海へ還る日
-4-







やや濃厚なキスをしただけで、腕の中の身体がみるみる弛緩していくのがわかった。
膝が崩れ、立っているのもやっとな状態だ。
自分とは明らかにウェイトの違う身体を支え、ゾロは適度な力を加えて抱き締めた。
サンジにとっては、息が詰まるくらいの圧迫感があるだろう。
だがそれくらいの方が、「愛情」を感じさせる。
自分を求め、欲していると思わせるのに実に効果的な行為だ。
「・・・ゾロ」
キスの合間に、吐息のようなサンジの声が漏れた。
肩に掛けられた手が震えている。
密着した胸越しに、ドクドクと高鳴る鼓動が如実に伝わってきた。
サンジの不安を宥めるように唇を軽く啄ばむと、見上げた瞳がみるみる内に潤む。

―――容易い
手練れた女や遊び慣れた男ばかり落として来たせいで、このサンジの反応は却って新鮮だった。
簡単過ぎてつい、遊びの余裕ができてしまう。
何も知らない、このまっさらな身体を思いのままに染めてやりたい。
初めて与えられたキスだけで溶けるように崩れるなら、過度の享楽はどれほどサンジを狂わせるだろう。
その様を見たいと、柄にもなく熱くなった胸を自覚してゾロは我に返った。
本気で愉しんでどうする。
これは、仕事だろう。
赤く染まった頬や目元にキスを施し、背を抱き締め髪を優しく梳きながら、ゾロは自分を叱咤していた。

とにかく、データとして能力を引き出すことができないなら、本体を連れ出すより手はない。
穏便に連れ出し、イーストでも研究を続けさせる。
そのためには恋人関係となるのが一番だ。
身体で繋げるのは容易いが、サンジは恐らく精神的な繋がりの方を重んじる。
今の平穏な生活を手放し、見知らぬ新天地でもついていきたいと思えるほどに愛し合っていなければならない。
強く「愛」を感じさせるもの。
それはやはり、SEXだろう。
そう結論付けて、ゾロはサンジの身体を抱え上げた。

「わ、なにすんだ?」
頓狂な声を上げて、サンジがじたばたと長い足をバタつかせる。
それに構わず、肩に担ぎ上げた形で部屋を突っ切って寝室のドアを開けた。
「ゾロっ」
何か察したのか、両手で肩を掴んでしがみ付いてきた。
ベッドの上に下ろそうと腰を曲げると、錘が貼り付いたみたいにぶら下がっている。
「あのなあ・・・」
さすがに呆れて笑いを漏らせば、潤んだ瞳のままで睨みつけてきた。
「お前なぁ、言っていきなり、急にってのは・・・」
性急さを詰っているようだが、ゾロにしたら会って3回目でベッドインなんて最長記録だ。
「嫌か?」
膝の上に抱きかかえるようにして、真っ直ぐに目を合わせる。
少し眉を寄せ切なそうな表情を作れば、効果絶大なのは実証済みだ。
「俺はお前が欲しい、ダメか?」
わざと上擦ったように声を掠らせた。
これで堕ちない相手はいない。
「・・・う・・・」
想定どおり、サンジは顔を真っ赤に染めたまま声を詰まらせた。
「嫌なら、そう言え」
言葉だけ吐いてすぐに唇を塞ぐ。
肩を押し返す力はあったが、抵抗ではなかった。
徐々に口付けを深めながら、それと気付かぬ素早さでシャツのボタンを外して行く。
ゾロの性急さに着いて行くのが精一杯で、すでに半裸となっているのも気付かないようだ。
肌を撫で擦れば、びくびくと魚のように小さく跳ねた。
「・・・ゾロっ」
怯え縮こまる身体を根気よく宥めながら、気持ちいい程度の愛撫を繰り返す。
他人の手を知らない肌はすぐに薔薇色に染まり、ゾロの欲情を煽る。

「大丈夫だ」
耳朶を食みながら優しく囁き、用意したゴムをそれとなく取り出す。
たじろぐサンジにキスを施しながら、すでに勃ち上がりかけたそれに被せた。
「ゾロ、何を・・・」
「常識だろ、SEXの」
「セ・・・」
絶句して湯気でも上がりそうなほどに赤面するサンジに、何を今更と思う。
「心配するな、俺も付ける」
そう言って前を寛げた。
すでに雄々しくいきり立っているそれを目にして、サンジが息を呑む。
怯えが酷くなった気がして、ゾロは笑いながら髪を撫でた。
「無茶はしねえよ」
別に挿れなくともいいのだ。
サンジに性の快楽を覚えさせたなら、それで任務は8割方成功と言える。
「愛しているよ」
低く囁いてまた唇を重ねれば、サンジは精一杯舌を伸ばして応えてきた。



「・・・う・・・」
素肌を撫でられ舌で愛撫される度、サンジは過敏なほどに震え身を捩った。
手をどの位置に置いていいのかわらかないのだろう。
胸の前で握り締めていた両手をゾロにどけられると、シーツを掻いたり枕を掴んだりしている。
それでもゾロの邪魔をしてはいけないと思っているのか、身体を跳ねさせても逃げようとしないのがなんとも健気だ。
「ん、・・・んっ」
口元を噛み締めて息を詰まらせている。
「ちゃんと声を出せ」
そう言って唇を指でなぞれば、白い歯が零れた。
「・・・ふあ・・・」
胸の尖りを舌で転がされて、サンジはまるで息も絶え絶えと言った風に喘いでいる。
恐らくは触れられたこともないのだろう。
未知の快楽に一々反応しては身悶える姿は、稚拙でありながら淫靡だ。

ゾロの手のひらの中で、サンジのものは充分に成長してビクビクと震えている。
だが手淫だけでは達することができないのか、なぜかもどかしく身を捩るばかりだ。
ゾロはふと思いついて後孔に触れた。
慎ましやかな窄まりを見せていながら、まるでゾロを誘うかのように艶やかに色付いている。
指をオイルで濡らして揉むように撫でた。
すんなりと指先が入り、飲み込まれていく。
「あ、ああ・・・」
一際高い声が漏れて、サンジは慌てて手で口を押さえた。
丸い尻にキスを落としながら、ゾロは遠慮なく指を動かして行く。

―――やはりそうか。
毎週、前立腺への刺激だけで射精を促されていたのだ。
性器への愛撫よりも、こちらの方がサンジには向いているのだろう。
少し大胆なくらい指を突き入れて、イイ処を探った。
「ああっ・・・だめだっ」
短く叫び声を上げて、サンジの腰が大きく震える。
「ダメっ、出るっ・・・」
びくびくと揺れる腰の動きと共に、ゴムの中で膨れ上がった性器が萎んで行く。
まだ直接刺激していないのに、もう達してしまったのか。
半ば呆れながら、ゾロは自分の指がきつく締め付けられるのを愉しんでいた。

「・・・どうしよう・・・」
サンジは顔を覆って、絶望したかのように呻いた。
「出しちゃ、いけないのに・・・」
採取のために自慰すら禁止された生活を続けてきたのだ。
こんな風に吐き出してしまったのは、恐らく初めてで混乱している。
「どうし・・・」
「大丈夫だ」
小さくうずくまるように丸くなった身体を、ゾロはそっと抱き締めた。
「こんなことで、精子が減ったりなんかしねえよ。俺なんか毎日マス掻いてたって、いくらでもヤレたぜ」
これは慰めになっているのか、自分でも首を傾げるところだ。
自分の肩先で揺れる金糸を、そっと唇で食む。

―――挿れなくていいと思っていたが・・・
挿れたくなってしまった。
この無垢であどけない、淫乱な身体に。


「いいか?」
申し訳程度に囁いて、上から圧し掛かった。
白い肩甲骨がびくりと震え、肩越しに振り返るサンジの瞳は怯えて揺れている。
「無理そうなら、止める」
演技でなく掠れた声に、ゾロ自身が苦笑を漏らす。
サンジは一度俯いて、すぐ決心したように顔を上げた。
「・・・ゾロ」
ゾロの胸の下で身体を捩り、正面から腕を伸ばす。
膝を曲げ開いた両足の間に、ゾロは誘われるまま腰を落とした。

「・・・っ、ゾロっ」
圧迫感と無意識の抵抗、そして止めようのない強張り。
それでもサンジの身体はゾロを受け入れようと努力していた。
痛みに眉を顰めながら、必死で目を見開いて自分の中に分け入ろうとする男を凝視する。
「く、あ・・・」
ずぶずぶと、減り込む場所はゾロにとっても狭くてきつい。
いつもなら宥めながら少しずつ進めるものを、今日のゾロは自制がきかなかった。
無意識に奥歯を噛み締め、余裕のない動きで楔を打ち込んで行く。
「ああっ・あ―――」
サンジはきつく目を閉じて顔を仰け反らした。
汗に濡れ、忙しなく動く喉仏に舌を這わせて、薄い皮膚をきつく吸いながら挿迭を始める。
さすがに内部で快感を拾うのが早く、サンジの喘ぎはすぐに蕩けるような嬌声に変わった。
「は、あ・あああ・・・あ――――」
ゾロのすべてを飲み込みながら、なお貪欲に内壁が収縮した。
「だめだ、またっ・・・また、イく―――」
先に持っていかれないように、ゾロは歯を食いしばって激しい抜き差しを繰り返す。
「出ちゃ、あ・・・またっ・・・」
サンジの白い腹の上で、ゴムに覆われたそれはぶるぶると震えながら内部を濡らしていた。
すでに何度かイっているのだろう。
息づくように窄まり、また小さな口を開けているだろうそこを、じかに愛撫できないのが残念だ。

「うあっ、あん・あ・・・」
奥まで抉るように打ち付けて、ゾロは思い切り欲望を迸らせた。
胴震いしながら、サンジの内部を満たすつもりでゆっくりと腰を動かす。
放心して横たわるサンジの、背中に腕を回して掬うように抱き締めた。
「・・・ゾロっ・・・」
涙に濡れた目が、ゾロの視線を捉える。
ゆるゆると腕を上げて縋りつくサンジの、いとけない仕種が僅かにゾロを苛立たせた。



性器を内臓に収め、繋がる行為を愛と勘違いする輩の、なんと多いことか。
精液を身体に注ぎ込まれれば、それを愛の証だと思うのだろうか。
溜まった欲を吐き出されるだけの、ただの肉の器だとなぜ気付かないのか。
男であれ女であれ、SEXは快楽の捌け口でしかないものを。
そこに愛があると、一時でも思い込んでしまう浅はかさが滑稽で哀れだ。

ゾロはありったけの想いを込めて、サンジを抱き締めた。
いつだって、ゾロが腕にするのは愛しい誰かだ。
目的さえ達成すればすぐに忘れ去る、その場限りの、かけがえのない恋人。
そうしてゾロはいつだって、振り返ることなく屍の上を歩んで行く。








「愛しているよ」
偽りの愛を囁き、労わるように濃厚な口付けを施しながら、ゾロは手早くサンジのゴムを取り去った。
零さないよう口を結び、サンプルとして持ち帰るために。

いずれは、サンジ自身をイーストに連れて行くことになるだろう。
そのとき、サンジは優秀な研究員として亡命するだろうか。
それとも貴重な研究材料として、いくつかの肉塊に分断されて、密輸されるだろうか。
そのどちらでも構わないと、ゾロは思った。
与えられた職務を速やかに遂行できればそれでいいと。

その時は、思っていた。





END





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