淡月(あわつき)の夜
ビビが城へと帰ったその夜も更けてからのこと、料理屋「風車」に独りの客が訪れた。
女将はもう2階に上がっていて、店では板前が暖簾を仕舞う支度をしている。
「一杯・・・・・・・もらえるか?」
すげ笠を深く被った男は黒い袈裟を纏い、一見すれば坊主であることが知れるけれど。
「悪ぃな、えせ坊主。ウチはもう仕舞いだ、他を当たってくれ。」
冷たく突き放す言葉を吐く板前は、僧侶姿の男の素性を見抜いていた。
「それじゃあ、酒は諦めるとしよう。お前ぇさんと・・・・・少し話しがしてぇなぁ、二代目。」
背負う長物(ながもの)を下ろしながら、男は手近な椅子を無遠慮に引く。
『二代目』と呼ばれた金髪の板前は驚いたふうでもなく、男の様子をただじっと窺っていた。
「お前ぇに会うのも久し振りだ。上方でお縄についたって、風の噂で聞いてたんだがな・・・・・・・こんなところで会えるたぁ、俺も思いもしなかったぜ。」
すげ笠を取れば、見事な緑の髪が現れる。
剃髪をしていない、得体の知れない坊主は腰を下ろしながら尚も言葉を紡いでいった。
「先代はどうした?まぁ、お前ぇが二代目を襲名してるんだ、察しはつくが・・・・・・・線香の1本でも上げてぇ、墓は何処だ?」
「勝手に殺すんじゃねぇよ、ジジィは死んでねぇ。ただ・・・仕事はもうできねぇ・・・・・・隠居したよ。」
男の細い眉が片側だけひくり、と上がる。
「脚を・・・やられちまった。今は片足、膝から下ぁ棒っきれくっつけてる。」
「あの『赫足』がそんな大怪我をしたってのか・・・・・・それでお前ぇが二代目を・・・。」
「まぁ、そんなところだ。さぁ、話しは終わりだ、てめぇもさっさと帰ぇれ。」
素気無くそう言って、板前は男を促そうと腕を伸ばす。しかし、その腕は男に捕えられ、逆に引っ張られて・・・・・・・。
「そんな固いこと言うこたぁねぇだろ、俺とお前の仲じゃねぇか・・・・・・・俺は、忘れたことなんかねぇぜ・・・お前ぇだって、同じだろ?なんせ俺ぁ・・・お前ぇの初めての男なんだからよ・・・・・」
その刹那、男の胸に納まる板前の頬に朱が差していった。
それは5年前のことだ。
サンジはまだ17で、盗賊としてはまったくの駆け出しで。大盗賊・赫足の元で修行を始めたばかりだった。
しかしその頃のゾロはもうすでに盗賊として名を上げていた。
『魔獣』と恐れられる一匹狼の盗賊で、でかいヤマをなんなく熟なすこの男を、
名のある大盗賊たちはこぞって仲間に引き込みたがっていた。
だがゾロは・・・・・徒党を組むことを忌むように嫌い、軍門に下ることを決して良しとしなかったのだ。
ただ時折、ふらりと気が向いたときだけ他の盗賊どもと手を組んだ。
それがたまたま、今回は赫足の一家だった。
サンジにとっては初めてのでかいヤマ、正直言って内心ではビクついていた。
押し入った呉服問屋はしこたま金を溜め込んでいて、上々の稼ぎがあったものの。
刃向かう家人を容赦なく蹴りつけ暴れた自分に、サンジは些かの戸惑いを感じていた。
仕事を終えて酒盃を上げる仲間たちの輪を外れたそんなサンジに声を掛けてきたのは・・・・・・・ゾロだった。
「どうした、小僧。初めてのでかいヤマが済んで、気が抜けちまったのか?聞くところお前ぇさん、赫足の秘蔵っ子だって話しじゃねぇか。そんなんじゃ赫足が泣くぜ。」
「小僧って呼ぶんじゃねぇよっ、ちゃんと名前で呼びやがれっ。・・・心臓に毛が生えてるてめぇみてぇのに、俺の気持ちがわかるかってんだっ!寄ってくんなっっ!!」
そう怒鳴りつけてやったのに、ゾロはそれをまったく気にするでもなく。逆に懐っこい笑顔を見せてきて。
「そうがなるモンじゃねぇぜ。俺が・・・お前ぇを男にしてやるよ・・・・・・・」
言われた言葉の意味なんて、わからなかった。
そのままサンジは、肩を抱かれて引き寄せられて・・・・・・・桜のような唇をゾロに吸われていた。
板場の暖簾が下がる辺り、柱に押し付けられたサンジはゾロに唇を塞がれていた。
彷徨いだすゾロの掌は容赦なくサンジの胸元の袷を乱し、パッチの被りから尻へと入り込んでいく。
柱に当たる、
半端に結わいた後ろ髪が痛い・・・・・・・・・サンジは思わず首を捻り、愛撫を受ける唇を逃がしていった。
もうすでに、解かれてしまった腹掛けの紐が地面すれすれに揺れている。
「っんぁ・・・やっ・・・・・ァはっ・・」
晒した白い喉元をきつく吸われて、思わず艶めいた声が漏れ出てしまう。
「あん時と・・・変わらねぇな・・・・・肌触りも敏感なとこも・・・・・・・・・」
舌を這わせるゾロはそんなことを言いながら、腹掛けはそのままにサンジの木綿を腕から引き抜いていく。
徐々に露わになっていく白い肌、それを見つめるゾロはマグマのような情欲が湧き上がるのを感じてしまう。
「くっそ・・・・・」
「ひァっ・・ぁアんっ・・・あァ・・」
腹掛けの横から僅かに覗いていた桃色の乳首に堪らず齧りつけば、思ったとおりの反応が返ってきて。
小さいながらも敏感なソコを、ゾロは尚も甘噛みして舐め上げる。
「やだっ・・・やだよぉ・・・・・ゾロっ・・もっ・・・」
ほんのりと染まり始める肌の色が、えも言われぬ艶を醸し出していくせいか。
嫌がるサンジをゾロは執拗なまでに攻め立てていった。
慌しく解くパッチの紐、すでにサンジの男根(おとこね)は雫を垂らすほどに育っていて。
「なにが・・・やだ、だ・・・・・・・こんなにおもらししちまってるクセに、よく言えるな・・・」
耳穴に舌を突っ込みながらそう囁いて
やれば、色づいた肢体が激しい震えを来たしていく。
逞しい腕はサンジのしなやかな足を片側だけ持ち上げて。
「変わらねぇ・・・・・・・キレイな脚だぜ・・・惚れ惚れしちまう・・・・・」
高く引き上げたサンジの膝に、太腿に。ゾロは唇を寄せていった。
脚を抱えた腕の先はすっかり立ち上がりしこってしまった乳首を弄り、もう片方の手は尻肉の間を擽って・・・・・・・
「ぅうンっ・・・あァっ・・はぁ・・・んんっ・・」
堪えきれないサンジの腕は、ゾロの首っ玉にしっかりと巻きついていた。
そうでもしないと、もう膝が・・・・・・震える膝が崩れ落ちてしまいそうで・・・。
「もう・・どこもかしこもとろっとろだってのに、ココはまだカタイな・・・・・・・使ってねぇのか?・・んん?」
与えられる快楽の深さに溺れて、サンジはもう蕩けきっている。けれど、ゾロの言葉が胸にキて・・・・・・・・・・・
「使って・・なんか・・・・・・・いねぇ・・てめっ・・・・・てめぇ以外の野郎なんざ・・・・・・・・・」
途切れ途切れのその言葉に、ゾロは息を飲んだ。
「どうせっ・・・・・ゆきずりのクセっ・・しやがっ・・・・・・んっ・・俺を・・・ナンだとっ・・・・・・」
零れた涙が、サンジの気持ちを伝えてくる。
5年前、大仕事を前に震えていた少年。それがあまりに初で無垢だったから・・・・・仕事明けの高揚感に託けて、つい
手を出してしまった。
男を抱いたことも初めてなら、その事を後悔したのもゾロにとっては初めてのことだった。
赫足の後継・・・・・・・このまま手放すのが惜しいだなんて・・・。
予定を早く切り上げて一家を離れたのはその為だ。この街で、こうやって再会を果たして。
忘れられなかった身体を手中に収めたゾロの胸に、5年前の感情が鮮やかなまでに甦ってくる。
「あぁアっ・・・んうっ・・アっんんっ・・・」
ゾロの指は、乱暴にサンジの蕾の内へと押し入っていった。
決して自ら濡れることのないその箇所は、強引な侵入を阻むように蠕動してゾロの指を締め付ける。
「少しっ力抜けっ・・・」
「む・・・・無理だっ・・てめぇっ・・・抜けっ・・・・・」
仕方なし、指を抜いたゾロはそれをそのまま自分の口許に運び、たっぷりと唾液を塗り込めて。
あらためて挿し込んでやれば、サンジの細い腰がびくりと跳ねる。それでも、サンジの身体から固さが抜けることはない。
ゾロはついにサンジの脚を肩に担ぐようにして膝を付き・・・・・・・快楽に震えている肉棒を口に含んでいった。
「くぅっ・・んァっっ・・・ぁはァんっ・・・・・ゾ・・ゾロッ・・・」
窄めた唇で丁寧に扱いてやれば、サンジの腰が揺らめきだす。すると、次第に秘処も綻んで・・・・・・・。
右と左と2本づつ、4本の指でゆっくりと広げることができるようになった頃に、サンジはゾロの口中いっぱいの
精を吐き出していた。
「もう、いい頃合だ・・・・・・挿れんぞ・・・」
立ち上がるゾロは口許を拭い、再びサンジの片足を腕で抱えていた。
秘処に宛がわれた熱のあまりの熱さに慄いて、サンジはゾロに強くしがみつく。
ずいぶんと長いこと味わっていなかったその感覚、それが期待か恐れか分からないままに、サンジはゾロの男根を下口で食んでいった。
「あっァあんっ・・・あ・・アァっ・・・・・」
ずぶ、ずぶりと音が鳴っているような気がする。
男でありながら男に貫かれて堕ちて行くなんて・・・・・そう思いながらも、今さら止めることなんてできないから・・・。
すべてを収めたゾロに身を委ね、サンジは与えられる律動の中、
ゾロの元へと堕ちて行くだけだ。
立ったままに何度も達かされて、受け入れて。
最後は座敷席で組み敷かれていたサンジは、格子窓から差し込む朝日で時を知った。
夜が明けたら、きっとゾロは・・・・・・・・・・・・・
そんなことをおぼろげに考えてしまい、サンジは悲しい気持ちになる。
自分が盗賊から足を洗ったことは告げないままで別れよう、その方がいい。
掠れていく意識の中で、サンジが最後に考えたのはそんなことだった。
「しばらく、この街に居ようと思う。また・・・・・・会いに来てもいいか。」
濡れ手拭でサンジの身体を清めながら、ゾロはそう言った。
サンジは返す言葉も口にできないまま、震える背中で
それに応えてやる。
表通りはすでに、朝の光に満ち溢れていた。
終
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楓さん、どうもありがとうございましたv