あるひあひる夜


盆正月もバレンタインもGWもクリスマスもガン無視でシフトを組んでいたゾロが、今年のイブはちょっと・・・と口を開いた時点でバイト仲間はあーあと嘆息した。
それでも、今まで誰とでも気安く交替してくれていた恩もあり、今年くらいはいいかとシフトの都合を付けてくれた。
結果24日の今日、ゾロは珍しく夕飯までにアパートに帰り着いた。
別に帰りが遅くなったってご馳走は残しておいてやるし、俺はウソップ達と楽しく過ごすからいいんだよ〜と他意なくサンジに言われて、ゾロはちょっとむっとした。
サンジは寂しくないかもしれないが、俺が面白くない。
だから意地でも早めに帰ってきたのだ。

「ただいま!」
息せき切ってドアを開ければ、丁度オーブンから料理を取り出していたらしいサンジが、割烹着姿のまま振り返る。
「すげえ、ほんとに定時に帰ってきた!」
「おうお帰りゾロ」
「お帰りなさい、お邪魔してます」
満面の笑顔で迎えたサンジの後ろには、隣人のウソップとその彼女カヤが座っている。
「よかった〜もし帰って来なくても、気になって先に始められないかもって思ってたんだ」
「・・・帰るっつっただろ」
正直すぎるサンジに苦笑しつつ、精一杯愛想のいい顔を作ってカヤに挨拶する。
サンジはテーブルの上に料理の皿を載せて、割烹着を脱いだ。
「ナイスタイミングだよ、いま焼けたところだ」
「ささ、まあ座って座って」
「ここは俺の部屋だ」

まずは乾杯とばかりに、グラスを合わせる。
「ワインはウソップが持ってきてくれたんだ、んでケーキはカヤちゃん手作り!」
「サンジさんの前ではお恥ずかしいんですが・・・」
「んなことないよ、すっごく可愛くて美味しそうだ」
冷蔵庫の中に入ってるからと言いつつ、サンジは甲斐甲斐しく取り皿を分ける。
「すげえご馳走だな」
ゾロの声に、自慢げに胸を張った。
「そうだろ、メインの鶏は精肉店のおっちゃんが安く分けてくれたんだ。中に野菜詰めてこんがり焼き上げたんだぞ」
写真か漫画でしか見たことのない鶏の丸焼きに感心しつつ、「共食い」の文字がちらっとゾロの頭を掠めたが、気付かない振りをした。

「美味そうだ」
「ようし、俺が切り分けちゃる」
見た目は豪勢だがいざ食べるとなると上手く解体できない。
みんなで四苦八苦しながら、なんとか食べられる大きさに分解し、あちこち散らばった添え物を取り分けて大騒ぎしながら食べた。
上品に箸やフォークなんて使っていられなくて、手づかみで齧り付きだ。

「美味しい」
「カヤ、こんな風に齧るなんて初めてだろ」
「ええ、でもとっても美味しい」
ニコニコと微笑み合いながら食べるウソップとカヤを、蕩けそうな笑顔で見つめるサンジを、ゾロは見ていた。
今までクリスマスなんて、無宗教の癖に商戦に乗せられた意味のない馬鹿騒ぎだと思っていたのに、こうして過ごすのを楽しいと思う自分がいる。
サンジがいるからだけじゃなく、友人のウソップもその彼女も、こうして早めに帰ることを許してくれたバイト仲間にも、すべての人に感謝したくなるくらい楽しい。
こんな気持ちは、今まで知らなかった。

「ゾロ、食ってる?」
「おう、食ってる」
「骨まで食うなよ、縦に裂けるから喉に詰まるぞ」
「俺は犬か」
ウソップが大学での出来事を面白おかしく話し、サンジは商店街での歳末大売出しの準備について語り、カヤは初詣の計画を立て、ゾロはひたすら飲んで食って耳を傾けている。
去年までは、この部屋で一人だった。
あひるを拾って、いやサンジと出会ってまだ1年も経っていないのだ。
去年の今頃、どこでなにをしていたかと思い出せば働いていたぐらいしか思いつかない。
それはそれで有意義に過ごしていたはずなのに、やはり今が一番楽しい。
来年も再来年も、こうして過ごしたいとガラにもなく思うほどに楽しい。

「ゾロー飲んでるかー」
「お前も飲んでるか」
すでに酔いが回ってへべれけなウソップと肩を組んで、サンジが冷蔵庫から出してきたカヤの特製ケーキに子どもみたいに歓声を挙げた。

酔い覚ましに少しだけ開けた窓の隙間から、朗らかな笑い声が漏れ響く。
その声に誘われるように、空からはチラチラと白い雪が舞い降りていた。


May the miracle of Christmas fill your heart with warmth and love.


End