〜Dear Franky〜

「男の花道、フランキーエレジ〜♪」
「ええっ、なんでそこでAm?」

よく晴れた空の下、みかんの木陰でウソップとチョッパー、それにフランキーが熱心に打ち合わせをしている。
「誕生日なんだぜ、もっとこう、ぱ〜っと派手に盛り上げるリズムでねえと」
「あれで行こうよ、ズンチャズンチャ・・・」
「フ〜ランキーッ!」
突如ルフィがぶら下がって乱入して来た。
ぎゃははとはしゃいだ笑い声が、高い空に吸い込まれていく。

「早くリズムだけでも決めてもらわないと、練習する時間がないわよねえ」
「ナミはもう、何にするか決めたの?」
デッキチェアに凭れて、ナミはストローを咥えたままきょろりと大きな目をロビンに向ける。
「そうね、レゲエかベリーか迷ってる」
「じゃあ、ナミが選ばなかった方を私がするわ」
積極的な姿勢のロビンをナミは一瞬意外に感じたが、すぐに思い直した。
そう言えばロビンは、案外と子どもっぽい部分があるのだ。
今まで馬鹿できなかった分を取り返すみたいに、些細なことを面白がって臆することなく輪に加わったりする。
案外、ルフィたちの子ども染みた計画はロビンの楽しみに一役買っているのだろう。
「それじゃ、私はレゲエで」
「では、私はベリーで」
二人顔を見合わせて、ふふふと笑った。


もはや串団子とも言えない巨大すぎる錘を心行くまで振り切って、ゾロは汗に濡れた身体をタオルで拭きながら
ラウンジに足を運んだ。
ドアノブに触れる前に開いた扉の向こうで、サンジが目を丸くしている。
「って、てめえいたのかよ」
「なにビビってんだ」
軽くからかうと、面白いようにぐる眉がいきり立った。
「鉢合わせしただけじゃねえか、誰がビビるか!」
すぐに蹴って来ないのは、頭と片手にトレイが乗っているからだ。
ゾロは気付いて、グラスとピッチャーの乗った方をさっさと受け取る。
「こら、何勝手に・・・」
「これは俺んだろ、サンキュー」
そう言って先にラウンジに入ると、サンジはなにやら不満そうだったが、とりあえずそのままトレイを持って
甲板に出て行く。
水分補給のためにラウンジに向かったが、もう少し待っていれば向こうから持って来てくれたかと、なぜだか
ゾロは損したような気分になった。


アルコールで無いのは残念だが、すかっとした冷たいジュースは身体中に染み渡るようだ。
一人でぐびぐび飲んでいたら、空のグラスをトレイに乗せて、サンジが戻ってきた。
「汗っかきマリモには、水分補給が基本だろ」
お代わり用のピッチャーを用意していたことを、まるで言い訳するようだ。
外の陽光が明るい分、ラウンジの中はやや暗く感じられる。
色素の薄いサンジには、この方が過ごしやすいだろう。

「ああ、生き返った」
「・・・やっぱり水生植物だ」
サンジは煙草に火を点けると、咥えたままキッチンに戻ってまた忙しく作業を再開させる。
調理の合間にもおかしな具合に足が伸びたり上がったりするから、ゾロはグラスを傾けながらチラチラと
視線を寄越した。
「寝腐れマリモは、鍛錬が終わったら寝たらどうだ」
視線が鬱陶しいのだろう。
やや不機嫌な声で、振り向かずサンジは毒づいた。
「お前どんなの踊るんだ」
「ん〜俺様にかかれば、なんだっていけるぜ」
それはそうだろうと、ゾロも納得する。
普段からして終始踊ってるような身のこなしだ。
特に女を前にした時は人間離れした動きを見せるし、戦闘時にもその軽やかさはいかんなく発揮される。

じーっと見ていたら、ひょいと足が真上に上がった。
背筋を伸ばしたまま、片足だけ頭の上にまで真っ直ぐ伸ばすなんて、やはり人間業とは思えない。
「クラシックもいけるんだけどな〜やっぱブレイクダンスだろ」
足を上げたまま太股を抱いてくる〜りと回って見せた。
「・・・お前、本当に関節が柔らかいな」
「おう、生まれつきもあるみてえだが、これこそ日々の鍛錬のお陰だぜ」
こいつはいつ鍛錬してるんだろうと訝りつつ、ゾロは空のグラスにピッチャーから新たにジュースを注ぐ。

「お前だって、身体が固いわけじゃねえよな」
「まあな」
ゾロも戦闘時は身のこなしが軽い。
ただ、いつも腰を落として重心を低く取る体勢なので、どっしりとしたイメージは否めない。
「お前がステップとか・・・考えられねえよな」
サンジは煙草を挟んだ手を口元に当てて、ぷっと吹き出した。
「こう両手をくねらせてよ、足で、ステップ・・・ぷぷぷ」
勝手に想像して腹を抱えている。
「お前こそ頭で回ってるとハゲるぞ」
「余計なお世話だ!」
ややヤバイと思っているのか、サンジは口から煙草を飛ばしながら怒鳴った。
「てめえこそ、結局何踊るんだ」
「ああ?俺は・・・盆踊り」
新たに滲み出た汗を拭いながら、ゾロは面倒臭そうに答えた。
「あ?盆踊り?なにそれ」
知らないことは、案外素直に聞いてくる。
「ご先祖の御霊を迎えるために踊るもんだ」
「・・・えーと・・・」
「ロビンに今回は止めとけと言われてな、結局ハウスダンスとか言う奴に・・・」
「そ、それは無理だ。てめえの短い足じゃ到底無理!」
「長い方がこんがらがるんだろうが」
「あ、そうか。んじゃ・・・って、え?」
どっちがからかってるんだかわからない状況になって、サンジが混乱している。
「まあ、足捌きの練習にもなる。ごっそうさん」
空のグラスとピッチャーを置いて、ゾロは立ち上がった。

「まあ、せいぜい頑張れよ。楽しみにしてるぜ」
サンジは余裕の笑みを浮べて、新たに煙草を咥えながらひょいと片足を上げて見せた。
自由自在な関節だなとやはり素直に感心して、ゾロは何の気なしに無防備な足裏に触れる。
「こうしたって痛くねえのか。器用だな」
「な、な、な・・・」
ゾロのいきなりの行動に、サンジは真っ赤になって口をぱくぱくさせていた。
だってゾロは太股の裏を掌で押しているのだ。
しかも、サンジの足の間に立って。
「なにしやがる、セクハラマリモ!」
「股開いたのはてめえだろうが」

がしゃんとモノが割れる音がして、二人して振り返ると戸口でウソップが硬直していた。
「待て、長っ鼻!誤解だ。つか、こいつが変態だ!」
「おい、お前も見てみろよ。こいつどんだけ関節柔らかいんだってな」
サンジの腰をシンクに押し付けるようにして、膝裏を固定したまましれっと振り返ったゾロの頭に、膝の力だけで
辛うじて繰り出されたコンカッセが炸裂した。






フランキーの生誕パーティでは、クルー全員が一つの音楽に息を合わせ、何故か種類はバラバラなダンスを
一斉に披露した。
それは見事なものだったが、各々自分のパートに夢中になっていたので、その全体像は誰も知らない。







    END