Alone -7-


熱いシャワーを浴びて早々に自室に引き上げたが、一人でいても落ち着かず何も手につかなかった。
時間が経てば経つほど、どんどん腹が立ってきて頭がカッカする。
あの時、その場でぶち切れてゾロの部屋の中をめちゃくちゃにしてしまえばよかった。
短気なくせに切れるタイミングを逸する自分が恨めしい。

どうしようもなくて不貞寝しようにも眠ることもできず、サンジは持参したエロ本を捲ったりラジオを聴いたりしていたが、結局落ち着かなくて台所に下りた。
冷蔵庫の中に自分のために買った缶ビールがある筈だ。
奥様は家に居つかないし、ゾロはそもそも未成年だからアルコールはご法度。
買い出しリストにビールなどないから、自分のために買っておいたものだ。



薄暗闇の中で、戸棚からビアカップを取り出し静かに注いだ。
冷たいそれをぐいっと勢いよく飲み干す。
喉に苦味が走って、少し頭がすっきりしたような気がする。
2缶続けて呷って一心地つき、立ったままホウと息を吐いた。
缶を濯いでシンクに置く。
明日の朝、全部片付けたらいい。

口元を袖で拭って、ゆっくりと階段を上がる。
途中でくらりと、眩暈のようなものを感じた。
怒りのあまり、脳みそが揺れてるのだろうか。
馬鹿なことをと自嘲しながら、部屋のドアを開ける。
閉めたことも確認できないくらい、目の前がクラクラした。
やけに気分よくて後のことはどうでもよくなってきて、サンジは豪奢なベッドの上にそのまま倒れ込んだ。










なにもかもが夢のようにあやふやで、それでいて強烈過ぎる刺激が身体全体を支配するかのように無造作に襲いかかる。
抗う腕に力が入らない。
耳障りな喘ぎ声に、先ほどの淫らな画像がフラッシュバックして夢を見ているのかと思った。
悪夢だ。
ああ、また俺は犯されている。

猫が鳴くような甘い喘ぎが漏れた。
甘えているのか、強請っているのか。
快楽を享受して震えているのは、液晶の中の自分なのか今ここに存在する肉体なのか。
そこに思い至って、急速に思考が覚醒した。

「あああ―――!!」
飛び起きようとして叶わず、両手で何かを掴む。
容易に手繰り寄せられたのはシーツで、自分の寝床となったベッドの上に仰臥していることはわかった。
目の端に映る窓辺は、薄く白い光が満ちていた。
夜明けか、もうすぐ朝なのだ。
なのに身体を起こす事ができない。
熱い塊が背後から内部を侵し、身動きが取れないように押さえつけているからだと、ようやくにして思い知る。
「うが、や・・・めろっ」
背中を圧迫され、呼吸もままならぬ状態で辛うじて横を向く。
圧し掛かっているのはゾロだ。
サンジの腰に深々と己を埋め、さかんに打ち付けている。

「ふ・は―――なにがっ」
ゾロは顔を歪めて笑っていた。
「今更何を、止めろってんだ。ははっ、ヨガってるくせにっ」
ああ、まただ。
またゾロが狂乱している。
サンジの意識がない内に、サンジが眠っている隙に好き勝手に弄くって犯している。

「止め、ろ・・・」
ゾロの動きに声が擦れた。
すでに蕩けきったそこは、ゾロの侵入を容易く受け入れ、与えられる刺激に従順に応える器のようだった。
自分の身体とは到底思えない、えも言われぬ快感が脳髄を駆け昇る。
「く、は―――」
「どうした、さっきみたいに素直に喘げよ。なあセンセすげかったぜ。アンアン言ってた」
ゾロが甲高い声で笑った。
サンジの双丘を鷲掴みにし、腰だけ高く上げさせて抉るように打ち付ける。
「どうだ、イイか?ほら、イイかあ?」
「・・・くっ」
サンジはシーツに顔を埋め、声を押し殺す。
これ以上ゾロを調子付かせたくはないが、自分でもゾロの律動に合わせて腰が揺れるのを止める事ができない。
「ははっ、イイんだ!センセ、もっと言えよ、イイって言えよ。もっとぉってさあ」
ゾロが動く度に、腹の底の深いところがビンビンと響く。
こんな快感は初めてで、理性が追いつかない。
うっかりと声を上げてしまいそうで、サンジはただただシーツを握り締めて顔を覆い隠すしかできなかった。
「すげえ、溶けるっ、センセエ、溶けるぅっ・・・」
ゾロの指が尻に食い込んだ。
裂けそうなほど押し開かれて、くぐもった悲鳴が上がる。
ぴしゃりと生暖かいもので濡れたのは自分の中なのか腹なのかわからず、サンジただ小刻みに痙攣を繰り返して果てた。



「ふ、は・・・はあ・・・」
ゾロの額から汗が流れ落ちた。
満足そうに口元を歪めて、サンジの尻を撫でながら身体をずらす。
「はは・・・すげえ、卑猥―――」
引き出されたゾロのモノは、ゴムに包まれて濡れていた。
「あー・・・センセの中でなら、生で出したいかもな。俺ので、いっぱいにしてえ」
名残惜しげに双丘の奥に指を這わせ、掻き混ぜた。
サンジのペニスがぶるりと揺れて、ほんの少しの精液をまた吐き出した。

「・・・止めろ」
シーツの間から睨みつけて、サンジは身体を横に倒した。
あちこち強張って、関節が痛い。
一体いつから弄くられていたのか、さっぱり記憶になくて今でもまだ事態が掴めていなかった。

「お前、一体・・・俺に、なにした・・・」
息が上がって、サンジはベッドに横倒しになったまま切れ切れに言葉を発した。
ゾロはティッシュに包んでゴムを捨てると勝手に身支度を始めている。

「別に、俺はなんもしてねえぜ。なんかモヤモヤして、すっきりしたくなったから先生の部屋に来たんだ。ドアは開けっ放しだし、何度起こしても起きないしさ。だから入れさせてもらった」
「・・・ンのっ・・・」
カッと頭に血が昇る。
「何が入れさせて貰っただ!勝手なことすんじゃねえっ」

昨日の(一昨日の?)今日とは言え、そう簡単にあんなものが再び入ってたまるものか。
真っ赤になって飛び起きたサンジを見下ろして、ゾロはニヤニヤ笑っている。
「大丈夫、じっくりたっぷり解してやったから痛くねえだろ?なんか先生寝てる時のが素直で可愛いよな。鼻なんか鳴らしちゃって、めっちゃ気持ち良さそうだったぜ」
「うるさい!」
手近にモノがなくて、仕方なく枕を投げたが受け止められてしまった。
「もういい加減認めろよ。男だってケツは結構いいんだってば。俺はすっきりするしセンセも気持ちいいしで、両得じゃん」
「ざけんな!」
昨夜、確かに寝付けなくてビールを2缶飲んだのは認める。
だがあんなもので酔いつぶれる自分ではない。

「てめえ、俺に何した。なんで俺はてめえにこんな風にされるまで、目が覚めなかったんだ」
「ビール飲んだだろ」
「・・・なんで知ってる?」
匂いがするのかと、口元に手を当てた。
だが、あの程度でここまで酔いつぶれる訳がない。
「この家でビール飲む奴いないしさ。貰い物のビアカップは誰も使わねえんだ。冷蔵庫の中に缶ビール買ってあったし、先生はもしかして缶ごと飲むタイプじゃないんじゃないかと思って、カップに薬擦り付けといた」
「・・・な、えっ?」
「睡眠導入剤だ。やばいもんじゃないから安心しな」
なんでもないことのように言ってのける。

「だって、先生用心してっからそう簡単にやらせてくれそうになかったしさ。また痛い目遭うのは、お互い嫌だろ?」
ゾロはぼすんと勢いつけてベッドに腰掛け、驚愕に固まっているサンジの頭にそっと触れた。
「なあ、これもバイトの内だって割り切ったらいいじゃん。最初から、安い仕事じゃねえしさ。俺すげえ先生気に入ったし、先生も気持ちよかったらそれでいいじゃん。今までの先生はみんなそうだったよ」
ぎくりとして、見開いたまま眼球をぎこちなくゾロの顔へと移動させる。
「・・・みんな?」
「うん。今まで俺のカテキョやってくれた先生達、みんな俺を満足させてくれた」
いいのか、そんなんでいいのか?

「抵抗さえされなきゃ、俺も無茶しねえもん。大概先生の方から誘ってくれたし・・・まあ、からかい半分の人が殆どだったけど、俺が応えると却って夢中になって来たぜ。あんまりしつこいとこっちが辟易するから辞めて貰った人もいる」
「・・・バカ言うな・・・」
「嘘じゃねえよ。そんなもんだよ」
世間の良識がどの辺りに位置するのかわからないサンジだが、そんなAVまがいのことが現実にそうそうあるとは思えない。

「お前が、無茶して手篭めにしたんじゃねえのか」
「しねえよ、そんなめんどくさいこと。先生が初めてだ」
「だって、あのパソコンのとか・・・」
「ああ言うの好きな人もいるからね。DVDに焼いてプレゼントしたりすると悦ばれたぜ。手元にあるの、見る?」
サンジはぶんぶんと首を振った。

「俺のってイイんだってさ。奥まで当たるぅとか、悦び方がスゲエの。俺だって悪い気はしねえさ」
そう言って照れたように笑う。
いや違うだろ。
そこでいっそ爽やかとさえ言える笑顔を浮かべられても、なんか違うだろ。
「俺のがイイのは、先生も知ってるしね」
さらりと言われて、サンジは座った姿勢のままで膝を繰り出した。
難なく片手で押さえられて、深くベッドに沈められる。
「テレんなって、先生って照れ屋だなあ」
ゾロに悪気はまったくない。
こんな風にちょっとイケ面でいい身体を持ってる高校生と遊べるなら、女子大生達は案外気楽に身体を開くのだろうか。
時給3千円の中に、それもコミだと了承して?

「しかも俺は絶対ゴム着けるしね。安心だよ」
サンジを宥めるように肩をポンポンと軽く叩くと、ゾロは立ち上がった。
「さてと、俺はこれからちょっと寝ます。今日は土曜日だし、先生もどっか遊びに行っていいですよ。あ、お袋は旅行に出かけるって。いつ帰って来るかわかんないから」
ドアノブを握るゾロに、サンジは慌てて声を掛けた。
「ゾロっ」
「なんですか?」
振り返るゾロは、いつもの、昼間見る礼儀正しいゾロだ。

「お前が言ってた、初めての家庭教師の人・・・その、その人な。その人から誘ってきたのか?」
「そうですよ」
何を今更と、小首を傾げてみせる。
「なんで、そんなことしたんだその人。だって、だってお前その頃中学生だったんじゃねえの?」
「ああ、そりゃあ興味があったからでしょう?」
「興味って・・・」
ゾロの言うことを鵜呑みにする訳ではないが、中学生相手に手を出すなんて淫行だ。

「だってその人、親父の愛人だったんですよ」
「・・・っ」
あまりのことに絶句してしまった。
蒼褪めたサンジの顔を見て、ゾロは少し困ったような顔をする。
「や、俺も最初から知ってたわけじゃないですよ。でもその人あとで言ったんです。『ご主人様の息子さんに興味があったのぅ』って」
不気味な声真似をして見せて、ゾロははははと笑った。

「だから、先生が気にすることないですよ」
手を振ってそのまま扉の向こうへと出て行ってしまった。
サンジはただただ、唖然とするばかりだ。





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