All I Want
【ふみふみ様】




「お、クソコックじゃねえか」
 ニヤリとおれを見て笑う男。
 嫌な野郎と出くわしてしまった。
「んだ、コック。そんなにおれに会いたかったか?」
 ニヤニヤと意味深に笑いながら、そんなことをほざきやがる。
「はっ!誰が!!どうせてめえが、迷子になってるだけだろが!おれの前にのこのこ現れてんじゃねえよ」
 スーッと、ゾロが瞳を細める。不機嫌そうに。
 太い腕がヌッと伸びてきて、おれの肩を掴んだ。
 狭い路地裏、ゾロが少し力を込めると、背後の壁に押し付けられるような形になった。
「てめっ・・・!」
 蹴りを入れてやろうと思い、足を振り上げようとしたが、それは許されなかった。
 目の前のクソ野郎の足が、おれの膝と膝の間に入り込んできたからだ。

 こんな風に、半ば強引に・・・。
 おれは何度か、ゾロに抱かれたことがある。
 口先ばかり抵抗して。
 けれどもおれの身体は、ゾロに抱かれることを喜んでいる。
 おれの事を都合の良い性欲処理の相手だと思っているに違いない、この人でなしが好きだからだ。
 心は痛みで軋んでいるけれど、抱き合う時に感じられるゾロの熱から離れられない。

「ククク・・・」
 喉を鳴らすようにして、ゾロが笑う。
「良い様だな、コック」
「ふざけんな!死ねっ!!」
「断る」
 あっさりと、言葉を切り捨てられる。
 強く光を纏った瞳が迫ってきて。
 おれはギュッと口唇を噛み締めた。

 しかし、それ以上ゾロが近づいてくる気配は無く。
 バタバタ、バタバタと喧騒が近づいてくる。

「チッ・・・!」

 ゾロが低く舌打ちする音。
 そして、パッとおれから離れて。
 スタスタと路地を出て行った。
 おれに向けられた広い背中を、ぼんやりと眺める。

「見つけたぞ!ロロノアだ!!」
「急に姿を消しやがって、こんなトコにいやがったか・・・!」
「一億二千万のその首・・・貰い受ける!!」

 人数ばかり多くてまるっきり弱そうな男達が、わらわらとゾロを囲んだ。

 このアホどもは、本気でゾロの首を貰い受けようなどと思っているのだろうか?
 弱っちいチンピラが束になったって、こいつには敵いやしねえよ。

 アホどもにチラリと哀れみの視線を送るおれとは対照的に、ゾロは少し嬉しそうだ。
「おう、おめえら。このおれと、やろうってんのか?本気で来ねえと、掠りもしねえぜ?」
 ニヤリと尊大に笑いながらの、この発言。

 確かにゾロを囲んでいる男達は、ゾロに掠りもできないだろう。
 本気で戦ったって、掠ることもできない事実には変わりないのに。

 男達は色めき立ちながら、一斉にゾロに飛び掛っていく。
 本当に、救いようも無いアホどもだ。合掌。

 チャキっと鯉口を切り、ゾロが腰の刀をスルリと抜いた。
 いつ見ても、流れるように優雅な動きだ。
 だからおれは・・・ゾロが刀を振るう姿を見るのが好きだ。
 強くしなやかで美しい動き。
 ゾクゾクする。
 刀身が、太陽の光を反射して、きらりと光る。
 鋭く、宙を切り裂きながら。

 バタバタと男達はゾロの周りで倒れていく。
 取るに足りない相手だろうに、それでも刀を振るっているゾロは楽しそうだ。
 ギラリとした視線が、おれの方へと流れてきた。
 思わずその視線を受け止めてしまうと、口唇の端を曲げてニヤリと笑って。
 それから舌なめずりをして見せた。

 ・・・んだよ、そのやべえ面は・・・。
 おれまで、やばくなっちまうじゃねえか・・・!

 知らず、フルリと身体が震えた。



 あっという間に、ゾロの周りで動いているのはおれ一人になった。
「暇つぶしにもなりゃしねえ」
 刀を鞘に収め、吐き捨てるようにしてゾロが呟いた。
 それから、スーッとおれに視線が向けられた。
「で、コック?」
「んだよ」
「てめえがどうしてまだこの場にいるのか、キッチリ説明して貰おうか」
 何もかも見透かしたような眼差し。
「おれがイヤなら、とっとと逃げれば済んだ話だろ?」
「・・・理由なんてねえよ」
 答えると、ゾロが面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「フン」
 カツカツと、ブーツの踵で音を立てながら。
 ゾロが、おれに近づいてくる。
「なあ。てめえは何か、おれに言うコトがあるんじゃねえか?」
 またあの。口唇の端を曲げる笑い方。
 おれをゾクゾクさせる・・・笑い方だ。
「ねえよ」
「そんじゃ、てめえの身体に聞いてみるか?」
 チリチリと、ゾロの瞳の奥で情欲の炎が燃えている。
「てめえの身体は、いっつもよぉ。めちゃくちゃ悦んでんじゃねえか」
 耳元にスイ、と寄せられたゾロの顔。
 艶を含んだ声が低く、耳の中に流し込まれた。

「なあ・・・サンジ?」

 一瞬にして、身体中がカッと熱を持つ。
 呼びやがった・・・!呼びやがった・・・名前・・・。

「何か言わねえと・・・。この場で犯しちまうぞ?」

 そんな声で、低く囁くのはやめろ、やめろ、やめろ。
 どうにかなっちまいそうだ。

 身体中の力が抜けていってしまいそうで。
 それを見越したようにして、ゾロの腕がおれの腰に回った。
「てめえが・・・・・・・・・・・」
「聞こえねえな?」
「てめえが相手じゃなきゃ・・・悦んだり、しねえんだよ・・・」
 耳元で、楽しそうな笑い声が聞こえる。
「まあ・・・及第点をやってもイイか」
 腰に回っているゾロの腕に、グッと力が入った。
「コック。てめえ・・・おれのモンになれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
「てめえはどうせ、おれが本気じゃねえとか思って、うじうじしてやがんだろうが?」

 だって、そうだろうがよ?

「おれぁ本気だぞ、てめえに」
「・・・・・・・・・・・・」

 今何か、空耳が聞こえた。
 思いっ切り、自分に都合の良い空耳だ。

「おい。何か言えよ」

 チラリとゾロの顔に視線を走らせると、微かに顔が赤い。

 おれ達・・・同じ気持ちだった?

「・・・ゾロ・・・」

 甘い疼きが、じわじわと身体中に広がっていく。

「なあ、おれに・・・」
言い終わらないうちに、ゾロが言葉を引き継ぐようにして。
「てめえの気が済むまで抱いてやるよ」
ヒョイとおれの身体を抱き上げた。
「おい!降ろせよアホ!!」
「断る」
 斬り捨てるような言い方なのに、もう、心は軋まない。
「てめえ、マジでヤバイってんだよ。んな面ぁしやがって・・・。おれの忍耐力を試そうってんなら、もう無駄だぞ。焼き切れた」
 どこか不機嫌そうでいて、困惑を含んだような声。
 クスクスと笑いながら、おれはゾロの首っ玉にしがみついた。

 なあ、ゾロ。
 おれに・・・てめえの全部をくれよ。






     終





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