ゾロが部屋を出て言ってしまってから、サンジは気が抜けて倒れるようにベッドに横になった。
そのままウトウトと眠り込んでしまったらしい。
目が覚めたのは、不覚にも午後になってからだった。

まだ身体は重いが、それほど腰には響かない。
慣れってやだなーと自嘲しながら腫れぼったい顔を洗い、台所に向かった。










ブラインドを下ろしたままの、昼間なのに薄暗いダイニング。
ただっ広いテーブルの真ん中に、ぽつんと座るゾロの背中があってぎくりとする。
「起きてたのか?」
「あ、おはようございます」
午後を過ぎておはようもクソもないだろうが、この場合原因は自分にある。
おう、と小さく挨拶を返して、サンジは遠回りするように戸棚伝いにシンクに向かった。

「お前、いつから起きてたんだ」
「昼前です」
「・・・ここには?」
ゾロはふと首を巡らした。
シゲさん愛用の時計を兼ねたキッチンタイマーが冷蔵庫に張り付いている。
「ああ、1時間くらい前からかな?」
「え?」
サンジは振り返ってまじまじとゾロを見た。
食卓に着いたゾロの手元には、新聞も置いてない。
ただ両手を組んで無造作に座っているだけの姿だ。
膝は貧乏揺すりすることもなく、つい今しがた着席でもしたかのようで。
「その状態で、1時間ボーっとしてたのか?」
「ええ、起こすのは申し訳ないですから」
「勉強は?」
「また、食ったらしますよ」

ゾロと会話していて、時折ぞくりとさせられることがある。
今もそうだ。
サンジの脳裡には、昼前に腹が減って台所に下りて来たゾロが、サンジが起きて来るまで何もせずにじっと座って
待っている光景がありありと浮かんだ。
それはまるで石膏像のように微動だにせず、待つことへの不満も退屈も怒りも無い、時間の流れも感情も消えた世界。

ゾロには、明らかに異常があると思う。
それが性格の問題なのか、何らかの障害なのか生育環境のせいなのかサンジにはわからないが、説明し難い違和感を
覚えずにはいられない。
時には、高校生どころか中学生か小学生並みの幼ささえ感じさせる、極端な表現と変貌。

「ちょっと待ってろ、今飯を作る」
サンジはぶっきらぼうにそう言うと、勢いよくブラインドを上げた。
ガラス越しに差し込む午後の日差しが、眩しかった。









やや手抜きながら簡単な昼食をゾロに出すと、早速手を合わせて貪るように食べ始める。
自分のために淹れたコーヒーの湯気越しにその姿を見ながら、サンジは煙草を咥えてあれこれと考えた。
まずゾロは、一人で食べることにまったく抵抗を感じていない。
ゾロから「先生もどうぞ」と勧める言葉を聞いた事が無い。
誰が側に居ても、じっと見ていても頓着しないのだ。
見守られることに慣れているのか、一人で食事することに慣れているのか。
どちらにしろ寂しいと、サンジなら思う。

「お前さあ、休みの日は何してんの」
サンジは煙を吐き出しながら顎を上げて問うた。
「休みも勉強ですよ」
「まあ受験生だからそうだろうけどよ。たまには息抜きとか、ダチと遊びに行かねえの?」
「今の時期、遊びに出掛ける奴はガッコにはいませんね」
さすが進学校と感心すべきかここは。
「・・・ダチは、いるんだろ?」
ちょっとドキドキしながら質問した。
「いますよ。未だにクラブ続けてる俺を馬鹿だな〜とかよくからかわれますね」
その言葉にほっとして、コーヒーに手を付ける。
「人付き合いは、できんだ」
「勿論。なんだと思ってんすか」
箸を加えたまま、くすっと鼻で笑った。

「俺普通の高校生っすよ。学校じゃ馬鹿もするし居眠りもするし。受験じゃなきゃ遊びにも行きますしね」
「・・・ふうん」
カップを両手で抱くように持って、サンジは視線だけ上げてゾロを見た。
「んで、大学行ったらどうすんだ?」
「将来のことですか?」
ゾロはモグモグと咀嚼しながら、やや斜め方向に視線を漂わせた。
「とりあえず卒業したら、親父の会社に就職します。一応後継者ってことでポストは用意してくれますし」
「・・・それで、いいのか?」
サンジの呟きに、ゾロはちらりと視線を移した。
「いいですよ、勿論」

それはまあ、そうだろう。
親が会社を経営しているなら、その跡継ぎとして努力するのは褒めるべきことだ。
赤の他人の、ましてや一時的な家庭教師としての立場でしかないサンジが口を挟む問題ではない。
だが―――

「ゾロ、お前の夢って・・・何?」
ゾロは湯飲みを口元に持って行った状態で、手を止めた。
は、と笑いを漏らした拍子に湯気が揺れる。
「夢?夢なんて、寝てる時に見るもんでしょ」
「や、そういうんじゃなくて・・・」
真面目に言い募ろうとして、自分の滑稽さに気付く。
サンジは一旦乗り出した身体を背凭れに戻して、煙草を持ち替えた。

「あのな、俺の夢はコックになることだ」
「ああ、それはいいと思います」
ゾロが意外なほどの素直さで、すぐさま反応した。
「先生の料理の腕はほんとに玄人はだしだし、何より作ることとか食わせることとかが楽しくてならないって感じです
 もんね。天職じゃないですか」

これにはサンジの方がビックリした。
え、こいつ、おれのことなんて見てたのか?
「・・・そう思うのか?」
「勿論、もし先生がコックになったら、俺、毎日でも先生の勤める店に食いに行きますよ」
嬉しいことを言ってくれる。
そりゃどうもと照れかけて、サンジは頭を傾けたまま「待て待て待て待て」と自分を叱咤した。

どうもいかん。
よく考えたら、こいつは今朝方、俺をレイプしたんだ。
意識が無いうちに好き勝手してくれた極悪人なのに、なんでこんなとこで和みながら話してるよ俺。
馴れ合うにも程がある。
ちゃんと自覚しろ、んでもってもっと怒れ、不当だと訴えろ。

内心でいくら鼓舞しても、気持ちの方がついていかない。
理屈抜きでゾロを許してしまいそうな自分がいる。
それは今朝のゾロと今までの家庭教師との関わりを聞いて毒気が抜かれてしまったせいかもしれないし、親父さんの
ことを気の毒だと思ってしまったせいかもしれない。

「・・・親父さん、海外勤務っつったっけ?」
「はい」
「会社は親父さんが経営してんだろ」
「幾つかあるんです。本社は伯父が経営してますし、親父はネバダ州で企業進出したんで、後3年は帰ってこないでしょうね」
「ふ〜ん・・・」
縁が遠すぎる、雲の上のような話だ。

「そりゃ寂しいな」
「そうですね」
別に、とか言われると想定していたから、その答えにもびっくりだ。
「寂しいのか」
「当たり前でしょう。普段1人か2人の家が3人になったら、賑やかですよ」
あっけらかんと言われて、それもそうだと納得する。
「奥様も、お寂しいだろうなあ」
ついそう呟いて、今のは意味深過ぎたかと口元を煙草で隠した。
案の定、ゾロが意味ありげな含み笑いをする。
「残念ながらそっちの心配はないですよ。お袋は多趣味で退屈と言う言葉を知らないタイプですから、親父がいない方が
 生き生きとしてます」
「・・・まあ、そうだろうなあ」
生き生きと生活をエンジョイしてらっしゃるのだろう。
常に家にいないほどに。

「でもそれじゃあ、お前が寂しいじゃねえか」
「小さい頃から父や母が側にいたことはありませんから、今頃になって四六時中顔を合わせるとなると、却って窮屈かも
 しれませんね」
ゾロの言うことは一々尤もだ。
まとも過ぎて不気味なくらいに。
「・・・それでも、現状を変えたいとは思わないか?」
「現状?なんの?」
一瞬、ゾロの瞳がきつい光を帯びる。
「親父が居ない現状?お袋が出歩いて家庭を顧みない現状?それとも、俺が一人で家で好き勝手してる現状?変える
 必要はないですよ。実に快適だ。自由に使える時間があって、金もある。必死に勉強しなくてもそこそこ成績はいいし、
 身体は丈夫だ」
喋っている内に、声のトーンが変わって来た。
口調が早まり、息継ぎをするように肩を上下させている。

「親父は奴隷を何人も飼ってるくらい過度のサディストだけど、家庭ではいい父親ですよ。そして母はマゾじゃない。
 夫婦関係が上手く行くことはないんです。上手く行かない方がいいでしょう。だからお互い、外で折り合いをつけてるんだ。
 他人がとやかく言うことじゃない。無論、息子もね。俺は学生の本分として勉強に励むし、そこそこ気晴らしをさせて
 もらってる。その為の家庭教師なんだ。あんたは男だったからお袋としたら純粋に面倒を見てもらうだけのつもりだったん
 だろうけど、結果的に俺はまたいい勉強をさせてもらったってだけのことさ」
ふふ、ひ、と妙な声を出してゾロが笑っている。
目だけをぎらつかせ、口端が歪んだ笑い方は、さっきまで普通に食べて喋っていた顔つきと全然違う。

「それで先生は俺に説教するつもり?高校生らしく真っ当な生活しろとか。おかしな癖付けるなとか?言いそうだな。
 言いそうだよ。ついでにお袋にも言いそうだ。もしかしてもう言った?」
サンジは気圧されて、緩く首を振った。
「言ったっていいよ。どうせあの人は理解できないんだから。口ではなんでも素直に受け入れるけどね、本質はまったく
 わかってない。美しく上品なだけの女だ。夫の性癖に合わせることも、浮気を詰ることも嫉妬することさえできやしない。
 無論、離婚なんて文字すら浮かばないだろう。毎日が充実して、幸せに暮らしている。年に2回、この家でホーム
 パーティを開くんだ。そん時は親父も帰って来て、ホテルのケータリング利用して着飾って夫婦仲睦まじく客を迎えてさ。
 勿論俺も出席しますよ。前途有望な跡継ぎだってね、スーツ着てネクタイでも締めてりゃ見てくれもジュニアとして申し分
 ない。それで小さい頃から裏も表も知り尽くして付き合っている希薄な“お友達家族”と和やかに交流するんですよ。
 まさに、絵に描いたような幸せな家族像だ!」

ゾロは食べかけの茶碗を置いた。
いつの間にか、忙しなく貧乏揺すりを始めている。
「あれ、なんでかな?先生の飯が・・・いつも美味い飯が、なんか不味いよ?」
なんでっと泣きそうな顔で立ち上がる。
サンジは不安になり、椅子に座ったまま後ずさった。
「ゾロ、落ち着け」
「落ち着くのは先生の方だろ、なに怯えてんだよ」
ククっと喉が引き攣るように笑う。
よくない傾向だと、サンジの本能が警鐘を鳴らし始めた。

「待てよゾロ、まずは箸を置け。そんなもん持って歩くな」
箸を逆手に握って、ゾロがよろめきながらサンジの側に歩み寄った。
「え、なんでそんなこというの、怖い?俺が怖い?ああ、凶器にもなるよなこれ」
歪んだ笑みを浮かべて、箸を持ち替えた。
興奮して闇雲に振り回しでもしたなら、却って隙ができてサンジにも蹴り倒せるだろう。
だがゾロは言質がおかしくなろうとも、動作がブレることがない。
むしろ冷静に速やかに行動に移すから、サンジの付け入る隙がない。

「な、先生の中に入りたい。入りたくなった今」
「なっ」
「ああ、入りたい。今朝やったとこなのにな。気持ちよかった。なあ、あれ気持ちよかったなああ」
持ち替えた箸を目の前に翳し、ついた米粒を舌で舐め取る。
その仕種はまるで演技でもしているかのように猟奇的だ。

「ね、先生入れさせて。俺先生ん中入りたい。入りたい入りたい入りたい・・・」
こうなったら手が着けられない。
少しは学習能力のついたサンジは、早い段階から観念していた。
口で説明しようと、身体で拒もうとゾロには関係ないのだ。
頭で思うのか身体が反応するのか、一度思い立ったら絶対に止まらない。
それが性的な欲求だからこそなのか、相手を見極めて暴走するだけなのか―――

「わかった、わかったから待て。部屋に・・・」
「今だ、今ここでだ。下だけ脱いで足開けよ」
「なっ・・・」
箸を握った腕が、瘧のようにぶるぶると震えている。
恐怖や怖気づいたことからの震えではなく、癇癪だ。
「今朝入れたとこだから、すぐ入るよ。早く脱げ、今日は誰も来ねえよ」
土日はハウスキーパーは立ち入らない。
玄関の鍵は、開けてないだろうか。
一瞬逡巡したが、ゾロとの緊迫感は変わらなかった。
サンジは覚悟を決めて立ち上がる。
黙ってベルトを外し、一気に下着ごと引き下ろした。
足を振って衣類を床に落とし、椅子にどかりと腰を下ろして膝を開く。

「おら、これで満足か。てめえも箸を置け」
「色気ねえなあ」
くっくとゾロが満足そうに笑った。
顔の険が取れている。
テーブルに箸を放り投げると、ゾロは前を寛げてサンジに腕を伸ばした。
腰を抱くようにして引き上げ、ひたりと狙いを定めるように先端を押し付ける。
「ね、ちょっと濡らさないと辛いぜ」
「いいから、早くやれ」
ゾロが落ち着くのと対照的に、サンジのが苛々してきた。
もはややぶれかぶれだ、こうなったらとことんまで付き合ってやる。

「意地っ張り」
誰のせいだと言おうとして、衝撃に息が詰まる。
遠慮なく突き入れてくるものの圧迫感に、先ほど飲んだコーヒーが逆流しそうなほど腹の中がせり上がった。
息を飲み下しゾロの肩に縋るように手を掛けると、サンジの尻をきつく掴んで揺さぶってくる。
「押し戻すなよ、力抜けって」
「・・・できるか、馬鹿・・・」

それでも、1日に2度目なら身体の方はまだしも従順だった。
何度か軽めの突き上げを受けているうちに、内壁から緊張が解けてくる。
ず、ずと調子よく動ける感触に気を良くしてか、ゾロは膝立ちの格好でサンジを持ち上げ思う様突いて来た。
―――これって、駅弁?
大の男が軽々と持ち上げられるなんて、俄かには信じられない。
ゾロの肩は衣服越しにも筋肉が盛り上がり、力強く張っていた。
見た目よりずっといい身体をしているのかと思い、唐突に思いつく。
そういえば、自分はゾロの身体を見たことがない。
身体どころか、いつだって下半身を寛げるだけで―――

そうか。
思い当たって、サンジは絶望的な気持ちになった。
ゾロは、SEXをしていないんだ。
今のこれも、欲望を吐き出すための手段に過ぎない。
サンジに手を出してきた時も、ただ突っ込むためにあらゆる手を使っていただけだ。
その後も、すべて用があるのはサンジの穴だけ。
そして今も―――

「・・・う、あっ・・・」
サンジの思考はあらぬ方へと飛んでいるのに、声や身体は如実に反応を返していた。
そのことでゾロは満足している。
サンジの関心などどうでもいいのだ。
熱く柔らかく、受け入れる器であればそれでいい。

「ゾロっ・・・」
サンジは切なく声を上げて、その名を呼んでみた。
肩に縋った手を背中に回して抱きつこうとして、けれどそれは叶わなかった。
ゾロは激しく出し入れを繰り返し、サンジが縋りつく隙を与えない。

じゅぶじゅぶと、ゾロの上でサンジが踊る。
それは生きたダッチワイフを操る自慰行為だった。
サンジは成すすべもなく、宙を泳いだ手を他人のモノのように視界に捕らえた。

「先生、自分でイけよ」
苛立たしげにゾロが呟く。
何を言っているのかわからず、焦点の合わぬ目で見返そうとしていきなり引き抜かれた。
「な、あうっ・・・」
「ほらっ」
くるりと回転させられて、椅子に凭れるようにして後ろを向かされる。
バックから再び突き入れられ、先ほどとは違う衝撃に明らかな嬌声を上げた。

「ほら、先生っ」
ゾロの手が、力強くサンジの手首を掴んで前へと引き寄せた。
「自分で、扱けっ」
両手を己のペニスに添えられて、ゾロのでかい手が上から擦った。
「あ・あ・あ・・・」
訳もわからぬまま、与えられた快感に従順に反応してしまう。
「ほら、やれよっ」
ゾロに後ろから突かれながら、サンジは自らを慰め始めた。
少し痛いくらいに握り扱く。
普段の自慰行為とは比べ物にならないくらい激しい快感に、総毛だった。
「ああ、あああっ・・・あ―――」
男に尻を犯されながら、自ら慰め腰を振る。
その浅ましい姿を想像してでさえ、サンジはたまらなく興奮した。
その果てに、口端から涎を垂らし目も眩むような射精感を味わうと、後ろでゾロもぶるりと大きく震え達する。

「う・あ・・・センセ、すげええ・・・」
「あ・・・はあ、は―――」
しとどに汗に濡れながら、床に倒れ付した。
ゾロは名残を惜しむように、腰だけ高く上げさせたそこを執拗に揺らしている。

「やっべー・・・ナマで出しちまった・・・」
「・・・この、クソ野郎・・・」
サンジは快楽の余韻に浸りながら、辛うじて悪態をついた。
















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