■あるひあひるだ  -2-


この手紙をゾロがよんでるってことは、おれの正体がゾロにバレたってことなんだとおもう。
こんな日がこなかったらいいのにと、ずっとおもってた。
だから、ゾロはえい久にこの手紙をよまなければいいのに。
けど、いまよんでるんだからしかたないよな。
だから、あきらめて、なんでこうなったのか書くよ。

もう、気づいたとおもうけど、おれはアヒルだ。
あの、白くてきいろくてガアガアなく、鳥のアヒル。
おれもこうなってみて、客かん的にみて、アヒルってカッコ悪いなとおもわないでもない。
けどしかたない。
おれはアヒルなんだから。

いつ生まれたのか、親もアヒルなのか、おれはよくしらない。
ただ、さむい冬の日に雪のなかをさまよってて、ジジイにひろわれたんだ。
鳥には鳥の、かわったおきてがあって、人間に助けられたら、そのおん返しをするために人間に化けることができるんだよ。
おれ、ジジイに助けられたからさ。
ぶっきらぼうでおっかねえのに、ジジイのては大きくてあたたかかったからさ。
だからおれ、人間になった。
そんときからしか、おれのきおくはない。
それがおれ、人間サンジの生まれた日なんだとおもう。

人間になってもなんにもできなくて。
もちろん、鳥的ま力でふしぎなことはできんだけど、それじゃジジイはよろこばなくてさ。
おれ、なんとか役にたとうといっしょけんめい手伝いしてたら、たのしくなってきた。
ジジイも、店のやろうどもも、へんてこなおれのめんどうみてくれて、字のよみ方とかかき方とか、お金のはらい方とか世の中のしくみとか。
いろいろおしえてくれたんだ。
変なガキだなっておもっただろうに、いやがらずにさ。

あくまで、正体をかくしてのおん返したから、アヒルってばれたらすぐにすがたを消さなきゃならない。
けど、さいわいなことに、ジジイにはばれなかったんだ。
おれがアヒルだってこと。
おれ、うまくやってたとおもうんだぜ。



ここまで読んで、いや違うだろとゾロは呟いた。
バレなかったんじゃなくて、じいさんはわざと見逃してくれてたんだ。
それどころか、他の奴に正体が露見しないように、羽毛が残ったままの尻を誤魔化すためにあの奇妙なパンツを履かせたりして。
愛されてたんだなあと、しみじみと感じ入ってしまった。





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