■あるひあひるだ -3-
ジジイとのくらしはとても楽しくて、ながい間だったのに、なんだかあっという間みたいだった。
おれもすっかり人間らしくなれたとおもったのに、とつぜんジジイがしんじまった。
仕事がおわったあと、みんなでかたづけてるときに倒れて、それっきりだった。
みんながいてくれるときでよかった。
おれ一人だったら、どうしていいかわからなかった。
ジジイが病院にはこびこまれて、そこでしんで、おそう式とかあって。
みんなバタバタしている間、おれはなにがどうなったのかもよくわかんなくて、ただオロオロしてたんだ。
じゃまだって、けりとばされそうになって、あわててよけたりしてさ。
みんなの足元をただウロウロとあるきまわるばかりだった。
おそう式もすんで、さあ店をどうしようってなったときに、弁ご士ってのがきたんだ。
ジジイは、おれに店をゆずるって書きのこしてた。
ジジイの親せきたちが、「サンジ」ってだれだって、目をつりあげてさがしにきてこわかった。
けど、店のスタッフたちはみんな「しらない」ってとぼけてくれた。
実さい、もう「サンジ」はいなかったから。
戸せきなんかないし、おれの存在は店のみんなしかしらなかったし。
そのときには、おれはもう元のアヒルにもどってたし。
おん返しの相手がいなくなったら、もうま法もとけるよな。
おれはただの、アヒルで。
ジジイの店は、親せきがもってった。
店のみんなも、のきなみクビんなった。
シンキイッテンだって。
名まえはのこすけど、あたらいい店にするんだって。
ジジイの息子はジジイとうまくいってなくて、ずっと反発したきりなんだっていってた。
ばかだよな。
ジジイは息子のこと、ちゃんとみとめてたのに。
バラティエの名まえなんかなくても、ちゃんとやっていけるっておもってたのに。
いま、息子はバラティエの名まえついで、苦労してんだな。
でもつぶさずにやっていけてるみたいだから、やっぱりよかった。
んで、おれのことだけど。
店のゴタゴタのさい中に、パティがおれを公園の池に放してくれた。
アヒルがおれってわかったのかな。
ふしぎだな。
おれ、どうしたらいいかわかんないし、一人で出ていったら心配かけるとおもってただじっとしてたんだ。
そしたらパティが、そっとだきあげてくれて。
カルネとか他のみんなが、ナミダながしながらかわるがわるおれをだきしめて、おわかれしてくれた。
なんせみんな家庭もってるし、新しい生活もあるしな。
おれの面倒みるよゆうなんて、だれにもなかったんだ。
それでおれは元のアヒルにもどって、池でチャプチャプしたりしてたんだけど、頭ん中まだ人間でさ。
さびしいしこわいし、さむいしで弱ってた。
食べるもん、ねえんだ。
いまさら虫とか食えねえし、けどおれアヒルだし。
一人であてもなく歩きまわって、どうしようかなあってと方にくれて。
お腹すいてもう動けなくて、さむくてしかたなくて。
けど、もうどうでもよくなってさ。
だってジジイはもういねえ。
すぐにどなってけりとばして、がんこで口が悪くてらんぼうでさ。
おれにいろんなことおしえてくれた、ジジイはもういないんだ。
腹へったってないても、さむいってないても、ジジイのあったかい手はもうない。
おれもう、なにもかもどうでもよくなった。
そのうち、さむいのとか腹へったのとかもよくわかんなくなってきて。
ただねむくて。
ねむったら、ジジイの夢をみられるかなっておもって。
じっと目をつむって丸まっていたら、お前がひろってくれたんだ。
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