ここは街の中でも一般の人間はなかなか足を踏み入れない地域だ。
窃盗、殺人、傷害、暴行など日常的に行われている中で解決する事件は半分も無い。
一晩歩けば銃声がしない日のほうが少ない。
この国には世界有数と名の付くものの近くには、国でも有数のスラムが必ずある。
俺たちの街も同じく、世界一のエンターテイメントの都を近くに感じながら、
その恩恵にあずかることも無く身銭を四苦八苦しながら稼いでる。
未だに戦勝国の優位を漂わせる開放的な西海岸のビーチも俺にとってはけばけばした娼婦の化粧よりもわざとらしい。
だが街の人間はみんな暴力も貧しさもうんざりしているのに、俺も含めてここから一歩として街を出ることはない。
経済的にも難しいが、最も単純な理由はやっと落ち着いたのにまたよそ者になってしまうことになる怖さがある。
そしてこの街を腐らせて行く、一端を担い続けている。

先日もバックに警察がいると吹きまわっていた売人が殺されたばかりだが、やはり形式的なもので本格的な捜査に
はあたらなかった。
現に今もカーテンも閉めず、隣の棟の部屋ではコカインパーティと平行して乱交まで行われている。
俺もゾロも、俺達の仲間もみんなここの生まれとか
いわゆる劣悪さを当然の様に体に吸い込んできた人間ばかりだ。
俺たちの仲間も何人か、入ったり出て行ったりしたが、結局残ったのは俺達だけだった。
「いたのか、」
ゾロがめんどくさそうに体を引きずるようにして帰ってきた。
「俺の部屋でもあるだろうが」
先日殺された売人の後釜に座ったのがゾロだ。
その時街では移民の窃盗グループとメモごとを起こしていた売人がびびって「バックに警察がいると」触れ回って
いたことを嫌がった汚職警官が車の窃盗で逮捕されたいたゾロに話を持って言った。
この街では警察は何の役にもたたねぇが、俺達みたいな後ろ盾も無いただの集まり程度の人間達が、警察に目を
付けられるのはやばい。しかもゾロは窃盗罪以外にも州をいくつも跨いだ余罪を山ほど抱えていたためその提案を
断ることはしなかった。
順番ははっきりとはわからないが、売人はその後死んだんじゃないだろうか。
ゾロはその時、ずっと欲しかった薄型の30インチの大型テレビがやっと買えると思ったそうだ。

ゾロは俺のほうに向かって大きな音を立てながら早足で歩み寄り、髪の毛を掴んでソファに投げ飛ばした。
ソファに顔を押し付けられながら、俺は視界の隅で、30インチの薄型テレビを見た。
日本製の、それは美しい形をしていた。
表面の所々がはげている安っぽい合皮に顔をうずめながら、ゾロが自分のはいているジャージをずり下げて、
少ししごいた後、乱暴に突き入れてきた。
頭を抑えられて見えはしないがいつもやる動作はいつも同じ音がする。
がりがりのやせている俺と、何を食って大きくなったのかわからない、胸筋だけで、一回りは違うんじゃないだろうか。
ゾロの体は背後からでも感じるほど力強い。

仕事を終わったばかりの俺の体はゾロをたやすく受け入れる。
めんどくさがりだろうか、ゾロが俺を犯すのは必ず仕事の後で、それ以外の時にあっても何をするわけじゃない。
ぐにぐにとしたゾロの性器が自分の動きたいように乱雑に出入りを繰り返す、
こんな屈辱にも近いセックスは客だって中々しないもんで、ゾロだけが俺を蹂躙する。
射精までの時間が長すぎて、ソファに顔を押し付けられているから呼吸は苦しいし、
押し付ける力が強いから表面の合皮がめくれたソファのむき出しの木材に腕が擦れて痛い、
おととい曲げられた手首の捻挫も痛む。
しかもゾロがオーガズムに達するときは、最近覚えた、首に手を回して俺を窒息させながら体を激しく打ち付ける。
俺は意識が薄れていく中で何度も最悪だと、思いながらその最後までを迎える。
その間ゾロも俺も一言も何かを言ったりしない。
俺もその後は黙ってシャワーに行くだけで、そうやって一日の仕事が終わる。
そしてその頃には隣の部屋で眠るゾロが夢にうなされているのをドア越しに聞いている。

俺もゾロも、他の奴らもほとんど全員移民の1世とか2世だ。
祖国の貧しさに負けてここに逃げてきたのに、ここでも新たな貧しさにさらされている。
俺は料理学校に行きたくて、当然のような気持ちで街に立つようになった、ゾロは家に大きなテレビが欲しかった。
念願かなってやっと買ったのに、あのテレビには結局アンテナさえ取り付けていない。
こういうのをスパイラルとか呪縛とか言うんだろうか、俺達は先天的にこうなんだろうか。
俺はゲイでもないのに、明日も露出の高い服を着てそんな人間達が集まる通りで客を待たなくちゃいけない。
ゾロは警察にコントロールされながら、出所もよくわからない薬を町中に流してリッチになっている。

俺は悪夢にうなされているゾロの部屋のドアを見ながら口には出さず話しかけた。
そして昼近くになるまで、俺達はそれぞれの部屋で眠る。


俺が立っている通りは娼婦立っている2つブロック先の細い通路だ。
車や人が多い通りに立つ娼婦比べて俺達は暗がりの1.5車線くらいの道に点々と立っているだけだ。
車や人間がこそこそを通ってくるのを見つけては話しかけて捉まえる。
だが、最近は車に乗り込むのはみんなしてやめるようになった。
娼婦や男娼が拉致される事件が増えるからだ。
同じ通りにいる商売仲間同士でも気をつけようとか散々言っているが、最近立つようになったばかりの小柄な
青年と少年の間くらいのガキがさらわれた。
それの死体が上がったのが3日後の朝だった。
港で散歩していた男が発見たという、さらわれてすぐ数時間にわたり殴打された末死んだためか2日間
海をさまよったためか
顔も原型もとどめず、悲惨なものだったらしい。
それからも数件誘拐の事件はあったが、結局発見されたのはその一体のみだった。
娼婦と男娼が代わる代わる同じ数だけ誘拐されていき、今週でわかっているだけで全部あわせて7人が消えた。
それでもパトカーを見る機会が少し増えただけで、
死体も4週間前の1体のみ、それからは一体も発見されていないことから
多くの人間の緊張感は乏しい。逆に仕事がし辛くなって潜るという人間もいるくらいだ。
現にさらわれて生きているか死んでいるかわからない人間達よりも
実際それとは無関係な単発的な事件で死ぬ人間の方が多い。
俺達商売仲間同士はそれなり気をつけあっているが、俺はまさかアパートまでの5メートル手前でやられた。

薬をかがされたのかぼんやりした上に荷台につめられた直後、抵抗した時に顔や頭を殴られたのが覚えている
のが最後の記憶で
目覚めてみれば大きな車の貨物部分に載っているようだ。
あの時は男がひとつの光を背負うようにたっていたため荷台の内部の構造については結局分からなかった。
粘着質のテープでぐるぐるに巻かれているらしい縛られた手足をじたばたしても何にもあたる気配が無い。
口も目もテープで止められているし、顔や頭にもべっとりついたオイルの匂いが立ち込めている。
港を歩くと良く匂う、重い匂いのするオイル。
一般の人間じゃもつことのないトラックの荷台は幅はあるが天井は高くない。
しかも速いスピードで走っているにも関わらず、後方の跳ね方が少ないところからみると
タイヤはデュアルかそれ以上の、重い荷物を運ぶことも可能になっているようだ。
俺たちの街にいるにはちょっと不自然な感じがする車は
どこかで乗せかえられたのか、それとも外から見てこの荷台のスペースを改造しているのかも知れない。
窓もない、暗くて入り口が正直どこかなのかもはっきりとはわからないが、
1ついえることは、ものすごい頭痛をしていることと、どれくらい走ったかもまったく想像がつかないことだ。

犯罪の多発している危険地域に住んでても、死ぬなんて感覚を常に持っているわけじゃない、
絶対的に感じていることは明日死ぬとか明後日死ぬとか、後10日ぐらいで死ぬなんて少なくとも思っていない。
そのために一番やばそうじゃない中で早く儲かりそうなこの仕事を始めたのに
せめて、犯人には一度はけりを浴びせておきたい、
そして出来ればゾロにメッセージを伝えておきたい。
何が怖いかって、死ぬのが怖い。暗闇で死ぬのもいやだが空腹で死ぬのはもっと嫌だ、
やっぱりゾロには伝えておきたいことがある。

そんなことをもう一度頭の中で繰り返そうと思ったときに、急ブレーキがかかり、正面に何かとぶつかったのか
大きな衝撃とともに荷台に入っていた俺の体が前方にぶっ飛んだ。
辺りにはパトカーのサイレンと銃声が聞こえる。
荷台のドアの近くでどんどんと壁を叩く音とと、警察の掛け声が聞こえる。
俺はもごもごと声を出し体を動かしながら、ドアが開けられるのを待った。
警官が目と口のガムテープをはがし、マグライトを無数に浴びながら、問いかけに「大丈夫です、大丈夫」と
必死で答えた。
引っ張られるように下ろされて救急車に乗せられてしばらく走ってからやっと助かったと思った。

健康診断のほかに薬物検査と体のあらゆるところのチェックを受けて、写真もたくさん撮られた。
顔にもいくつか殴られた傷があり、特に頭の部分は裂傷が激しく、アドレナリンが治まる頃には激痛になった。
背中には衝撃でぶつけた打撲ができた。なのに話は数時間にもおよび、ついでに余罪はないかと調べられた。

ブランチと仮眠室が与えられて、綺麗な毛布で頭痛がする以外は心地よく寝たのもずいぶん久しぶりのような気がする。
警察とFBIから何度も同じ話を聞かれていたが言うがままに何度も同じ話をした。
車で運ばれたのは約5時間、薬の効力的に見ても気絶していた時間の大部分は
頭部への殴打による脳震盪だったらしい。
州の境目を目前にして匿名の通報によってトラックが見つかり俺は無事に確保された。
帰り際に「薬やってないとはおもわなかったな。やせてたし、やつれてたからてっきり。」
付き添っていた警察官が困ったようにそういうんだからなんだか笑えないのに笑ってしまった。

帰る頃には夕方近くなっていて、やっとドアを開けると
ゾロがソファを占領するように座りドアを開けたばかりの俺をにらんでいた。
「いたのか」
「オレの部屋でもあるだろうが、」
ゾロはあからさまに機嫌が悪い。
いつもの様に気の1つも使っていない粗暴な立ち上がり方と歩き方でこちらに向かってくる、
いい加減ソファに足をぶつけるのやめる注意力ぐらい持てよ。
「おらぁ、最近あった誘拐事件に遭遇してたんだよ、」
見下げるように立ちはだかるゾロを睨んで凄むが
「知ってるよ、おめぇの仲間が教えに来た。」
ゾロは聞かれれば何とか優しいかもな、と答える程度の触り方で
殴られて腫れた頬を湿布の上からなぞる。
そろそろと不器用になれてくる、俺はそのしぐさに戸惑うが同時に安堵した。
直後、湿布の上から思いっきり平手でぶっ飛ばされた。
「てめぇの油断がそんな間抜けな目に合うんだろ」
勝手な物言いが聞こえるが視界が白黒に反転し、目も視点が定まらない。
いつも以上に思いっきりやりやがった。
衝撃で壁に怪我した頭をぶつけるわ口の中が切れて、鉄の味がする。
さらに吐き捨てるように、まるでこっちが悪いように責める。

「腐った女みてぇな男娼が、誘拐されたぐれぇで同情して欲しいってか」
ゾロは俺の腕を持っていつもの自分が座っていた、俺をいつも犯すソファに俺を投げ捨てる。
俺はいつも通り抵抗も無く、自分からでは動かないが無意識の部分でゾロを迎える準備をする、
「昨日は俺に抱かれなくて、寂しかったか、クソ野郎」
ソファに沈むように横たわる俺を見下ろしてゾロは満足げに口の端を持ち上げて、いつも俺が言う
言葉を真似しながら笑う。
その瞬間俺はいつも思うことがあるが、決してそれを口に出すことは無い。

ゾロはいつもの手順を正しく踏み俺の中に乱暴に入ってくる。
仕事の後じゃないし、病院で洗浄されているから滑りなんかない。
明らかに切れた血の匂いと感触に、いつもを閉じている目をうっすらと開けた。
ゾロは俺の顔を見下ろし、無言の中で眉間の皺がやり切れない苦痛を物語る。
泣くな、ゾロ。
痛いのは俺で、痛ませているのはお前、分かりやすい関係のはずなんでそんなに複雑に絡ませるんだ。

俺はそんなゾロを見ながら、汗と冷や汗にまみれながらぐちゃぐちゃの髪でへらっと笑う。
本当に馬鹿みたいだな、俺たちは。
笑うつもりがないのに笑ったからさぞかし変な顔になっているだろう。
その証拠にゾロは、反対側の頬を平手で大きく振りかぶって張った。
口で出さなくてもわかる、不安な気持ちを抱えながら、憂さを晴らすようにこいつはしこたま殴ってく
る。
血が太腿を伝っているのを感じるし、床におちた血で肘が滑ってバランスを崩しそうになる。
だがゾロは相変わらず容赦がない。



ゾロは数年前にこの街に流れてきた。
自分のことをあまり話さないので情報がどこまで本当かはわからないが、
アジアの小さな独裁国家に生まれたゾロは子供の頃に親を亡くし、近所の家庭で育てられたらしい。
雑草や土を食べることもあったという圧政と貧しさにに耐えかねて、
姉代わりとして一緒に育った女の子とその母親対岸の隣国に逃れる際、
途中ではぐれてしまいゾロだけは無事にたどり付くに行くことができた。
それから二人を探して路上で生活していたが、NPOにつかまって先に亡命していた女の子の父のいる
この国に送られた。
数年は生活できたが、その父が死んでからは身寄りも無く東海岸から窃盗や万引きを繰り返しながら
移動し、何年もかけてやっと西海岸のこの街にたどり着いた。

初めてあった時、お前は俺よりずっと小柄でずっとガキだと思っていのたのにな。
・・・吐き気と頭痛で余計なことばかりを思いだす。
その憂さを口に出せばもっと楽になるじゃないかと俺はいつも思っていて、
空ろとした意識の中で俺は名前を口にしたような気がする。
「ゾロ・・・・・」

愛しているから傷つけるとも言う、だが傷つけたから愛するとも言う。
俺たちは生まれが今のようでなければ、
もっと違う、触れ合いができるだろうか。
俺たちにこれ以外の生き方はあるんだろうか。
たとえば、



俺達に祖国はあっても生きている国はここだ
今だって俺の祖国は長く続く内戦が時折ニュースになる。
ここの新聞を読んでも読めない文字方の文字が多い、祖国の内情はいつまだたってもああ、
ただ一つ変わったことは、ゾロはなんとかというクラシック音楽をゲーム機で聞きながら、
見たこともない大きな川の流れにでも身を任すように、
俺を腕に抱いて寝るようになった。ただそれだけのことだ。



END

















退廃した世界で刹那的な愛を交わすゾロサン!と思ってしまいました。
あああ、愛が深いです。なのに、暴力でしか表現できないゾロが痛い。
もっと違う愛し方があるだろう!っと手に汗握ってジタジタもがいてしまいますが、
サンジがすべてを分かってくれているのが、唯一の救いです(T_T)
どちらも、消えることのない虚無感を抱きながら
それでも、これからも二人で生きていって欲しいと願わずにはいられません。
せめて互いのその温もりが、証しとなってくれますように。
切なくも深く熱い悪ゾロ様、ありがとうございましたvv



THE SIDE OF ONE