Birthday (ウソップ)


4月1日(火曜日)南西の風 晴れ

親愛なるカヤ。
元気でやってるか?
時折吹く西風で、頭痛を起こしたりはしてないか?
シロップ村は今頃、たんぽぽが花盛りなんだろうな。

偉大なる海の勇者を目指してグランドラインに繰り出して、俺もいよいよ海上でひとつ年を取ったぜ。
今じゃ8千人の部下と15隻のガレオン船を率いる大海賊団の船長になった俺だが、海はまだまだでかかった。
常識や理屈じゃ説明できねえ、途轍もなく壮大な世界が目の前に広がってるんだ。

小山のようにでかい巨人や雲の上の島、水に浮かぶ都に骸骨人間―――
前の手紙で詳しく書いたから、今日は今日の日のことを書こう。

何かと宴の好きな麦藁海賊団は、クルーの誕生日にかこつけて一晩中の馬鹿騒ぎを繰り広げるのが常だ。
俺の誕生日も言うに及ばず、昨夜の夕食から始まって今朝方まで、そりゃあ賑やかなもんだった。
この日のために準備されていた料理はいつにも増して豪華だし、酒は美味いし皆上機嫌で、自分の誕生日じゃなくったってその日は特別な一日になっちまう。
仲間が増えるたびに、年に一度の大切な日が増えるってのはいいもんだ。

今回のパーティでは、俺にちなんで(?)嘘つきパーティになった。
誰も彼もが適当に嘘ばかり言う。
やや心外だが、みんな楽しそうだったからよしとしよう。
ナミは最初から「ナミ蔵」を名乗ってたし、ルフィは「腹がいっぱいだ!」を叫ぶだけだ。
ロビンは何を言っても信憑性があるから、却ってどこまでが嘘なんだかさっぱりわからなかった。
彼女なりに嘘をついていたんだろうが、それを見抜けなきゃ嘘ってもんは成り立たねえ。
案外難しいんだぜ。

チョッパーは「この料理美味くねえ」と叫んで、サンジの顔を半端じゃなく強張らせていた。
すぐさまブーイングさ。
いくら嘘でも、否定もまた気分のいいモンじゃねえ。
その点、フランキーの兄貴はいつもの調子ででかい口ばかり叩いていたから、俺と相通じるもんがあるな。
だが兄貴は口ばかりじゃなくて、その存在がすでにスーパーだ。

結局最後までわからなかったのが、ゾロとサンジだ。
ゾロは元々口数が少ないし、サンジは女を前にすると余計なことまでベラベラ喋るけど、そこに嘘を織り交ぜることなんてしねえ。
あの二人が喋ってたことを思い出しても、お互いに罵り雑言を浴びせ合ってたくらいだろう。
後は、俺らにも普通に喋ってたし、嘘の要素はどこにも見つけられなかったな。
まあ、ゾロは嘘が嫌いだろうし、サンジは忙しくてそれどころじゃなかったのかもしれない。
昨夜のサンジは、そんなに酒も飲んでないのにやたらと酔っ払ってたっけなあ。
なぜだか顔が真っ赤だった。

まあそんな感じで、俺らは楽しく豪快に旅を続けているぜ。
これから、またカヤに話してやりたくなるような、途方もない冒険が俺らを待っていると思う。
俺が何を言ったって、それを“嘘”だなんてカヤは思わないだろう。
なんせ今まで語ってきたことは、全部真実なんだから。
そしてこれからも、俺らは命がけで未知の敵と戦って、新たな出会いを見つけるだろう。
死線を乗り越えて辿る道筋に、嘘なんて欠片もねえさ。


いつの日か、俺の手下が5万人を超えて率いる船が30隻を超えたなら、カヤを必ず迎えに行くよ。
そん時は俺の言葉でこの声で、すべてを話して聞かせるさ。
嘘偽りのない真実の冒険の物語と、俺らのこれからのことを。

また、手紙を書く。
ピーマン、たまねぎ、にんじんによろしく伝えてくれ。






ウソップはペンを置くと、大きく伸びをした。
夜も更けて、真っ暗な男部屋には規則正しい寝息とかすかな鼾が響いている。
真っ暗な手元でノートを閉じて、ウソップは自分専用のミニ机の抽斗に仕舞った。

ノートは最初から真っ白だ。
ウソップはカヤへの手紙を、いつもインクのないペンで書き綴る。
消えてしまう文字よりも、真実の言葉を
いつの日か、カヤに直接伝えるために。


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