでぐずぐずに解けた身体は難なく開いていく。
「あ・・・あ、あ・・・」
「おいおい、早えぜ」
もうこんなにも入る、と中で指を広げてやれば、勃ち上がったサンジ自身が露を滴らせながら揺れた。
「あ、もう・・・もっ」
「まだだ」
くちゅりと水音が立って、尻肉が揉まれながら持ち上がった。
「や、だ・・・はずかしっ・・・」
「言ってろ」
―――いつもより、感じている癖に。
意地悪く囁けば、サンジはぶるぶると身体を震わせゾロの指を締め付けた。
「待てっつってんだろ」
「・・・むり、むりっ」
ゾロの後ろに回した足を組み、踵で背を押した。
自ら腰を上げて、ねだるように擦り付けてくる。
「もっと・・・もっと、なかっ」
ゾロはちっと舌打ちして、乱暴に内壁を抓んだ。
「どんだけ堪え性がねえんだ」
「んあっ、いた、ああ・・・ん」
それでもずりずりと腰を振り、ゾロの首に縋り付いて舌を伸ばし唇を食んでくる。
「んく、ん、も・・・もぅっ」
ゾロはサンジの髪を掴んで引き剥がし、足首を持って乱暴に突き入れた。
「ふあっ・・・あああっ」
押し入る衝撃に仰け反りながらも、サンジは腕を伸ばして引き攣った指でゾロのシャツを掴む。
「あ、うぁ・・・あああ―――」
「ずぶずぶじゃねえか」
こなれて熱く蕩ける内部を味わうように、ゾロはゆっくりと腰を進め時折引き抜いては突き入れる動作を繰り返した。
その度サンジの口からあられもない嬌声が上がり、浴室内に反射して低く響く。
「・・・はあ、い・・・いい」
「美味そうに咥え込みやがって」
撓るままに押し広げられた足の間で、ゾロは円を描くように腰を回している。
「丸見えだ」
「はあ・・・み、みんなっ」
「いまさら」
結合部を指でなぞられ、サンジの中がびゅくびゅくと痙攣する。
「やあっ、いくっいくっ」
「まだだ」
筋裏を撫でられ、すっかりいきり勃ったものを掌で押さえ付けられた。
痛いのに、苦しいのに気持ちよくて、我を忘れて身悶える。

「あひっ、ひ・・・んひっ」
「んなツラ、他の奴に見せんじゃねえぞ」
「ん、なこと・・・ねー」
「ああ?」
ゾロの獰猛な顔付きが更に険しさを増す。
「まだ懲りねえか」
「・・・ちが、や、ぞろ・・・」
「奥でぎゅうぎゅう締めつけんじゃねえよ」
「だって、あ、また・・・ああ、う―――」
中途半端に浮いた手が胸に落ちて、思い出したように己の乳首を弄り始めた。
両手できつく揉みしだきながら、魘されたように首を振る。
「ああ・・・いい、いいっ」
「このド淫乱!」
「・・・やあっ、おくっおくぅぅ・・・」
手を払い、乳首に噛み付いてきたゾロを両腕で抱きしめて、サンジは歓喜の声を上げ続けた。







明けない夜はない。
どんな狂乱の宴にも、終わりは必ず来る。
あるものは二日酔いの痛みに呻き、あるものは記憶がないことに恐れ戦いた。
空っぽの財布、隣に眠る見知らぬ人、見覚えのない部屋。
そんな様々なアクシデントで、あちこちに小さな悲鳴が上がる街の朝。
この部屋でも、声無き叫びが上がっていた。

「んのおおおおおおおおおお!!」
トイレからこの世のものとも思えない雄たけびが響き、次いで蹴飛ばす勢いで扉が開いた。
諸事情で若干ガニ股が酷くなったサンジが、鬼のような形相で仁王立ちしている。
睨みつける先には、まだ能天気に眠りこけるゾロの姿。
「ざけんなあっ」
渾身の踵落としは、寸でのところで避けられた。
本能のまま身を翻したゾロは、身体にシーツを巻き付けたままベッドの下に落ちる。
そうして初めて、んが?と寝ぼけ眼を開いた。
「・・・もう朝か」
「もう朝かじゃねえ、ふざけんなあっ」
怒り心頭のサンジを胡乱気に振り返った。

「朝っぱらからなにはしゃいでやがる」
「はしゃいでんじゃねえよ、怒ってんだよこの野郎っ」
言いながら、サンジは盛大に顔を顰め頭を押さえていた。
ガンガンと、目が回るほどに頭が痛い。
これは二日酔いだ。
それはわかっている、わかっているがこれはなんだ。
「これはなんだ?!」
身にまとっていたバスタオルをさっと取り去った。
寝ぼけていたゾロの目が、ぱちっと開く。
「おお」
「おおっじゃねえっ!」
再び回し蹴りが襲ったが、ゾロはその片足をがっつりと受け止めた。
そのまま嬉々としてベッドの上に引っ張り上げる。
「絶景だな」
「・・・コロスっ」

朝、いつものように目が覚めてしまってフラフラと小用に立ったサンジは、トイレで己のモノを見て悲鳴を上げた。
ない、本来あるべきものがない。
ないからモロ見え。
「なんで、こんなっ」
「覚えてねえのか?」
ゾロの素朴な問いに、うっと詰まった。
よくよく考えてみれば、うっすらと覚えている。
と言うか、そう言われればそうでしたと認める程度には覚えている。
覚えてはいるが、やっぱり認めたくない。

「覚えてねえ!」
「嘘付け」
即言い返されて、ぐうの音も出なかった。
「てめえ、夕べはとんでもなか・・・」
「うるさいうるさいうるさいっ」
ベッドの中に連れ込まれながら、サンジはジダジダと足をバタつかせた。
引っ付きすぎているから威力はないが、子どもの駄々程度には意思表示ができている。
「そんだけ嫌がるってことは、やっぱ覚えてんじゃねえか」
「覚えてない!覚えてないけどてめえうるさいっ」
顔を真っ赤に染めて一頻り叫んだ後、サンジは布団に突っ伏してしまった。
後はゾロがどれだけ宥めてもすかしても、顔を上げようとはしない。

「すぐ生えるって、気にすんな」
「元々そんなに、変わらねえじゃねえか」
「誰も見ねえよ。つか、誰かに見られたら俺が許さん」
「大体、てめえが緩すぎるのがいけねえ」
「夕べだって、俺が見つけなきゃどこでどうなってたか」
「わかってんのか、大体てめえは酒を飲むと・・・」

くどくどと説教まで始まったが、サンジは頑として顔を上げなかった。
ほとほと困って、ゾロは仕方なく詫びの言葉など口にする。
「わかった、俺が悪かった。責任を取る」
サンジの真っ赤な耳が、ぴくっと動く。
「責任取って、俺も剃る」
「あほかーっ!!!」
くわっと吠えながら起き上がり、サンジは手にした枕を振り上げた。
「お前が剃ったって、タムシの治療にしか思えねえだろがっ」
「じゃあお前もそう言・・・」
皆まで言わさず、枕がゾロの顔面を直撃した。


その後しばらく、サンジは船に帰ってからも誰とも一緒に風呂に入ろうとはしなかった。



End