愛し愛されて生きるのさ 4



「う〜、気持ち悪い・・・」
「調子に乗って飲みすぎっからだ。ほら水。」

差し出されたグラスを受け取って、サンジは一息に飲み干した。
新郎新婦は早々に退散しろよ、とコーザに助け舟を出されて、まだ盛り上がる会場を後にした。
後片付けやら酔っ払いやら後が大変そうだが、今日1日は主役だから甘えさせて貰おう。

部屋に着いてすぐにサンジはベッドに倒れこんでしまった。
そのまま寝てしまわれては困るので、ゾロが甲斐甲斐しく介抱している。


「まだ日は変わってねえぞ。誕生日プレゼントは最後までちゃんとくれ。」
珍しく子供のようにせがむゾロに苦笑して、サンジはだるそうに腕を上げた。
「んじゃ、服脱がせて俺を風呂場まで連れてってくれ。」
しょうがねえなあなんて言いながら、ゾロは物凄く嬉しそうにセーターをたくし上げた。
ついでに斑に赤くなった脇腹を撫でて胸に手を這わす。
くすぐったそうにサンジが身を捩ると調子に乗って悪戯を始めた。

「ってこら・・・風呂入ってから・・・」
「嫌だ、待てねえ。」
まるで駄々っ子のように、サンジの胸元にむしゃぶりつく。
その固い髪を指で梳いてかき抱いた。

好きで好きで、愛しくてたまらない。
「ゾロ・・・」
名を呼べばそれに応えて、顔を上げてキスで応えた。
合わせた唇から何一つ漏らさないように深く深く絡め合う。
頬にかかる息も、まさぐる指も、すべてが温かくて心地良い。
貪るような口付けを交わしながら、お互いの服を脱がせ合った。

薄絹一つの隔たりさえなくしたくて、性急に身体を重ねる。
愛しても愛しても足りなくて哀しくなって、サンジは繋がったままゾロの肩口を強く噛んだ。

「どうした?」
乱れた前髪を掻き上げてゾロが覗き込んでくる。
こんなにきつく噛んでいるのに、眉一つ顰めないその表情に腹が立つ。

「好きだ・・・」
歯を立てながら、サンジはくぐもった声を出す。
「好きで好きで、どうしようもねえ。どうしていいか、わかんね。」
掻き上げた髪を掴んで、上向かせた。
「俺もだ。このままてめえを手放したくねえ。」
首を傾けて深く口付け、歯の裏から唇、頬を舌で辿る。
「・・・てめえは俺のもんだ。今日約束した。誰にも触れさせねえ。俺のものだ。俺だけのものだ。」
唸るように囁いて、首筋に歯を立てた。
尖った犬歯が皮膚を破りそうなほど食い込んでサンジの頤が細かく震える。
襟足の毛を逆立てながら、サンジはゾロの髪を掴む。
「てめえも、俺のもんだ。もうぜってー俺以外の誰にも触れるな。どんな魅力的なレディがいても、俺はもう赦さねえ。」
ゾロの耳朶を噛んで、頬を舐める。
齧り付いた首筋から顔を上げて、ゾロが再び唇を重ねた。

「俺に誓え、俺だけのものに――――」
「俺に誓う、てめえだけのものだ――――」

ゾロがゆるゆると腰を使い始めた。
どんな動きも逃すまいとサンジが貪欲に締め付ける。
指を絡め唾液を混じり合わせて、二人はまるで獣のように、お互いを貪りあった。








「う、わわわわ〜〜〜っ・・・」
慌てたサンジの声で目を覚ました。
「うわーうわー、やべえゾロ!遅刻だ、遅刻!大遅刻っ」
素っ裸のままゾロの上に跨ってばしばし叩いてくる。
「んー・・・もう朝か・・・」
「朝どころじゃねえ、10時過ぎてるっ!!」
焦るサンジの手首を掴んで無理やり布団の中に引き込んだ。
「大丈夫だ。俺半日有給取ってっし。」
「そうか、なんだあ・・・」
ほっとしたのも束の間、また慌て出した。
「ってダメじゃん俺が!」
「あーお前もおっさんに言ってある。半日休み。」

がくん、とゾロの上で脱力してしまった。
用意周到なのはいいが、前もって言っておいて欲しい。
「んだよ、早く言えよー・・・」
「シャワーして、ゆっくり昼飯食おうぜ、なあ。」
まだ寝ぼけているのか目を閉じたままにやけた顔で、ゾロがちゅっとサンジにキスした。






「おい、コーヒー入ったぞ。」
「ん。皿出して、大皿。」
フライパン片手に振り返ったら、玄関のチャイムが鳴った。
「ゾロ出て…と、いいや俺出る。」

「お届けものでーす。」
「はいはい。」
扉を開ければ鉢植えを手にした宅急便のお兄さんだ。
「ロロノア・サンジさん宛です。」
「え?」
驚いたサンジに手渡して、受取りの紙を差し出す。
とりあえず印鑑を押して鉢植えを受け取った。

真っ赤なポインセチア。
差出人の名前を見て、サンジの顔が強張った。


なかなか部屋に戻ってこないサンジが気になってゾロが顔を出す。
「どうした?」
戸惑ったような泣きそうな顔で振り返ったサンジは、黙ってゾロに鉢植えを手渡した。
綺麗にラッピングされた花の中にメッセージカードが見える。
二つ折りにされたそれを取り出して、ゾロが先に目を通した。

ふいに表情を緩めてサンジに手渡す。
戸惑いながらも受け取ったサンジは、意を決したように目を走らせた。
その顔が、安堵から泣き顔に変わる。




花言葉は「祝福」
         おめでとう





「ゾロ・・・」
カードを胸に抱いたまま、振り仰げば、優しい眼差しが応えてくれる。
その広い胸にこつんと額を当てて、サンジは祈るように目を閉じた。

小さく震えるサンジを片腕に抱いて、ゾロは開け放した玄関から空を見上げた。
昨日と同じ、吸い込まれそうな蒼また青。
眩しくて、少し目を細めて、ゾロはサンジを抱く腕に力を込めた。







どうか、この世のものすべてに祝福を――――

そして心からの感謝を。







ここから始まる、幸福の物語。




END



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