R先生の些細な道楽
-3-






建付けの悪い雨戸の間から、光が差し込んでいる。
朝日よりも陽射しがきつい。
もしかして、もう昼間近なのかもしれない。

就職して翌日に朝寝坊は言語道断だが、止むに止まれぬ事情と言うものがある。
ぶっちゃけ、起き上がれない。
身体が痛むわけではないが、ともかくだるくて腕一本動かすのも億劫だ。
おろしたてのシーツには、昨夜の名残の匂いしか残っていなくて、否が応にも夕べの記憶を甦らせる。


溶けてしまうかと、思った。
ぐずぐずと形を崩して流れて消えてしまいそうなほどに気持よかった。
他人と身体を繋げること自体初めてだったのに、あんなにも気持ちよくてよかったんだろうか。
この世にあれほどの快感があるなんて知ってしまったら、もう元に戻れなくなってしまう気がする。
だってあれは、正常なセックスじゃないんだから。

なんせ男同士だ。
しかも、本来使うべきでない器官を使ったのに、それがとんでもなくよかっただなんて―――

サンジは布団に潜ったまま頭を掻き毟った。
まずいまずいまずい
あれは夢だ、悪夢だったんだ。
あんなこと、オレの人生の上で成り立つ訳がない。
一時の気の迷いでは済まされない、若気の至り?

あわあわと慌てつつ、とにかく一服をと、布団の中から腕だけ伸ばした。
えーとスーツ・・・
あれ、ハンガーに掛けたっけか?

だるい身体を起こして部屋の中を見渡す。
昨日与えられた自分の部屋。
持ってきたのはバッグ一つきりの荷物。
スーツは鴨居に掛けたと思ったのに・・・

「ねえ?」
「失礼」
襖の向こうから声が掛けられた。
先生だ!
慌てて布団を引っ被り、それからもそもそと顔を出す。
逃げてどーする、俺。

「あ、おはようございます」
おはようもクソもない、もう昼だろう。
「身体の具合はどうですか?」
先生は襖越しに尋ねてくる。
身体の具合なんて言われて、かあっと顔が熱くなった。
「は、お陰さまで・・・いえっ、その、大丈夫です!」
「あまり大丈夫そうではありませんね」
先生は喉の奥で忍ぶように笑った。
ますます恥ずかしくて、見られていないのに布団を深く引き寄せた。

「とにかく、あなたは昨日退院したばかりで、まだ本調子ではありません。今日はお休みにするといい。
 私のことは放って置いても大丈夫ですから、ゆっくり休んでください」
「は・・・い・・・」
ここでいえ大丈夫ですと起き上がる気力はなかった。
何より恥ずかしくて居たたまれない。
このままどこかに逃げたいくらだい。
けれど先生は職務の怠慢だとも放棄だとも責めないで、休みを認めてくれた。
・・・まあ、責任の一端は先生にもあるんだけど。

「それではごゆっくり」
「すみません」

先生が立ち去った後、しんと静まり返ってしまった。
まっ昼間のはずなのに、エンジンの音も人の声も聞こえない。
なんて静かな環境。
この場所で、先生は文章を書いて暮らしているんだ。
そこにお手伝いとして入ってきたはずなのに―――
雇い主に気を遣わせてどうするよ、俺。

がしかし、いかんせん身体が言うことを聞かない。
こんな状態では何をしたってうまくいくことはないだろう。
サンジは開き直ってもう一度布団に身を横たえた。

不思議と、後悔はなかった。
男相手に身体を開いて、・・・多分、やられちゃったってことだろうに。
腹も立たなければ口惜しくもない。

―――俺、ヘンになっちまったのかな。
ぼんやりと天井を見詰める視界の隅に、煙草のパッケージが映る。
なんだ、飯台の上に置かれてたのか。
手を伸ばして煙草とライターを掴み、寝そべったまま1本銜えて火をつける。
寝煙草なんてよくないけれど、今だけは勘弁して貰おう。
同じ位置に携帯用灰皿も置いてあって、なぜだろうと思う。
こんなところに揃えて置いた覚えはない。
けれどもう、昨日の記憶はところどころ抜け落ちてしまっているから、サンジは気にしないことにした。
ゆっくりと一服して、きちんと灰皿に揉み消して、何も考えず目を閉じる。
すぐに闇は訪れ、深い眠りへと落ちて行った。











すっきりと目を覚ましたのは午後のことだ。
時計を見れば3時。
中途半端だが、今日を取り戻せない時刻ではない。

サンジは布団を押し退けると大きく一つ伸びをした。
身体がギシギシ鳴る違和感はあるが、概ね良好。
シーツに目を落とすと所々黄ばんだり何かが固まってザラついたりしている。
昨夜の記憶を生々しく思い出して、ひゃ〜と間抜けな声を出した。
ヴァージン喪失の朝でも快適なのは、コトが終わった後、きちんと始末してくれたからだろう。
その辺、ほとんど記憶がないが、先生を甲斐甲斐しいと思った覚えがある。

サンジもよくわからないが、普通あんなことをしたら、もっと痛くて辛い思いをするに違いない。
なのにちょっと倦怠感があるくらいで、日常生活に支障はなさそうだ。
―――慣れてんのかなあ

先生はどこまでも優しかった。
馴れた手つきで容易く高められ、先生は最後まで息一つ乱すことはなかった。
なんか口惜しい。
そういう意味では非常に腹立たしいが、手篭めにされたことに関して怒りはない。
それがそもそもおかしいが、サンジはそんな自分の感情に気付かないふりをした。
酔った勢いの過ち、犬に噛まれたようなものだ。
もしかしたら先生はまた自分に手を伸ばしてくるかもしれないけれど―――
そん時はそん時かな。
嫌だと思っていない自分がいる。
その事実にも、サンジは目を瞑った。



じっとしていてもいらないことばかり考えてしまうので、さっさとシーツを引っぺがし、昨日のメイド服と
共におしゃれ着洗いにかけた。
このまま乾燥機にぶち込んではまずいかとも思ったが、縮んだらそれはそれで構わないとも思う。
このユニフォームは着潰してしまおう。

さて、今度こそ動きやすい服装で・・・とバッグを開けて首を傾げる。
確かに入れておいたはずの服がない。
一応、退院前にさしあたりの枚数として、下着とシャツ、スウェットくらいは買ったはずだ。

よく寝てすっきりした頭でぐるり部屋を見回せば、壁に掛けて置いたはずのスーツがやはり
見当たらない。
―――どっか仕舞ったっけか?
とにかく着るものがないのでは話にならないので、仕方なく先生が用意してくれたメイド服を
クローゼットから取り出す。
ご丁寧に替えの下着もある。
当然のことだが、布団から出て一連の作業をする間、サンジはマッパだった。
布団の中で全裸だったのだ。

仕方がない。
すっかり着慣れた感のあるぴらぴらしたスカートで襖を開けたら、お盆の上にペットボトルのお茶と
おにぎりが置いてあった。
先生がコンビニで買って来てくれたのかと思うと、不覚にもじわっと感動してしまった。
自分が面倒をみるために就職したのに、かえって世話を掛けてしまっている。
これではいけない。
社会人として失格だ。
とにかく建付けの悪い雨戸を開け、窓を開け放し空気を入れ替える。
さっと掃除をして冷蔵庫の中を確認し、夕食に取り掛かった。








日が暮れ始めた頃、離れからもそもそと先生が這い出して来るのが見えた。
短い髪が妙な方向に傾いて伸びている。
寝癖がつくほど寝ていたらしい。

「先生、おはようございます」
そう言って頭を垂れて、それから急に恥ずかしくなった。
どんな顔して先生を見ればいいのかわからない。
「おはようございます。もう大丈夫ですか?」
いや、だからもう、大丈夫とか聞くな。
「はい、お陰さまで・・・」
何がお陰さまなんだあああ
さっきと同じやり取りに、心中で己に激しく突っ込みながら、サンジは西日の当たる部屋の
カーテンを閉めた。

「少し早いんですが、お風呂を沸かしておきました。お昼も、ちゃんと召し上がってらっしゃらない
 でしょう。夕飯の支度はできてますので」
「それは嬉しいですねえ」
先生は顎を撫でながら寝惚け眼のまま笑う。
まともに顔も見られなくて、足元に視線を散らし、先に立って部屋に上がった。

「あなたの部屋を居間と兼用して悪いですね」
「いえ、いいんです。台所に近い方がオレも動きやすいし」
言ってから、ふと顔を上げた。
「そういえば先生、オレの荷物ん中にあった服・・・知りませんよねえ」
疑うようで言い難いが、ここには自分と先生しかいない家なのだから仕方がない。
先生は「ああ」と気軽に答えた。

「袋に入っていた新品の衣類ですよね、申し訳ない。朝、誤って廃品回収出してしまいました」
「はい?!」
思わず尖がった声が出る。
「いやあ、慣れないことはするもんじゃありませんねえ。一応あなたが寝ている間に少しでも押入れの
 中のものを出してしまおうとしている内に、ついついあなたの荷物まで出してしまったようだ」
呆然とするサンジの前で、いやいやいやと安心させるように首を振る。
「大丈夫、捨ててしまったのは衣類だけですし、そのお詫びと言ってはなんですが、あなたの着替えは
 私がすべて準備しました」
そう言って、どこか嬉しそうに行李を押入れから出して来る。
竹籠の蓋を開けて、サンジは恐る恐る中身を取り出した。

「・・・これは、なんですか?」
「絹の下着ですよ。やはり白が一番清潔感があるでしょう」
「んじゃ、これは?」
「ここはグッと趣を変えて黒のビキニも身が引き締まっていいかと」
「・・・でも、後ろ殆ど、紐なんですが・・・」
「下着の線が映らなくてよろしい」
「んじゃ、これは」
「部屋着用ですよ。白いカッターシャツ。少し大きめサイズですが」
「あの、ジーンズとか、せめてジャージとか・・・」
「それは一枚きりを纏うのがいいんですよ」
「・・・」

その他にも出てきたのはサンジにしても少しサイズが小さめなんじゃないかと思える黒のタンクトップ
ぴちぴちのホットパンツ、極めつけはフリルつきピンクのエプロン―――
「こ、か、せっ」
「気に入っていただけると嬉しいですねえ」
「な、か、って」
「はい、どうしました?」

ふるふるとサンジは小刻みに身体を震わせながらなんとか声を絞り出した。
「・・・俺に、今晩、何を、着て、寝ろ、と?」
「まあ、なにも着なくてもいいんですが、どうしても着たいなら白シャツで」

――――ぶちっ!!


「冗談じゃねえ、やってられるかこの変態――――――!!」
怒髪天をつく勢いでぶち切れたサンジを、先生は袂に腕を入れて組んだまま、はっはっはと
笑って見ている。

「どーすんだよ、外に買い物にも行けねえじゃねえか、っつうか、家から出らんねえよ。病院に
 検診行かなきゃなんねえんだぞ」
「それなんですがね」
先生は畏まった顔付きになる。
「私の知り合いに往診専門の医師がいますので、病院の先生から彼に紹介状を書いて貰うと
 いいですよ。大丈夫、私が電話でお願いしておきます」
大丈夫じゃねえよ、なんでそんな手筈になるんだよ。
「まだ若いですが中々優秀な医者ですよ。守秘義務もきちんと守りますからね。色んな世界で
 引っ張りだこです」
おいおいおい

「さてそれじゃ、ひとっ風呂浴びてきましょうかね」
そう言うと、先生は片膝立てて立ち上がり、飄々と部屋の外に出て行ってしまった。

「どーすんだよ、これから・・・」
撒き散らした衣類を前に、一人取り残されたサンジは途方に暮れた。













壊れたチャイムが「キュ・・・ッコーン」と瀕死の音を上げたのは、じわじわと蒸し暑さを増す梅雨の午後のことだった。


サンジは「はいはーい」と声だけ先に返して、エプロンを外し玄関口まで走る。
屋敷を突っ切らねばならないから結構遠い。
今度ちゃんとチャイムを直してモニターもつけて貰おう。

綺麗に掃除した玄関は見違えるようにすっきりしたし、ガラス戸も人の姿が確認できるくらい見通しがよくなった。
おや、影が小さい。
子どもだろうか。

「こんにちは」
顔を覗かせたのは、身体に反してやけに大きな帽子を被り、白衣を着た狸だった。
いや、狸じゃないのか?角がある。

「はじめまして、ゾロに呼ばれて往診に来ました」
狸もどきはそう言ってぴょこんと頭を下げた。
サンジもつられてお辞儀を返す。

「おう、チョッパーよくきたな」
後ろからだかだか大股で歩いて来た先生は、まあ上がれと袖を袂に突っ込んだまま顎をしゃくる。
チョッパーと呼ばれた医者も、大きな黒い鞄を抱え勝手知ったる感じで上がりこんだ。



「それにしても家、綺麗になったな。見違えたよ」
キョロキョロと辺りを見回し、凄いなとサンジに向かって笑い掛ける。
「こんな優秀な家政婦さんが来てくれたなら、ゾロも安心だ」
「・・・はあ、どうも」
サンジがこの家に来てもう4日経ったが、僅かな期間に色んな感覚が麻痺してしまった気がする。
メイド服を着て仕事することにも一日で慣れてしまったし、狸が白衣着て訪れても殊更驚いたりしなくなった。
世間と隔絶した雰囲気のこの屋敷内では、何が起こってもおかしくない気がする。

「チョッパーはトナカイですが優秀ですよ。安心しなさい」
先生に促されるまま寝室兼居間に腰を下ろした。

「僕はトニー・トニー・チョッパー、往診専門の医者なんだ。県立大学の先生から紹介状とレントゲン写真は
 貰ってます。往診だから大掛かりな検査はできないけど、触診である程度わかるから」
そう言いながら往診鞄を開け、聴診器やらを取り出す。

「それじゃ上半身だけ脱いでくれる」
サンジは促されるままいくつも連なったボタンを外し、腕を抜いて腰まで落とす。
聴診器の冷たい感触に小さく身を竦めながら、チョッパーが指示するとおり大きく息を吸って吐いて〜を
繰り返した。

「OK。じゃ、次は背中ね」
くるりと向き直って、また背中に聴診器が当てられた。
大きく吸って吐いて。

「んじゃ、うつ伏せにぺたんと寝てくれる?」
チョッパーの手が背中や腰の辺りに触れてくる。
当然蹄なのに、その感触は固さも痛さも感じさせなかった。
若いのに(本当の年齢はわからないが)プロだなと感心する。

「よし、今のところ怪我は順調に回復しているみたいだね。それより・・・」
ちょっとためらってから、チョッパーはまたごそごそと鞄を探り出した。
「今度は横向きになってこう、丸く体を曲げてくれる?」
言われるまま丸くなった。
チョッパーはサンジの足元を覆ったスカートをフリルごとべろんと捲り、それと気付かぬ素早さで下着を
引き下ろした。
「えええっ」
抵抗する間もなくぬるりと何かを塗り付けられ、冷たい物を差し込まれる。

「何、すんだあああ?!」
「ちょっと静かにしてね。大丈夫、すぐ終わる」
押さえつける手が多いと思ったら、先生も参加していた。

言葉通り異物感はすぐに消えて、手早く拭われ下着を上げられスカートを戻された。
何事もなかったかのように。
「はい終了。大丈夫、荒れてもいないし傷もついてない。安心したよ」



あまりのことにプルプル震えて真っ赤になっているサンジの前で、先生は興味深そうに往診鞄を覗いている。
「それいいなあ、俺に譲ってくれよ」
「医療器具を玩具に使っちゃダメだよ」
さっさと鞄を仕舞うと、チョッパーは改めてサンジに向き直った。

「ゾロが人をこの家に入れたってだけですごい進歩だと思ってるんだ。結構無茶をするかもしれないけど、
 根は悪い奴じゃないから、それは僕が保証するよ」
「って、なんで・・・」
顔が火を噴いているように熱い。
なんで、なんでバレたんだろう。
「え、一目瞭然だよ、その痕」
言われて初めて気付いた。
そう言えば、身体のあちこちにキスマークが残っている。
それを忘れて憚ることなく上半身を曝してしまったのだから、医者が心配するのも無理ないことだろう。

「あの、お茶いれてきます」
そそくさと服を身につけ台所に立った。
「おかまいなくー」
と後ろで可愛い声がする。

その後チョッパーというトナカイ医者は、サンジのお茶と菓子を喜んでたいらげ、和やかに世間話をして
去って行った。
サンジがここに来てから、初めての客だった。











「あー、あん時は恥ずかしかった」
羞恥心が後からついてきて、サンジは夕食時に一人ごちて溜め息をついた。

先生はもうすぐ風呂から上がってくる。
それから晩酌をして、食事も済ませて、それから―――
思い出すとボッと火がついたように顔が赤くなった。

初日に手込めにされて以来、先生は毎夜身体に触れて来る。
何食わぬ顔で、それがごく当然といった顔をして抱き締めて来るから、サンジは死に物狂いの抵抗を見せる
タイミングを逃してしまった。
最初からトロトロにされたのだ。
その後はもう、なし崩しである。

やっぱヤバイだろ、これは。
自分は家政婦としてこの家に入ったんであって、下の世話まで契約に入っていない。
元々基本8時間労働なんて言っても、実質24時間だ。
しかし、夜に限って言えば、自分が世話をしているというよりされている感は否めないが。
だって気持ちよすぎるもんよ。

あんなに気持ちいいことされたら、誰だって癖になる。
サンジは昼間、あの医者にこそっと尋ねたことを思い出した。


「先生は、こういう趣味がある人なのか?」
その問いに、真面目な表情で首を捻って答えてくれた。
「いいや、ゾロが他人を身近に置くなんて初めてのことなんだよ。今まで世話になってたお婆さんが具合
 悪くしたのは聞いていたけどね。どうするのかなあって心配してたら、まさか男の人を雇うとも思ってなかった。
 彼、結構淡白だしね」
「淡白う?」
あれで淡白ならカツオもマグロも白身魚だ(意味不明)

まあ、あのトナカイの言葉を信じるならば、先生は男を家政婦として雇い入れて、とっかえひっかえ玩具にして
弄ぶという性癖がある訳ではないらしい。
それじゃあ今回のこれは、行き当たりばったりの事故みたいなものだろうか。

それにしては、先生が自分に触れて来る頻度が高すぎる。
実は初日に手込めにされた翌日は、ぐっすり寝たため体力を回復し、また連日のセックスに雪崩れ込みそうになった。
がしかし、あまり身体に負担を掛けてはいけないと、勝手に仕掛けられ勝手に気遣われて挿入には至らなかった。
散々指でいかされたけれども。

その翌日、せっかく道をつけたのに間を空けては後が苦しかろうと挿入された。
そしてその翌日、やっぱり連日は辛いだろうと指で嬲られて・・・
このペースで行けば今日は挿入だ。

そこまで考えて、サンジは頭を抱えた。
ぜってーおかしい。
この状態は異常だ。
異常なのに、なんで俺は甘んじてっつうか、自然に受け入れているんだろう。
しかもいつも夕食後そのまま雪崩れ込むことを知っているから、先生より先に風呂に入る習慣までついてしまった。
汚れたままなんて絶対に嫌だ。
だからつい、支度だけして一番風呂を貰い、先生が風呂に入っている間に夕食の準備をして一緒に食事、その後
セックスと言う図式が出来上がってしまった。
おかしい、おかしいよ絶対これは!


ちなみにサンジが今、寝巻きとして着ているのは先生の浴衣だ。
シャツ一枚は絶対嫌だと断固拒否して、なんとか譲歩に漕ぎ付けた。
まあ、浴衣ならいいでしょうとOKをくれたが、その許可基準がサンジにはわからない。








「いいお湯でした」
皿を並べ終えた後、絶妙のタイミングで先生が上がってきた。
そろそろ暑くなって来たからと、冷蔵庫で冷やして置いた冷酒を取り出す。
貰い物らしい硝子のカラフェを見付けたので、それに注いで先生の前に置いた。

「これは美味しそうですね。どうですか、一緒に一献」
「結構です」
即座に辞退する。
確かに冷酒は見た目にも魅力的だが、正体を失くすのが落ちだ。

「美味しいですよ」
「それより、お仕事の方は捗ってますか?」
サンジは話題を変えるつもりで話しかけた。
この先生はどうやら変態らしいが、一応ちゃんとした小説家だと聞いていたのだが。

「ああ、そのことですがね」
先生は盃を口につけたまま、ちらりと視線を壁に掛けたカレンダーに移す。

「大体月末・・・25日頃から末日まで締切りが集中するのです。そうすると、この家にも常時3〜4人の編集者が
 入れ代わり立ち代り出入りすることになりますので、適当にお茶やら茶菓子やらを出していただきたい」
「・・・は」

そう言えば、最初にそんなことを言っていたっけか?
がしかし――――

「この家に、人がいらっしゃるんですか」
今更だが焦ってしまった。
今まで誰も近付かない閑散とした家だったからこそ、この格好で過ごしていたのだ。
それが、見知らぬ他人(しかも多分男ばかり)がうようよ家の中をたむろするのに、メイド服を着た男が出迎えたら
おかしいだろう。
っつうか、俺が変態扱いされる!

「じ、冗談じゃありません。先生、ユニフォームは?」
「そのままで問題ありませんよ」
「大有りです!」
「いや、似あってますから」
「争点はそこじゃありません」

先生は盃を置き、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫、この屋敷に一歩足を踏み入れたものは、誰でもそこにある事象を当然のものと受け入れてしまう何かが
 あるんです。ですから、あなたがその服装で立ち働いていたところで、なんら違和感を感じる者はおりません」
すっきりきっぱり、そう言い切られてしまった。
「そんな、もんなんですか」
「そういうものです、まあ土地柄でしょうかね」
そうだろうか。
では、自分がうっかりこの服を着てしまったのも、手篭めにされてしまったのも、土地柄のせいだったのか。

「不思議なことって、あるもんなんですねえ」
「そうですねえ」
ほんとかよと思いつつ、とくとくと盃に酒を満たす。


「データで送ったり、しないんですか?」
確か書斎にはパソコンもあったはずだ。
「ものによってはデータ入稿もしますが、連載物は基本的に手書き原稿です。締切りギリギリになって追い立て
 られるのは、どちらも変わりないんですがね」
なら早く書けばいいのに―――などと軽々しく思ってしまう。

ここにきて5日目だが、先生は日中素振りをしているか寝ているかの二通りしか見ていない。
夜は・・・
やはり仕事らしい仕事はしていないはずだ。

でも自分も、夏休みの宿題は9月に入ってから真剣に取り掛かったクチだし、人はやはり追い込まれないと真の
実力を発揮できないんだろう。

なんとなくそう一人納得して、お代わりをよそった。










先生はいつもどおり楽しそうに美味しそうに食事を平らげ、最後に行儀よく手を合わせて「ご馳走様」と唱えた。
こんなところがサンジにはたまらないのだ。
なんだかもう、むぎゅうと抱き締めてしまいたい衝動に駆られる。

横暴で強引なはずなのに、どこか憎めない母性本能を擽る部分があるんだろうなあ。
―――母性本能ってなんだよ・・・
無言で一人突っ込みするサンジの前で、先生はすっと立ち上がった。

「ご馳走様でした。それではおやすみなさい」
一拍置いて、サンジも慌てて返事をする。
「はい、おやすみなさい」

顔を上げたら先生の姿はもうなかった。
どうやら離れで眠るらしい。
今まで毎晩サンジの部屋で寝ていたが、元々は離れで寝泊りしていたのだ。

先生が行ってしまって、暫しほーっと呆けてから、サンジは食事を再開した。


いつも、先生は晩酌を終えてからもゴロゴロ寝たり新聞を読んだりして、サンジが食べ終えるのを
待ってくれていた。
無論、その後はごそごそ不埒な動きをしていたのだが。
それが、今日はもう自室に引っ込んで、後は休むだけなんて。

「ラッキー」
ぽつんと呟いたが、随分つまらなさそうに響く。
いやいや、久しぶりの自由時間じゃねえか。
ここ来てから殆どプライベートな時間が持てなくて、疲れも溜まってたってのに。
明日の朝まではゆっくり羽根を伸ばして、堂々と大の字になって眠ろう。
今夜はあちこち弄くられたり変なことされたりしないんだ。
よかったよかった。

「ラッキー」
もう一度声に出して呟いてみた。
やっぱり、沈んだトーンになっている。

「・・・馬鹿馬鹿しい」
さくさくっと流し込むように食事を終えて、片付けを後回しに一服吸った。

しんと静かな居間兼台所兼サンジの寝室に、紫煙だけがたゆたう。
「静かだなー」



先生んちにはテレビがない。
電話もない。
着いてすぐ、ルフィに連絡しようと思ったら圏外で携帯が通じなかった。
先生自身は、仕事のためだけにPCを通じて連絡を取っているようだ。
ここは、すっかり世間と隔絶されている。

―――暇、かも
いつもならさっさと片付けて洗い物を済ませてから先生に拉致られていたのに、それがないからどうにも
手持ち無沙汰だ。
それは実に喜ばしいことのはずなのだが。

俺、もしかしてちょっと、つまんねーとか思ってる?!
自分の感情ながら信じられない。
この短期間の内にどこか麻痺してしまったのか、こうして一人でいるのを寂しいと感じるなんて。
いいや、駄目だ駄目だ。
一人の時間の満喫するんだ!
そいでもって、これからどこでどうまともな服を調達して、どうにか休暇を貰って街まで出て、女の子を
ナンパする計画を立てるんだ。

必死になってその考えをめぐらせるのに、全然頭が回らない。
これでは駄目だと、二本目の煙草に火をつけた。


んじゃ、あれだな。
明日からの計画。
晴れが続くみたいだから、先生の着物の陰干しをしよう。
スペースはたっぷりとあるし、座敷の雨戸を全部開けて、風を通してあちこちにロープを渡して干し場を作ろう。
それから箪笥の中の、いつからしまいっぱなしだかわからない肌着なんかも全部漂白し直そうか。
先生は一度着たものを2、3日のローテーションでしか着回してないから、箪笥の中で湿ってる気がする。
もうそろそろ梅雨明けだし、冬物と夏物の入れ替えをして・・・

ふうと煙を吐き出して、煙草を押し潰した。
―――根っから家政婦になったのか
こういうことは、頭がよくまわる。
まあ、今は仕事に専念しろってことだろう。




とにかく一年、働くだけ働いて小銭を稼ぐんだ。
別に女じゃないんだから、雇い主に多少玩具にされたってたいして影響はない。
ない・・・はずなんだけど―――

サンジはもじもじと浴衣の中で両膝を擦り合わせた。
なんか・・・落ち着かねえつうか、なんでこんなになるかな・・・俺。

今夜は先生に触れられないと思っただけで、なぜだか下半身がじわんと熱くなった。
今日は挿入の日だったのに・・・なんて考える自分をどこかの穴に埋めてしまいたい。

先生の節高な指が内側をなぞる感触を不意に思い出して、腹の奥がずんと痺れたみたいに熱くなった。
―――やべー・・・
たった一晩触れられないと思っただけなのに、なんでか身体の芯が疼く。

俺、おかしくなっちまった。
まるで初めてオナニーを覚えた頃みたいに、触りたくて落ち着かなくてたまらない。


サンジは一人、キョロキョロと辺りを見回した。
食卓は片付けられないまま皿も茶碗も出しっぱなし。
けれど、誰に見咎められる訳でもない。
ちょっとヌいてさっぱりしたら、さっさと片付けよう。
それでも気恥ずかしさに顔を赤らめながら、サンジはもぞもぞと片手を浴衣の裾から中へと入れた。




目を閉じて好きだったグラビアモデルのおねーさんを思い浮かべる。
がしかし、どうにも明瞭に画像が浮かんでこない。
確か髪が長かったような・・・
胸がでかくて盛り上がってて、なのに腰はくびれてて―――

一生懸命パーツを組んで全体像を作ろうとするのに、集中力に欠けるらしく上手に頭の中で思い
浮かべることができない。
それでも手で強めに擦れば、容易く快感は得られる。
下半身から来る刺激に触発されて浮かぶのは、先生の大きな手。
ゴツゴツして、荒っぽくて・・・けれど繊細な部分では、柔らかにタッチして・・・

「はっ、やべえ」
思わず声に出して唸ってしまった。
なにを、何を想像してキてんだよ俺は!

がしかし、動き出した手は止まらない。
浴衣の合わせ目からくちゅくちゅと湿った音が漏れてなんとも恥ずかしい。
なのに、木綿の布地に擦れる感触がまた堪らない。

「う〜〜〜」
目を閉じれば先生がすぐ側で見ているような錯覚を起こす。
そのことが、余計に自分の欲情を煽っていることに気付いてしまった。

んなわけねえのに。
ああでも、気持ちイイ・・・
今着ている浴衣も、先生が着ていたものだと思っただけで、何かがじゅわんと染み出してしまった。

―――あああ・・・もう・・・
イく―――

と半開きの口元から息が漏れそうになったとき、不意に声が掛かった。




「忘れ物をしましたー」

言ってからコンマ2秒後、襖を開けてしまった先生がいた。











ばばっと音を立ててサンジは座り直した。
がしかし、膝頭が中途半端な位置で浮いたままだ。
シャキッと姿勢を正すことができない。

「どうしました?」
先生は怪訝な顔付きで近付いて来る。
ますます焦って身を縮こませた。
「なんでもありません。いえもう、まったく・・・」
「そうですか?顔が赤いですよ。熱でもあるのでは」
そう言って伸ばされた手を退いて避けた。
さらに顔が熱くなるのが自分でもわかる。

「様子がおかしいですね。まだ片付けてもいないし」
「すみません!」
慌てて皿を寄せたい所だが、いかんせん立ち上がれない。
口ばかりで一向に動かないサンジの隣で、先生は膝をついた。
「本当に、具合が悪いのではないですか?」
背中を撫でられて、飛び上がらんばかりに身体をビクつかせる。
中途半端に放置された部分は熱を保ったままで萎えてくれない。
先生の手を遮りたいが、今まで自分のものを握っていた手で押し退けるのはためらわれた。
「どうしました?」
サンジの、宙を泳ぐ手を見咎めて、先生はその手首を掴んだ。
それが濡れているのを気付かれたくなくて、力を入れて突っぱねる。
「な、なんでもないですっ」
「なにか、隠しているのですか?」
にやりと、そんな表現がぴったりな表情で先生は笑った。
何故かぞくりと背筋が震える。

先生は片手でサンジの両手首を掴んで、強引に引き寄せた。
とんでもない馬鹿力で、骨が軋みそうだ。
「なんでもないです、離してください」
真っ赤になって抗うサンジの、両手を鼻先に近付けて先生は口角を上げた。
「なんでしょうね。匂いますよ」
か――――っと頭に血が昇って、サンジは闇雲に足をバタつかせた。
「なんでもないって、言ってんだろーがっ!」
振り上げた片足が先生の鳩尾に入り、サンジを掴んだまま前屈みになる。
が、やけに楽しそうな表情で顔を上げてもう片方の手で足首を掴んだ。

「随分とおイタをする手足ですね。放っては置けません」
そう言うと、手を掴んだままサンジの両脚に膝を乗せて体重をかけ、身動きできないようにした状態で
空いた手で素早く浴衣の帯を解いた。
しゅるっと小気味よい音を立てて外された長い帯が今度は器用に両手に巻かれていくのを、サンジは
しばし呆然と眺めていた。

いかん、いかんいかーん!!
我に返って俄かに暴れても、両手は帯で戒められてびくともしない。
しかも頭上に引き上げられて、太い柱にさらに括りつけられてしまった。

「先生!」
裏返った声で、サンジは必死に訴えた。
「隠してたわけじゃないんです、なんでもないんです本当に。だから、こういうの止めてください!」
「止めるかどうかは貴方次第ですね」
帯を外され肌蹴た浴衣を前だけ開かせて、先生はサンジの両脚も抉じ開けるように身体を進ませて
正面を陣取った。
「さて、一体一人で何をしていたのですか」
「・・・なにって・・・」
言える訳がない。
絶句したサンジに先生は笑顔を向けていたが、目は笑っていなかった。
「食事を済ませたのに片付けもせず、両手を使って、一体何をしていたのでしょうねえ」
言いながらもサンジの身体を調べようとはしない。
両手を袂の中で組んで、視線だけを巡らせている。

「別に、一服してたんです」
それは本当だ。
灰皿にちゃんと吸殻も残っている。
「ふむ」
先生は食卓を眺めて、置かれたままの箸を手に取った。
「それにしても、貴方がすぐに片付けないのは珍しい。それよりも、私が気になっているのは・・・」
先生は端を持った手を宙に泳がせた。
迷い箸のように2、3度彷徨わせてサンジの胸元をツンツンと突付く。
つられて見下ろして、サンジは自分の胸も腹も酒を飲んだほど真っ赤に染まっていることに気付いた。

「ここがこう、随分固くなっているのはなんででしょうね」
つ・・・と箸先で胸の尖りを撫でられて、サンジはひゃあと情けない声を上げた。
「ほら、簡単に摘めるほど固く立ち上がって・・・」
言いながらくりくりと箸で弄ぶ。
「やーやややや止めてくださいっ、へ、変態――っ!」
「おや、ますます固くなった」
先生は綺麗な箸使いそのままに、器用に先っぽに力を込めて強く摘み上げた。
「い、痛・・・」
「こんなことされて、感じるんですか?」
先生の声音はあくまで穏やかで、冷たくさえ響く。
サンジは戒められた両手を握り締めて、唇を噛んだ。
「まるで酒に酔ったかのように真っ赤ですね。しかも、そんなに震えて」
先生は確かめるようにもう片方の乳首も摘まむと、そのまま箸を浴衣の衿に添って走らせた。
「こちらは、どうなっているでしょうかね」
腰の辺りに掛かった浴衣を箸で摘んで捲り上げる。
身につけた白い下着が盛り上がっているのが恥ずかしくて、サンジは顔を背けてぎゅっと目を瞑った。

「これは、なんですか?」
先生が楽しそうに箸先でつんつん盛り上がりを突付く。
「止めろって、馬鹿!」
キレてそう吠え掛かれば、先生の目がすっと眇められた。
「何をしていたのか白状しないと・・・」
内部に触れないように、布地だけそっと摘まんで下着を引き下ろす。
「このままこれも、箸で摘まんで出してしまいますよ」
そう脅されて、サンジは俯いたまま憤死しそうになった。
恥ずかしい、恥ずかし過ぎる!!

黙って震えているサンジを急かすように、先生は金色の繁みを箸で掻き混ぜた。
「どうなんですか、ここで、何を?」
「・・・」
「はい?」
唇が戦慄きながら、息を吐き出す。
「・・・ちょっと、すっきり・・・」
「はい」
「すっきり・・・、しようと―――」
「ふむ」
先生は箸を食卓の上に置いて、また腕組みをした。
そのままじっとサンジの様子を見詰めている。
それがわかるから、余計恥ずかしく居たたまれない。

「困りますね、我が家でそのような淫らなことをされては・・・」
「んなっ!!」
あまりのことに、サンジは目を見開いて口をぱくぱくさせた。
「な、なんだとお・・・一体、誰のせいだとっ」
「なんですって?」
先生が少し怖い表情で顔を寄せた。
「誰のせい、とは。よもや私のせいだと言いたいのですか?」
先生はそう言いながら、サンジの顔と下半身を交互に見比べるように視線を動かした。
そのことがさらに羞恥心を煽り、気持ちと裏腹に昂ぶった己がじわりと熱を増す。
「こうして、触れもしないのに濡れてしまうなど・・・」
そう言ってため息まで吐かれてしまったから、サンジはもう消え入りそうに恥ずかしい。
けれど実際には、先生の視線の下ですべてを曝して震えているしかできなかった。
隠したくても戒められた腕の自由は利かず、足の上には先生が乗っている。

「白い下着に、染みがついていますよ」
「う、うるさいっ」
怒りと恥ずかしさでぷるぷる震えるサンジの頤を、先生はそっと指ですくうように持ち上げた。
「本当に、困りましたね」
さして困った風でもなくそう呟いて笑む。
「先程も言ったとおり、私は月末になると忙しいのです。何日も離れに篭もりっきりで、眠ることも
 なくなります。そんな時、貴方に構うこともできません」
まるで小さな子供に言い聞かせるかのように、先生はゆっくりと優しく諭す。
「しかし、だからといって貴方が一人で自分を慰めるなど感心しませんね。なんともはしたない。
 貴方がそんな人だとも思いませんでした」
「ち、違いますったら!」
無駄だと知りつつ、サンジは否定した。
先生はどこか訳知り顔で頷いてみせる。

「ええ、わかっています、一時の気の迷いでしょう。若いのだから、そんなこともある。ええ、わかりますよ」
そう言って、上気した頬を宥めるように撫でた。
「今夜はたまたま、そんな気分になっただけ、なのですね。人間ですから、そういうことはありません。
 貴方は元来、非常に勤勉で慎ましい性格の方だ。私はよくわかっています。ですから―――」
先生の手が頬を滑り、首元を辿って乳首を撫で腹を擽って下着の中に差し込まれた。
柔らかく握られ、それだけ達してしまいそうになり呻く。

「約束してください。これからは決して、自分で慰めたりなどしないと」
「う・・・は・・・」
くにゅくにゅと、充分濡れたそこを扱かれ、たっぷりと唾液を含んだ舌で乳首を嬲られた。
「約束、できますか?」
「―――し、しますっ、もう絶対・・・しませんからっ」
「いいでしょう」
しゅるりと、簡単に帯が解かれた。
少し痺れた両手を先生が愛しげに擦る。

「いい子ですね」
先生はサンジの両手を広げさせて、自分の背中に回させた。
そうして浴衣の下に手を差し込むようにして薄い背中に腕を回し、きつく抱き締める。
首を傾けて深く唇を合わせ、貪るように強く吸った。
それだけで、サンジはもうトロトロになってしまう。











音を立てて唇を吸い、舌を絡める。
背中を撫でながらもう片方の手でサンジの片足を上げさせて、濡れそぼったペニスをあやしながら
その奥へと指を這わせた。
「ここは、自分で弄らなかったのですか?」
「そ、そんなこと、するかっ」
耳まで真っ赤に染めながら涙目で抗議するサンジに、先生は口元を緩めた。
「そうですね、そんなことをしてはいけませんよ、絶対に」
言いながら、ぐっと指を埋め込む。
慣れない刺激にサンジは軽く仰け反って、喉を曝した。

「あなたをよくしてあげられるのは、私だけです。いいですね」
「は・・・はいっ・・・」
熱に浮かされたようになって、もう何がなんだかわからなくなってしまった。
内部で蠢く先生の指が、狂おしくもどかしい。
もっと激しく動いて欲しくて、置くまで欲しくてたまらない。
―――ほんとに、俺は淫乱になっちまったのか?
恐れ戦きながらも、それよりも目も眩むような快感の方が勝ってしまった。
自ら足を広げ、腰を押し付けるようにして先生の背中にしがみ付く。

「もっと、弄って欲しいですか?」
「・・・う、はい・・・」
「指だけじゃ、足りない?」
「―――う・・・」
先生の指の動きはあくまでソフトで、決定的な快楽が得られない。
わざとしているのだと気付いて、腹が立つより哀しくなった。
もっと、もっと欲しいと身体が強請る。
口をついて乞うてしまいそうになる。

「覚えておきなさい、貴方に触れていいのは私だけ」
先生の声が、呪文のように虚ろな頭の中に響く。
「貴方を満足させられるのも私だけです。決して自ら快楽を得ようとしてはいけません。いいですね」
内側をなぞる指が引き抜かれて、サンジの後孔はすがるようにきゅっと萎んだ。
すぐに、宥めるように熱い塊が押し当てられる。
その瞬間はいつも恥ずかしくてぎゅっと目を瞑ってしまうが、先生の熱い舌にそっと瞼を舐められて、
恐る恐る目を開けた。
ひどく嬉しそうな先生の顔が間近に見える。
無遠慮に人の中に分け入って訳もわからぬほどメチャクチャに蹂躙するくせに、その表情に邪気はなくて、
つられるようにこちらも少し笑ってしまった。

ぐっぐと狭い内部を抉じ開けるように先生が入ってくる。
強い圧迫感で吐き気さえ感じるのに、その奥はもっと欲しいと疼いている。
「せん、せ・・・っ」
サンジは口を開けたまま喘いだ。
息をする暇も惜しいくらい、先生が欲しい。
その呼びかけに答えるように、先生は自らをゆっくりと埋め込みながら口付けてくれた。

先生のキスは好きだ。
優しくて、しっとりと食むように唇を動かしながら丁寧に舐めて吸って・・・かと思えば、時々は息もできないくらい
激しく貪ってきたりして―――
男なら、突っ込むくらいは容易いだろうけど、こんな風にキスされるとちょっとは気持ちがあるのかな、なんて
勘違いしてしまいそうだ。
サンジの身体が少しでも強張ったり怯えたりすると、先生はすぐさま唇を合わせてくる。
大丈夫だと、唇で宥められているようで気恥ずかしいが、それだけで力が抜けてしまうのもまた事実で。
先生のキスは好きだ。
優しいし力強いし、どこか安心できてすべてを委ねそうになってしまって―――

「ん、はっ・・・」
根本まで埋め込まれて、先生のモノをつい意識して締め付けてしまった。
ぐぬりと、内部で何かが蠢く気がする。
まだ動いてもいないのに、身体の芯が疼いて堪らない。
先生が頃合いを計ったように、それでも名残惜しそうに舌を残して唇を離した。
ぬるりと唾液が糸を引いて離れる。
それが哀しくて、サンジは無意識に顎を突き出して追った。
また先生が、宥めるように軽いキスをくれる。

先生のキスが好きだ。
違う、多分オレは先生が好きだ。
男とキスなんて気持ち悪くて冗談じゃないと思うのに、先生の舌なら吸い付きたいと思う。
どこまでも絡めて、吸い尽くされたいとも思う。
そうか俺、先生が好きなんだ―――

「うあっ・・・」
先生がサンジの腰を両手で掴んで上下に激しく揺さ振った。
なおも深く抉るように、先生自身の腰が律動する。
「ああっ、あ・・・はひ・・・」
激しい動きに、サンジは先生の首に掴まっていることしかできなかった。
内部を侵す熱は、時に痛いくらい深く減り込んでくる。
体重の軽いサンジは、先生の腕の力だけで腰を浮かされ内壁を擦られ、角度を変えては突き込まれる。
好きなように翻弄されるのが口惜しくて、サンジは先生の頭を抱え込むようにして自分から食いつくように口付けた。

「せんせっ・・・い―――」
こんなにも好きだと慕っても、所詮一年の契約でしかない。
あくまで自分は雇われた家政婦、いやメイドだ。
先生の気まぐれな玩具でしかない。
それをわかっているのに、どうして好きになんかなってしまったんだろう。
―――もう二度と、大切なものをなくしたくなんかなかったのに。

狭く滑る場所を乱暴に掻き混ぜながらも、先生がサンジを見る目は優しい。
まるで愛しいと思っているかのようで、だから自分は勘違いしてしまう。
今だけでいいから。
飽きたら捨ててもいいから―――

いつの間にか、とめどなく流れ落ちる涙を隠すこともできず、サンジは先生に縋り付いて鳴き声を上げた。
「も、も―――イく、イっちま・・・」
「いいですよ、何度、でも・・・」
先生の声も少し上擦っている。
それだけのことが、こんなにも嬉しい。
感じてしまって、またきゅんと不用意に締めつけてしまった。
「うあぅ・・・」
「可愛い、ですね」
「んひ、ひ―――」

先生に舌で耳を嬲られて、サンジは小さく痙攣しながら射精した。
向かい合った先生の、綺麗に割れた腹筋を自分の精液が汚していく。
そのことにどこか背徳的な悦びを感じて、サンジはまたびくびくと身を震わせた。



「気持ち、よかったですか」
先生の気遣いが気恥ずかしくて、なにも答えないでそっぽを向く。
サンジの中で先生はまだ熱を保ったまま、その動きを止めている。
イってしまうと暫くは刺激が強過ぎて泣いてしまうから、待っていてくれているのだ。
それがわかるからまた、恥ずかしい。
何もわからなくなるくらい、メチャクチャにしてもらった方がきっと楽だろうに。

―――ひでえ人だ
優しくて残酷で、縋りすぎて辛い。
きっと、離れられなくなってしまう。

サンジは両脚を畳に踏ん張って、自ら腰を動かした。
先生が、自分の中でグンと質量を増やしたのがわかる。
呻きながらも、そのことに励まされるように拙く腰を振ってみる。
先生が驚いた顔をして見上げている。
してやったりと、にやりと笑って、サンジはまだ辛い下半身を奮い立たせるように上下に動かした。

「うあ・・・ん、せんせ・・・」
すぐに快感の波に飲み込まれて動けなくなりそうなのを、先生両手で尻肉を揉んでそのままコロンと体勢を変えた。
サンジが頭を打たないように後頭部に手を添えて、畳に仰向けに転がせる。
繋がったままぐるんと視界が反転した。
先生が両手を肩に押し付けて、重いくらいに圧し掛かり激しく腰を振りはじめる。

「んんっ、うああっ・・・」
さっきとはまた違う角度で深くまで抉られて、サンジは仰け反って喘いだ。
先生が両方の足首を掴んで大きく左右に開かせ、押し込むように深く突いては乱暴に引き抜きまた突き入れる。
「うあ、やっ・・・やだ、ああっ・・・」
縋るものがなくて畳に爪を立てた。
すべてを開かれて恥ずかしいのに感じてしまう。
いつの間に再び立ち上がった己のペニスが、トロトロと露を滴らせ自分の腹を濡らしている。
「やだって、ああ・・・ん―――」
汗に濡れて光る足を先生は愛しげに撫でて、膝裏を舐めた。
赤い舌をこれみよがしに突き出し、欲情に濡れた目でサンジを見下ろす。

「いやらしい、身体ですね」
先生の腕が伸ばされ、色付いた胸の尖りを抓った。
痛いくらいに感じて鳥肌が立つ。
「いいですね。こんな痴態を決して人に見せてはいけませんよ。私だけのものです」
「・・・は、はいっ・・・」
「自分で触れてもいけませんよ。私だけだ」
「―――うう・・・はっ・・・」
呂律が回らぬサンジに、先生は伸び上がるようにしてキスをしてきた。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる結合部からすべてが溶けて流れてしまいそうだ。

「この快楽も私とだけ・・・いいですね、もし―――」
先生が上気した頬を舐めながら優しく囁く。
「もしも、またはしたない真似をしたら・・・」
腰の動きが激しくなり、がくがくと視界が揺れた。
「その時は、お仕置きしますよ」
「うん、ああんっ・・・あ―――」
頭の中が白く弾けて、サンジは再び大きく身を震わせた。
どくどくと最奥まで流れ込む熱が、痺れるくらい気持ちいい。
ああもう、堪らない。

「せん、せい・・・」
目を閉じて名を呼べば、ぎゅっと抱き締めてくれる。
先生の胸も大きく上下して、息が荒い。
発火しそうに熱い身体はどちらのものともわからないくらい重なり合って、しとどに汗で濡れて気持ち
悪いはずなのに、どうにも心地良かった。

「先生」
「・・・はい」
逞しい肩に頭を預けて、おずおずと背中に腕を回し抱き締めた。
どうしよう、やっぱり俺は先生が好きだ。
弄ばれたって、飽きられて捨てられたって構わないくらい好きだ。

「せんせい」
先生はじっとサンジの顔を見つめて、やはり何も言わずに柔らかく口付けた。
それだけですべてを包まれた気持ちになる。
ホモなのに変態なのに、どうしようもなく惹かれて行く自分が怖い。

慰めるだけのキスがどんどん深まって、また情欲の海へと流される。
快楽の波に翻弄されながら、サンジは腕に引っ掛かっていた浴衣をすべて脱ぎ去り、裸のまま先生を
抱き締めた。




1年経ったら、きっともっと、強くなれる。
だから今は、まだこのままで―――


「先生、好き―――」
声に出さずに呟いたはずなのに、先生はまた応えるように口付けを返してくれた。






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