R先生の些細な道楽3 -7-






「ふ・・・く・・・」
抑えきれない声が漏れて、サンジは羞じるように白いシャツに顔を埋めて背を丸めた。
くちゅくちゅと、卑猥な水音と共に押し殺した息が獣の息遣いのように響いて、一層羞恥心を煽る。

先生は胡坐を掻き両腕を袖の中に組んだまま、微動だにせずサンジの様子を眺めている。
深遠な瞳は少しも揺らぐことなく、ただ冷徹に見つめられて、サンジは己の浅ましさと身勝手な昂ぶりを
余計思い知らされたようで、恥ずかしさのあまり身を強張らせた。
途端きゅっと力が入り、締め付けられる指の感触と粘膜の痛みに身を捩る。
「・・・あ、もう・・・」
サンジは振り返り弱々しく首を振った。
「無理です、先生―――」
畳についた膝ががくがくと震える。
このまま腰を下ろして座り込みたいが、先生の視線がそれを許さない。
「もっと足を開いて、腰を落としなさい」
促されて、そろそろと足を開く。
先生に突き出すように身を屈めれば、恥ずかしさに耐え切れず視界が滲んだ。
明るい昼間の日差しの中で、先生の目の前でスカートを捲り上げ下着をずらして、自分で解すように命じられた。




普段、風呂で洗う時くらいしか触れない場所に、自分でローションを垂らして指を這わせてみたけれど、なんだか
怖くて恥ずかしくて痛くてとても指なんて入れられない。
なのに先生は黙ってじっと見ているだけで。
自分で何とかしなければお仕置きは終わらないのだと思い知らされて、無理に指を捻じ込んでみても痛いばかりで、
先生に見られていると思うだけで身体が竦んで余計硬くなってしまう。
「・・・う・・・」
ぽたぽたと、涙の染みが畳に落ちる。
けれど先生は動いてくれないから、仕方なく指の動きを再開させた。
くちゅりと、ローションの助けを借りてなんとか関節までは入るのに、それ以上どうやったら楽になるのかわからず
撫でるばかりだ。
先生に触れられたら、あんなにも気持ちいいのに。
信じられないほど深くまで入り込んで、何本も指を出し挿れされる度に腰が砕けそうになるほど気持ちいいのに。

指を2本添えてめり込ませてみたら、あまりの痛みに怯えが来た。
思わず腰を引いてしまって、四つん這いのまま中途半端な形で踏ん張ってしまう。
「・・・無理で、す・・・」
もうもう、絶対これ以上は無理だ。
だってちっとも気持ちよくならない。
先生じゃないと、絶対にダメだ。


背中で、先生の大きなため息が漏れた。
自分で解しもできない、手の掛かる奴だと呆れられたのだろう。
愛想をつかれたかもしれない。
その事が哀しくて、情けなくて新たな涙がこみ上げる。
「こちらを向きなさい」
恐る恐る振り向けば、先生は手首だけ曲げて手招きした。
「こっちへ」
方向を変えて這う状態で先生に近付く。
先生は胡坐を掻いた姿勢をそのままに、着物の裾を割って見せた。
下着をずらせば勢いよく、先生のモノがそそり立っている。
思わずごくりと、サンジは唾を飲み込んだ。

「舐めてみなさい」
一旦口を開けて吐息をついてから、サンジは恐る恐る首だけ伸ばして舌を出した。
ちろりと、その先端を舐めてみる。
赤黒く、つるりとした亀頭に舌を這わせ、血管の浮き出た竿も舐めてみる。
先から滲み出た露を舐め取れば、苦味を感じて唾液が湧いた。
ぺろりぺろりと、猫がミルクを飲むように、慎重に丁寧に舐め続ける。
先生はしばらくそんなサンジを促すように優しく髪を梳いていたが、後頭部を掌で覆うように鷲掴んだ。
その指の力強さに、ぎょっとして顔を上げれば、情欲の色を映した瞳が見返した。
「・・・しゃぶれ」
低く掠れた声に、腹の底がずくりと疼いた。





「ん・・・ふ・・・」
口いっぱいに先生のモノを頬張って、舌を動かし顔を揺らす。
フェラチオなんてしたことはないけれど、以前先生にされたことを思い出してサンジは必死に頑張った。
でも先生のは大きすぎる
口に入りきらないし、下手すると喉をついてえずきそうになるし、歯が当たって傷つけてしまいそうだし。
なんとか口を窄めて吸い込んでみても、喉の苦しさで逆に咳が出てしまう。
「・・・う、けほっ・・・ごほっ」
横を向いて喉を抑え、何度か咳き込んでからまた咥えた。
うまくできない。
先生を、気持ちよくさせてあげられない。
それでも、口内に苦味が感じられて先端から露が漏れるのはわかった。
モノも、さっきよりもっと大きくなった気がする。
ほんの少しでも、気持ちいいと思ってもらえたら、凄く嬉しい。

夢中で舐めたりしゃぶったりしているサンジの腰を、先生は両手で抱えるように立たせてスカートの裾から
手を差し入れた。
先生の指が後孔を擦ってやや強引に入ってくる。
「・・・あ―――」
痛い。
痛いのに気持ちいい。
やっぱり先生の指がいい。
先生の指じゃなきゃ、こんなとこ入らない。
サンジは熱い吐息をついて、一層熱心にフェラチオを続けた。
じゅぶじゅぶと口端から涎が伝い落ちるのも構わず、一心不乱に舐め続ける。
先生の指は滑らかに内壁を抉り、奥へ奥へと突き入れては抜くを繰り返す。
あああ、やっぱり気持ちいい。
すごい、すごい―――
ああ、そこが、あ――――
サンジは口を離して仰け反るように顔を上げた。
満足そうに目を細め、口元を笑いの形に歪めた先生と視線が合う。
「欲しいですか?」
こくんと素直に頷いた。






「あ、あ、ああ・・・」
足を開き腰を浮かして、先生を受け入れた。
捲れるスカートが邪魔で揺すぶられる動きのままたくし上げ、膝裏に手を当てて自ら支える。
先生が腰を突き入れる度に乱れる息と嬌声が漏れて、恥ずかしいのに感じすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
先生はそんなサンジの痴態を冷静に見下ろしながら、下半身だけで責め苛む。
「なんて淫らな。そんなに、男に犯されるのが気持ちいいのですか?」
「いや・・・違いますっ、違っ・・・」
「こんなに、悦んでいるじゃないですか」
そそり立ち震えるペニスをぎゅっと掴まれた。
か細い悲鳴が喉の奥から搾り出される。
「先ほどから触れていないのに、もうこんなになって。・・・入れられるだけで、こんなになるのですか?」
「うああ、痛い・・・先生、離して、イかせてっ」
先生の着物を掴んで、サンジは取り乱し悶えた。
もう気持ちよすぎて、理性で行動を抑え切れない。
「イきたい、イく・・・イ・・・いい、気持ち、いい―――」
先生の目が残酷な色を帯びて眇められた。
それだけで、ゾクゾクと快楽が背筋を駆け上る。

「男なら誰でもこんな風に、貴方を感じさせられるでしょうか」
問いかけるようにずんとより深く突き入れられ、サンジは仰向いたまま仰け反り歯を食いしばった。
「うああ、んなこと・・・ね・・・」
「そうですか?なにせ貴方はあまりに淫らで、はしたない・・・」
「ない絶対に、ないです・・・から」
ぶるると腰が震え、熱い迸りが腹の奥底に滲んだ気がした。
だが快感は止まず、絶え間なく押し寄せる波のようにサンジを翻弄する。
「こんなこと、先生にしか・・・させない・・・」
弱々しく頭が振られる拍子に涙の雫がぽつぽつと落ちる。
「先生だけです。先生が・・・先生だけがいい・・・あ、好き―――」
拙く綴られる言葉より雄弁に、サンジの内部は妖しく蠢いてすべてを包み込むように締め付けてくる。
先生は満足そうに目を細めて、優しく乱れた金糸を梳いた。
「私もですよ。愛しいのは貴方だけだ。貴方でなければ、このような格好も淫らな行為もさせません」
「先生・・・」
震える肘を突立てて、サンジは繋がったまま身体を起こし、先生にしがみ付いた。
ずくずくと下半身から解け崩れるような快楽の波を受け、無意識に背中に爪を立ててあられもなく泣き声を上げる。
「あ、先生・・・が、好きっ、先生・・・あ、おかし・・・く―――なる・・・」
小さく痙攣する腰を抱いて、先生は下から激しく突き上げた。
弧を描くように微妙に腰を動かしながらがら上下に揺さぶる。
背を撓らせ、喉を震わせてサンジは喘いだ。
喘ぎながらもも自ら腰をくねらせ、ともすれば崩れそうになる身体を先生の頭を掻き抱いて必死で支える
「あ、や・・・やあああ―――」
「私も、ですよ・・・」
汗に濡れた耳朶を噛んで、息吹とともに言葉を吹き込んだ。
「有能な家政婦だから、料理上手な人だから、手放さない訳ではない。貴方が―――」
引き締まった尻タブを両手で掴んで、揉みしだきながら身体を揺する。
「継続を望まれても、契約の更新はもうしません」
「―――え」
サンジの表情が恍惚から一転して凍り付く。

「な、なんで・・・」
揺れる身体は熱いままなのに、瞬時に手足が強張って背を丸めた。
「なんで、先生・・・なんでっ」
こんなに、こんなに好きなのに―――
先生も、好きだと言ってくれたのに―――

顔を歪めて嗚咽を漏らすサンジの背中を抱いて、そのまま畳に押し倒す。
ぽかんとした表情のサンジの上に覆い被さるようにして、両手を握って指を絡め口付けながら、激しい挿迭を再開した。
「あ、あ、せんせ・・・」
「だから、これからは――――」
上唇を食みながら、掠れた声で囁いた。
「家政婦ではなく、恋人として側にいてください」
「え、あ、ああっ・・・」
痩躯がしなやかに仰け反り、白い腹の上にぴしゃりと己が精を放ちながら、サンジは歓喜に震えた。

「・・・あ、ああ・・・せんせ・・・」
「ゾロだ」
「・・・ゾロっ」
身体の最奥に熱い迸りを感じながら、サンジは広い背中に手を回し愛しいその名を呼び続けた。





























「キュ・・・コーン・・・」
鳴っているのかいないのか、よくわからない中途半端な呼び出し音を聞き付けて、サンジはパタパタと小走りで玄関に急いだ。
「いらっしゃい」
満面の笑みで出迎えれば、エースはちょっと面食らったような顔をしてからにこりと笑った。
「久しぶり、元気そうだね」






綺麗に掃除された母屋の縁側で、座布団を並べて庭の景色に目を細める。
暖冬の影響からか早くから膨らみかけていた桜の蕾は、雨に散らされることもなくぽつぽつと花開いて春の風情を漂わせている。


「想像以上に、いーい暮らしをしてるねえ」
「お陰様で」
「まったくだよ」
ふわりと目の端でフリルが揺れて、白い太腿が眩しく映る。
「粗茶ですが、どうぞ」
目の前に置かれた盆には、濃い煎茶に桜餅。
「これは、サンジ手製?」
「まあな」
はにかんだような笑みを残して、また軽やかに立ち上がると台所へと引っ込んでしまった。

「一緒に食べようよ〜」
「午前中は何かと忙しいらしい。まあ、よかったら昼飯も食っていけよ」
「え、昼だけ?」
「生憎だが、日が暮れてからうちに留まることは俺が許さん」
ぬけぬけと言い放つゾロにちょっぴり湧いた殺意を押し殺して、エースはずずと茶を啜った。





「それにしてもあのユニフォーム、よく似合ってるね。ここまでとは思わなかった」
「あれもいいが、レトロな矢絣の着物なんかも意外と似合うぞ。勿論、正統派メイド服も」
男二人がのんびりと縁側で茶を飲みながら不埒な会話を交わしている前で、サンジは洗濯籠を抱えてきぱきと家事を
こなしている。
ちなみに今日のサンジの出で立ちは、白のブラウスに紺のワンピース、ストライプのニーハイが長い足に良く似合う。

「ところでさ、サンちゃんから電話でちらっと聞いたんだけど・・・っつうか、惚気られたんだけどー。契約更新のこととか
 身の振り方とか、サンちゃんに選ばせたんだって?」
「ああ」
桜餅を一口で放り込んで、もぐもぐと頬袋を膨らませながらぞんざいに答える。
「放っとくとあれこれ一人で余計なことまで考えるタイプだよ。よくまあそんな賭けに出たもんだね。もしサンちゃんが
 家族の元に行くとでも言ったら、どうする気だった?」
少々やっかみを込めて尋ねれば、ゾロは湯飲みを手に取って悪い笑みを浮かべた。

「契約切れまで2ヶ月はあるからな。その間にたっぷり身体に教え込むつもりだった」
「――――か〜〜〜〜〜・・・」
やってられないと、エースは天を仰いで嘆息した。
「こりゃご馳走様と言うべきか?つか、卓袱台引っくり返していい?」

「あ?エース、お代わりどう?」
言葉尻を聞き付けて、サンジは空の洗濯籠を片手にニコニコと駆け寄って来た。
「あーいやいや。ゾロにさ、あんまり道楽が過ぎるぞと説教垂れてたんだよ俺は」
わざと顰めつらしい顔でそう言えば、サンジはきょとんと見返してから肩を竦める。

「そうですね。でも、それが先生ですから」
サンジの屈託ない台詞にエースは苦笑し、先生は穏やかに目を細めた。







ほころびはじめた白い花弁が、風に吹かれてふるりと笑った。




END



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