その男、天然につき
【杠槐様】
真新しい器具に囲まれた医療室で、チョッパーはお気に入りの肘掛け付き回転椅子に座・・・らず、
その上に立って患者の髪を丁寧にかき分けながら診察の最中だった。
その前に腰掛けて器用な蹄に金髪をいじられながら、せめてと許してもらった
火のついていない煙草を口の端にぶら下げている患者は、もちろんサンジ。
「何だろうなー、きっと急に肌寒くなったからじゃないかな。気候の変化と乾燥のせいだと思うけど・・・。」
そう言いつつ手を止めないチョッパーに、少々うんざりしながらサンジも言う。
「何かやけにフケが出るなぁーとか思ってたら、知らねぇウチにこのザマだぜ。たまんねーなぁもぉ・・・.今まで
こんなことなかったのに.・・・。」
多忙なコックさんがわざわざ作業時間を割いて船医と共に医療室にいるのには、当然ながらワケがある。
病気の類とは無縁の人生を送ってきたサンジにとっては、まさに青天の霹靂で。
ここ最近、突然冬島に近づいているらしいTS号では、女性陣が保湿の為のリップクリームをこまめにせっせと
塗っている姿がちらほら目撃されていて。
この気候がもたらす『乾燥』という、女性の美肌にとっての大敵が襲来している
らしい事は、サンジもチョッパーも気付いていた。だがしかし。
「なんで俺まで.・・・。」
今サンジの頭の中、いや、正確には頭皮が大変な事になっていた。
なんとなくフケが出るなぁと思いながらも放っておいたら、なんだかかゆみが酷くなってきて、気がついた時には
頭の中がかさぶただらけになっていた。
ポロポロと落ちるそれが料理に入るなんてことは許せない、だからといって、帽子や布巾を被るのはなんとなく
イヤだ、というわけで今チョッパーの診察を受けているのである。
「とりあえず、湿疹の薬を塗っておくよ。朝昼晩、塗った方がいいから、自分で塗るのが難しかったら、オレに言って
くれればいつでもやるから。」
実際、自分の髪をかき分けながら自分で頭皮に薬を塗るという作業は、難しいという程ではないが、簡単お手軽という
わけでもない。非常にもどかしいのである。
それを聞かされたサンジは、素直に頷くしかなかった。
「うーん、結構酷いなぁ。大分かさぶた自分で剥がしただろ?」
「なんかこう・・・気がつくといじっててな。やり出すと止まんなくてさぁ・・・.。」
「これからは剥がすのも引っ掻くのも禁止だからな!お風呂で頭洗う時も強くこすっちゃだめだぞ。やさしくな。
そんで乾かしたらすぐ薬だ。」
「おうわかった。そん時ぁ、また頼むわ。」
小さな手(蹄?)に髪をかき分けられ、薬を塗られながら、あーそういえばとサンジが口を開いた。
「ちょっと前の夏島の時と逆になったカンジだな。」
そう言われて、自分達の状態をチョッパーが改めて見る。
椅子に浅く腰掛けたサンジの背後にチョッパーが立ち、後ろからチョッパーがサンジの髪の毛をかき分けいじっている。
「あ、ホントだ。」
思い出すのも胸くそ悪ィと身震いするサンジに、チョッパーはぷっと吹き出した。
それは数週間前のこと。この冬島近海に入る直前まで、TS号は夏島海域にいた。
燦々と照りつける日差し、うだるような暑さ、そして湿気。まさに南国の気候そのもので、立ち寄った島ではとにかく
生モノは口にしない方がいいと島民達に言われたものだった。
そんな島で、うっかり面倒なものをチョッパーが拾ってきてしまったのだ。
それはサンジの大嫌いな類の。
出港後、なんだか体が痒いなぁと、サンジに自分のもこもこの毛をかき分けて肌を見てもらっていた時、突然絶叫が
響いたのだ。
何事かとクルーが集まってくると、暑い最中に体中に鳥肌を立てながら、マストの影に身を潜めるようにして涙目で
震えているサンジ。その視線の遥か遠くで、突然背後から聞こえた大声に頭をクラクラさせているチョッパー。
「どうしたのサンジくん?」
「コックに何しやがったチョッパー!?」
二つ目の台詞には即ナミの鉄拳制裁が下ったが、それはまぁ置いといて。
皆の心配する視線を浴びながら、サンジは声を震わせて呟いた。
「黒いの・・・・・ちっちゃいの・・・が・・・.『ぴーん』っ・・・てっ・・・・・・!!!」
チョッパーを指差しながら要領を得ない事を言うサンジに、ウソップが代わってチョッパーに近づく。
考えるでもなく、サンジがあんなに露骨に怖がるものは一つしかない。
さっきのサンジ同様、ウソップがチョッパーの毛をかき分け探ってみると、
「あ、ノミ発見。」
結局、直ぐさまナミからチョッパーに、ノミの駆除とそれが完了するまでの絶対監禁の指令が下り。
チョッパーは泣く泣く自分で駆除薬を調合しつつ、一緒に篭ってもらったクルーの中で一番体毛の短いゾロに、
ぷちぷちと地道なノミ潰しを頼んだのだった。
「ホントにあん時ぁ参ったぜ。」
「オレもだ。」
えっえっえっと笑いながら、チョッパーはサンジの頭皮に薬を塗り続けている。
こうやって頭いじられるのって結構気持ちいいよなぁ・・・.なんて、気の抜けたサンジがほけっと口を開けてチョッパーの
されるがままになっていたその時、ノックも前触れもなく医療室のドアが勢いよく開いた。
「おいチョッパー、ウソップのヤツが・・・・・・」
そこまで言って、小さなトナカイが愛しい人の頭をいじっている光景に固まったのは、もちろん三本刀の緑頭。
驚いたのはサンジである。
「なっ・・・なっ・・・てめぇっ・・・・・・!!」
暫し微妙な空気の中での沈黙の後。
「蚤取りか?」
「・・・・・・んなわけあるかコノ腐れミドリゴケがぁぁーーーーーーっ!!!」
サンジの絶叫と共に、ゾロが遥かお空高くへ蹴り飛ばされたのは言うまでもない。
終
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